世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

執筆方針について

2012-06-30 23:06:50 | Weblog


図1 2012年6月29日のユニークアクセス数とgooのアクセスランキング

図2 2012年6月29日の人気記事ランキング

最近藤井善隆の研究不正が報道されて私のブログはその関係の記事にアクセスが殺到し、大変な人気だった。このアクセス数で「アクセスが殺到」とか「大変な人気」というのは違和感があるという人もいるだろうが、平均的なのブログと比べれば、ここまでのアクセス数はかなり多いといえるだろう。

今回述べたいのはそういうことではなく、ブログの執筆方針についてだ。幸いなことに私のブログは平均的なブログに比してかなりの人気でニーズも高いと思う。特に研究不正関連の記事を扱ってからは人気が上昇し、そういう記事が読者に求められているし、人気が上がるのは自分にとっても嬉しかったのでそういう関連の記事を扱い続けてきた。

今回の藤井の研究不正関連の記事など、少なくない記事が多くの人に読まれ現在の研究不正の問題点などを議論する契機になり、少なからず問題点を認識する人が増えた点に関しては少なからず社会に貢献したのではないかと思っている。大げさな言い方かもしれないが。

そういう意味で有意義な記事を執筆したと思う。しかし、こういう関係の記事は読者に愛されているのか。幸いなことに現在まで記事に対する苦情は一切無い。運営において全く問題はない。人気もニーズも高い。

しかし、こういう記事は短期的に見て人気を得るかもしれないが、長期的に見て本当に本ブログの価値を高めるものか。

私のブログははじめのうちは時事問題が多かった。研究関連の記事も扱っていて、できる限りその研究の良い点を紹介し、真面目に分析して建設的な見解を紹介していた。研究関連の記事も対象者にとって喜ばれ有益なものになってほしいと願って執筆していた。しかし、ほとんど読まれず人気がなかったし、ニーズもなかった。記事の価値がなかったので、そのあたりで方針を変えて、いい事も悪いことも信じたとおりのことを書くという方針にした。するとある程度人気が上昇。それなりに人気を獲得したのは物理学や数学といった学術関係の記事を扱うようになってからで、約2年弱でようやくそこそこ読まれるようになった。

研究不正関連の記事は2010年頃が一番はじめだと思う。ある程度まとまった分量を扱うようになったのは昨年からで、今年の4月はじめから加藤茂明、藤井善隆の不正といったスキャンダルの影響で人気が上昇し、最近はよく執筆している。

自分の見解は信じたとおりのことを書いているが、辛辣なものもあるかもしれない。そういう記事が人気を集める一つの要因だと正直思っているが、こういうことを続けていると将来的に何かトラブルを起こすのではないかと危惧している。

私は記事執筆を通して啓発効果や人の役に立つことを目指してブログを運営してきた。それは今も変っていないし、最近の批判的記事も啓発効果があり人の役に立つ効果も出していると思う。ただ、できれば積極的な方向性でそれを発揮したかった。最近は研究不正関連のネットユーザーにある程度認識されたようで、私のブログはそういうカラーのブログとして世間に認識されつつある。

啓発効果やニーズがあるのはいいのだけれど、そういうカラーでブログを認識されたくない。そういう世間のイメージの払拭のため一旦ブログを閉鎖して新しいブログとして再出発した方がいいのではないかと検討した。せっかくここまで育ったブログを閉鎖するのはもったいないので、閉鎖は中止し継続することにしたが、イメージはそう簡単に変らないのだろう。

記事の執筆は続けていく。世間のニーズがあるのでそう簡単に方向性は変らないだろうが、徐々にでも違った方向性を目指していきたいと思う。


藤井善隆(Yoshitaka Fujii)、論文172編で捏造!史上空前の捏造事件へ!!!

2012-06-29 23:19:00 | 社会

29日、医師で東邦大元准教授の藤井善隆の出版した論文で、172編の論文で捏造、37編で捏造が否定できないとする調査結果を日本麻酔科学会が発表した[1]。

『東邦大学の准教授だった麻酔科の医師が発表した200余りの論文について、日本麻酔科学会は、「ねつ造されたか、ねつ造の疑いが否定できない」とする調査結果をまとめました。
学会では「例のない数の不正で、国にも報告する」としています。

日本麻酔科学会は、東邦大学の准教授だった麻酔科の藤井善隆医師の論文に、「ねつ造の疑いがある」という指摘があったことから、ことし3月に特別委員会を設けて調査を行い、29日、結果を公表しました。
藤井医師が去年までの19年間に国内外の学術雑誌に発表した212の論文のうち、3本を除いて、これまで在籍した大学などの関係者に調査できたということで、「172本でねつ造があり、37本でねつ造の疑いが否定できない」としています。
ほとんどは患者への薬の投与など研究そのものを全く行っておらず、共同執筆者となっていても論文の存在を知らない研究者もいたということです。
学会の2度の聞き取りに対し藤井医師は「ねつ造は1つもしていない」と強く否定しているということです。
特別委員会の委員長を務めた長崎大学の澄川耕二教授は記者会見で、「海外を含め例のない数の不正で、医療機関や専門家同士のチェック機能が全く働かなかったのは問題だ。学術雑誌に論文の抹消を求めるとともに、国にも報告する。学会でガイドラインを作るとともに告発しやすい態勢を整えるなど、再発防止に努めたい」と述べました。[1]』

この事件は日本麻酔科学会が調査し今月中に調査結果を公表するとしていた。当初は論文193編で捏造の疑いがあるとされていたが、さらに16編増えて209編となった。なんと200オーバー!少なくとも172編の論文で捏造が確認された。れだけでも史上空前の捏造事件で、捏造論文数の世界記録を達成した[2]。日本人がこんな事件を起こしてしまって、本当に恥ずかしい。

これだけ不正があれば共著者も知らなかったでは済まされないだろう。共著者は決まって「知らなかった。被疑者に任せていたので不正はしていない。」と言い訳するが今回の事件はさすがに藤井以外誰も処分されないというのは絶対におかしいだろう。

