インビクタス / 負けざる者たち

2010-01-31 | 映画



今回は、クリント・イーストウッド監督、南アフリカのマンデラ大統領を描いた「Invictus インビクタス/負けざる者たち





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クリント・イーストウッド作品にハズレなしを、また証明した作品。
主演は「ミリオンダラー・ベイビー」でもイーストウッド作品に出演した、ハリウッド黒人俳優の重鎮モーガン・フリーマン。
僕は、この人の作品では、狂気のジャック・ニコルソンと対峙した「最高の人生の見つけ方」が一番好きだ。
共演は、「インフォーマント!」でぶよぶよの中年デブで、ハゲで、性格の壊れた男を演じたマット・デイモン。
彼は「ボーン」シリーズのように体を絞って、筋肉をつけて、自由自在の体作りが出来るらしい。

舞台は南アフリカ。
アバルトヘイトへの反対運動で27年間投獄されていたネルソン・マンデラが、1990年に釈放され、1994年に黒人も含めた全国民が参加した選挙で、南アフリカ初の大統領に選ばれる。
アフリカって、どう考えても黒人の国々、大陸なのに、1990年代まで法律による差別が布かれていたとは、イギリスの我侭放題の植民地化の傷跡だ。

マンデラ大統領の当選で、少数だが経済の支配階級の白人と、大多数の貧困黒人の間に、今までにない緊張感が生まれる。
白人は、新しい黒人の権力に憤り、そして彼らからの復讐に怯え、黒人はアパルトヘイトへの仕返しで士気が高まる反面、マンデラ大統領の暗殺という手段も含めた、白人からの逆襲に疑心暗鬼している。
マンデラ大統領が初めて官邸に入ったシーンで、それまで白人大統領に仕えていた職員に対して、彼らの恐怖を拭い去る演説をする。そして、出来れば今後も新しい政権で仕事をして欲しいと訴える。
そして自分の警護にも、白人のスタッフを加える。

マンデラ大統領自身は、自分を30年近く投獄し、黒人を差別虐待していた白人を許し、国の経済の中枢にいる彼らと共に国の復興させようとするが、簡単には2つの社会の溝が埋まりそうにない。

それを象徴したのが、南アフリカ代表のラグビーチームとイギリスの試合だった。
南アフリカでは、ラグビーは白人のスポーツで、代表チームとそのユニフォームは、アパルトヘイトの象徴でさえあった。大半の黒人はそのルールすら知らない。大統領自身もラグビーの知識はなかった。
その試合では、白人は自国を応援して、黒人は相手国を応援していた。
このラグビーを知らないというエピソードは、たぶんラグビーを知らない大半のアメリカ人に対する脚本のような気がする。

大統領は、1995年に自国で開催されるラグビーのワールドカップで南アフリカチームが優勝することで、国の士気を一つに高めることが出来ると確信し、チームのキャプテンであるマット・デイモン演じるフランソワに面会する...


30年近く、狭い牢獄に監禁され、来る日も来る日も、石切り場のようなところで作業させられる。何の罪もないのに。
そんな過去を背負った人が、その国の長になった。
でもその人が最初にした事は、過去を許すということ。
その人は、許しが自分の持っている最強の武器だと強く信じていたためだ。

“Forgiveness liberates the soul. “(許しは魂を解放する)
“It removes fear. “(許しは恐怖を取り去る)
“That is why it is such a powerful weapon.”(だから許しは強力な武器なのだ)

アパルトヘイトが、恐怖と怒りを作り出した。
マンデラ大統領は、全く反対を実践した。
強力なリーダーシップと、強い信念で。
残念ながらアメリカは、この10年間、この人とは正反対の事を、自国、他国に対し実践した。
金と暴力で築いた、疲弊しきった今のアメリカは、当時の南アフリカの白人たちかもしれない。
クリント・イーストウット監督の静かだが、強烈なメッセージが伝わってくる。
前作の「グラン・トリノ」と共通したメッセージだ。
同じ「チェンジ」を掲げた、オバマ大統領が2000年代のマンデラになれるのか。

前作は、ラストで驚かされ、一瞬に鳥肌が立つほど感動させられたが、この作品はラグビーの決勝戦を通して、クライマックスが描かれ、ここは一般的なスポーツ物の展開。
ただ、ラグビーのシーンは序盤のダメチームのシーンと最後だけで、あとは静かなストーリーが続く。

徹底的にマンデラ大統領の仕草や話し方を研究したというモーガン・フリーマンは、元が似ているのもあって、まるでマンデラ大統領本人。
そして、彼の一つ一つの台詞に哲学がある。

マット・デイモンは、少し抑え目の演技で、マンデラ哲学を学んで成長していくラグビーのキャプテンを演じている。
彼がワールドカップの決勝戦のチケットを、家族に渡す時のエピソードは、とても印象的で、思わずぐっとなった。
そして、試合終了、エンディング、流れてくる「ワールド・イン・ユニオン」、じわじわと感動が込み上げてきて、涙がこぼれてきた。
ラグビー好き、クリント・イーストウッドファンには、たまらない作品。
そして偉大な世界のリーダーの生き様に触れられる作品だ。


インビクタス/負けざる者たち - goo 映画
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トリビア
過去に、ネルソン・マンデラは、自分を演じられるのはモーガン・フリーマンしかいないと言っていた。

モーガン・フリーマンは、ネルソン・マンデラの自伝「Long Walk to Freedom」を元にして、何年も映画を作ろうしてきたが、何十年にもわたるその生涯を作品化するのは無理だった。

モーガン・フリーマンは、撮影を開始する前に実際にネルソン・マンデラに会い、作品の内容を説明して理解を得ようとした。
面会で、「マディバ、私たちは何年間もこのプロジェクトをすすめてきましたが、ネルソン・マンデラの核心を伝えることが出来ると思うストーリーを読みました...」、説明を終える前に、マンデラ自身が「ああ、ワールドカップのことですね」とコメントした。
これで、絶対の自信をつけて制作を開始した。

決勝戦でドロップゴールを決める選手は、クリント・イーストウッドの実の息子のスコット・イーストウッド。但し、不倫相手の子供。


Twitter
http://twitter.com/invictusotoko


原作の書評
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/100131/bks1001310824013-n1.htm


この音楽が流れてくると、涙が出てくる。