星のひとかけ

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ヨハン・テオリン:北欧ミステリ エーランド島四部作

2016-07-13 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)





6月に、 スウェーデンのミステリ作家 ヨハン・テオリンのエーランド島4部作を まとめて読みました。

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
冬の灯台が語るとき (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
赤く微笑む春 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
夏に凍える舟 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

スウェーデンのバルト海側にある島、 エーランド島という同じ場所を舞台に、 物語の季節を、 秋・冬・春・夏 に設定した4部作。  、、ヨハン・テオリンの本は 数年前に読んでみたいな、と思ってはいたものの、、 手にすることなく、 当時はまだ4部作だというのも知らず、、 そのままになっていました。

新聞に 北欧ミステリとヨハン・テオリンの事が載ったのが 今年の5月(朝日デジタル>>) 
エーランド島、という スウェーデン本土とは違う場所を舞台にしていることや、 ↑記事にもあるように、 「地元の幽霊話や民話」も素材になっていることを知って、 ちょうど今年、4部作最後の「夏」編が翻訳されたのもわかったので、 良い機会と思って読みました。

最初の『黄昏に眠る秋』を読んだら、 独特の落ち着いた雰囲気、 エーランド島という場所の魅力に惹かれて、 次から次へと あっという間に 4冊まとめて読んでしまいました。 事件に遭遇する登場人物は 1作ごとに変わっていくし、 物語も独立しているので、 1冊ずつ ばらばらに読んでも問題ない作品だとは思いますが、 島の住人の中には 4作にわたって同じ人物が出てきたりするので、 出来れば1作目から読んだ方が楽しみがあるかな・・・ それに、 登場人物の名前を私はすぐ忘れるので、 忘れないうちに4作一気に読んでよかったかも。。。

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北欧ミステリというと、 『ドラゴン・タトゥーの女』の「ミレニアム」シリーズが真っ先に頭に浮かび、 あの映画は好きだったけれど、 残酷な殺人とか、 猟奇的なのは ちょっと苦手なので躊躇したけれど、、 
ヨハン・テオリンの作品は 確かに事件は起きるのですが、 殺人犯の行動に焦点があるのではなくて、 事件によって 大切な存在を失った者、 心に傷を負った者、 喪失や謎や虚無感に苦しみながら それでも日常の時間を生きなければならない者の心情を丁寧に描いているので、 だから あまりミステリを読んでいるという感覚がありませんでした。

以前に此処に載せたことのある、 スウェーデン文学のラーゲルレーフ(>>)にも、 やはり通じるものもあると思うし、、 それは 善悪の認識のありかたとか、 その土地や自然にもとづく人間の魂のありかたとか、、 
人間はその個人が生まれた限られた時間の中だけで生きているのではなくて、 その土地の長い歴史、 地域性、 自然環境、 そういうものの中で 人と人との関係性がつくられていって、 怖ろしい事件もそうした固有の歴史の中で起こるのだ、と、、、 (スウェーデンに限らず それは当たり前のことではあるんですが、、 米国には米国独自の歴史があって犯罪の歴史も無縁ではない、と…) 、、そうした 「歴史」「風土」「伝承」 といった人の暮らしの背景を丁寧に描いてくださっているので、 文学としてちゃんと成り立っていると思えるのです。

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先月、 夏至の日に 厳寒の冬の物語を読んでいた、、と 書いていたのは(>>) 『冬の灯台が語るとき』 を読んでいたときで、、 

愛する人を喪失した悲しみと、 何故 そういう目に遭わなければならなかったのか、という言いようのない怒り、苦しみを背負った ひとつの家族の悲劇を描く一方で、、 灯台のあるその海辺に生きた前世紀の人々の過去の物語とも行きつ戻りつして、、 その過去との 「行きつ戻りつ」の読み方が、、 読者が物語を 咀嚼して、 考えて、 人物と一体化して 彼らの悲劇や喪失感、やるせない思いに共感するのに役立つ、、、  結果的にそれが 「浄化」につながる、、 深い物語だな、、と思って読んでいました。

4部作、 どれをとっても同様の印象の、 どれもエンターテイメントとしても面白い作品でしたが、、 

* 喪失の悲しみと、謎を追う過程を丹念に描いた 「秋」編、
* その土地、その海に、かつて生きた人々にも思いをはせる 「冬」編、
* エルフや取替え子など、伝承の存在の持つ意味や、 現代人(都会人)の病理を描いた 「春」編、
* 故郷、血族、国家、人のアイデンティティの意味や、大戦の時代から21世紀へ時代の意味を問う 「夏」編、

一作ごとに 描くスケールが拡がり、、 視点がジャーナリスティックになっていったように感じます。
でも、、 この4部作は 21世紀(ミレニアム)を迎える前で物語は終わっているのですよね。。 ここに生きる人たちが、 どんな21世紀=今 を生きるのか、、 それとも、 もうエーランド島は21世紀の文学の場にはならないほど 変わってしまったのか、、 ヨハン・テオリンさんが どんな小説を このあと書いていくのか、、 それも興味があります。

、、 エーランド島、、 4冊読むとだいぶ詳しくなって 行ってみたくなります。

J・M・シングが書いた『アラン島』(>>)も、 とても魅力的な島に思えましたが、、 今度は どんな土地、 どんな島、 どんな場所の物語を読みましょうか。。。


、、 やっぱり、 エルフが棲んでいそうなところがいいな。。