最近も2000年に海外の専門誌が藤井の不正を指摘していたにも関わらず藤井の当時の所属機関である筑波大学が指摘を握りつぶしていたことが発覚した[3]。東邦大学も生データの不存在が立証されているのに捏造を認定しなかった。特に筑波大が当時にきちんと調査していればこれほど大規模な事件にならなかった[3]。筑波大、東邦大の責任は極めて重い。

[2]でも述べたがなぜこれほどの不正がこれまで放置され、発生を防止できなかったのか。特別委員会の委員長を務めた長崎大学の澄川耕二教授は『医療機関や専門家同士のチェック機能が全く働かなかった[1]』『学会でガイドラインを作るとともに告発しやすい態勢を整える[1]』といっているが、筑波大みたいに不正を指摘されても握りつぶしている機関もあり、東邦大のように研究不正のガイドラインや規定があって生データの不存在が立証されてても捏造を認定していない研究機関もある。

研究機関や専門家同士のチェック機能が働かなかったとか規定や制度が不備だったという問題というより本質的に研究機関や研究者が不正の問題に対して極めて消極的で、意図的に問題を避けてきたことが根本原因だ。

「不正の調査や認定なんて自分ら(研究機関)にとって何のメリットもない。不正を認定したって自分らの名誉が下がるし、研究費を返還しなきゃならんし、犯人の処分で裁判リスクを負わなきゃならんし、調査なんて時間と労力の浪費だし、真面目にやってられっかよ。告発なんて握りつぶすか、受理しても調査をいいかげんにやって不正をうやむやにしちまえばいいんだ。犯人だってその方が助かるし、仲間を助けたいってのもあるしな。不正とせず論文の誤りだけ過失を理由に訂正させれば読者も困らないんだしよー。」

これがどの研究機関でも当てはまる本音だ。この事件だけでなく琉球大学の森、獨協医大の服部、東北大学の井上明久、京大の辻本の事件などいいかげんな調査が行われてきた[4][5]。本来こういう不適切な調査を改善すべき監督官庁や資金配分機関でさえ、

「調査なんて犯人の所属研究機関に任せればいいんだ。そんなめんどくさいことやったって自分達には何のメリットもないよ。」

これが監督官庁や資金配分機関の本音。

本件の根本問題を単にチェック機能が働かなかったとか規定や制度が不備だっただけと認識すると不正は絶対になくならない。研究機関、監督官庁、資金配分機関などの不正改善に対するあまりのやる気のなさ、消極さが根本原因だ[6]。

だから、不正に対して客観的かつ公正かつ厳正に取り組む第三者機関が絶対に必要だと本ブログでは繰り返し主張してきた[4]。

史上空前の捏造事件を起こした日本の研究機関や行政機関はこの問題の根本原因をきちんと考慮し実効的な再発防止策を作らなければならない。確かに藤井の著しいモラル欠如は原因だろう。しかし、それだけが原因ではない。これほど大規模な不正を未然に防止できなかったのは、研究機関や監督官庁、資金配分機関が本質的に不正改善に対して極めて消極的でやる気がないからだ。また、ちゃんと人事や査定のときに論文の質や藤井の人格を審査していれば不正を防止できていたに違いない[2]。他にももっと原因はあるだろう。

犯人の処分、お決まりの再発防止策の発案、関係者の謝罪などだけでは改善策としてまったく不十分。日本の研究機関や監督官庁、資金配分機関はもっと真剣に不正改善に取り組まなければならない。

繰り返しになるが、不正に対して客観的かつ公正かつ厳正に取り組む第三者機関の設置は必須だ。

参考
[1]NHK NEWSweb 2012.6.29
[2]世界変動展望 著者:"東邦大を諭旨退職となった藤井善隆(Yoshitaka Fujii)、論文193編で捏造疑惑、史上最高の撤回論文数達成か?" 世界変動展望 2012.5.28
[3]世界変動展望 著者:"筑波大学、藤井善隆への不正告発を握りつぶし!" 世界変動展望 2012.6.26
[4]世界変動展望 著者:"研究機関のあらゆる不正を調査する第三者調査機関を必ず設置せよ!" 世界変動展望 2012.5.30
[5]世界変動展望 著者:"京大で不正経理!自浄作用が働かなかったことが浮き彫りに!!" 世界変動展望 2012.6.29
[6]世界変動展望 著者:"研究不正が起きる根本原因について" 世界変動展望 2012.4.16


京大で不正経理!自浄作用が働かなかったことが浮き彫りに!!

2012-06-29 22:36:00 | 社会

『京都大学大学院薬学研究科の辻本豪三・元教授(59)が、物品を架空発注して公的研究費を業者に管理させる「預け金」などの不正経理を行っていた疑いのあることが、関係者の話でわかった。東京地検特捜部は業務上横領容疑で京大を捜索し、元教授から任意で事情を聞いている。元教授は自己都合を理由に28日付で京大を辞職した。

 京大などの関係者によると、特捜部が京大を捜索したのは5月下旬。辻本元教授に公的研究費の不正経理の疑いが浮上したという。特捜部は、元教授に私的流用がなかったかどうか調べているとみられる。

 辻本元教授は、人間の全遺伝情報(ゲノム)から体内のたんぱく質の役割を分析し、薬の開発に応用する「ゲノム創薬」の専門家。2002年に京大教授に就任し、10年には、がんやアルツハイマー病の治療法を開発するために新設された「最先端創薬研究センター」のセンター長にもなった。同センターの研究課題には、国から09~10年度に約10億7500万円が支給された。

 公的研究費を巡り、不正経理が全国の大学・研究機関で発覚。文部科学省は各機関に08~11年度を対象に調査を要請したが、京大は「預け金はない」と回答していた。文科省は29日、改めて京大に調査を求めた。[1]』

辻本豪三は預け金をやった疑いがあるようだ。京大は預け金はないと文科省に回答したにも関わらず預け金の疑いがあった。以前に研究費の預け金問題は全国的に調査をやったにも関わらず額が低すぎ、ちゃんと調査をやっていないのではないと述べたことがあるが、その通りではないか[2]。

