『tan1°は有理数か.』 (2006年度、京都大学入試問題理系後期の数学第6問)
極めてシンプルな問題文で、気になったので解いてみた。著者が作成した解答は次のものである。独自の解答だが、正解と思われる。
もっとシンプルで効率のよい解き方が他のウェブ上にあったので、参照されたい[1]。「大学への数学」シリーズでも、参考[1]と同じ解法を紹介していた。本問はWikipediaの京大入試の解説で出ていた問題で、Wikipediaによるとこのレベルの問題が京大数学の標準レベルだという。「大学への数学」シリーズの出版本でも解説があり、それによると本問は標準問題で解答時間20分が目安だという。河合塾の分析によれば本問の難易度は「やや難」である[2]。
正直なところ、私は本問をかなり試行錯誤しながら解いたので、解答を得るのに1時間程度かかった。京大入試の数学は1問あたり25分程度が標準解答時間だろうから、大幅に時間オーバーしてしまった。Wikiepdiaの記述者にとっては、このレベルが標準なのだから、京大の入試数学は難しいということになる。もっとも、私にとっては、京大数学に挑戦するともっと簡単に解ける問題も多いので、本問はやや難しい部類であり、京大数学はもっと簡単なレベルだと思う。私の主観難度は河合塾の難度評価に近い[2]。「大学への数学」で京大過去問の難度評価が同じ「B(標準)」の問題でも、もっと簡単で時間をかけずに解ける問題がたくさんある。他の問題の難易度評価も河合塾と「大学への数学」とでは違っている。難度評価はしょせん主観評価にすぎないということか。
本問は「大学への数学」シリーズによると、「日本受験史上、又は世界受験史上最短の問題文」であると賞賛していた[3]。同シリーズの解説によると、本問のように短い文章の問題は難問になりがちだが、本問は適切な難度なのが良いとのこと。また、一度受験生に解いてほしい推奨問題としても取り上げられていた[3]。さらに、06年度京大後期数学の問題は6問中他の3題(第1問,2問,3問)が標準問題(難度評価はB)で解けて当たり前、他の2題(第4問,5問)は難度が高く解けなくても無理はないので、本問を解けたかどうかが、合否の分かれ目になったのではないかとのこと[3]。それらの意味において、本問は良問と評価される問題だ。
解いてみた感想として言えることは、本問は解法の手がかりや指針を見つけるのに、そこそこ時間がかかるということだ。最初は30°,45°、60°といった既知の三角関数値を加法定理や二倍角公式を用いることで組み合わせ、具体的にtan1°の値を出そうと思ったのだが、うまくいかなかった。
tan1°が無理数であることを示そうとして、tan1°=p/qとして考える方法も思いついたが、すぐにこの方針は検討を打ち切った。うまくいかなさそうなのが直感的にわかるからだ。
このような方針は例えば『ルート3が無理数であることを示せ。』という問題で背理法を用いた証明法として使う。具体的には、ルート3=p/qと仮定してし、両辺を2乗することで整数問題に帰着させて解く。しかし、『tan1°=p/q』と仮定しても整数はおろか、有理数さえ出てこず整数問題に帰着できないのは、直感的にわかるだろう。tan1°を何乗しても整数や有理数が見えてこなさそうだからだ。もっとも、特殊な方法で帰着できるのかもしれないが、おそらく容易に思いつくものではなく難しいものだろう。
私の直感を説明すると上記のようなものになり長い印象があるが、問題処理では即座に上記の考えがぱっとわかり、検討打ち切りによる時間節約に役立つ。一種の数学的センスのようなものだろう。直感によって、解答の候補を絞るのも重要な能力だ。いちいち検討していたのでは、時間浪費が大きすぎ実践的でない。
「大学への数学」で掲載された京大理系後期の受験報告によれば、多くの受験生がtan1°=p/qとして解答探索したようだが、やはりうまくいかなかったようだ。本問を完全に解答できなかった受験生も多く、そのような受験生でも合格はしているようだが。tan1°=p/qの指針がうまくいかないとすぐに打ち切れるかは、人にもよるだろうが、私の個人的意見としては、直感的に検討をすぐ打ち切るのが実践的だと思う。
最終的には、試行錯誤の過程で、tan1°が有理数ならtan2°、tan4°・・・等も有理数であることに気づき、作成した解答に行き着いた。すんなりと、このことに気がつけば20分以内で解くことも可能だろう。しかし、この事実や参考[1]の解答のような事実に最初から気がつけるかどうかは怪しい。同種の問題を解いたことがある人なら、最初から著者の解答や参考[1]の解答の指針をとるだろうが、知らない人の場合は私のように試行錯誤しながら気がつくのが普通ではないか。
過去に同様の問題を解いた経験なく、tanの加法定理など、問題を解くのに最小限度の知識だけ持って、本問を20分以内に解けたのなら、運がいいか、数学の学力が結構高いのではないかと思う。
大学入試2次試験の数学の問題は解いてみてとても面白い。特に旧帝大系の数学は良問だと思う。出題者がよく考えて作問しているのがよくわかる。よくこんな問題を思いついたと感心する問題も多い。問題を解くよりも、作る方がよっぽど知恵がいる。
本問に関しては残念ながら制限時間オーバーなので、解けたことにはならないが、受験生の方々はぜひとも20分以内で解けることを目指してほしい。
参考
[1]”京大理系後期数学第6問の別解” 数学って面白い!? 2006.3.27
[2]河合塾の分析 河合塾HP 2006
[3]「大学への数学シリーズ-この問題が合否を決める!04~06入試」 p168 東京出版
[4]世界変動展望 著者:"sin1°, cos1°は無理数か?" 世界変動展望 2008.9.29
--
上が参考[1]や大学への数学に記載されている解答と同趣旨の解答です。こちらの方が私の解答よりかなり簡潔でよいと思います。模範解答といえるでしょう。この記事は長い間多くの人に読まれるので参考として掲載しました。sin1°やcos1°が無理数であることを示すには私の解答の方が応用できるでしょう。解答は参考[4]です。
(2011年7月30日 追加記載)