美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

花の都の住民たちが夢遊病者にならんとする時節(石田龍藏)

2024年04月04日 | 瓶詰の古本

 花の都といへば東京に限つた事でもあんめえ、だが我が東京は昔から桜の名所が多い所であるから、事実に於て正しく花の都の名に反かないであらう、考へても見なせい、向島の土堤から荒川まで、市内の公園といふ公園は素よりの事、道路の並木に至るまでも幾百幾千本となく植ゑ付けられた桜、之れがパツと一時に花が咲かうものなら、それこそ、文字通り花の都の東京といふ訳、百万の市民が浮れ出して、後先きの見さかへもなく呑めや唄へと騒ぐのも決して無理では御座らぬ。
 此のまま捨て置けば東京市民は誰も彼れもが夢遊病者にならうといふものだ、然し其所には御方便な天の配剤とやらが、雨を降らし風を吹かせて其期間をグツと短くして終ふ所に味がある。喜ぶ者は警視庁の手間省きと、泣く者は空巣ねらひ、さてもさても一挙両得とはならぬものでげすツエ‥‥‥‥。

(「世相百態明治秘話」 石田龍藏)

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