京大は調査をやって預け金はないと回答したのに実際はあったのだろう。即ち、研究機関の調査はいい加減なものだったということになる。おそらくこれは京大に限らず他の研究機関でも同じ。自分達にとって都合の悪い調査はきちんとやらない。

研究機関の不正に対して客観的かつ公正かつ厳正に調査する第三者機関が必要だと繰り返し主張してきたが、こういう機関を作らないと本当にだめだ[3]。不祥事を起こした研究機関自身に調査させても保身のために十分な調査をやらないことはこれまでも何度も示された。

ちゃんと不正に対して客観的かつ公正かつ厳正に調査する第三者機関を作るべきだ[3]。

思えばこの事件は東京地検特捜部が動いているわけで、単なる預け金や不正経理じゃないだろう。私は不正経理の事件で特捜が動くのをはじめて見た。特捜が動くケースは政治家の汚職事件とか大規模な経済事件のケースだから、この事件の実態はおそらくもっとでかいもので、業務上横領罪とか研究機関と企業との重大な癒着とか大きな事件に発展するのではないか。

それも必ず改善しなければならない。

参考
[1]読売新聞 2012.6.29
[2]世界変動展望 著者:"研究機関の研究費不正使用調査や改善策はもっと徹底的にやるべき!" 世界変動展望 2012.3.4
[3]世界変動展望 著者:"研究機関のあらゆる不正を調査する第三者調査機関を必ず設置せよ!" 世界変動展望 2012.5.30


結論ありきの調査委員会か?- 井上明久不正事件、匿名投書への対応

2012-06-28 00:00:00 | 社会

井上明久東北大学前総長の不正疑惑は2007年に広く匿名投書が配られたことから発覚し、現在まで争われている。匿名投書に対して東北大学は調査委員会(通称、庄子委員会)が開かれ、井上の研究不正はないと結論づけた。

匿名投書の主張の中に[1]の論文中の直径3mm,5mmの物質のDSC曲線が極めて類似しており不可解、つまりデータの使い回し(捏造、改ざん)ではないかと主張するものがあった。具体的には次のもの。


図1 DSC曲線の類似性

確かに極めて似ている[3]。それは調査委員会も認めている[2]。しかし、調査委員会は「当該論文において指摘されている研究不正(捏造、改ざん)に関わるDSC曲線についてはその曲線を詳細に見比べた場合、極めて類似した曲線ではあるが詳細においては同一ではなく、異なる曲線であると判断する。[2]」とし、予備調査で終了し本調査はしなかった。

でも本当にこの2つは別のデータだろうか?違う物質でここまでDSC曲線が類似することはないと思う。フォーラムの研究者も指摘しているが『調査報告書では、「DSC曲線において3mmと5mmのサンプルの結果が殆ど同じである点」が「不可解」とされていることについて、「その曲線を詳細に見比べた場合、極めて類似した曲線ではあるが詳細においては同一ではなく、異なる曲線であると判断する」と説明しています。しかしオリジナルデータの確認なしで、このように判断することは、多くの実験研究に携わる研究者には理解し難い説明です。金属ガラスの物理現象としては、3mmと5mmのように試料サイズが違えば冷却され方が異なる。したがって、得られた試料の構造緩和量が違うので、通常は、この違いを反映したDSC曲線を得ることが一般常識です。[3]』

データ流用は十分疑われるので、本調査を実施して生データを確認するのは必須だろう。データが細部で一致しない原因はおそらく寸借を変化させた時に若干変化があったとか何らかの理由があると思う。データは「寸借を変更→コピー→寸借をさらに変更」とすると画像が若干変化することがある。こういう過程を経て画像が貼り付けられることは十分ありえるだろう。他にも違った理由はあるかもしれない。とにかく、この2つのDSC曲線は同じものである可能性がかなり高いと思う。生データの確認は必須だ。

しかし、東北大学の庄子委員会は本調査をすることなく不正でないと結論。これは不当ではないか。後の大村泉氏らの告発をガイドラインを無視して不受理にしたこと、大学内外でも不正の握りつぶしを指摘されていることを考えても、最初から「不正としない」という結論ありきの調査をやったのではないか。

客観的かつ公平な調査をすることなく井上前総長にとって有利な結論になるように調査委員会の結論を出させることで世間に不正はなかったと印象付ける悪質な調査だったと思う。

読者の皆さんの中には「総長だから庇いたかった。権力に負けた。」と思う人が多いだろう。確かにその通り。それは大きな要因だ。しかし、このような誰かを庇うための不当な調査は身分が総長だろうとポスドクや助教だろうと同様に起こり得る。最近紹介した獨協医大の二重投稿の握りつぶしのように被疑者(准教授以下の人)を守るために不可解な弁明を一方的に信じたり、モラルに違反して規定を極力不正でない方向に運用して不正を握りつぶすといったことがいろいろな研究機関で行われている。これは不正が明るみに出た研究機関だけ発覚したことで、不正が握りつぶされた事例は公表されていないから暗数は結構あるだろう。

被疑者の所属機関に調査を任せているからこういう弊害が生じる。客観的かつ公正な調査機関の設置。これは必須である。

参考
[1]Tao Zhang and Akihisa Inoue:"Thermal and Mechanical Properties of Ti-Ni-Cu-Sn Amorphous Alloys with a Wide Supercooled Liquid Region before Crystallization"  Mater.Trans.,Vol.39 (1998),1001-1006.
[2]"井上総長に係る研究不正等の疑義に関する匿名投書への対応・調査報告書" 東北大学 2007.12.25
[3]DSC曲線の類似性疑問点の指摘 井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム) 
※ DSC曲線のpptはスライドショーにすると類似性がよくわかる。
[4]世界変動展望 著者:"研究機関のあらゆる不正を調査する第三者調査機関を必ず設置せよ!" 世界変動展望 2012.5


慶應義塾大学金正勳准教授の経歴詐称疑惑

2012-06-27 00:00:51 | 社会

慶應義塾大学金正勳准教授に経歴詐称疑惑が持たれている[1]。月刊FACTAが慶応義塾に質問状を送ったが冷淡にあしらわれたので質問状をネットで公開している[1]。質問状によると金正勳は英オックスフォード大学上席研究員、米ハーバード大学客員教授と自身の著書やサイトで記載しているが事実が確認できないという。

