「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「薮入りと磯菊」

2013-01-17 18:44:23 | 和歌

 1月15日は「小正月」、16日は「薮入り」だった。

 昔からのこの様な風習は夙にお蔵入りして久しいが、そんな言葉も日本人の優しい心すら、消え失せようとしているのは生活スタイルが変貌したからで、仕方のないことなのであろうか。

 正月は歳の初め。「お屠蘇」と「お節料理」で新年を寿ぐのが日本の年中行事の初めであるが、これとて家族一同が和服でご挨拶するお宅は、殆ど皆無になったことだろう。正月の男共は、朝からお屠蘇を頂き、美味しいお節料理を堪能して将にこの世の春であるが、主婦の負担は、年末の拭き掃除からお節料理の準備、年始の準備など並大抵ではない。忙しく立ち働いた女性たちにも、一休みさせたいとの思ひから「女正月」とも言われている所以だ。

 

 1月16日と7月16日の「薮入り」は、女中や丁稚奉公していた若者が小遣いとお仕着せを得て、晴れて実家帰りが許された日であった。嫁さんも、懐かしい実家へ里帰りの出来る、年に二回だけの日でした。

 厳しい生活習慣も、就労環境も様変わりした現代には通用しない、「小正月」や 「薮入り」であるが、使用人や嫁いできた女性に対する温かな配慮は、大切に受け継いで行きたいものだ。

 海岸の「磯菊」が、厳寒に堪えて咲く健気な姿を見て、改めて昔の人々の温かな思いやりの心が偲ばれた。

 


           薮入りのその日の寒さは何故ならむ

           実家へ帰れる悦び抱くに


           磯菊の押し合いへし合い咲く様に

           寒さを堪える思ひを偲びぬ


           背をこごめ烈風に堪えて磯菊の

           群れ咲く中に己をみるかも


           凍てつける寒気にあれども身を寄せて

           磯菊咲くかな花色豊かに


           小正月と薮入りの日をつなげてぞ

           安らぎ得よとの心にしびれぬ