東アジア歴史文化研究会

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう
歴史の書き換えはすでに始まっている

宮脇淳子著『ロシアとは何か』(扶桑社) チベットとモンゴルを支配し、ウイグル民族の抹殺をはかる中国 ネオ・ユーラシアニズムを唱えるロシアと同様に「モンゴル帝国再現」が目標だ

2023-11-02 | ロシア・ウクライナ情勢

いきなり度肝を抜かれる。

日本人がイメージしたシルクロードは「月の沙漠をはるばると」と浪漫の薫り高き、夢に溢れた旅である。駱駝の隊列、キャラバンサライ、葡萄、陶磁器、異文化の交易品、鄭和とマルコポーロ。

井上靖らが描いた西域は、行ってみると核実験の被爆地だった。中国はその事実を隠蔽して、敦煌、楼蘭などの観光ブームを作り上げた。「西遊記」の撮影に行った夏目雅子は原因不明の病で早世した。

「一帯一路はシルクローではなく、モンゴル帝国の再現がねらいだ」と宮脇さんがいう。従来の地政学の思考範囲を超えた立体的な歴史解釈である。

もとより宮脇さんは「世界史はモンゴルからはじまった」と唱えられて、モンゴルの文献を調べ、そのためにはロシア語も学び、女真族、満州族の研究に余念のない学者だから、モンゴル史などほとんど知らない者にとっては、ボタボタと目から鱗の連続なのである。

「習近平は『モンゴル帝国の最盛期を自分の手で再現する』というプロジェクトとして、一帯一路を進めているのです』(164ページ)

ところが習近平はモンゴル帝国の歴史を知らない。過去の歴史の教訓など踏み込んで習ったこともない(そもそも現代中国に客観的な歴史書はない)。チベットもウイグルもモンゴルも他民族の言語、宗教、文化には寛容だった。

しかし習近平の描く『シルクロード』構想とは 「チベットもウイグルもモンゴルも『漢民族』にしてしまおうとしている」(中略)「モンゴル帝国の広大さだけに目がくらみ、モンゴル帝国の寛容性の意味がどれだけ理解されているか心許ない限り」(172p)

なにしろチンギスハーンも中華民族にしてしまった。評者(宮崎)は、パオトウの南、オルダスからさらに南へ一時間半ほど、タクシーを雇ってチンギスハーンの御陵に行ったことがあるが、宮脇さんに訊くと「あれも偽物」だそうな。

さて意外なことにモンゴル研究に突如熱心に取り組み始めたのがアメリカなのである。

発端はアフガニスタン戦争で「かつてこの地も支配したモンゴル人がいかにして少数で多数の異民族・イスラム教徒たちを支配して、帝国を隆盛させたか」に異様な興味、というよりアフガニスタン攻略を目的に研究しはじめたのだ。(190p)

結局、ロシアもアメリカもアフガニスタンを従わせることが出来なかった。そのアフガニスタンに熱意をもって異常な接近をみせてきたのが習近平政権である。世界が批判するタリバンに平然と近づいている背景には、壮大なシルクロード(即ちモンゴル帝国の再現)があるわけだ。

一方、ロシア(それこそ本著は「ロシアとは何か」の研究である)は、ソ連崩壊後、アイデンティティを喪失した。 「ルーシ」と「ラシアニアン」という新しい概念(『漢族』と『中華民族』の差違に似ている)に基づくナショナリズムが台頭し、思想家ドゥーギンが代弁する(ドゥーギンは娘が爆殺されたが、あれは身代わりではなく、最初からネットの女王だった彼女がターゲットだったというのは佐藤優氏だが、これは余談)

ロシアの唱える「ネオ・ユーラシアニズム」なるものの概念も『大ロシア帝国』、すなわち「モンゴル帝国の再現」を狙っているのだとする。

極めつきにユニークな歴史書である。

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ロシアを紐解けば世界がわかる!

