gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

『孫子』巻十二火攻篇

2019-11-19 10:42:37 | 四書解読
巻十二 火攻篇
孫子言う。およそ火攻めには次の五つの方法がある。第一は敵の営舎を焼いて人に損害を与えることであり、第二は食糧などの物資の集積所を焼くことであり、第三は武器や食料などを積んでいる輜重車を焼くことであり、第四は武器や食料を蔵めている営舎の庫を焼くことであり、第五は敵の兵器を焼くことである。火攻めを行うにはその時々に応じた適切な条件があり、その為の道具や材料は必ず準備しておかねばならない。敵に放火するには適切な時があり、日がある。適切な時とは、天候が乾燥している時であり、適切な日とは、月が箕・壁・翼・軫の四星座に宿る日のことである。およそ月がこの四星座に在るときは風が起こりやすい日である。およそ火攻めは先に述べた五つの方法の変化に適切に応じなければならない。敵陣で火の手が上がればそれに乗じて速やかに攻撃すべきである。しかし火の手が上がっているにもかかわらず敵陣が静かな時はしばらく様子を見て、むやみに攻めてはいけない。その火力が最高になるのを待って、敵の動きに合わせて攻めるべき時は攻め、退くべきときは退く。敵陣の外側が火を放つのに適していれば、敵の内部の対応などを待たずに、適当な時期を選んで火を放てばよい。風上から敵に向かって火を放てば、風下から敵を攻めてはいけない。何故なら敵は火を背にするから必死の覚悟で応戦するからである。昼の風は吹き続けるが、夜の風はすぐに止むことを知っておかなければいけない。およそ戦争を行うには、五種類の火攻めの変化を知り、その変化に応じて我が軍を守ることが大切である。だから火攻めを以て敵を攻める一助とすれば明白に敵に勝つことが出来る。水攻めを以て敵を攻める一助とすれば補給路を断つなど敵を分散させ、敵の勢力を弱めこちらの勢力を強くする。水攻めは敵の糧道を絶ち敵を分散させることはできるが、敵が既に貯えているものに損害を与えることはできない。戦いに勝ち攻め取ろうとするなら、それだけ効果のある事、火攻めや水攻めを行ってその条件を作り出すことである。何もせずに有利な条件を待っているのは凶害であり、無駄に国費を費やし軍を衰えさせるだけになる。だから次のように言われている、賢明な君主は戦いの大本を考え、すぐれた将軍は戦功を正しく行う、と。明主賢将は、有利でなければ動かず、勝を得ることが確実でなければ兵を用いず、危険が迫り戦わざるを得なくならなければ戦わない。君主は一時の怒りによって軍を起こしてはいけない。将軍は一時の怒りによって戦いを始めてはいけない。戦いの結果が利益をもたらすのであれば戦い、もたらさなければ戦うべきではない。現れた怒りはやがて喜びに代わり、心中の怒りもやがて心から喜べるようになるが、亡んだ国は二度と存立しないし、死者は二度と生き返ることはできない。だから名君は軍を起こすことは慎重にし、すぐれた将軍は軽々しく戦う事を戒める。これが国を安全にして軍を損なわない方法である。

孫子曰、凡火攻有五。一曰火人、二曰火積、三曰火輜、四曰火庫、五曰火隊。行火必有因。煙火必素具。發火有時。起火有日。時者、天之燥也。日者、月在箕壁翼軫也。凡此四宿者、風起之日也。凡火攻、必因五火之變而應之。火發于内、則早應之于外。火發而其兵靜者、待而勿攻。極其火力、可從而從之、不可從而止。火可發于外、無待于内、以時發之。火發上風、無攻下風。晝風久、夜風止。凡軍必知有五火之變、以數守之。故以火佐攻者明。以水佐攻者強。水可以絶、不可以奪。夫戰勝攻取、而不修其功者凶。命曰費留。故曰、明主慮之、良將修之。非利不動、非得不用、非危不戰。主不可以怒而興師、將不可以慍而致戰。合于利而動、不合于利而止。怒可以復喜、慍可以復悅。亡國不可以復存、死者不可以復生。故明君慎之、良將警之。此安國全軍之道也。

