歴声庵

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安丸良夫著 「神々の明治維新~神仏分離と廃仏毀釈~」

2007年08月23日 22時06分37秒 | 読書

 先日の飲み会の際にふと国学の話になりました、しかし私は国学について全くの無知なので、国学者達が何を目指したのかを知りたかったのと、明治新政府が行なった諸政策の中で「爵位制度」並んで愚策と思っている「宗教などという非合理的な物を国が司ろうとした神祇官が何故成立したのか」を知りたくて購読しました。
 この明治新政府の宗教政策が一向宗や、キリスト教が普及するのを防ぐ為の宗教政策というのは聞いていましたけど、実効面ではむしろ民俗信仰の弾圧に重きが置かれていたのは知りませんでした。あちこち旅行していると山や林の中に神社があったりしますけど、これが元々民俗信仰の施設だった物が、この政策により無理やり神社にされた名残というのは驚きでした。
 また神祇官の成立は、イデオロギーによる統治を目論んだ明治新政府が、天皇を頂点とする神社信仰を広める事により民衆を精神面から支配する為の政策で、これに権力を求めた神官と国学者達が群がった為の設立とは知りませんでした。神祇官の成立は国民統治の方便の一つに過ぎず、決して大久保利通などの優秀な維新閣僚達が、本気でこの愚かしい宗教政策を信仰心から推進していた訳ではないと知ってホッとしました。
 そのような意味ではこの「神仏分離と廃仏毀釈」は、単に政策面から価値があると判断した大久保達維新官僚と、本気でこの愚かしいイデオロギーを完遂しようとした神官達と国学者達の協力によって行なわれた政策というのが判りました。しかしこの宗教政策が西洋諸国と僧侶達の反発によって挫折すると、この宗教政策を単なる方便として見ていなかった大久保達が、もう用が済んだと言わんばかりに神祇官を短期間で解体したのも当然だったのでしょう。

 しかしこの「神仏分離と廃仏毀釈」の政策自体は挫折しましたけど、天皇の存在を宗教の頂点に位置付けて、その宗教上の頂点に政策の全責任を持たせることによって、政府への批判を封じるという政治体制の構築には成功したんですよね。そう言う意味では現代も続く、この日本の歪んだ体制は、この短期間のみ存在した神祇官によって作られてたのだと読み終わった後に実感しました。