「偉大なるロシアの復活」を標榜してウクライナ侵攻を続けるプーチンのロシア。一体、プーチンの描くロシアとは、何百年前の、どのようなロシアなのか? ロシア人とはどのようなルーツの人々なのか? 
習近平の中国もまた「一帯一路構想」を提唱するが、ユーラシア大陸全体を支配する世界覇権をめざしているに等しい。
「文明と文明の衝突の戦場では、歴史は、自分の立場を正当化する武器になる」と著者は説きます。ところが、「イスラム文明の内部では歴史学は意義の軽いものにすぎず、地理学の補助分野」であり「いまでもイスラム諸国は、イスラエルやヨーロッパ・アメリカ諸国との関係において、自分の言い分がなかなか通せず、つねに不利な立場に立たされている」。また日本でも、自虐史観に反発する人は対抗するものとして日本神話を持ち出したりするように、「歴史とは自分たちが納得できるように過去を説明するストーリーであり、文化や立場、国ごとの世界感や歴史認識により、その筋書きが違ってくる。よって、史実が明らかにさえなれば、紛争の当事者双方が納得し、問題が解決するというようなものではない」……と本書には、まさに現代の不安定な世界情勢を読み解く「歴史認識」への示唆が凝縮されています。著者の夫であり師である碩学、岡田(故岡田英弘)史観のエッセンスを紐解きながら、日本人にとっての世界史理解、世界で果たすべき役割に導く内容です。

<目次>
プロローグ いまなぜユーラシアから見た世界認識が必要なのか―

二〇一四年、ロシアのクリミア侵略に失望した私たち日本人―
なぜ日本人のロシア・中国への予測ははずれてばかりなのか―
学問の真髄は「疑うこと」と「修正」―
学問とは何か、よい学問・悪い学問とは―
だまされないように、自分をだまさないように、自分の頭で歴史を学問しよう―

第一章 巻頭特別講義 入門・岡田史学―
日本の歴史学を少しずつ、しかし大きく動かしている岡田英弘―
岡田史学の問題提起―世界中どこにでも歴史があるわけではない―
岡田史学の前提―歴史とは何か、歴史は文化である―
歴史のない文明―インド文明、イスラム文明、アメリカ文明―
アメリカ文明に歴史がない理由―アメリカは現在と未来にしか関心がない―
日本の「世界史」教育―始まりから問題をはらんでいた―
西洋史のもとになった地中海(ギリシア・ローマ)文明―ヘーロドトスが書いた世界―
西ヨーロッパ文明の重要な世界観―変化と対決こそが歴史―
「歴史」は日本語の熟語―代々つながっていく「史」―
東洋史をつらぬく大原則―天が命ずる「正統」の観念―
日本の西洋史の矛盾―背景にあるシナ型の正統史観―
モンゴル帝国から世界史が始まったという理由―
中国、ロシア、インド、トルコ、東欧はモンゴル帝国の後裔で、それ以外にも強い影響―
日本史はどうつくられたか―シナの圧迫に対抗したナショナリズム―
「よりよい歴史」を書ける個人とは―
四つの課題―「歴史認識」「歴史戦」に負けない「よりよい歴史」のために―
自虐史観・日本中心史観を超えて―大日本帝国史を日本史として扱うべき―

第二章 ロシア史に隠された矛盾―ユーラシア史からロシアの深層を見る―
ボロディン「ダッタン人の踊り」―世界史は思わぬところに顔を出す―
コサックの子孫であるウクライナが「もともとロシアの一部」?
つくられた民族的トラウマ「タタールのくびき」―
アイデンティティもない、歴史もない、ないない尽くしのロシア―
人には「神話としての歴史」が必要―

第三章 国境を越える相互作用
ヨーロッパ文化の粋「フレンチのフルコース」が、じつはロシア生まれ―
シナ・台湾のラーメンがどうも日本と違う、と感じてしまう理由―
お酒を蒸留したのは遊牧民―
ふたたびトルコ料理について―文明の十字路とは―
モンゴル帝国の飽食―
シンガポール成長の鍵―華僑の旺盛な「食欲」―
バレエがロシアで進化した理由―
外国の文化を受け容れると、身体の使い方まで変わってしまう―
モンゴル帝国が西洋に広めた、権力者のための娯楽―

