世界変動展望

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高校入試における内申点の取り扱いについて

2009-03-20 00:05:06 | 社会

高校入試で内申点の取り扱いについて明確にしている都道府県とそうでないところでは中学校での教育や生徒の態度に違いがある。

例えば秋田県は入試での内申点と学力試験の比率を明らかにしておらず、入試時の内申点の総点も秘匿している。秋田県の中学生は受験時にあまり内申点を気にせず、もっぱら模擬試験の成績のみで志望校選択している。実際の試験は内申点と学力試験の両方の観点から合否選抜しているのに、秋田県の中学生は内申点には目隠しされた状態で高校選択せざるを得ない。その結果、試験の成績では合格ラインだが内申点をあわせて総合的に考えれば合格する見込みのない高校を合格見込みありと思って受験し、不幸にも不合格になってしまう生徒が少なくない。

秋田県の場合は進路選択の確かな基礎資料が模擬試験結果くらいしかないし、その模擬試験も内申点を考慮しない原理的に不十分な合否分析しかしていないため、合格見込みを誤って受験する生徒を少なからず出してしまう。そこは問題だろう。

では、内申点と学力試験の配点比率や内申点をきちんと個人に通知すればよいのではないかと思うが、県の教育委員会等の教育関係者によれば、内申点や内申点と学力試験の配点比率を明らかにすると生徒が内申点に偏った学校生活を送ってしまうため本来の教育が損なわれる。そのために、内申点の取り扱いは秘匿しているという。

確かに内申点の取り扱いについて明確にしている都道府県の中にはそのような傾向があるところがある。例えば愛知県だ。

愛知県は内申点と学力試験の比率を公表しており、ほぼ5:5である。近年学校裁量が認められて、進学校では内申点と学力試験の比率を4:6にする学校が多いが、それは選抜のBグループに分類された生徒だけであり、校内順位が上位のAグループでの順位付けは従来通り内申点と学力試験の比率が5:5である[注意1]。

愛知県では高校入試での内申点のウェートが大きく、内申点によって事実上受験先が決まってしまう。そのため愛知県の中学生は秋田県の中学生とは正反対に、内申点をすごく気にして学校生活を送っている。どの都道府県も高校入試の際に内申点を得点化して選抜するので、どの都道府県の中学生も少なからず内申点を気にするが、愛知県は内申点と学力試験の比率をほぼ5:5にし、それを明確にしていることや、模擬試験時にきちんと内申点を申告して合否分析しているため、内申点に対する意識が強いのである。

そうした内申点重視志向の強い愛知県の中学校教育の現場で、内申点は教師が生徒を統制するための道具として機能している面がある。高校に合格するためには内申点がよくなければならなず、内申点を決めるのは教師である以上教師には逆らえないというわけだ。内申点が一種水戸黄門の印籠のように、中学生を従わせる機能を果しているのである。

愛知県の中学生は教師に嫌われたらおしまいで、内申点が悪くなり希望する高校に進学できない。そのため、最初から進学がどうでもよいと考える品行が悪い者を除いて教師に悪い印象を与えないように気をつけている面がある。

特に、上位校を目指す優等生は品行を良くしようとする傾向が強い。愛知県の最上位の進学校は旭丘高校で合格ラインは年によって変動するものの、だいたい内申点が42,43点、学力試験が87~90点くらいである[注意2]。旭丘高校の合格ラインは内申点、学力試験ともに事実上の上限に近いため内申点が2,3点低いことが致命傷になってしまう[注意3]。岡崎高校、明和高校といった他の上位進学校も旭丘高校ほどシビアではないが、似たような性質がある。そのため上位校を目指す生徒は内申点を落とせないため、みな品行方正に努めているのである。ひどい者はまるで上司にゴマをする部下のサラリーマンのように教師に対して媚びへつらっている。

愛知県で旭丘高校等の上位校を目指す生徒は「いい子」や「優等生」であろうと努め、それを教師に印象づけようとしている。内申点を上げるためか、上位校を目指す者は生徒会役員や学級委員を務める者が多いが、生徒会役員や学級委員などの中には極端に「いい子、優等生」であろうとする者が2、3人いるのが愛知県の中学校だ。

そんな上司にゴマをする部下のサラリーマンのようなことを12~15歳といった若い年齢からやることが人間形成として悪いのは言うまでもない。ほとんどの人は「いい子」「優等生」であろうと品行方正や成績優秀であることに努める姿を否定的にとらえるだろう。

それが内申点と学力試験の比率を5:5にし、配点比率や内申点を生徒に通知する効果である。受験時に生徒が正確な合否分析をできるのは良い点だが、悪い面も内申点秘匿の場合に比肩するくらいある。内申点を生徒統制の道具にするのは管理教育が盛んな愛知県らしいとも言えるが、端的にいって愛知県の内申点の取り扱いが生み出す効果は悪い。