『そんな生易しいものでないことはお分かりになったはずだ。中央大学の学部卒業時に提出した「コミュニケーション論」を除けば、どこにも彼の査読論文がみつからない。論文も書いてない人間ということは、学者ではないということだ。それがハーバードはおろか、オクスフォード上席研究員、ドイツ国防大学上席研究員を「詐称」したのだ。

慶應はちゃんと調べたのだろうか。インディアナ大学博士課程修了とあるが、博士論文の実在を大学自体が否定していることを。てことは、この人は何だったのか? [1]』

なんだかアニリール・セルカンみたいだ。アニリール・セルカンほど規模は大きくないだろうが、詐称はあったんだろう。本人は誤記だったと主張しているようだが、架空の経歴をいくつも書けば誤記という言い訳は通じない[1]。普通経歴の記載は間違わない。例えば博士卒でない人が博士卒とうっかり記載することはまずない。それに記載者にとって有利なように過失で経歴を何度も書き間違うのは非常に不自然。意図的に間違えたと考えるのが合理的だ。経歴なんて調べればすぐわかる。しかも客観的に嘘だとわかる。

おそらく月刊FACTAが報じていることは事実だろう。慶應も真摯に対応すればいいのに。不正に関する調査は何のメリットもなくデメリットしかないので、できる限り扱わない、握りつぶす、いい加減に扱うというどの研究機関でも共通する態度は慶應でも見れるようだ。

不正改善に関する研究機関の消極さ、やる気のなさを改めて見た気がした。

参考
[1]月刊FACTAの質問状 2012.6.21


筑波大学、藤井善隆への不正告発を握りつぶし!

2012-06-26 23:51:50 | 社会

2000年に藤井善隆の不正に対して米国の専門誌が指摘していたのに藤井の当時の所属機関であった筑波大学が調査をしていなかったことがわかった[1]。

『麻酔学に関する論文193本に不正が疑われている元東邦大准教授の藤井善隆医師(52)に対し、米国の専門誌が00年にも不正の疑いを指摘していたのに、藤井医師が97~05年に講師で在籍した筑波大は疑惑について調査していなかったことが分かった。不正の有無について当時適切な調査がなされていれば、これほど大規模な疑惑に発展しなかった可能性がある。【久野華代】

 海外の専門家が、不正を疑う文章を00年4月発行の米専門誌「アネステジア&アナルジジア(麻酔学と無痛学)」に投稿した。

 藤井医師が94~99年に複数の専門誌に発表した麻酔薬の効果に関する論文47本を分析し「副作用のデータが極めて均一で不自然」と指摘、不正を示唆した。

 藤井医師は、同誌に「データは真実だ」と主張する反論を寄せ、掲載された。だがデータの根拠などは示されておらず、真偽は不明なままとなった。筑波大の関係者によると、この投稿がきっかけとなって藤井医師への疑惑が学内に広がったというが、大学によると、学内で調査は行われなかった。藤井医師は05年に東邦大へ移籍。東邦大で執筆した論文のうち9本に今年2月、再び不正の疑いが浮上。藤井医師は8本を撤回し大学から諭旨退職処分を受けた。[1]』

筑波大学はまさに告発の握りつぶしを行った[1]。決して許されない。当時ちゃんと調査していればここまで酷い捏造事件にならなかっただろう。撤回論文数の世界記録達成という汚名を日本がかぶることもなかったかもしれない[2]。

なぜこんな握りつぶしが起こったのか。それは研究機関が不正の問題に対して極めて消極的で、できれば取り扱いたくないと思っているからだ。これは筑波大学に限らずどこの研究機関でも同じだ。研究不正の調査や処分は研究機関にとって何のメリットもなく、不正を正しても研究機関の名誉失墜、処分による裁判リスクの発生、調査労力の浪費など不利益しかないので、どの研究機関でも不正の告発を受理したがらないし、調査をやってもいい加減にやることは珍しくない。これは被疑者が東北大の井上前総長のような学長でも助教、ポスドクでも基本的に同じだ。

藤井のケースはその例だろう。藤井は当時学長などの有力者ではなくただの講師だったが筑波大は不正の指摘を握りつぶした。さらに新しい不正の告発が東邦大になされても、生データの不存在が立証されているにも関わらず東邦大は藤井の捏造を認定せず、倫理規範違反で諭旨解雇にした[3]。無論、捏造を認定していれば本来懲戒解雇だった。

今回の筑波大の握りつぶし発覚は改めて日本の研究機関の不正改善に対するやる気のなさや消極さを浮き彫りにしたと思う。[2]でもなぜ193編もの論文で不正があったのにこれまで研究機関が気がつかなかったのか疑問だという趣旨の文章を書いたが、海外の専門誌の不正指摘を握りつぶした筑波大の対応を見ると、日本の研究機関の不正改善に対するやる気のなさや消極さを感じずにはいられない。[2]でも述べたが、人事のときなどに論文の質をきちんと審査していれば、人事以降の不正は防げたと思う。藤井の研究は医学だ。嘘の研究成果の発表で他の研究者の時間や労力が浪費されるだけでなく、人の生命や身体まで危険に晒されたらどう責任をとるつもりだ?藤井だけでなく筑波大や東邦大の責任は極めて重い。

[1]によれば藤井の不正疑惑は筑波大学内に広まっていたらしい。それでも東邦大は藤井を雇った。なぜ疑惑を確認しなかったのか疑問だ。

研究機関の不正に対する対処は極めてやる気がなく消極的だ。その根本原因には研究機関の様々な利害、損得勘定がある。その結果、藤井の事例だけでなく独協医大、琉球大など様々な研究機関で不正が握りつぶされてきた。

客観的かつ公正かつ厳正に不正の調査を行う第三者機関の設置。これは必須だ。

特に東北大の井上前総長の事件や群馬大の教授二名の事件、筑波大学の男性教授や女性講師の事件は本当に調査をやってるのか?筑波大なんて今回の報道をみると公正に調査をやってるのか甚だ疑問だ。