第四章 中国がめざす「モンゴル帝国の再現」―「一帯一路」とは―
日本人に焼きつけられた「シルクロード」のイメージ―
つい最近まで中国人は「シルクロード」に興味がなかった―
「ユーラシアは意外に狭い」というのがモンゴル帝国的な感覚―
政治力・経済力・軍事力と、歴史を捏造する力がセットになった「一帯一路」―
中・ロが得意な「サラミ戦術」、なぜ日本やアメリカは苦手?―
モンゴル帝国を準備した中央アジア―非遊牧民のイスラム商人―
チンギス・ハーンを〝教祖〟としたモンゴル帝国―
モンゴル帝国がつくりあげた「近代帝国」のかたち―
マルコ・ポーロと「海のシルクロード」―
アメリカがいま「モンゴル帝国」を研究する理由―
「中華思想」とは〝漢字を読めるかどうか〟にすぎなかったのに―
東西ユーラシアに広がっていた〝非漢字文化圏〟―
日本人が事実を、シナ人が実利を追い求めるのはなぜか―
帝国支配のかなめ―新疆ウイグルの人びとをなぜ弾圧し続けるのか―
ハンバントタ港の「九十九年」と、香港の「九十九年」―
アメリカが世界覇権を握った、世界史的に見て奇妙な理由―
「一帯一路」を「八紘一宇」と比べてみると―
歴史的真実と「よい歴史」を、私たちは武器とすべき―

第五章 ロシア、中国はモンゴル帝国の呪縛から解放されるか?―
モンゴル語の「勅令」がロシア語では「荷札」へと変わってしまった―
ロシア農奴制の謎―近世にやっと成立したのはなぜ?―
コサックは〝逃亡農奴〟ではない―プーシキン「プガチョーフ叛乱史」に描かれた姿―
強力なコサック兵力を欲したロシア―コサックの歴史的扱いの変遷―
ロシア史は偽造された―
「ユーラシアニズム」という名のロシア・ファシズムの発生―
弱点は美徳、後進性は特別な運命―ロシア人の歴史的な諦め―
ロシア人とは誰か―「ルースキー」と「ラシアーニン」―
「カリスマ的指導者」と「巨大な地理的領域」を切望するネオ・ユーラシアニズム―
歴史を改竄する動機にある民族的思想とは―
ロシア、中国がそれぞれ夢想する「モンゴル帝国再興」は可能か―
「よい歴史」を書く勇気を―

 

宮脇淳子
東洋史家。1952(昭和27)年、和歌山県生まれ。京都大学文学部卒、大阪大学大学院博士課程満期退学。博士(学術)。専攻は東洋史。故・岡田英弘(東京外国語大学名誉教授)からモンゴル語・満洲語・シナ史を、山口瑞鳳(東京大学名誉教授)からチベット語・チベット史を学ぶ。東京外国語大学、常磐大学、国士館大学、東京大学などの非常勤講師を歴任。『真実の中国史[1840‐1949]』『真実の満洲史[1894‐1956]』(ビジネス社)、『モンゴルの歴史』(刀水書房)、『最後の遊牧帝国』(講談社選書メチエ)、『世界史のなかの満洲帝国と日本』『中国・韓国の正体』(ともにWAC)、『満洲国から見た近現代史の真実』『皇帝たちの中国史』(ともに徳間書店)、『世界史のなかの蒙古襲来』、『日本人が知らない満洲国の真実』『朝鮮半島をめぐる歴史歪曲の舞台裏』 東洋史家。1952(昭和27)年、和歌山県生まれ。京都大学文学部卒、大阪大学大学院博士課程満期退学。博士(学術)。専攻は東洋史。故・岡田英弘(東京外国語大学名誉教授)からモンゴル語・満洲語・シナ史を、山口瑞鳳(東京大学名誉教授)からチベット語・チベット史を学ぶ。東京外国語大学、常磐大学、国士館大学、東京大学などの非常勤講師を歴任。『真実の中国史[1840‐1949]』『真実の満洲史[1894‐1956]』(ビジネス社)、『モンゴルの歴史』(刀水書房)、『最後の遊牧帝国』(講談社選書メチエ)、『世界史のなかの満洲帝国と日本』『中国・韓国の正体』(ともにWAC)、『満洲国から見た近現代史の真実』『皇帝たちの中国史』(ともに徳間書店)、『世界史のなかの蒙古襲来』、『日本人が知らない満洲国の真実』『朝鮮半島をめぐる歴史歪曲の舞台裏』 


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