ヴァーツラフ・ハヴェブは詩人だった。
実家は名家だったが、共産党に全財産を没収され、工員の苦労をしながら文学、演劇に親しみ、88憲章を起草した。ソ連崩壊の端緒となったチェコのビロード革命の震源地である。
ヴィーツラフが獄中から釈放され、広場を埋めた数万の群衆の前に現れたとき、チェコ国民は歓呼の声で迎えた。1968年夏、プラハは突然のソ連戦車の出現で自由が圧殺されて以来、チェコは全体主義の無謀な政治の下に呻いた。まさにこのパターンに逆行しているのが、香港である。だから香港の学生らはジョン・レノンの壁を随所につくり、メッセージを書き込んだ。レノンの壁運動はチェコの首都プラハのカレル橋の河畔に誕生した。
1989年、民主化されたチェコでヴァーツラフは最初の大統領に選ばれた。かれは自由の重要性を説いた。言論弾圧、表現の自由、人権、法治を訴え、チェコ国内が落ち着くと世界行脚の旅に出た。とくに力点を置いたのが台湾だった。
そのチェコで1月に急死した前上院議長が決めていた使節団の台湾訪問を、後継のビストルチル上院議長が引き継いで、90名の代表団を率いて台北入りした。台湾各地で大歓迎を受けた。台湾立法院(国会)で演説し、蔡英文総統とも会見した。
猛烈な抗議を繰り返した北京政府は在プラハの中国大使を召還した。
さて、チェコの台湾関係報道に隠れたが、オランダでも対中関係で「画期的」な状況が進行している。その焦点となったのはASMLだ。
もともとニコン、キャノンが開発してきた半導体製造の露光技術で、オランダが世界シェアの98%を握るようになったのも、同社が研究開発資金を大胆に投じてきたからで、株式の15%は米インテル、台湾TSMCが5%、韓国サムスンが3%と、合計23%株主は多国籍である。
ASMLは米国シリコンバレーにも開発部門がある。中国人スパイによって基本設計図が盗まれたのは2015年、サンノゼ裁判所は、この技術盗難を重視して、罰金刑を科した(ブルームバーグによれば8億4500万ドルの罰金だったという)。
半導体の自製化を「2025中国製造」の目標に掲げる中国がASMLを標的とするのは当然であり、2019年には一台一億円以上といわれる半島隊装置が中国向けに出荷されようとしていた。
▼最先端ハイテクが中国に渡る寸前だった
輸出直前に米国の圧力によってライセンス発行を拒否(オランダ政府が輸出許可を出さなかった)。この決定直後にポンペオ米国務長官がハーグを訪問した。以後、ASMLの半導体装置の対中輸出は中断されたままである。
この異変がおきたのも、以前にオランダは大失敗をやらかしたからだ。半導体製造のNXPセミコンダクターは次世代通信5Gの中核技術を誇った。この企業を中国のファンド=AJCキャピタルが買収し、オランダは半導体ビジネスから撤退していた
そうした経緯をふまえたオランダ政府は、新興の半導体製造「スマート・フォトニクス」に2370万ドルの出資を決めた。くわえて政府支援のコンソーシアムを形成し、起業資金を調達する。つまりオランダ政府肝いりで次世代半導体の製造に乗り出す。台湾、韓国、日本などと競合することになる。
日本の半導体の衰退は、米国の妨害に起因し、日本政府の支援がなく、東芝メモリーはようやくにしてキオクシアに衣替えして、秋に上場を果たす。ルネサスは苦戦の最中、オランダ政府のやり方とは対照的である。
2020年8月26日、王毅外相が急遽ハーグを訪問したが、オランダ政府の立場は変わらなかった。
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