最近研究の捏造、改ざん事件が続いている[1]。捏造や改ざんをした研究者はほとんどのケースで懲戒解雇になっている[7]。捏造、改ざんは科学に対する信頼を根幹から揺るがすことであり、研究者としての最も基本的なモラルの欠如だから、懲戒解雇は当然だろう。
しかし、捏造、改ざんでも研究機関によっては懲戒解雇にならないこともあるようだ。琉球大学医学系の教授は論文38編でデータを流用する等して懲戒解雇処分となったが、後に大学と和解し、停職10ヶ月の処分で済んだという[2][3][4]。私が知る限り、捏造を実行した研究者が懲戒解雇にならなかった例はこれしかない。これは不当処分だろう。これほど捏造しておきながら、停職10ヶ月は軽すぎる。
思うに、懲戒処分は処分者側との利害関係で大きく変わる可能性がある。被処分者を重く処罰することに何らかの不都合がある場合は、甘くなるのだろう。琉球大学のケースはどうだかわからないが、こんな不当処分を見ると何か裏があるのではないかと疑ってしまう。不正行為者の論文には同大学長の岩政輝男が共著者になっているものもあったらしく、それが関係しているのかもしれない[5]。
他にも東北大学井上明久総長のケースが疑わしい。現在彼は論文の捏造等で裁判中だ。裁判前に大学に対し、匿名の告発があり、東北大の調査委員会は井上氏が潔白だと結論を出した[6]。しかし、裁判の結果井上氏が黒と判明したら、東北大は調査委員会を立ち上げておきながら、正しく調査できなかったことになり、大学の信用は著しく失墜するだろう。調査対象が学長等権力者だったら、事実を歪めて調査・裁定する研究機関の負の側面が浮彫りになるだろう。
東北大のケースはまだ真相がわかっていないのであくまで仮の話だが、もし井上氏の捏造が事実だとしたら、調査・裁定の不適切さの問題は東北大に限らず他の大学でも同様といえるかもしれない。なぜなら、上の琉球大の捏造事件でも明らかに不当な処分がなされているし、利害関係が絡んだときの不当処分の問題はどの研究機関でもおき得ると考えられる。
多くのケースでは大学の調査委員会の調査、裁定は適切に行われるが学長など権力者が関係する事件では、調査や裁定を研究機関外の者等利害関係のない者が中心に行い、より高度な中立性の担保が求められるだろう。
もっとも、捏造等をした研究者が停職程度で済んだとしても、その後研究者としてやっていけないだろう。その者に対する信頼は著しく失墜し、誰もその者を信用しないからだ。その結果、事実上研究者生命は絶たれる。地位を失わなかったとしても、信用がなくては仕事ができない。単に出勤して給料をもらうだけの存在になるだろう。不正行為者にとってはそれでも随分ましなのかもしれないが、職場に居続けるのは地獄で、相当辛い。辞めた方が幸福かもしれない。それに大して貢献できない職員に給料を払い続けるのは損失だ。
先にも述べたとおり捏造・改ざんは科学に対する信頼を根幹から揺るがすことで、こういう事件が度々起きることは本来もっと重大視されても不思議ではない。ちょうど大相撲の八百長や検察の証拠改ざん事件が各機関の存続問題に関わるのと同じである。相撲界等は信用を根幹から揺るがす事件が起きたとき、本当に機関の存続が危ぶまれるほど大問題になるのに、科学の世界ではこれほど捏造・改ざん事件が続いても、大相撲界ほどひどい事態にならないのは、正直少し甘いのではないかと思う[1]。
科学に対する信頼が損なわれることのないような制度を作るべきである。
参考
[1] 科学界における最近の捏造、改ざん事件 電子ジャーナル情報源, ここにあるのは一部で他にもいくつかある。
[2] ここでいうデータ流用とはある実験等の結果を異なる実験等の結果として使いまわすこと。データの捏造、改ざんの一種とされる。
[3] ”論文データ流用 卒業生学位取り消しも" 琉球新報 2010.8.26
[4] "琉大、教授の解雇撤回 論文データ流用問題" 琉球新報 2010.3.5
[5] "論文データ流用 岩政学長も1編共著" 琉球新報 2010.11.27
[6] "井上総長に係る研究不正等の疑義に関する匿名投書への対応・調査報告書" 東北大学 匿名投書に関する対応・調査委員会 2007.12.25
[7] 著者が捏造・改ざん事件の報道を読んだ範囲での話し。捏造等の罰則は原則解雇だと思う。例えば秋田大学の懲戒標準量定(第2 6(1)~(3))によると、捏造、改ざん、盗用は懲戒解雇又は諭旨退職となっている。