経営コンサルタントへの道

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■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 異文化注入と企業改革

2021-07-14 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 異文化注入と企業改革

 「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

■      今日のおすすめ

 『日産驚異の会議―改革の10年が産み落としたノウハウ―』

(著者:漆原次郎 東洋経済新報社)

      外国人がトップになるということの意味(はじめに)

 1990年代日産自動車は、先行きに目処が立たない経営危機に陥っていました。そのような時、1999年3月に世間から驚きと興味を以って受け止められたニュースがありました。それはカルロス・ゴーンの日産自動車の最高責任者に就任するというニュースでした。それから10年以上を経た日産自動車は、グローバル販売台数420万台、連結営業利益率8%、実質有利子負債ゼロ実現、品質分野におけるリーダーとなる等の目標を掲げ、総じて目標どおりの結果をあげることができました。その後リーマンショックの影響を受け一時的に業績が下がりましたが、2015年度はグローバル販売台数550万台をはじめ、過去最高の業績(連結)を達成するとの決算予想です。

 これだけの結果を出せた背景に何があったのでしょう。大企業のみならず中小企業にとっても学ぶべき点があるはずと思い、本紹介本を採り上げました。

 結果を見事に出したカルロス・ゴーンは、成功のポイントをこのように語っています。「1999年当時の日産と、今の日産は異なります。現在の日産は、より柔軟で、クロスファンクショナルな会社です。今後も成功していくために求められる資質です」と。

 「柔軟」とは何か。本書からは、「適切な意思決定のできる(「意思決定の質」)、競合他社よりも迅速な意思決定ができる(「意思決定のスピード」)、以上の二つの意思決定を生み出す時間、手数、費用が適切である(「意思決定の労力」)という3つの意思決定の要素を実現する仕組みがあり、その仕組みが、固定化することなく発展・成長し続ける組織の細胞として機能している状態」と読み取れます。

 「クロスファンクショナル」とは何か。本書からは、「部分最適ではなく全体最適を常に求める仕組みになっていることである」と読み取れます。それは、「国内・海外、部門、グループ各社間、組織の上下など、グループの全てに亘り全体最適を浸透させ、仕組みとして機能させ続けていく強い覚悟」と読み取れます。

 また、カルロス・ゴーンは、更に次のように語っています。「もちろん、日産の場合も、日本の企業としての文化を持ち、日本で積み重ねてきた社史があり、管理職のほとんどは日本人です。それは現実です。しかし、これからのことを考えれば、そういったアイデンティティを保ったうえで、世界に扉を開き、常にグローバルな視点で最適な選択をしていける企業になっていかねばなりません」と。

 この発言も深い意味を持っています。それは、国籍や地域や文化、さらに性別や年齢や学歴や価値観といった様々な背景を持つ個々の人材が、意見を出し合いぶつかり合う中で創造的なアイデアを出していくことを目指しています。そのためにも仕組みが必要です。英語を共通言語にしただけでは、コミュニュケーションが深まりません。共通言語を超えたものをお互いに理解する必要があります。それは文化であったり、教養や価値観であったりします。

 これらのニーズに答えた仕組みの代表的なものが「日産の会議」でした。詳細なノウハウは本書を読んでいただきたいと思います。「日産の会議」の特徴的なことをいくつか次の項で書かせて頂きます。

      日産を変えた「日産の会議」とは

【クロスファンクショナルチームと「日産の会議」】

 クロスファンクショナルチームは「部門を横断したメンバーからなる9つのチーム」で成り立っています。9つは「事業の発展」「財務コスト」「研究開発」などです。このチームの特徴は「財務コスト」チームに、製造から一人、研究開発から一人といった具合に、部門横断的に組成されている事です。クロスファンクショナルチームはグループ全体のあらゆる問題を抽出し、これらの提案を実行に移し、日産リバイバル・プランとして機能させ結果に繋げて行ったのです。

 ここで大切な事は、「クロスファンクショナルチーム」が日産リバイバル・プランを実行に移した後に、実行後の荒削りの状態を整備し、取組まれていない問題点を見つけて解決をする役割を担ったのが「日産の会議」でした。「クロスファンクショナルチーム」と「日産の会議」は、車の両輪でした。

【「日産の会議」は「V-FAST」と「DECIDEチーム」の二つがある】

 「V-FAST」チームは、素早く解決策を出すべき問題・課題テーマについて、事前準備はしておきますが、その日に始まり、その日に結論を出します。「DECIDEチーム」は、大きな問題に対し1~3ケ月をかけて結論を出すチームです。日常業務を行いながら、その間に会議を入れていきますので、二つのチームとも、メンバーのスケジュール調整を事前にしっかりと決めておきます。

 その日に結論を出す為、また異なる文化や価値観を持ったメンバーの共通部分を創る為には、使うツール、議事次第、議事録の取り方(すべてデジカメで撮影し、議事録は作らない)などについての“標準化”が図られています。

【「日産の会議」のメンバー】

 メンバー構成は、解決する課題に応じた部門横断型のメンバーです。メンバーは、リーダー(課題達成責任者)、エキスパート又はファシリテーター(課題解決支援者)、パイロット(課題設定・解決方策立案責任者)、クルー(各部門の現場スタッフ)から構成されます。会議のポイントになるリーダー、エキスパート、ファシリテーター、パイロットについては実践を伴った真剣な研修がなされます。

【「日産の会議」には意思決定者は会議に出席しない】

 リーダー(意志決定者)は、「日産の会議」が始まった後30分後に来て、テーマについての質問をうけ、テーマの方向性を確実にして退席します。終了の1時間前再度登場し、40分で、決められた解決策・課題の採否を決定します。残りの20分はリーダーが退席し、残ったメンバーで会議の評価をし、次の会議に向けた改善提案をして解散です。メンバーの自由で創造的な意見が出やすいようさまざまな工夫がなされています。

      「日産の会議」から中小企業が学ぶもの(むすび)

「クロスファンクショナルチーム」・「日産の会議」から学ぶべきものが少なくとも二つあると思います。

 一つは、企業文化の検証、見直し、改革ではないでしょうか。「クロスファンクショナルチーム」・「日産の会議」は部門縦割り文化・部分最適文化を部門横断文化・全体最適文化に、年功序列文化を適所適材文化に変えました。この様に過去の悪いしがらみと決別し創造的・革命的変革が生み出す結果をイメージ(仮説・検証)し、実行に移すことが大切ではないでしょうか。

 二つ目は、あらゆる現場の自由で創造的な意見が公の会議の場で採り上げられる、意思決定の仕組みではないでしょうか。「クロスファンクショナルチーム」と両輪をなす「日産の会議」の果たした役割に注目したいと思います。荒削りな戦略を、実行性のある現場の戦術・実戦計画に練り直し、良い結果に繋げたことに大きな意味があると思います。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

 

【 注 】

 著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

 

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