先日の広島行きは、お彼岸による夫の墓参が第一の目的でした。
けれど、それ以外にもう一つ、とても楽しみにしていることがありました。
昨日ご紹介したお手紙を下さった、K先生宅をお訪ねすることです。
前記事でもご紹介しましたが、先生は、ドイツ文学者で、或る国立大学の名誉教授でいらっしゃいました。
享年90歳で、一昨年の冬、亡くなられたのです。
教え子さんから、先生が編集をお手掛けになったらしい「私の教師遍歴」という題名の本が届くまで、私は先生の御逝去を知りませんでした。
その本に添えられた白い便せんに、先生の訃報が載っていたのです。
とてもとても驚き、その後数日は、悲しみに明け暮れて過ごしました。
若い頃から、私の憧れの、尊敬して止まない御夫妻でした。
数十年ぶりに再会を果たして以降は、私が目指したいお年寄りの佇まいの理想を具現したお方、と思い続けてきましたから。
最愛の奥様の十三回忌を済まされてのち、急にご容態が悪くなられたようです。
訃報に接する二年前の事。
年末に、心ばかりのものをお送りしたのですが、まったく音沙汰がなく、なんだか気になり、届いているか郵便局に確認の電話を入れたことがあります。
必ず、お電話やお手紙で知らせて下さる先生でしたので。
確かに届いていました。
今思えば、そのころからお具合が悪くなられたのかもしれません。
郷里に戻った日は、駅前のホテルグランビアに荷物を預け、迎えに来てくれた同窓生で幼馴染のN君の車に乗せて頂きました。
向かうは、K先生のお宅です。
五年前に伺った時は、数十年ぶりにお目にかかれる喜びと懐かしさで、心を弾ませたものでしたが。
今回は、残念ながら、家主のいらっしゃらない空き家をお訪ねする私達です。
お近くにお住いの御親戚の方が、鍵を開けて下さっているとのこと。
一時間ほど国道を走りぬけると、田園風景の小高い丘のすそ野に、先生のお宅がありました。
昨日と同じ写真でごめんなさい。
この度の訪問では、写真は撮りませんでしたので。
先生のお宅が写った唯一の画像です。
御親戚の方はまだ見えてなかったので、無断で中に入った私達です。
それが許される雰囲気が、確かにありました。
K先生は、私達の訪問を首を長くしてお待ちくださっていた、との思いがあったからです。
昨日ご紹介したお手紙の文面からも、その私達の心情は、ご理解いただけるのではないでしょうか。
お宅の中の雰囲気は、先生ご夫妻の日常の会話が、今にも聞こえてきそうな生活感にあふれていました。
どの部屋にも、本棚があり、蔵書が至る所に収まっています。
一室は書庫のようになっていました。
書籍の数は、おそらく千冊は軽く超えている事でしょう。
しばらくしてお見えになった御親戚の方のお話では、裏の蔵の中にも、本が一杯収められている、とのことでした。
「晴耕雨読の暮らしを送っています」といただいたお手紙に何時か書かれていましたが。
まさにその通りのお暮らしだったのでしょう。
若い頃から、自他共に認める文学青年。
学生時代には自ら詩や小説を創作し、文芸雑誌を作られたこともおありになったようです。
奥様も、国文学を大学では専攻され、ご主人様と同様に文学への造詣が深いお方でした。
とてもとてもお似合いのご夫婦。
知性と品性が匂い漂い、お人柄は、この上なく優しくて清らかな方達、と言えばいいでしょうか。
語彙不足の私には、このご夫婦の御人格の麗しさを、うまく表現できません。
園芸も大好きな先生でしたので、私の庭の草花で、今日の記事は飾ることに致します。
そのお二人が新婚時代の時、私の実家の前のお宅にお住いになられたのです。
確か広島大学でドイツ文学の講師をなさっておられたのではないかと思います。
私はその当時、小学校の高学年。
中学生になると、先生のお宅の書斎で、英語の個人指導を受けるようになりました。
母親同士が仲が良く、我が家によく遊びに来てくれたN君も、曜日は違いましたが、同様にこの先生のお世話になりました。
素晴らしいご指導のお蔭で、英語だけは二人とも大得意。
成績も良かったです・
先生のお話によると、一番熱心で真面目な生徒だったのは、私の妹のようでしたけれどね。
私とN君は、よく宿題も忘れ、かなりいい加減な所のある生徒だったようです。(笑)
前回お訪ねして、お夕食を共にした時は、そのころの思い出話に花が咲き、とても懐かしい時間を過ごせましたが。
この度は、先生はもういらっしゃいません。
仏前に、用意したお供え物のお菓子とお花を手向けました。
遺影の笑顔が、優しく私たち二人を見守り、心から喜んでくださっているように感じられ、また胸が熱くなりました。
今の私でしたら、先生の薫陶を受けるべく、もっともっと努力をしたでしょう。
それは遅しで、今は叶えられない自分が本当に悲しいです。
でも、最後にお会いしたときの、先生の凛となさった清々しい佇まいと、お優しい柔らかな表情は、私の胸に深く刻まれています。
今も私の目標であることに変りありません。
K先生、本当に有難うございました、と心から申し上げ、今日の記事は終わりにします。
先生のもとに伺った時、何度もカメラのシャッターを押したい気持ちになりましたが・・・・・・。
とても神聖な場所に思え、その勇気が湧きませんでした。
そのため、残念ながら、その時の写真はありません。
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