孫子曰く、凡そ火攻に五有り。一に曰く、人を火く(注1)、二に曰く、積を火く(注2)、三に曰く、輜を火く、四に曰く、庫を火く(注3)、五に曰く、隊を火く(注4)。火を行うに必ず因ること有り。煙火は必ず素より具う(注5)。火を發するに時有り。火を起すに日有り。時とは、天の燥けるなり。日とは、月の箕・壁・翼・軫に在るなり。凡そ此の四宿は、風起るの日なり。凡そ火攻は、必ず五火の變に因りて之に應ず。火内に發すれば、則ち早く之に外に應ず(注6)。火發して其の兵靜かなる者は、待ちて攻むる勿れ。其の火力を極めて、從う可ければ之に從い、從う可からざれば止めよ。火外に發す可くんば、内に待つこと無くして、時を以て之を發せよ(注7)。火上風に發すれば、下風を攻むる無かれ。晝風は久しく、夜風は止む。凡そ軍は必ず五火の變有るを知り、數を以て之を守る。故に火を以て攻を佐くる者は明なり(注8)。水を以て攻を佐くる者は強なり(注9)。水は以て絶つ可く、以て奪う可からず(注10)。夫れ戰い勝ち攻め取らんとして、其の功を修めざるは凶なり。命づけて費留と曰う(注11)。故に曰く、明主は之を慮り、良將は之を修む(注12)。利に非ざれば動かず、得るに非ざれば用いず、危に非ざれば戰わず、と。主は怒を以て師を興す可からず、將は慍りを以て戰いを致す可からず。利に合いて動き、利に合わずして止む。怒りは以て喜びに復る可く、慍りは以て悅びに復る可し(注13)。亡國は以て存に復る可からず、死者は以て生に復る可からず。故に明君は之を慎み、良將は之を警む。此れ國を安んじ軍を全うするの道なり。

<語釈>
○注1、十注:李筌曰く、其の營を焚き、其の士卒を殺すなり。○注2、十注:李筌曰く、積聚を焚くなり。○注3、○十注:杜牧曰く、器械財貨及び軍士の衣装の車中に在り、道の上に未だ止まらざるを輜と曰い、城に在り塁に營し、已に止舎に在るを庫と曰う、其の藏する所は二者皆同じ。○注4、十注:李筌曰く、其の隊の仗兵器を焼く。○注5、十注:曹公曰く、煙火は、燒具なり。火を熾す道具類。○注6、十注:李筌曰く、火勢に乘じて之に應ず。○注7、十注:杜牧曰く、上文に云う、五火の變は内より發するを須つ、若し敵、荒澤草穢、或いは營柵の焚く可きの地に居れば、即ち須らく時に及び火を發す可し。○注8、十注:梅堯臣曰く、明白に勝ち易し。○注9、十注:張預曰く、水は能く敵の軍を分かつ、彼の勢い分るれば、則ち我が勢い強し。○注10、十注:杜牧曰く、水は敵の糧道を絶ち、敵の救援を絶ち、敵の奔逸を絶ち、敵の衡撃(横からの攻撃)を絶つ可きも、以て久しく険要・蓄積を奪う可からず。○注11、十注:梅堯臣曰く、戰いて必ず勝ち、攻めて必ず取らんと欲する者は、時に因り便に乘じて、能く功を作為するに在り、功を作為するとは、火攻水攻の類を修むるなり、坐してその利を守る可からず、坐して其の利を守るは、凶なり、是を費留と謂う。○注12、十注:張預曰く、君は當に攻戰の事を謀慮すべし、将は當に尅捷の功を修舉すべし。○注13、十注:張預曰く、色に見わるる者は之を喜と謂い、心に得る者は之を悦と謂う。これにより怒は顔に顕れた怒り、慍は心中の怒りと解釈する。

<解説>
この篇は火攻めについて述べている。火攻めには五種類があり、その為の道具類を完備しておき、日時を選び、五種類の火攻めによるそれぞれの変化に適切に対応することを要点として挙げている。これらが「故曰」までの内容であり、「故曰」以下は、火攻めの内容とは結び付かないので、錯簡であろうと言われている。

コメントを投稿