歴声庵

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小和田哲男著:『戦国の合戦』

2009年09月05日 20時30分31秒 | 読書

 戦国史学会の重鎮である小和田氏自らが書かれた、一般向け戦国史の解説本です。一般向けと言っても小和田氏自らが書かれているだけあって、内容のレベルは高く、かつ判りやすい良書となっています。このような良書が安価で手に入れれるのですから、今の戦国時代ファンは恵まれているなと思ってしまった程です。

 内容自体が充実しているのは勿論ですけれども、本書と言うか小和田氏の著書で最も特徴的なのは、読み易さだと思います。良くも悪くも歴史学会で使われる用語は難しく、アマチュアには足を踏み入れ難いと言うのが現状です。しかしそのような学会の重鎮にも関わらず、小和田氏は判り易い言葉で、学会の知識を書いてくれるので、史実を求める物はこれほどありがたいものはないでしょう。知識を学会で独占するのではなく、在野にも提示してくれる事で戦国時代の研究がレベルアップするでしょうから、本当に小和田氏の活動には頭が下がる想いです。
 さて肝心の内容に関しては、戦国時代を語る前に、まずは何故戦国時代が始まったかを平易な文章で説明してくれます。歴史ファンと言うのは、どうしても自分の好きな時代のみに興味が向かいがちで、他の時代には疎かになりがちなので、小和田氏の説明は勉強になりました。
 このように戦国時代に入るまでの導入部で助走をつけて、一気に本編の戦国時代に突入します。この本編ではイラストや地図を多用して視覚的にも判り易い構成をしてくれます。このように文章も平易で判り易く、イラストも多用されているので、語弊がある言い方をさせてもらえれば、まるでライトノベルを読むような感覚で読む事が出来ます。しかしライトノベルを読むような感覚でも、書かれているのは最新の研究なのですから、いかにこの著書が優れているのが判るでしょう。
 また単に読み易いだけではなく、数は多くは無いものの史料を原文のまま引用して、それを読み下してくれるなど、史料を原文で読みたいと言うレベルの高いアマチュアにも配慮してくれており、正に入門者からハイレベルまでアマチュア研究家全般の「知識の底上げ」に配慮された構成になっています。
 私自身はこの十年近くは戦国時代から遠ざかっているので驚いたのが、小和田氏が「後詰決戦理論」で有名な藤井尚夫氏と共に研究していた事です。戦国時代を離れていた私でも、藤井氏の後詰決戦理論によって戦国時代の研究が一変したと言うのは知っていました。しかし、それでも藤井氏はあくまで学会の人間ではない在野の方ですので、普通の学会の住人なら敬遠する所を、共に研究する小和田氏の姿勢は素晴らしいと思います。そのような後詰決戦理論も取り込んだ、小和田氏による新説の紹介は興味深く読ませて頂きました。特に賤ヶ岳の戦いが、小牧・長久手の戦いのように両軍城砦を築いての対陣だったと言う新説が出ているのには驚きましたね。

 以上のように本書は、学会の最新の研究を判り易く紹介してくれる良書になっています。本当に戦国史の研究はこの十年で驚くほど進んでおり、その最新の研究を学会の重鎮である小和田氏がタイムラグ無しで紹介してくれると言うのは、今の戦国時代ファンは恵まれているなと半ば嫉妬混じりに思ってしまいました。
 最後に愚痴になってしまいますが、幕末維新史にも小和田氏のような方が居たら、星亮一の如き小説家による歴史捏造を許す事は無いのですが・・・。