東アジア歴史文化研究会

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「自損型輸入」とコスパ病 デフレと地方疲弊の真犯人 外国の低賃金を武器にした「自損型輸入」が、コスパ病を蔓延させ、デフレと地方経済の疲弊を招いた(国際派日本人養成講座)

2022-12-13 | 日本の事情

■1.「1個100円の陶磁器」に国内市場を席巻されては

日経新聞がまとめた本年のヒット商品番付は、東の横綱が「コスパ&タイパ」でした。「タイパ」とは聞き慣れない言葉ですが、「タイム・パフォーマンス」の略で、手作り感のある料理が電子レンジで数分でできる食品などが人気を集めています。

「コスパ」はおなじみ「コスト・パフォーマンス」、最低限の機能を徹底的な低価格で提供する商品です。100円ショップに行けば、コーヒーカップ、はさみ、靴下、爪切りなど、たいていのものが100円で揃ってしまいます。「あらゆる商品の値上げが続く中で、費用対効果がより重視されるようになった」と日経は解説しています。

このコスパに関して、『コスパ病: 貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』と題した本が注目を集めています。著者の小島尚貴氏は福岡で中小企業の製品を海外に売り込む仕事をしています。しかし、この仕事に無力感を感じることがあると小島氏は言います。

その無力感の原因は、私が輸出している地方の国産品よりも、はるかに安い価格で、類似の輸入品を日本市場に大量に持ち込む多くの「日本人の輸入販売業者」の存在です。

例えば私が「1個1000円の陶磁器」を100個輸出しても、彼らが「1個100円の陶磁器」を1000個輸入すれば貿易収支は差引ゼロです。その激安陶磁器は日本で流行しているデザインや色を巧みに模倣しており、海外工場に対して仕様書の作成と原料の指定を行ったのは「日本人」です。[小島、p4]

そもそも陶磁器の輸出などは、販路の開拓から、輸送、通関、売上げ回収まで、国内販売よりもはるかに手間がかかります。通常の中小企業では、なかなか手が出ないでしょう。なんとか販路を開拓しても、そこに「1個100円の陶磁器」で攻められたら、ひとたまりもありません。

小島氏は実務の世界でこうした問題に直面し、その問題の根本は自らを傷つける「自損型輸入」であり、さらにその原因をなしているのが、とにかく安さのみを追い求める我々日本国民の「コスパ病」だと見破って、この本を書いたのでした。

■2.数年で日本の産地を崩壊させた中国製い草

小島氏は、次の事例から自損型輸入に気がついたそうです。

畳表に使われるい草はかつては熊本県南部の八代地方が最大の産地でした。ところが、日本の一部の業者が、い草を中国で栽培し、畳表に製造して、日本に輸入する事を始めました。日本人のい草栽培技師が現地を指導し、また畳表を編む織機を中国に持ち込んで、製造させたのです。

八代の業界では、最初は中国産の品質の悪さを見て、「こんな粗悪品なら、日本人は買わないだろう」と油断していました。しかし、栽培法と品質管理を熟知する日本人の専門家が中国で指導を続けた結果、粗悪品は日本人消費者でさえ見分けがつかないほど改良され、八代の畳表はたった数年で土俵際に追いつめられてしまいました。

そもそも価格では、中国製の畳表は八代産の半額以下。値段で争う限り「ハナから勝負にならんかった」そうです。

「日本人主導で中国で生産されたい草による中国製の畳表」が、日本に大量輸入された結果、1990年には6580ヘクタールあった八代のい草栽培面積は2003年には1781ヘクタールと、たった13年でなんと72.9パーセントも激減しました。

また、1990年の時点でい草栽培農家の数は5237戸だったそうですが、去年八代の農家さんに聞いたら「360戸ほど」ということでした。30年間で実に93パーセントが廃業した計算で、これは産地の「衰退」と呼ぶより「崩壊」です。[小島、p39]

中国からのい草輸入を仕掛けた「自損型輸入」業者たちは、さらに巧妙な戦術をとりました。価格急落で破産・廃業した、い草農家から中古の織機を買い集め、中国の農家に売ったのです。売ったといっても、中国の農家には織機を買う資金はないので、業者はい草を買い取る価格を下げさせて、返済させるという手段をとりました。

熊本県では1990年から2004年にかけて合計7366台の織機が、老朽化で廃棄されたごくわずかの台数を除いて、日本人業者に買い占められ、中国に輸出されたそうです。