参考
[1]毎日新聞 2012.6.25
[2]世界変動展望 著者:"東邦大を諭旨退職となった藤井善隆(Yoshitaka Fujii)、論文193編で捏造疑惑、史上最高の撤回論文数達成か?" 世界変動展望 2012.5.28
[3]世界変動展望 著者:"当初の東邦大学の藤井善隆に対する調査は不当!第三者調査機関の設置は必須!!" 世界変動展望 2012.5.29


論文数水増しによる業績評価について

2012-06-25 23:20:00 | 社会

研究者が論文の重複発表を行う最大の理由は業績を水増ししたいからだろう。重複発表の論文をすべて業績リストに記載し見かけ上の業績数を高く見せかけて過大な評価を受けようとする。それは不適切だ。

具体的な例として井上明久東北大前総長の二重投稿があげられる。井上は現在まで二重投稿を理由に8編もの論文が撤回されている[1]。さらにJSTの第三者委員会の報告書によれば60編以上もの論文で重複があるという[2]。これらの論文は追跡評価用資料に載っていた論文リストに記載されていたもので、全748編中60編以上が重複していたという[2]。

[2]では「(追跡評価用)資料中の業績論文リストに多数の重複があることは不適切と言わざるを得ない。[2]」と述べられている。私もそう思うが、皆さんはどう思うだろうか。さらに井上はこれまで論文を2800編以上発表したという。そんなに発表できるはずがないから、少なからずギフトオーサーシップで発表論文数を水増ししたのだろう。

JSTの第三者委員会が述べたのは論文の重複発表が不適切といっているだけでなく、評価用の業績リストに重複発表論文を記載することが水増しにあたり不適切だと述べていると思う。読者の中には論文数はインパクトファクターなどその他の要素をあわせて評価すれば誤信に基づく評価は起こらないので問題ないと考える人がいるだろう。しかし、水増しは正当な業績申告といえないのだから評価を誤信させる危険を避けるため止めるべきである。また、数に基づく評価は避けられないのだろうし、水増しで発表論文数の把握を困難にすると評価を誤信させる危険がある。

井上の場合はこの評価だけでなく、人事など色々な側面で水増しによる過大評価を受けてきたのだろう。一部の研究機関は競争で有利になるため、そうした水増しによる業績評価を適切だと考えているが、出資者である国民の目線から見てどうか。

例えばある研究者は発表論文数が90編でとても多い。優秀な研究者だからこの研究者が申告した研究テーマに対して巨額の研究費を出した。しかし、実態を調べてみると一つの論文を他の出版機関から81編出版し、実数は1編だった。実態的な全論文数は90編ではなく10編だった。それが判明したとき出資者である国民はどう思うだろうか。本来ならもっと優秀な研究者に研究費を出していたかもしれない。私なら騙されたという印象を持つ。

研究者や研究機関は自分達にとって有利になるために、こういう水増しを「発表した論文数としては間違いないから水増しでない。」「プロシーディングスとジャーナルの論文は別物だから重複していても水増しでない。」とか都合のいい弁明をする。

しかし、こういう研究者や研究機関にとってだけ有利な業績評価法は出資者である国民にとって幸福だろうか。研究者や研究機関にとっては予算などを多くもらえていいかもしれないが、国民からみると不当な評価に基づいて無用な出資をさせられ損失だと思う。重要なのは評価者や出資者である国民が業績を誤信して評価するおそれがあり、その点が不正だということだ。

こういう業績評価における水増しは上の井上の事例だけでなく、研究機関の人事や大学・独立行政法人評価([3])でも横行しているだろう。特に問題なのは大学・独立行政法人評価のケースだ。研究者の人事なら重複発表による水増しといっても数件の程度だろうし、無論これ自体不適切ではあっても大規模に水増し申告されるわけではない。しかし、大学・独立行政法人評価のケースは研究機関全体での申告になるから、水増し申告を許すと大規模になってしまう。見かけ上の発表論文数は1000編だったが、実数は700編だったということも実際に起こり得る。しかも、評価では業績リストと実物を照合して実数をチェックすることは対象の膨大さ故にまず行われないから、水増しによる誤評価の危険や損害はかなり大きい。しかも、こういう業績評価は毎年やっているので、こういう危険や損失が毎年繰り返されることになる。私なら、そういうのは絶対にやめてほしいと感じる。

テクニカルレポート、プロシーデイングス、ジャーナルの論文など様々な形で重複発表して、すべて業績リストに記載して水増し評価する。

こういう研究者や研究機関にとってだけ都合がいい業績評価方法は必ず改善すべきである。とはいえ、これはあくまで私見。皆さんは上のような評価方法をどう思いますか?

参考
[1]齋藤文良、大村泉、高橋禮二郎:"井上明久東北大総長の日本学士院賞受賞論文に見られるデータ改ざん疑惑(研究不正)" 2012.3.6 写し
[2]井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査チーム:"井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査報告書" 2012.1.18 、写し
[3]毎年研究機関の業績申告書に基づき所管官庁の評価委員会が業績評価を行う。これにより研究機関に対する予算や人材の配分が決まる。

(本来の発表日 2012-06-25 23:20:00)

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武市正人(大学評価・学位授与機構教授、前日本学術会議副会長、同会議会員)が論文数水増しによる不当さに言及し、研究公正局を「研究不正だけでなく、経歴詐称や業績誇称など学術上の不正を防ぐための実効性のある組織として設置することが期待され(1)」ると言及しました。

武市正人のブログ
(1)"学術「公正局」について(追記)" 、写し 2013.8.31
(2)"「生涯論文数」について"、写し 2013.7.29
(3)"科学者倫理に思うこと"、写し 2013.8.16

同じ成果の口頭発表や論文を業績リストに記載することに関しても

『学会での発表でも、査読等によって発表論文の選考が行われる場合には、一般に、未発表の新規論文に限られるでしょうから、共同 研究者が別の場所で発表するというのも適切ではないといえます。一方で、国内の学会では、発表を希望する会員にその機会を与えることが多く行われていま す。口頭発表によって、参加者からの意見を聞いて、研究を深めるためのものといえるでしょう。この場合には、発表自体に問題はないといえるのではないで しょうか。しかし、学会等での口頭発表を業績評価の対象とするような場合には、同一の発表を複数の成果として数えるのは誇称ということになるでしょう。業績表では、同一の成果についての発表には、その旨を明記するのがよいと思います。これは、学術(原著)論文の場合も同じです。論文の成果を別の形で(たとえば、招待講演等で)発表したときには、関連する公表について重ねて数えることがないように表示すれば、「論文数の水増し」にはなりません。