思うに、入試の際に内申点の取り扱いに起因するこうした悪影響を除去するには入試で内申点を考慮しない、もしくは比率を1割程度と低くし配点比率・内申点の総点等の情報を通知するのがよい。

秋田県のように内申点をあまり気にしないなら、愛知県のような弊害はないのかもしれないが、現実問題として内申点は選抜の際に重要である。内申点を秘匿することで、内申点を気にしない効果を生み出しても、それは単に秋田県の生徒をだましているだけで良い効果があるとは思えない。本当は重要な事項なのに、情報秘匿によってそれを気にしないように仕向けるのは間違っており、そんなことをしても県、生徒ともに不幸である。生徒にとっては十分な合否分析ができないことに起因する不合格見込みが高い高校受験による公立高校不合格の危険がある。県にとっても、生徒が不合格になって優秀な人材が私立校に流れたのでは損失だろう。

かといって愛知県のように内申点の情報を公開したのでは生徒が教師に媚びへつらい、教師が内申点を生徒統制の道具にする弊害が生じてしまう。

こうした弊害が生じる原因は入学試験に内申点を得点化して選抜する仕組みにある。だから、内申点を選抜の際に考慮しない、又は配点率を低くすることで事実上内申点とは関係ない仕組みを作れば、こうした弊害がなくなると考える。

また、愛知県の進学校がどこも内申点よりも学力試験を重視する傾向があるように、どの都道府県も進学校は学力試験重視で選抜したがっているのだ。現在の内申点が学力の正確な指標として役に立たない現状を考えれば自然なことだ。内申点を考慮しない、又は配点率を低くするのは進学校の要望に適う。 

内申点を重視したがるのは概して下位校・教育困難校であり、そうした学校にとっては内申点軽視は困るかもしれない。下位校・教育困難校にとっては、生徒の進学はほとんど関係ないので生徒の学力はどうでもよく、きちんと授業や学校運営が成立することの方が重要なのだ。しかし、下位校・教育困難校に進学する多くの者は内申点とは無関係な学校生活を送っている者で、そうした者が下位校・教育困難校に進学する現実を考えると内申点による選抜が下位校・教育困難校の要望に適うのか疑問である。

以上から私は高校入試の際に内申点を考慮しない、又は配点を低くすべきであると考える。内申点を選抜に考慮するなら、少なくとも学校ごとの完全な自由裁量を認め、内申点を考慮しない、又は配点を1割程度と低くすることも認めるべきだと考える。

注意
[1]ここで言うAグループ、Bグループとは校内順位をつける際のグループ分けであり、愛知県の複合選抜方式での学校群分類であるAグループ、Bグループ(尾張1群A、尾張1群B等)ではない。

愛知県の公立高校の合否選抜はまず、内申点と学力試験それぞれの順位が募集定員内にある者をAグループとし、それ以外をBグループとする。Aグループに分類された受験者の校内順位は従来通り内申点と学力試験の点数を単純に足すことで総点を出し、総点が高いものから順に順位をつける。

Bグループの校内順位付けは学校裁量で内申点、学力試験の比率を6:4,5:5,4:6の3パターンから選べることになっており、多くの進学校では内申点と学力試験の比率を4:6にしている。即ち、学力試験の点数を1.5倍し、内申点の得点と合計したものを総点とし高いものから順に順位をつける。

Bの順位はAの順位に続くため、Aの最下位の次がBの1位となる。

[2]愛知県公立高校入試では内申点と学力試験の点数を以下のように計算する。
①内申点
3年生時の9教科の5段階評価をすべて合計し、その得点を2倍する。
したがって満点は5×9×2=90点である。しかし、満点は45点表記することが慣習となっているため、本文では45点満点表記で合格点を記している。

②学力試験
学力試験科目は国語、数学、社会、理科、英語の5教科。
1教科の満点は20点で、学力試験の満点は20×5=100点

[3]旭丘高校の内申点の合格ラインは満点に近く、学力試験の合格ラインも中学生が得点できる最高得点(93~97点)に近い。そのため内申点が2,3点低いことが致命傷になってしまうことが多い。

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日本経済新聞で次のタイトルの記事が出ました。

『親の時代とは大違い 高校受験「内申書」の真実』 2013.2.19

その1その2その3その4その5写し1写し2写し3写し4写し5

(追記 2013.6.21)



2 コメント

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Unknown (のんちゃん)
2013-03-06 02:18:05
塾の講師です。

内申点という印籠で生徒を従わせる。
埼玉の教育現場でも全く同じです。
FBに転載許可いただけたら嬉しいです。
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回答 (世界変動展望 著者)
2013-03-06 21:52:06
転載していただいて構いません。
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