■3.「日本人同士の経済内戦」で焦土と化した日本経済

これは中国製品に日本の産地が壊滅させられた、ということではありません。中国の農民から見れば、日本人業者がやってきて、その指導を受け、安価な中古機も提供されて、言われるとおり、安い値段で、い草を作っただけのことです。

小島氏は、これを「外国製の武器で攻め込んできた日本人と、国産の武器で応戦する日本人同士の経済内戦」[小島、p43]とも呼んでいます。

これと同じ事が、他の業界でも繰り返されました。小島氏はこの経済内戦の被害規模を実感するために、自損型輸入の行われている以下の3つの代表的カテゴリでの各社の売上げ高を合算しています。

・激安均一ショップ(ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツ、スリーコインズ)合計 8330億円

・衣料品、メガネ(ユニクロ、GU、ワークマン、しまむら、AVAIL、JINS、ZOFF、OWNDAYS)合計 3兆62億円

・家具、生活雑貨、家電(ニトリ、無印良品、アイリスオーヤマ)合計 1兆8945億円

これら3つのカテゴリの合計で5兆7千億円ほど、滋賀県、山口県、熊本県といった「一つの県のGDP」とほぼ同額の規模です。また、この金額を仮に「日本人の一人当たりGDP=443万円」で割ると、130万人ほどとなり、これは愛媛県、奈良県、長崎県、青森県の人口とほぼ同じです。[小島、p60]

もちろん、これらの売上げのうち、販売管理費などは国内で発生しますから、この全額が国外に流出したわけではありません。しかし、自動車部品や食品など、他の巨大なカテゴリでも生産の流出が起きていますから、この数字よりもはるかに大きな規模の自損型輸入が行われていることは容易に想像できます。

さらに経済には乗数効果があります。たとえば、多くのい草農家が廃業すれば、それらの農家の消費に依存していた商店がシャッターを下ろし、さらにその店員も失業して・・・と何段階も経済縮小が輪を広げていくのです。

これだけの規模の人々が職を失い、そのうちのかなりの人々が年金や生活保護で暮らすしかないとしたら、地域の活気は失われ、シャッター街が広がるのも当然です。

若い人々は都会に出て、派遣やパート・アルバイトの仕事に就くことでしょう。こういう不安定な経済状況では結婚もできず、子供も産めない状況に追い込まれている事が、少子化の真因です。

こうして考えると、ここ数十年のデフレ、ゼロ成長、地方の過疎化、地方経済の疲弊、少子化をもたらした主要因が、この自損型輸入だったことはあきらかでしょう。日本経済は経済内戦によって、焦土と化したのです。

一方、この自損型輸入によって、棚ぼた式に利益を受けたのが中国です。「世界の工場」として経済が急成長し、日本を追い抜いて世界第二位の経済大国となりました。さらにその経済力を使って、軍事大国にのし上がり、日本も含めた周辺諸国に脅威を与えています。これもわが国の経済内戦がもたらした禍(わざわい)の一つです。

■4.コスパ病は文化も荒廃させる

小島氏はこの経済内戦の原因でもあり、結果でもある消費者の変化を「コスパ病」と呼びます。商品には、デザインの良さ、ブランド、産地の文化などの感性的価値がありますが、パフォーマンスとはそれらを一切無視して、商品の基本機能だけを目指します。

ボールペンなら「字を書く」というのが基本機能です。「字さえ書ければ、デザインなどどうでもいいから安く買いたい」、これがコスパ病です。

い草の例では、小島氏はこう指摘しています。

中国製の畳表は石炭を用いて高温、高速で乾燥させるため、誕生した時点でい草の細胞が死滅して、い草本来の香りと魅力が失われているので、本来は「畳風」といっても良いかもしれません。しかし、「格安で、畳に見えて床に敷ける」という点で、中国製の畳表は「コスパと機能性」という条件だけは満たしています。

見た目が畳であれば、原料や品質の良さを判断できるだけの知識を持つ消費者はほとんどいないので、「今までの畳よりも安い」という価格面の訴求は消費者にとって魅力的で、開発輸入業者の目論見通り、その安さは購入の動機となりました。[小島、p40]

「格安で、畳に見えて床に敷ける」「今までの畳よりも安い」というコスパの魅力に負けて、中国製のい草が市場のほとんどを占めた現在、い草の香りを楽しむ、という文化は失われてしまいました。コスパ病は経済を失速させるだけでなく、こうして文化をも荒廃させていくのです。