ある学問分野で同じ分野の研究者が論文業績の内容を見て業績を判断するときにはまだしも、異なる分野の研究者や一般社会が研究業績を判断するときに は、「論文数」に頼りがちです。大括りにしてさまざまなものを数え上げてしまうと、業績を誇称することになってしまいます。それぞれの分野で、その分野の 研究者による査読を経て、新規性や独創性のある研究成果として認められた論文を「学術論文」と呼ぶことはどの分野にも共通しているので、この「論文数」を 示すべきでしょう。もちろん、このときには上にあげたようにして、「水増し」にならないようにすべきです。』-(2)より

(2013.9.2 追記)

日本の科学を考える
(4)"<緊急>研究不正問題のまとめのお願い"(写し) 2013.8.26
質問と武市の回答は2013.9.4頃

"・・・ORI(仮称)の役割を述べられていますが、これは例えば査読なし論文を重複発表して、すべて業績リストに記載する行為やギフトオーサーによる論文発表も業績誇称(不正)として取り締まるべきということでしょうか?"

という問いに武市は

"おっしゃるとおりです。

経歴詐称や業績誇称についても、学術界が責任をもって疑惑に答えるべく、大学や研究機関とは独立した組織のあり方を検討すべきではないかと思っています。ただ、(表現のことかも知れませんが)「取り締まる」ということについては、現時点では明確に判断できません。すでに触れたように、2005年に学 術会議は「審理裁定」機関の検討を提言しています。各研究機関等がその決定を尊重することのできる「審理裁定」を行うのが第一歩だと考えています。

なお、ここに述べた意見、およびこれまでにBlogを通じて表明した意見は、個人的なものです。もちろん、学術会議の一会員としての意見ですが、現在の所属機関における事業・業務に関わるものではありません。今後とも、このような立場で意見を述べさせていただきます。"

と回答。

(2013.9.6 追記)

この記事は武市正人のブログの"自律的な学術公正性の確保に向けて"(2013.9.28 写し)で紹介されました。

(2013.10.7 追記)


政策分析や事業報告書の捏造・改ざんについて

2012-06-21 23:06:00 | 社会

数年前に地球温暖化のホッケースティック曲線に改ざんがあると指摘された[1]。


図1 ホッケースティック曲線[2]

ホッケースティック曲線とは図1のようなもの。近年は気温が急上昇していることを示し、地球温暖化対策が強く叫ばれている。少し前だと京都議定書(1997年)や2008年の北海道洞爺湖サミットなどで二酸化炭素削減政策は世界的に対策が議論された。現在も同様。

ホッケースティック曲線の改ざんは発表者や地球温暖化対策を主張する政府や団体にとって有利になるように改ざんされていたのではないかと指摘された。発表者はデータの出展が間違いだったと訂正したがこれを改ざんと指摘する人が現れた[1]。

この他世界的に報道された捏造疑惑はイギリスの研究機関のデータ操作疑惑[3]。『疑惑の舞台となったのは、国際的な温暖化研究の拠点のひとつである英イーストアングリア大学。何者かが気候研究ユニット(CRU)のコンピューターに侵入 し、1996年から最近までCRUが外部とやり取りした1000通以上の電子メールをハッキングして匿名サーバーに置いた。さらに、温暖化懐疑派のブログなどにその存在を知らせ、メールの内容が明るみに出た。

 そこで注目されたのが有名な「ホッケースティック曲線」だ。過去1000年間にほぼ横ばいだった気温が、温室効果ガスの排出が増えた20世 紀後半に急上昇したことを示す。IPCC報告書でもたびたび引用されたが、あいまいなデータ処理が以前から問題視されていた。メールの中で、フィル・ ジョーンズCRU所長は1960年代からの気温下降を隠すことで、80年代からの上昇を誇張するデータのtrick(ごまかし)があったことを示唆している。

 ジョーンズ所長らは流出した電子メールが本物であることを認めたうえで、疑惑について24日に声明を発表。「trickとは新データの追加を意味する言葉で、ごまかしではない」などと釈明している。[3]』

要するに近年の地球温暖化が激しいものになるようにデータの分析過程を操作した疑惑。正確にいえば捏造ではなく改ざんだが、その改ざんを示唆するメールが流出して話題になった。当事者は否定しているが、実際のところどうか。

事の真偽はわからないが、地球温暖化政策の分析を行う研究者や研究機関の中には少なからず捏造や改ざんをやっているところがあるだろう。彼らにとっては地球温暖化の危険をあおった方が対策を支持する政治家や国際団体から優遇され、研究費やポスト、研究評価などで有利になるので近年地球温暖化の危険をあおる大げさなシミュレーション結果などを平気で発表する。

典型例は2035年までにヒマラヤの氷河が消失するという発表[4]。『世界中の科学者で構成する国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、2007年に発表した第4次報告書の中で、ヒマラヤの氷河が35年にも消失するとした記述が誤りだったとする声明を発表した。

 問題の記述は同パネルの三つの作業部会のうち、温暖化の影響を担当する第2作業部会の報告書に記載されていた。 これは一般向けの科学雑誌や環境保護団体の冊子に掲載されたデータの引用で、学術誌に発表された研究成果ではなかったという。このデータの基になったとみ られる未発表研究では、世界全体の氷河の消滅時期が2350年となっていた。

 IPCCのパチャウリ議長は「データの信頼性を十分にチェックをするというIPCCの手続きが守られていなかった」としている。[4]』

公式には過失ということで済まされているが、実際は改ざんだと思っている人は多い。似た数字なので2350と2035と誤って記載することはあり得る。しかし、地球温暖化の危険をあおるためにわざと虚偽のデータを発表したのではないかと思っている人はたくさんいる。

