多分新書サイズでは初の谷干城の専門書ではないでしょうか。幕末維新から西南戦争についての、谷干城の動向はある程度は知っているつもりなものの、その後の谷の業績を知らない私にとっては、谷の生涯を知る事が出来ると思い購入しました。筆者が近世の政治史の専門家だけあって、後半生の政治の道に転じた谷の業績については、本当に詳しく書いてくれたものの、前半の戊辰戦争と西南戦争での谷の軍事的な手腕については、殆ど記述されていないので勿体無く感じてしまいました。
前述したとおり、近世史の政治史での専門家だけあって、政治の道に転じた谷の後半生については、本当に詳しくかつ、判り易く書いてくれています。谷が初代の農商務大臣に就任したまでは知っていたものの。その後に貴族院で野党的存在に転じて、政府の間違いを糾弾する存在になったとは知りませんでした。個人的には谷は山県との権力闘争に敗れて、仕方なく政治の道に転じたかと思っていたのですけれども、足尾銅山鉱毒事件では被害者の民衆の為に尽力して、民衆に感謝された事などは知らなかったので勉強になりました。このように足尾銅山鉱毒事件では民衆の側に立って、政府と戦った姿勢は好感が持てる一方で、貴族院の権限強化を推進したり、華族制度の強化を促したりなど、保守的な姿勢が強かった事には、保守とは反対の考えを持つ身としては違和感を持ってしまいました。
ただ権力には媚びずに、決して権力に取り込まれる事無く、生涯を通して政府の間違いを徹底的に糾弾する生涯をおくった事は好感が持てました。後年の谷のイメージである「偏屈者だか、権力には頑固者」このような政治の道に転じてからの姿勢から出来たのでしょうね。
このように本書は、後年の政治の道に転じてからの、谷の動向について詳しく書かれており、政治史に於いての谷についての専門書としては、初心者にとって最適の本と言えましょう。しかし谷の政治的な動向について詳しく書かれている一方で、戊辰戦争と西南戦争での谷の軍事的動向についての記述は対照的に弱いです。特に戊辰戦争での甲州勝沼の戦いについて、新政府軍を圧倒的多数と書くなど(実際には8個小隊と半個小隊、及び2個砲兵隊)、少しでも史料を読めば判る間違いをしている事を考ると、戊辰についてはろくすっぽ調べずに書かれているのが察せられます。そう言う意味では図らずも、政治史の研究家は軍事史には興味が無いと言う、巷に囁かされる噂が事実だったと言う印象を持った本でもありました。
政治史に於いての谷干城の動向については最適書、軍事史に於いての谷の動向については読む価値は無いかも、と言うのが私の本書に対する感想です。
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