探し物があり、自分で撮った写真をチェックしていたら、シュテーデル美術館のカルロ・クリヴェッリ《受胎告知》が出てきた。これって、来年来日予定のロンドン・ナショナル・ギャラリー《受胎告知》に似ている!!と目が驚いてしまった。
カルロ・クリヴェッリ《受胎告知》(1482年)シュテーデル美術館
カルロ・クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》(1486年)ロンドン・ナショナル・ギャラリー
どうやらシュテーデルの《受胎告知》は、元々はカメリーノのサン・ドメニコ教会にあった4部構成の多翼祭壇画の上部分であるようだ。
https://sammlung.staedelmuseum.de/en/work/the-angel-of-the-annunciation
https://sammlung.staedelmuseum.de/en/work/panels-of-a-polyptych
で、この《カメリーノ祭壇画(サン・ドメニコ祭壇画)》の中央パネル3枚は現在ブレラ美術館にある。
https://pinacotecabrera.org/wp-content/uploads/2014/10/Crivelli-PolitticoGualdo.jpg
https://pinacotecabrera.org/en/collezione-online/opere/camerino-triptych/
ミニチュア都市(カメリーノ)を持っている聖ヴェナンツィオはカメリーノの守護聖人であり、LNGのアスコリピチェーノの祭壇画と似た構成になっているのが興味深い。
ちなみに、プレデッラはヴェネツィアにあるようで、元々あったカメリーノから祭壇画がバラバラに解体され各地に所蔵されているのは、やはり哀しいものがある。
ブレラの解説を読むと、この受胎告知セット、一度ブレラに来てるんですが、他の絵と交換してしまったようです。当時クリベッリの評価があまり高くなかったからでしょうが、馬鹿なことをしたものです。
①シュテーデルの受胎告知とチューリッヒのキリスト復活はもとブレラにあったとのことであるが、それよりも来年来日するLNGの「聖エミディウスを伴う受胎告知」さえもブレラにあった。(ボストンISG美術館の2015の展示に関連した「ORNAMENT & ILLUSION」によれば、LNGの受胎告知は1811年にブレラ、その後何カ所かの所有を経て1864年にLNGとある。)
②LNGの受胎告知の遠近法が目立つ建物の表現はマンテーニャなどの影響が言われているが、上記①の本とライトボーンの2004年のCARLO CRIVELLIによると、私の最も敬愛する画家であるフィリッポ・リッピの最晩年作、スポレート大聖堂のフレスコ画中の受胎告知をクリヴェッリが見た可能性があるとのこと。アスコリ・ピチェーノからローマへ行く道筋の近くにスポレートが位置しているので、この可能性はありそうです。来年の「聖エミディウスを伴う受胎告知」の来日が益々楽しみになりました。
③チューリッヒのキリスト復活(Zurich,Abegg-Stiftung Foundation)は、ライトボーンの本のP293 pl 118やORNAMENT & ILLUSIONのカバーページにカラー写真が載っています。
インターネットから無料で読める「聖エミディウスを伴う受胎告知」に関する文献(日本語論文!)です。
上原真依 愛媛大学教育学部紀要 第60巻(2013)
カルロ・クリヴェッリ作「受胎告知」―LIBERTAS ECCLESIASTICA祝祭行列との関連から―
この絵が描かれた事情に関して、シュテーデルの受胎告知のことやカラヴァッジョの絵のテーマにもなっているロレートのサンタ・カーサとの関係にも言及されていますので、是非ご一読を。
http://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2013/pdf/30.pdf
>③チューリッヒのキリスト復活(Zurich,Abegg-Stiftung Foundation)は、ライトボーンの本のP293 pl 11
これは、モノクロ写真図巻です。
また、
Abegg-Stiftung Foundationのサイトにも掲載されていないので、本当にここに所蔵されているのかどうか不確かで困っております。もし、カラー図版をお持ちなら、どこかにアップしていただければ幸です。
それにしても、当時のブレラは経費難だったのでしょうかね?(;'∀')
①>LNGの「聖エミディウスを伴う受胎告知」さえもブレラにあった
何と!! 今でもブレラにはクリヴェッリ作品が多くありますが、昔はそれ以上あったということなのですね(・・;)。よりによって二つの「受胎告知」and more を手放すなんて...もったいない!!