地球温暖化問題を研究する学者たちにとっては地球温暖化の危険性が高く認識された方が自分達にとって有利になるので、わざと危険をあおるような分析やシミュレーション結果を報告することがある。それはデータ操作、即ち改ざんだ。改ざんといってしまうと研究者生命が絶たれるのでわざと過失で済ませる。

こういう政策分析の改ざんは別に地球温暖化問題に限った話ではなく、いろいろな分析で行われているだろう。政策分析だけでなく、例えば最近の原発問題の事業報告書とか会社や政府にとって都合がいいようにデータを分析して報告していることはしばしばあるのだろう。無論、学術に対する信頼性を致命的に傷つけるので絶対に許されない。研究機関や研究者も利害関係があるから、客観的ではなく政策や特定の団体等を支持する結果になるようにデータを操作して発表することは今後も行われるのだろう。

政策等の基礎資料になる分析を行う研究者の発表はどれほど客観的なのか。それを示す研究発表を見たことがない。先日も書いたが研究発表を検証する発表はほとんど行われない[5]。科学者の場合は検証されていない結果は信じないという対処でいいかもしれないが、政策決定者にとってはそういうわけにはいかない。専門的な分析については研究者を信用して任せるしかないので、信用して研究者の発表を使っているのだろう。

だからこそ余計に信頼性のある分析を発表しないといけない。もともと信頼性のある研究発表をするのはどの分野でも当たり前のことで言うまでもないことだが、そういう当たり前のことを言わなければならないのはそれだけその研究分野のモラルが低いということで、悲しい。

結局のところ、どんな研究者や研究機関も捏造や改ざんをやったとなると致命傷になるから上の研究者達のように必ず過失と主張し、口が裂けても故意とはいわない。しかし、政策等の分析の分野はその結果が政策等の基礎となり我々の生活に大きな影響を与えることになるし、政策決定者の専門能力不足のために研究者の発表を信用せざるを得ない事情を考えると、こういう分野の研究発表の正当性を検証することは必要だ。

検証もきちんと行うべきだろう。

参考
[1]Wikipedia ホッケースティック論争 2012.6.20
[2]ホッケースティック曲線 Climate Change 2001
[3]地球温暖化データにねつ造疑惑 環話Q題 日本経済新聞 2009.11.26
[4]共同通信 2010.1.21
[5]世界変動展望 著者:"学術研究の誤りについて" 世界変動展望 2012.6.20


学術研究の誤りについて

2012-06-20 01:01:58 | 物理学・数学

そういえば8日に超光速ニュートリノの発表が国際研究発表会で正式に撤回された。昨年はこのニュースの発表で世界中の物理学者が驚嘆しただろう。私も物理に詳しくなくても物体は基本的に光速を超えられないということが有名なため知っていた。相対論を破る事実がついに発見されたかと驚いた。

しかし誤りだった。発表直後から世界中で検証がはじまり、反論が多かった。結局実験過程に誤りがあったことが原因だった。

思えば超光速という話題のように重要な発表は追試が試みられるが、多くの研究成果は追試が行われるほど重要でない。例えばある学術雑誌は年間に約10件エラータが出され、1年間のトータルの出版論文数に比してエラータが出される論文数はかなり少ないが、実際のところ発見されていない誤りはもっとあるだろう。そうした誤りがなぜ発見されないかといえばほとんどの読者が注目せず論文を読まないので気付かれままになっているのだろう。

実際の学術発表の誤りは我々が思うよりも多いと思う。我々は誤りと気付かないで研究発表を理解していることがしばしばある。それによって被害を被ったり、そのリスクを抱えて研究を進めなくてはならない不都合さがある。きちんと誰かが検証しないと研究発表は信頼性がないのではないかと思うかもしれないが、すべての研究発表を検証するのは現実的でない。

日々研究を進めるとき誤ったデータに接することはよくある。それにどう対処するのか。科学者は意外と通常人より懐疑的な人で発表されても検証されない結果は信じないということで対処している人もいる。

結局のところ学術研究はデータを疑うことなしには成立しないものだ。


三重大、群馬大、筑波大の捏造事件はどうなっているのか?

2012-06-17 21:29:05 | 社会

気になっていることがあるが、三重大、群馬大、筑波大の捏造事件はどうなっているのか?どれも不正の疑いが持たれているが調査結果が不明。群馬大と筑波大は調査をやってるのかどうかもわからない。

(1)三重大学の捏造事件

三重大学大学院生物資源学研究科の某准教授のグループが論文10編でデータの使い回しによる捏造をした疑惑を持たれた事件。昨年3月3日に本調査開始が決定され、1年以上経過しているが現在まで調査結果の公表はない。

不正でないと判断された場合は調査結果の公表はないが、本当に不正はないのか?

(2)群馬大学の捏造事件1

群馬大学の某教授が論文4編程度でデータ捏造。2月下旬頃に告発された。群馬大が調査しているのか不明。Twitterで問題発言をした疑惑も持たれた。

(3)群馬大学の捏造事件2

群馬大学の某教授が筆頭著者となったCellの掲載論文が不適切なデータ処理により撤回された。端的にいって捏造が疑われた。共著者である加藤茂明はすでに辞職。この事件に関しては群馬大学の某教授が主犯と見られているが、現在調査されているのか不明。

(4)筑波大学の捏造事件1

筑波大学の某女性講師が捏造を行ったと疑われている。某サイトによると予備調査は開始されたらしいが現在どうなっているのか不明。この女性講師が筆頭著者となっている捏造疑惑論文の共著者も加藤茂明。

(5)筑波大学の捏造事件2

筑波大学の某女性講師と同じ研究グループの筑波大学某教授のグループの捏造疑惑。某サイトによると予備調査は開始されたらしいが現在どうなっているのか不明。

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本当に現状でどうなっているのだろうか。特に(1)は疑惑の多さからいって捏造が濃厚だと思うのだが、被疑者は現在も三重大に在籍し論文を発表している。まるで何事もなかったかのようだ。本当にどうなっているのだ?情報を知っている人がいたら教えてくれませんか。


加藤茂明グループ、2009年のNature誌掲載論文を撤回!

