手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

治る道のりも人それぞれ

2017-04-11 20:52:31 | 治療についてのひとりごと
ある時、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた年配の女性が来院されました。

左脚の痛みが激しくて、身体を伸ばすことができず、ご主人につかまりながら。

家の中を歩く時も深々とおじぎをした状態で、あちこちつかみながらやっとの思いで歩く、という生活を既に3ヶ月以上続けていらしたそうです。

痛み止めやブロック注射をはじめ、いろいろな治療を試みたものの思わしくないため、病院で手術を勧められたとか。

でもなかなか決心がつかず、人伝えに治療院を紹介されてのご相談でした。

いただいたMRIのコピーからもヘルニアを認めるのですが、痛みはかなり激しいものの場所が移動し、しびれあっても触れられた感覚ははっきりしており、足の力も入ります。

そのため現時点での症状が、ヘルニアによるものか疑わしいと感じました。

横向きなら寝られるとのことで休んでいただいたのですが、左下肢を伸ばそうとすると筋の痙攣が強くなり、痛みのために伸びません。

ヘルニアに伴う炎症があったと仮定しても、この状態が3か月というのは長すぎます。

そこで、身体がリラックスするポジションを探して緊張が和らぐのを待つという、おだやかな方法を用いて少しずつ痙攣を和らげ、痛みが少なくなってから徐々に伸ばすようにしていきました。

胸や背中まわりも合わせて治療し、立っていただくと浅いおじぎ程度まで身体を起こせるようになられています。

テニスボールを用いたセルフケアをアドバイスし、私には珍しいのですが症状が激しいので数日以内の受診を勧め、4日後にみえることになりました。

2回目来院された際、腰はまた大きく曲がり、症状も元に戻ったようだと落胆されている様子でした。

しかし、ベッドの上で左脚を動かすと前回よりも伸びが良くなっており、腰や骨盤まわりの緊張感も和らいでいるようです。

私は手ごたえを感じました。

患者さんに変化を伝えて励まし、1週間後に3回目の治療を行いました。

徐々に腰を伸ばす角度は広がってきたのですが、しっかり伸ばそうとすると痛みが続くために患者さんの表情は冴えません。

「痛みはありますが、動かせる範囲が広がってきていますからこの調子で大丈夫ですよ」

いろいろ言葉を変えながらお話ししますが、悲しそうな笑顔を浮かべられます。

状態の変化をどのように受け止めるのかは個人差があります。

コップに水が半分もあると思うのか、半分しかないと思うのかというように。

この受け止め方を変えるのには、時間が必要となる場合も少なくありません。

4回目の治療の後に電話があり、やはり手術も検討してみようと思うので治療をいったん休むとのお話でした。

たいへん残念に思いましたが、もう一度私の考えをお伝えし、セルフケアは続けていただくようお話をするのが精一杯でした。

それから1ヶ月ほど過ぎたある日のお昼休み、カルテを書いているときにドアが開いたので顔を上げたら、その患者さんがいらっしゃいました。

それも満面の笑みを浮かべながら、背筋をまっすぐにした姿で。

突然だったので私は驚きながらあいさつをし、これまでの様子を伺いました。

最後の電話の後、ご夫婦で手術を検討されたのですが身近な周囲から反対され、やはり悩まれていた患者さん。

それでもテニスボールのケアをすると、痛みが紛れるような気がされていたそうです。

1週間ほどセルフケア続けていたあるとき、何だか急に痛みが抜け始めた感覚になり、そこから動ける徐々に動けるように。

2週間前までは、念のため杖をついていたそうですが、

「シャンとした姿を見せたくて、自分でケアを続けていたんですよ」だとのこと。

よかった、本当によかった(^^)

数日前にもう一度MRIを撮った時、症状は楽になっていても、ヘルニアの大きさは最初と変わっていなかったことに驚かれたそうです。

どうやら画像に映ったヘルニアが頭に焼き付いていて、治療院を受診されたときも、

「この治療でヘルニアが治るわけない」という思いも持たれていたみたい。

身体の変化をお話しても浮かない表情だった理由は、そのためだったのかもしれません。

もちろん、ヘルニアと症状がイコールではないとは何度もお話していたのですが、聞こえていても届いていなかったようです。

画像のインパクトは強烈です。

手術が必要になるケースもありますが、今回それを選ばれなかったことは結果的に幸いでした。

それからしばらく立ち話をしても痛がる様子もなく、元気な後ろ姿で帰って行かれました。

手技療法は農業でいうなら、畑を耕しているようなものだと思います。

かたい土だと芽が出ないので、手で「身体」という土を耕す。

運動やテニスボールでのセルフケアも、大まかには同じ性質のものでしょう。

芽を伸ばすためには、耕すことだけではなく、水や土の養分(食事)そして日光(休息)が必要で、時に農薬(薬)や枝の間引き(外科手術)が求められることもある。

今なら堆肥(サプリメント)もかな?

それによって、患者さん自身の持つ治癒力の芽が伸びていけば、回復可能なものは回復していく。

難しいのは、土を耕したからといって、すぐに芽が出るとは限らないということ。

慢性的であればあるほど、さるかに合戦のように「早く芽を出せ柿の種~♪」という訳にはいかないのですね。

そうなると、ひとつのアプローチがどれだけ効いているのが、はっきりしにくくなる。

今回のケースも手技療法がどれだけ役に立ったのか、本当のところはわかりません。

私が個人的に手ごたえを感じたとしても、たまたま治るべきタイミングだった、という指摘を受ける可能性もあるでしょう。

テニスボールも回復を助けたかもしれませんし、回復までの苦痛を和らげただけだという解釈もできるでしょう。

意味あるエピソードかもしれませんが、あくまでエピソードのひとつ。

ただ少なくとも、患者さんは途中から治療院を利用せず、セルフケアにより回復させた経験を通して、自分の健康を自分で保つということを学ばれたようです。

自信にあふれた笑顔がそれを物語っていました。

よい治り方をされました。

できれば、回復し始めた段階でも診ておきたかったというのは治療家としての人情ですが、それはあくまでこちら側の都合に過ぎません。

人の治り方はさまざま。

電車に乗るのも、立ってもいいから急行を使いたいという方もいれば、ゆっくり座って行きたいから各停でという方もいます。

これまで慢性の機能障害の方を多く拝見してきた経験では、「早く治りたい」とは誰もがおっしゃるのですが、行動を見るとそうではないという方も少なくありません。

その背景には身体的な理由だけではなく、心情的あるいは仕事や家庭などの社会的、経済的なことが理由になっていることもあるでしょう。

だから私たちは、患者さんがどのようにして回復していこうとされているのか、その道すじを理解しようしつつ見守る態度も必要になる。

そのようなことを改めて学んだエピソードでした。



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