②フィリッポ・リッピのスポレート作品(1466-1469年)画像をネットで見ました。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Spoleto049.jpg
本当に似ていますよね!!可能性大ありだと思ってしまいました(^^)
それから、ティッセン・ボルネミッサのジェンティーレ・ベッリーニ帰属作品(1475年頃)が、窓は無いものの、マンテーニャからの影響とみられる建物と道路が見られ、ヴェネツィア派の似ている先行例と言えるかな??と思ってしまいました(^^;
https://www.museothyssen.org/en/collection/artists/bellini-gentile/annunciation
③「ORNAMENT & ILLUSION」はボストンの展覧会図録でしょうか?ぜひ探して見てみたいと思います。
私もLNG展でのクリヴェッリ再会が楽しみになりました♪
なるほど~!!と勉強になりましたし、面白かったです。アスコリ・ピチェーノが教皇から獲得した部分的自治権「LIBERTAS ECCLESIASTICA(教会の自由)」(1482年)を記念して、1486年にクリヴェッリが《受胎告知》が制作したというのは、凄く説得力がありました。
で、ロレートのサンタ・カーサは私も訪れたことがありますが(カラヴァッジョ関連ですしね)、あの窓が重要だとは思ってもいませんでした(;'∀')
いやぁ~、LNG展覧会前の予習になりましたです(^^)v。ありがとうございました!!
https://www.amazon.co.jp/Ornament-Illusion-Crivelli-Isabella-Stewart/dp/1907372865
大阪大学大学院文学研究科待兼山論叢47(2013)「ヴァチカン絵画館所蔵聖母子と聖人たち」
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/54415/mra_047_001A.pdf
というのがあります。あまり有名でない工房作の祭壇画の売却について書かれたものです。また、ネットには公開されていませんが、美術史168号(2010.3)には「カルロ・クリヴェッリ作カステル・トロジーノ祭壇画の再構成」という論文もあり、上野の西洋美術館の所蔵するクリヴェッリ作品(聖アウグスティヌス?)を含む、世界各地にバラバラになったクリヴェッリの祭壇画の再構成を論じたものです。
また、上原真依の受胎告知の論文P309の注38に書かれている鹿島美術研究年報29号別冊(カメリーノ祭壇画分解・輸送)については、以前にコピーを取っていたかと思って探したのですが、見つからなかったので、近いうちに改めて手に入れたいと思います。
ボストンISG美術館の展覧会(装飾と錯視:ヴェニスのカルロ・クリヴェッリ展 2015.10.22~2016.1.25)とその図録「ORNAMENT & ILLUSION」については、BURLINGTON MAGAZINE No.1355(2016.2)と芸術新潮2016.1月号に紹介記事が載っています。(この芸術新潮は江口寿史、ボッティチェリの特集号、ヤマザキマリのアルティジャーニの連載第1回目なので即購入した号です。)
ORNAMENT & ILLUSIONにはGiovannni di Angelo da Camerino作受胎告知,1455 カメリーノ絵画館 というこれまたよく似た構図の作品が、スポレートのリッピ作品(1467~69)とともに掲載されています。
http://sirpac.cultura.marche.it/SirpacIntraWeb/storage/Label/0285/384/S%2013.jpg
ご紹介いただいたジェンティーレ・ベッリーニ帰属作品(ca.1475)と同じベッリーニ一族の受胎告知として、ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ3のカルロ・クリヴェッリ画集(吉澤京子1995)にはLNGの受胎告知の関連作品としてヤコポ・ベッリーニの受胎告知素描(大英博物館とルーブル美術館)の2枚の写真が掲載されています。これもかなり近い構図です。
以上の諸作品の制作年代から見たシュテーデルの受胎告知を含むカメリーノ祭壇画(1482)、LNGの受胎告知(1486)との影響関係などを今後受胎告知の来日までによく考えてみたいと思います。(ライトボーンの著書やORNAMENT & ILLUSIONの該当部分の英語の解読と合わせ、来年春までの宿題です。)花輝亭さんと山科さんには今後もアドバイスをよろしくお願いします。
なお、ライトボーンのCARLO CRIVELLI とORNAMENT & ILLUSIONについては本のコピーを持っているだけなので、カラー写真については近いうちに実物の本を確認しておきます。また、ORNAMENT & ILLUSIONのP184にはチューリッヒのキリスト復活について、Abegg-Stiftung Foundation, Riggisberg とあり、2015年発行の比較的新しい本なので、今もここにあるのではないでしょうか。(ライトボーンの本は2004年発行と10年以上前)
Giovannni di Angelo da Camerino の《受胎告知》(1455年)もよく似た先行作品なので驚きました。クリヴェッリは当然見ていますよね(^^;
で、クリヴェッリ好きのむろさんさんの情熱があれば、来年の春までに「宿題」解決は大丈夫だと思っております(^^)。頑張ってくださいね!!