日本百名山 31、雨飾山(1963m)
「・・・北側から仰いだ雨飾山は良かった。
左右に平均の取れた肩を長く張って、その上に、猫の耳のような二つのピークが睦まじげに寄り添って、すっきりと五月の空に立っていた。
やはり品がよく美しかった。」
(大糸線根知(ねち)駅より)
設定:カメラ:PRO、レンズ:28mm、風景:日本アルプスの朝、高さ強調1.5倍、仰角10度
遠眼には、二つのピークをもった、優しい稜線を描く山のようですが、
実際登った記録だと、見ると聞くとでは大違いの山のようです。
「(二度失敗して)三度目の雨飾山は、戦後のある年の十月下旬であった。・・・
登山口はやはり小谷(おたり)温泉を選んだが、道路は途中までしかなかった。・・・
大海川へ入るともう道は消え、河原伝いに遡って行くほかなかった。
大海川は上流で二つに分かれ、私達は左のアラスゲ沢を採った。
それまで比較的ゆるやかだった谷が、にわかに急な沢となり、石を飛び越えたり、へつったり、谷を避けるために藪の中を高捲きしたりせねばならなかった。
沢筋に水が無くなって、ゴロゴロした大きな石を踏んで行くようになると、もう森林帯を抜け出て、見晴らしが開け、直ぐ頭上に素晴らしい岸壁が現れた。
それはフトンピシ(布団菱?)と呼ばれる巨大な岩で、その岩の間に廊下のような細い隙間が通じていた。
その咽喉(ゴルジュ)を通り抜けて上に出ると、既に沢の源頭で、あとは枯草つきの急斜面を登るだけであった。
急登にあえぎながら稜線に辿りつくと、ハッキリした道がついていた。・・・
それから頂上まで、急ではあったが、一登りにすぎなかった。」
(新潮社刊、深田久弥著『日本百名山』より引用)