花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

国立西洋美術館「カポディモンテ美術館展」(1)

2010-07-04 23:58:24 | 展覧会
国立西洋美術館「カポディモンテ美術館展」を観てきた。
6月は心身ともに全く余裕の無い毎日だったが、ようやく一息。ということで、やっと感想を書けるのが嬉しい。

今回、ナポリから来日した作品数は素描や工芸品を含めて80点という割とこじんまりした展覧会で、そのぶん時間をかけてゆっくりと鑑賞できた。会場の展覧会構成は、
Ⅰイタリアのルネサンス・バロック美術
Ⅱ素描、
Ⅲナポリのバロック絵画

さすが、第Ⅰ章のルネサンス・バロック美術に見どころの多い名作が並ぶ。
会場入口を入ると彫像《パウルス3世(アレッサンドロ・ファルネーゼ)胸像》がお出迎え。カポディモンテ美術館がファルネーゼ家のコレクションが基になっているのを知らしめている。
ナポリでも古典絵画ギャラリー階のガラス扉を入ると正面にティツィアーノ《パウルス3世と孫たち》やパウルス3世の肖像画が出迎えてくれる。


ティツィアーノ《パウルス3世》 カポディモンテ美術館(ナポリ)

さて、絵画の方はなんとマンテーニャから始まり、隣はコレッジョという、思わずニンマリしてしまう展開だった。マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》はルネサンスらしい横顔肖像で、描かれた少年から思慮深そうな感じをうけるのだが、これは画家の腕?


マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》(1470年頃)

マンテーニャらしいと思うのは頬と口元の描写なのだよね。マンテーニャ描く人物像って画家に似てしまうような気がするのだ(汗)。本人がベッリーニ家との結婚記念に描いた《神殿奉献》での自画像も、義兄弟のジョヴァンニ・ベッリーニが描いたマンテーニャも、若いはずなのに頬と口元すなわち放物線が印象的なのだ。勝手なこと書いてごめんね(^^;;;>マンテーニャさま

次のコレッジョ《聖アントニウス》だが、初期のレオナルドからの影響を感じさせるフスマート的ぼかしと衣装襞の明暗表現が印象的だ。初期コレッジョがマンテーニュアから学んだということで並べたのかな? できたら《聖カテリナの神秘の結婚》の方を持ってきて欲しかった(^^;>主催者さま

その隣のルイーニ以降は次回(2)で書きたいが、この第Ⅰ章ではルネサンス~マニエリス~バロックと魅力的な作品に目が喜んでしまう。特にパルミジャニーノ《アンテア》の魅力には何度観ても参ってしまうし、ティツィアーノ《マグダラのマリア》も強力だ。
カポディモンテにはパウルス3世がティツィアーノの弱み(息子に聖職者禄を与えたいという親心)に付け込んで描かせた数々の肖像画や名作があるのだが、今回のティツィアーノが《マグダラノマリア》1枚というのはちょっと寂しい。


ティツィアーノ作品の並ぶ壁 カポディモンテ美術館(ナポリ)

ファルネーゼ・コレクションには地元パルマ派やボローニャ派作品が多いのが特徴的だ。先に触れたマンテーニャ~コレッジョに続くパルミジャニーノ~カラッチも実に豪勢だと思う。

ところで、今回、図録解説を読んで興味深かったのは、グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》が1802年に購入されたことで、レーニはボローニャ派と言えるが、同時代にコレクションに入ったものではなかった。
2001年に初めてカポディモンテに行った時、《アタランテとヒッポメネス》の構図に目を惹かれ、私的にカラヴァッジョの影響も見えたし、思い出深い作品でもある。


グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》(1622年頃)

第Ⅱ章はなかなかに魅力的な素描が並んでいた。こちらも次回以降で感想を書きたい。

ということで、今回の各章の中で私的に一番面白く観られたのは、実は第Ⅲ章のナポリのバロック絵画である。ナポリにバロックを持ち込んだのはカラヴァッジョであるし、その影響がどのように受け入れられ、変容していったか、コンパクトにまとめられた展示作品群からもよくわかるのだった。