2012-06-16 01:52:31 | 社会

加藤茂明元東大教授のグループが2009年にNature誌に掲載した論文を撤回した[1]。Retraction Watchでも紹介されている[2]。かつて不正の隠蔽のために訂正で済ませたNatureの論文だったが、撤回となった。これが本来の適切な対応。この訂正がきっかけで大規模な捏造が発覚したわけだが、加藤らにとってはそれが致命傷となった。

参考
[1]Nature誌の撤回公告 2012.6.13
[2]"Shikeagi Kato, who resigned post in March, retracts Nature paper" Retraction Watch 2012.6.13


大分大学医学部、論文約20編で画像不正使用疑惑!

2012-06-12 00:00:28 | 社会

『大分大医学部の講師だった40歳代の男性医師の論文に写真の不正使用があった問題で、同大は8日、医学部の他の講師らの論文にも画像やデータの不正があった疑いがあるとして調査委員会を設置すると発表した。

 文部科学省に他の論文にも写真などで不正がある、との情報が寄せられ、同省が3月30日付で、大学に調査を依頼していた。調査委には学外の専門家らを入れる方針。

 元講師は、2000年に提出した医学博士号の学位論文の写真に不正使用が見つかり、5月に学位を取り消された[1]』

『大分大は7日までに、医学部(大分県由布市)の講師や前医学部長が発表した論文約20本に、画像やデータが不正に使用された疑いがあるとして調査委員会を設置することを決めた。大学関係者への取材で分かった。

 医学部では、別の元講師が医学博士の学位論文として2000年に提出した論文に不正があったことが判明、今年5月に学位を取り消されたばかり。今回不正が指摘された論文には、元講師の別の論文も含まれる。

 大分大は取材に「お答えできない。学内の手続きに沿って粛々と進めている」と回答した。

 大学関係者によると、調査対象は、腎臓や肺の障害や敗血症の治療法に関する論文。[2]』

『大分大学で発表された複数の論文で新たに画像やデータの不正使用の疑いがあるとの情報が国に寄せられ大学側が調査委員会の設置を決めたことが分かりました。

大分大学では医学部の元講師などが発表した論文で画像が不正に使われていたことが分かり大学側は5月、この元講師の医学博士の学位を取り消しました。

また、これとは別に平成24年3月にはほかの複数の論文にも画像やデータの不正使用の疑いがあるとの情報が文部科学省に寄せられ、国が大学に調査を依頼していました。これを受けて大学側は5月15日付で調査委員会の設置を決めました。

しかし具体的な設置時期はまだ決まっておらず調査内容についても「詳しいことはコメントできない」としています。[3]』

大分大学元講師が論文でデータを使い回し博士号が撤回された件は以前伝えた[4][5]。また別な講師や前医学部長が発表した約20編もの論文でデータの不正使用の疑いが持たれている。元講師の博士号撤回事件に関しては名古屋市立大学の岡嶋研二・原田直明の不正の共犯者が大分大学にいて、その関係で不正が発覚した。岡嶋・原田の事件の告発者のツイッターを見ると前医学部長は重複発表の不正の疑いもたくさんあるらしく、ひょっとしたらと思ったらさらに不正の疑いが浮上した。こっちも組織ぐるみだろうか。

それにしても告発は文部科学省に行われ、3月30日付けで大分大学に調査依頼、5月15日付けで調査委員会設置が決定(本調査開始決定)だから、少しスローなペースだ。通常は告発が受理されてから速やかに予備調査が開始され1週間程度([6])で終了し、すくに本調査開始が決定される。取り扱いたくない理由が何かあるのだろうか。大学は告発内容に関して詳しいことをいえないと発表したので、大学にとってそれなりにまずいということか。前医学部長が関わっているので余計にプレッシャーがあるのかもしれない。

今回不正の疑いが持たれている論文の著者の中には5月に博士号が撤回された元講師が含まれているので、今回の事件と博士号撤回事件は無関係ではないだろう。博士号撤回事件の被疑者の不正も含めて不正の疑いを持っていた誰かが前医学部長らの論文を網羅的に調査して告発したのだと思う。名古屋市立大学の事件とどういう関係があるのかはよくわからない。事件の報道を見ると名古屋市立大学岡嶋・原田事件→大分大学博士号撤回事件→今回の事件と連鎖的に事件が発覚した印象を受けるが実際のところはどうなんだろうか。

論文約20編という大規模な不正で報道されているところを見ると、不正があったことに信憑性はある。本当に研究不正は止まらない。研究不正が起きる根本原因の解決、公平かつ厳正に調査を行う第三者調査機関の設置など以前から訴えていることを実現してほしい[7][8][9]。

特に第三者調査機関の設置は今回の問題で必要な感じがする。確かな根拠はないのだが、スローなペースでの調査開始決定、告発内容の詳細非公表を見ると、何となく大分大学に「事態を慎重に扱わないと大学にとって余計に被害が大きくなる」という思惑が感じられる。保身にはしった調査裁定になると、不正が行われても科研費を返還しなかった獨協医大のような非常に悪い対処がまた繰り返されてしまう。

決して悪い調査裁定が行われないとよい。

参考
[1]読売新聞 2012.6.9
[2]共同通信 2012.6.7
[3]TOSテレビ大分 2012.6.8
[4]世界変動展望 著者:"大分大学元講師の医師、論文で画像捏造、博士号取り消しも検討中!" 世界変動展望  2012.4.23
[5]世界変動展望 著者:"大分大学元講師、データ流用で博士号取り消し!" 世界変動展望 2012.5.14
[6]予備調査は名目上告発受理から1ヶ月以内に終了するという規定だが、不正の疑いがあるかどうかを調査するだけなので、これまでの不正調査を見るといつも1週間以内に終わっていることが多い。
[7]世界変動展望 著者:"研究不正が起きる根本原因について" 世界変動展望 2012.4.16
[8]世界変動展望 著者:"研究不正の動機について" 世界変動展望 2012.4.28
[9]世界変動展望 著者:"研究機関のあらゆる不正を調査する第三者調査機関を必ず設置せよ!" 世界変動展望 2012.5.30