■5.「あそこは、有田焼を使ってるお店だよ」

現在は、歴史的な円安と、コロナや中国、ロシアによる国際貿易リスクの増大によって、多くの企業が生産の国内回帰を図っています。それは自損型輸入を縮小するという意味では追い風ですが、消費者のコスパ病がそのままでは、企業は限界までの低コストを国内でも求めざるを得ず、その結果、国内賃金の低迷、あるいは外国人労働者の採用拡大など、日本経済の病気は続きます。

日本経済の真の健康回復には、我々消費者自身がコスパ病から回復しなければならないのです。小島氏の著書には、そのいくつかのお手本となる事例が紹介されています。

4百年の歴史を誇り、わが国の陶磁器を代表する有田焼でも、百円均一ショップや量販店の価格攻勢で廃業した窯元や、安さに屈して伝統を捨てた窯元もあったそうですが、その中で200年以上も続く窯元「華山」の第11代社長・山本大介氏は、こんな経験をしたそうです。

ある大手飲食店に食器を提案した際、購買担当者から開口一番、「このくらいの食器なら、わが社は中国で三分の一の値段で作れますよ」と言われたそうです。山本さんは黙って担当者の話を聞き、お店の雰囲気や客層、メニュー構成を理解して、数日後にその会社に適したデザイン、質感、使いやすさ、取引条件を備えた食器を再提案。

すると、山本さんの提案力と食器の完成度に感動した担当者は、中国製の安い食器ではなく、同社の食器を採用することになりました。

実際、その店のお客は、「あそこは、有田焼を使ってるお店だよ」と自慢し始め、メニューと会社の価値も同時に高めてくれるようになりました。規模と納期と「三分の一の値段」しか誇れない食器では、こんな結果をもたらすのは不可能でしょう。[小島、p144]

■6.越前漆器で給食をいただく子供たち

このエピソードから、小島氏は次のように指摘します。

このように、モノに顔がなく、安さしか強みがない大量生産の輸入品は、長い歴史を通じて蓄積された知識、製法、ブランド力、提案力という強力な武器を持つ国産品には勝てないのです。[小島、p144]

JOG(742)では福井県で給食に地元の越前漆器を使っている小学校を紹介しました。越前塗りの職人さんたちが学校に提案し、給食に合わせて熱風消毒可能な漆器を開発し、値段も導入可能な価格に抑えて、導入できました。栄養教諭の先生はこう言っています。

お椀の木をくりぬく職人さんがいる、塗りをする職人さんがいる。いろんな人が手をかけて一つのお椀を作っている。全国でもこんな漆の食器を使って給食を食べている子どもたちはいないんだよ、と伝えているので大切に扱ってくれますね。

予算や保管場所の関係でひと学年分しか漆器の食器はないため、学年ごとに交代で使うのですが、順番が回ってくると子どもたちも「きた、きた」と反応がいいんですよ。[太田、p74]

店で有田焼の食器で料理をいただく、越前漆器で出された給食を食べる。こういう文化的体験を一つずつ積み重ねることによって、我々はコスパ病から立ち直れるのです。

■7.「消費者」から「愛用者」へ

私自身もこんな経験があります。イタリア駐在の際に、トリノの中心街にジャケットを買いに行った時のことです。店員がまさしくプロフェッショナルで、私の体型にぴったりのものを見繕ってくれました。柄も気に入り、日本で買うよりも2〜3割は高かったのですが、思い切って買ってしまいました。

そのジャケットは私の一番のお気に入りとなり、縫製も良いので、10年経っても着崩れがしません。それを着るたびに、着心地の良さを味わっています。代金を支払う一瞬は高い買い物をした、と思いますが、それからはずっと着るたびに心地よい思いをしています。良い物を大事に、大切に使う、ということの喜びを知りました。

小島氏は「消費者」から「愛用者」になることを進めています。日本国民が愛用者になることで、国内の文化と産業の活性化、若い人々の職と収入の安定化、それを通じて未婚化・少子化に歯止めをかけることができます。

さらに経済が活性化してこそ、防衛予算も災害対策予算も増額して、国民の安全安心を高めることができます。コスパ病からの脱却は、一石三鳥も四鳥もの国益につながるのです。

(文責 伊勢雅臣)

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