ちなみに、カポディモンテ美術館にはこの種のナポリ・バロック作品が多すぎて、正直言うとうんざりするくらいあるのだよね(^^;;;。だから、今回の展覧会のようにピックアップして並べてくれた方が見やすくてわかりやすい。でも、フセペ・デ・リーベラ作品がもっとたくさん来てくれても良かったのに、と思ったのは欲張りだろうか? いや、それを言うならカラヴァッジョ《キリストの苔打ち》だよね(笑)

さて、ナポリのカラヴァッジェスキと言ったらもちろんカラッチョーロやルカ・ジョルダーノ作品が並ぶ。この章にアルテミシア・ジェンティレスキやマッティア・プレーティ作品も入っていて、地味になりがちなこの章を盛り上げていた。アルテミシア・ジェンティレスキ《ユディットとホロフェルネス》は強烈なインパクトがある名作だし、プレーティ作品も質が高く見応えがある。意外だったのが、オランダのカラヴァッジェスキであるマティアス・ストーメル作品も入っていたことで、確かにシチリアのメッシーナ美術館にもあったからナポリにも滞在したのだろうね。

で、今回、しみじみ良い作品だなぁと見入ってしまったのはフランチェスコ・グアリーノ《聖アガタ》とベルナルド・カヴァリーノ《歌手》だった。


ベルナルド・カヴァリーノ《歌手》

カヴァリーノ《歌手》は歌に没入する表情の豊かさがあり、絵の前で思わず微笑んでしまった。歌いながら無意識に髪先をいじる仕草がニクイ(笑)。
そう言えば同じように歌う表情が魅力的なにユトレヒト派カラヴァッジェスキのヘンドリック・テル・ブリュッヘン《歌う若い男》が森アーツセンター「ボストン美術館展」にも来ていた♪(okiさんチケットに感謝!)

脇道にそれるが、去年のシュテーデル美術館「CARAVAGGIO IN HOLLAND」展(参照:拙ブログ)ではカラヴァッジョの風俗画としての「音楽」主題を発展させたユトレヒト派作品を展示したもので、バーゼル美術館《歌う若い女》とボストン美術館《歌う若い男》とが対になって展示された。

    
テル・ブリュッヘン《歌う若い女》バーセル美術館  《歌う若い男》ボストン美術館

カポディモンテ美術館展に話を戻すが、今回の展覧会は2007年の国立西洋美術館「パルマ展」を補完する展覧会のような気がする。2008年にパルマで開催された「コレッジョ展」を観るため現地に行ったが、パルマにはファルネーゼ・コレクションが殆ど残っていないようだった。エリザベッタ・ファルネーゼを母に持つスペイン・ブルボン家のナポリ王でもあったカルロ7世(後スペイン王カルロス3世)にコレクションがごっそりと引き継がれたのが了解された展覧会でもあった。今回の展覧会にはその中の美術工芸品コレクションも出展されている。

ということで、感想が脈絡もなく突っ走ってしまったが、次回以降は展示作品を中心に書きたい(^^;;;


