西南戦争だけではなく、西郷隆盛が政府を去る原因ともなった明治六年の政変から、西南戦争後に西郷が名誉を回復するまでの期間を新書サイズでまとめてくれた良書です。ただ西南戦争について手広く判りやすくまとめてくれている反面、掘り下げて書かれた部分が無く、筆者が何を重視したいのかと言うメッセージが伝わってこないのが特徴と言えましょう。
西南戦争と言えば、過去にも西郷の決起の理由について多くの議論がなされています。筆者は明治六年の政変から、西南戦争で開戦を決意するまでの西郷の行動原理を「名分にこだわった」と説明し、西南戦争について「西郷も桐野も『名分』にこだわっていたことはすでにみたが、それが成立する事のないまま暴発し、しかも『政府への尋問』が建前になったあたりに、この反逆の悲劇とわかりにくさがある」と記述しています。この説明は客観的に書かれていると思うものの、筆者のメッセージと言うの物が伝わってこないと言うのが正直な感想です。
筆者のこのスタイルは西南戦争の戦局説明に入っても続き、本によって著者の主義主張が色濃く出る「篭城前の熊本城焼失の原因」「乃木の連隊旗喪失」「元会津藩士等による警視抜刀隊」についても、ただ史料に書かれている事だけを淡々と述べているのは好感が持てる反面で、物足りなさを感じたのも事実です。しかし新書サイズで政府軍と薩軍のそれぞれの戦略と特徴、そして有名どころだけではなくマイナーな戦いまで網羅してくれるので、西南戦争を学ぼうと思う方にはお勧めだと言えましょう。
この筆者「私見を書かず、史実のみを記述する」のスタイルは、西郷の最期やその後の名誉回復と言った、西郷と西南戦争を扱った本としては重要な要素になっても続き、本書の一貫したスタイルとなっています。
以上の通り本書は、西南戦争開戦の背景から戦局までを、史実のみ淡々と述べてくれる良書だと思うものの、筆者のメッセージと言うのも欲しかった気がします。
しかし西南戦争について良い意味で広く浅く書いてくれていますので、専門的に学びたい人には物足りないかもしれないものの、私のような西南戦争について学びたい初心者にとっては最適な本だと言えましょう。
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