歴声庵

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大山格著 「慶喜謀反!!」

2007年07月19日 23時25分02秒 | 読書

 「史実では鳥羽伏見の戦いで大阪城から逃走した徳川慶喜が、もし旧幕府軍に反旗を翻したら」という斬新な視点で描かれた所謂シミュレーション小説ですが、普通のシミュレーション小説なら「慶喜が旧幕府軍に反旗を翻す」描写が重視されるのに対し、この作品は慶喜が反乱した後の歴史が重視されているのが特徴です。しかもその慶喜反乱後の歴史を、史実でも実在した「昔夢会筆記」で当事者達が語り合い、その「昔夢会筆記」を用いて後世の人間が慶喜の反乱の真意を調べるという一風変わった構成になっています。
 また「昔夢会筆記」では単に慶喜反乱について語り合うだけではなく、慶喜が反乱する以前の歴史についても語り合う場面があるのですが、慶喜が反乱するまでは史実通りですので、言わば「昔夢会筆記」の場を借りて筆者の幕末史に対する見解が読めるなど面白い試みがされています。
 この様に一般のシミュレーション小説が「架空の歴史での合戦・戦争」が主眼が置かれた構成になっているのに対し、この作品は「架空の歴史を当事者・後世の人間が調べる」のに主眼が置かれている構成になっているのが特徴です。この構成は私みたいな歴史好きには面白いでしょうが、一般的なシミュレーション小説ファンにはウケが悪いだろうなというのが正直な感想です。
 筆者は後書きで、多くのシミュレーション小説が「その後の歴史にまで責任を持つ作家はごく少ないのではないか」と語り、その思いによりこの独特な構成の物語を書いたと述べていますが、正直シミュレーション小説を好んで読む人は「その後の歴史がどうなった」などは求めてないと思うんですよ。彼等が好むのは臨場感のある戦闘シーンであり、手に汗握る展開であり、「一つの事件や戦いがあって、その後の歴史がどうなったか」を気にするような人間はそもそもシミュレーション小説を読まないと思うんですよね。そう言う意味では作品の完成度は高いですが、売れ筋の作品ではないというのが正直な感想です。
 ちなみに個人的な感想としては、この作品は上記の通り慶喜編・昔夢会筆記編・後世編の三つに分かれていますが(便宜上こう読みますが、作品中この三世界の舞台は目まぐるしく入れ替わります)、後世編に比べると慶喜編と昔夢会筆記編のボリュームが少なかった気がするので、もう少し慶喜編と昔夢会筆記編が読みたかったです。中西先生と梅原学生の活躍は読んでいて楽しかったですが、少し悪ノリ過ぎる気が(笑)
 何はともあれ、普段はシミュレーション小説を読まない歴史好き人にこそ読んでもらいたいシミュレーション小説というのが私の感想です。