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6 コメント

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Unknown (oki)
2010-07-05 23:25:23
こんばんは。Juneさん早速行かれましたか!
僕は今日は朝日アスパラの会員招待で芸大美術館のシャガールみてきました。
東博の中国文明の内覧会もあったようで図録抱えた人もいましたよ。
Juneさん西洋美術館の展覧会は何点ぐらいですか?
富士美術館で8月ポーランドの至宝展があり、レンブラントとかいろいろ来るようですよ。
招待券はまた揃いましたらお送りします。
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okiさん (花耀亭)
2010-07-07 02:57:18
こんばんは。はい、早速行ってまいりました(笑)
で、okiさんは確かシャガール好きでいらっしゃいましたね。ゆっくりと鑑賞できたのではないでしょうか? 堪能されましたか?
東博の中国文明展も始まったようですね。何故か同僚からチケットを貰ったので私も観ようと思っています。
さて、西美の「カポディモンテ美術館展」は出展数が80点と、ほど良い数なので疲れずにすみました。美術館の所蔵点数からすれば、ほんの一部なのですがね。今回来日の《アンテア》は特に素敵なので、okiさんもぜひご覧になってくださいませ。
ところで、ポーランドの至宝展情報、ありがとうございます!ちょっと遠いですが行ってみたいと思います。
okiさんにはいつもチケットを頂戴し、感謝・深謝でございます!!
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Unknown (oki)
2010-07-10 00:02:24
こんばんは。
招待券が入ったので早速みてきましたよ!
いやいや面白かったですね、まず音声ガイドが山本モナとは、笑。
素描は少なかったですね。
Juneさんお好みの第三章がよかったですね。
ユディトは二つ出てましたが、一つは首が切られた後なのに、女性画家アルテミジアはまさに首を切る場面を描く、忌まわしい過去があるのですね、この画家!
聖アガタも二つ出てましたね、見比べが面白かった。
そして、羊飼いへのお告げの画家とは!
この画家は特定されているようですが、かなり重要な画家
のようですね。
今も昔も変わらない人間模様、楽しかったです!
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okiさん (花耀亭)
2010-07-11 23:42:58
こんばんは。
おお、okiさんもご覧になったのですね!
ルネサンスからバロックですが、カポディモンテのコレクション形成がとても興味深く観られた展覧会でした。素描は確かに少なかったですね。
で、第3章は地元ナポリならではの作品が展示され、見応えがありましたよね。
アルテミシア・ジェンティレスキは過去をパワーに変えられる女傑画家だと思います。ロンドンのクイーンギャラリーの自画像からはその逞しさとともに、画業に対する真摯さのようなものが伝わってきました。同じく女流画家でもソフォニスバ・アングィッソーラは貴族のお嬢様芸から始まってますから(当時のベルト・モリゾかも)、今回の展覧会は二人の異なるタイプの女流画家作品を楽しむことができますね。
ユディット主題や聖アガタ主題など、画家によって表現が違い、okiさんのおっしゃる通り面白かったです。
羊飼いのお告げの画家はリベーラの影響が強く感じられます。厚塗り筆致が印象的で、私もとても興味深く観てしまいました。
今回の展覧会はバロック作品が多かったですし、okiさんのおっしゃる通り人間模様がドラマチックに伝わって来ましたね。
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Unknown (oki)
2010-07-31 23:14:39
こんばんは。
Juneさんは旧盆にはご実家帰られるのかな?
さて今日TBSで、ナポリ王様の美術館という番組、山本
モナでやったようですがご覧になられましたか?
僕は東博行ってました、ガラガラでエジプトミイラまで見て来ました。
ところでJuneさんは外国で飛行機や鉄道の運行が予定と大幅にズレて困ったことはありませんか?
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okiさん (花耀亭)
2010-08-03 00:05:48
こんばんは。
暑中お見舞い申し上げます。
お盆(もちろん東北は旧盆(笑))は帰省予定です。東京がふるさとのokiさんはお盆休みなんて関係ないのでしょうか?
さて、TBSの番組は見ていませんでした。残念、見たかったなぁ!どんな内容だったのでしょうね?ティツィアーノ《パウルス3世と
孫たち》やカラヴァッジョ《キリストの笞打ち》も登場したのでしょうか?
okiさんは空いた東博で涼しく過ごされたようで、夏の美術鑑賞の極みかもしれませんね(^_-)-☆
で、お尋ねの海外予定外は色々ありますが、一番困ったのはミラノ→ヴェネツィア便の大幅遅れですね。深夜着でホテルまでの交通手段が無くなり、ヴェネツィアの迷路を道に迷いながら歩いたことは今では懐かしい思い出です(笑)。もしかして、okiさんもいよいよ暑い日本脱出を計画中とか??
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