「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「もちの木」 

2006-12-09 18:20:00 | 和歌


 「もちの木」の実が、鮮やかな紅に色付いていた。
近くの蕎麦屋で「蕎麦湯割り」と「とろろせいろ」を堪能して、帰りに遠回りをしたら、旧家の門先にかなり大きな「もちの木」が沢山の紅の実を付けていた。

 実の大きさは、凡そ十ミリ程もあろうか。既に鳥が啄んだのだろうか、門辺には幾つかの紅の実が、散り敷いていた。赤く色付く木の実は、鳥達に「たべて食べて」と訴えているのだと、何処かで読んだことがあるが、「もちの木」の実を啄めるのはヒヨドリ位のかなり嘴の大きな鳥かもしれない。

 虚庵居士が子供の頃は、田舎の古老は「もちの木」の樹皮から「鳥もち」を採り、それを棒の先に巻き付けて、「メジロ」や「ホオジロ」などの小鳥を捕まえたものだった。いまのご時勢では「鳥もち」などと言っても通用しないだろうが、粘着力の極めて強い「鳥もち」は、一たび鳥が止まれば足が捕らえられ、もがけば羽毛までも貼り付いてしまうという代物だ。

 紅の木の実は鳥の好物だが、樹皮から採れた「鳥もち」は、小鳥を捕らえるのに使われるとは、何とも皮肉な取り合わせだ。世知辛い現世を、観せつけられる思いがする。






             生い茂るもちの木の枝みどり濃き 

             葉に映えるかも 実の紅は 



             物の皆枯れて失せなば鳥達の 

             啄む声ぞさぞやかしまし 



             鳥もちに捉われもがく小鳥をば
 
             優しくほぐす 爺の手 想ほゆ