「ノア 約束の舟」 (2014年・アメリカ)
NOAH
旧約聖書の物語、「ノアの方舟」が、ラッセル・クロウ主演で映画化された。監督は「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー。アダムの子孫であり、神に従う正しき人であったノアは神の啓示を受けて、来るべき大洪水に備えて巨大な方舟の建造に取りかかる。荒れ地に突然現れた水脈は周囲に豊かな森を繁茂させ、しだいに地上の鳥や獣たちが引き寄せられるように集まってくる。ノアは醜い巨人の姿となった堕天使の力を借りて、すべての生き物をひとつがいずつ収容できる巨大な方舟を建造する。しかし、いよいよ洪水が押し寄せる段になって、地上の王を名乗るトバル・カイン(カインの子孫)が軍隊を率いて攻め込んでくる。方舟を守るために戦う堕天使。吹き上がる水柱。押し寄せる大洪水・・・・・・。この見応えのあるスペクタクルシーンは、実は本作の中核ではない。ここから、水没した世界に漂う方舟の中で緊迫した人間のドラマが展開していくのだ。
地上から悪の根源である人間を一掃しようとすることを神の意思だと信じるノアは、洪水後の世界に人間が残ることをよしとせず、いずれ彼の一家がすべて死に絶えることを望んでいる。ノアは妊娠した長男セムの妻イラ(エマ・ワトソン)がもし女児を出産すれば、その命を絶つとまで宣言する。ノアに決意を覆すよう懇願する妻ナーマ(ジェニファー・コネリー)、父への反感からトバル・カインの奸計に惑わされる次男ハム、そしていまだ陸地の見えない洪水の中へ出ていこうとするセムとイラ。神を選ぶか、家族を取るか、信仰と家族への愛の狭間で引き裂かれる一人の男のドラマは、思いを異にする一家を乗せた密室のような方舟の中で、のっぴきならない緊張のクライマックスを迎える。
ノアはどちらを選択したか。それはここでは伏せるとしても、彼がぎりぎりまで自身を追い詰めていく姿は、程度の差こそあれ、人生の重大な局面で選択を迫られる私たちのあり様に重なる。彼の迷い、いらだち、葛藤は直接的に描かれる」ことはなかったが、水が引いた世界の入江で酩酊し、ぶざまに裸身を晒す姿がすべてを物語っている。預言者ノアは人間だった。そして神は、人が人であることを許したのではなかったか。
ラッセル・クロウは相変わらず心正しき人のイメージにぴったりだし、妻を演じたジェニファー・コネリーや嫁役エマ・ワトソンの緊迫した演技も印象深い。CGIとはいえ、動物たちが方舟に収まった後の混乱をどう処理するのだろうと気にかけていたが、それもなるほどという方法で難なくまとめられていた。惜しいのは岩の怪物じみた堕天使の姿。「ロード・オブ・ザ・リング」のエント族を思わせる動きに、もう少し工夫の余地はなかったのだろうか。ファンタジーというには重く、人間ドラマとしては古臭くシンプルに過ぎるこの映画、いっそ創世記の世界を再現するのをやめて、神ととことん対峙するノアの姿を掘り下げたらもっと面白かったのではないだろうか。
満足度:
★★★★★★★☆☆☆