花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

中世写本の余白装飾。

2022-08-30 22:32:25 | 西洋絵画

尾崎彰宏・著『静物画のスペクタクル』(三元社刊)を読みながら、北方(オランダ)における静物画の成立過程について興味深く勉強してしまった。

http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/528.htm

以前にも静物画の起源について書いたことがあり、その中でネーデルラントの静物画起源の例としてハンス・メムリンク《花瓶の花》についても触れたが、キリストと聖母を象徴する宗教的を意味含んでいる。

https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/fcbaeb845d6ba6cb31b5944709c1adfc

ハンス・メムリンク《花瓶の花》(1485年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館

https://www.museothyssen.org/en/collection/artists/memling-hans/flowers-jug-verso

しかし、メムリンク作品に先行し、ネーデルラントの静物画の成立過程で、中世写本における余白装飾に新たな展開があったのだよ!!

普通の写本は聖書場面を描いた余白に装飾模様を描いているのだが、例えば『トリノ=ミラノ時祷書』では...聖書場面を絵が描いた枠外の余白装飾として、彩色された蔦模様と天使たちが描かれている。

《トリノ=ミラノ時祷書》(1425年頃)トリノ市立美術館

《ブルゴーニュのマリーの時祷書(独語: Stundenbuch der Maria von Burgund)》は、1477~82年頃にフランドルで完成し、おそらく、ブルゴーニュ公家継承者のマリーとマクシミリアン1世との結婚を祝し、継母マーガレット・オブ・ヨークが作らせたと考えられている。

ブルゴーニュのマリーの画家《十字架に釘で打ちつけられたキリスト》(1477~82年頃)オーストリア国立図書館(ウィーン)

「それまでミニチュアールでは欄外にあったモチーフが絵画空間のなかに入り込んでいる。明らかに宗教場面と対立する静物画モチーフが絵画空間に迫りだしてきたのである。このことによって静物を仲立ちとして、宗教画空間と世俗空間とが連続するようになった。」(P44)

この作品を見ていると、後のピーテル・アールツェン(1508頃-1575)からベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》への流れが容易に想像できるのが面白い

ちなみに、ヴィクトル・ストイッキッツァは「オランダで自立した静物画の記念碑的一歩をしるした作品として」ジャック・デ・ヘイン2世(1565–1629)の静物画を挙げているそうだ。

ジャック・デ・ヘイン2世《 ヴァニタスをあらわす静物画》(1603年)メトロポリタン美術館

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436485

イタリアではカラヴァッジョが、オランダではデ・ヘインが、ほぼ同じ頃に「自立した静物画」を描いていることが興味深い。カラヴァッジョ《果物籠》が同じヴァニタスの意を含みながら、作風の違いが面白くもある



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
装飾写本 (山科)
2022-09-01 06:31:26
同じ、ブルゴーニュのマリアのマスターの作品に、
ナッサウのエンゲルベール2世の時祷書
というのがあり、小型本ですが、静物画的な絵も相当入っています。
 この本はプラドのボス展でも展示されてました。
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山科さん (花耀亭)
2022-09-01 21:42:08
同じ画家による装飾写本『ナッサウのエンゲルベール 2世の時祷書』のご紹介、ありがとうございました!! 「ボス展」でのエンゲルベルト2世のコーナーは記憶にあるのですが、この装飾写本は記憶が飛んでおります(大汗)。
で、ご紹介の写本ですが、欄外装飾の花々や蝶などが写実的で、更にデザイン的にも美しく、本当に驚きました。特に《マギの礼拝》の欄外「静物画」が宗教場面の装飾の域を超えて、対峙というか自己主張しているのが凄いです!!(;'∀')
拙ブログの『ブルゴーニュのマリーの時祷書』画像では、欄外静物画(クッション)が宗教画面にジワリと侵入していて、この画家の静物画愛が溢れ出しているようにも見えます(笑)。
ご紹介いただいたURL(ボードリアンや大英図書館の装飾写本全頁アーカイブ化とネット公開)も大変有難かったです。日本も見習ってほしいくらいです。
山科さん、いやぁ、本当に貴重な装飾写本情報をありがとうございました!!
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小型本 (山科)
2022-09-02 06:17:05
この写本の絵画は一見粗くみえるかもしれませんが、原物も本当に小さい本 137 × 95 mm.です。 文庫本より小さい。複製も同じ大きさです。また、花や蝶、トンボなどをみると、ブリューゲルの孫、ヤン・ファン・ケッセルの絵画を連想したくなります。
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山科さん (花耀亭)
2022-09-03 01:56:13
なるほど、本当に小さな装飾写本の細密画なのですねぇ!! ボードリアンのサイトでもサイズがわかるように定規が示されていましたし。
で、確かにヤン・ファン・ケッセルの花々や昆虫にも似ていますね。ネーデルラントの静物画の伝統でしょうか?(^^;
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装飾写本のサイト (山科)
2022-09-07 16:09:29
装飾写本を広く紹介したエントリーみたいなサイトがあります。
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山科さん (花耀亭)
2022-09-08 00:36:28
色々な装飾写本を見ることができますね(*^^*)
貴重なURL情報をありがとうございました!!
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