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『大学』第六章第四節(最終節)

2013-06-16 10:42:16 | 漢文
前節で述べたように、君主には民を治める拠り所としての矩の道があるのと同じく、国家の財政を豊かにする為にも、守り務めなければならない道がある。君主の徳により、人民が教化され、本業の農耕に務める者が多く、農耕に従事せずに食いつぶすだけの者が少なく、乃ち税を納めるものが一生懸命真面目に農耕に務め、その税を使うものがよく考えて慎重であれば、国家の財政は常に十分に足りるのである。つまり仁者は財が有れば、我が身に貯めこまずに、其の財を有用に使用し、その名を高める。不仁者は貪欲に財を求め貯めこんで、富を築くのである。上に立つ君主が仁を好み、それで以て人民を愛せば、人民も義を好み、君主に忠を尽くすようになる。そのように人民が君主に忠を尽くし農耕に励めば、成し遂げられないことは無く、国の財政も豊かになるのである。孟獻子は、「馬を飼う身分の上士は、鶏や豚を飼育して稼ぐ小さな儲けなどは考えない、氷を切り出して用いることの出来る身分の卿大夫は、牛や羊を養って財を為すこと等は考えない。そのことから卿大夫の家では領民から過酷に税を集めるような臣下は置かない。そのような臣下を置くぐらいなら、領主の財を盗む臣下のほうがましである。それなら被害は君主だけで、領民にまで害を及ぼさないからである。」と言っている。このことは、国家にとっては過酷に租税を集め財政を豊かにしてもそれは真の利益でなく、義により忠を尽くして納税されたものが真の利益であることを言っているのである。国家の長として財政を豊かにすることしか考えていない者は、必ず徳のないくだらない人物を用いる。国家の長がそのくだらない人物の小手先だけの手腕を評価して、その者に国を治めさせれば、禍や害が次々とやってくる。その者に多少の行政能力があったとしても、その乱れはどうすることも出来ない。このことから国家は財の多さだけを真の利益とせずに、人民が義によって忠を尽くし農耕に勤めることを真の利益としていると言うのである。

生財有大道。生之者衆、食之者寡。為之者疾,用之者舒,則財恒足矣。仁者以財發身,不仁者以身發財。未有上好仁而下不好義者也。未有好義其事不終者也。未有府庫財非其財者也。孟獻子曰、畜馬乘、不察於雞豚。伐冰之家、不畜牛羊。百乘之家、不畜聚斂之臣。與其有聚斂之臣、寧有盜臣。」此謂國不以利為利、以義為利也。長國家而務財用者、必自小人矣。彼為善之、小人之使為國家、菑害竝至。雖有善者、亦無如之何矣。此謂國不以利為利、以義為利也。

財を生ずるに大道有り。之を生ずる者衆くして、之を食う者寡し。之を為る者疾にして、之を用うる者舒なれば、則ち財は恒に足る。仁者は財を以て身を發(おこす)し、不仁者は身を以て財を發す。未だ上仁を好みて下義を好まざる者有らざるなり。未だ義を好みて其の事終えざる者有らざるなり。未だ府庫の財、其の財に非ざる者有らざるなり。孟獻子曰く、「馬乘を畜えば、雞豚を察せず。伐冰の家は、牛羊を畜わず。百乘の家は、聚斂の臣を畜わず。其の聚斂の臣有らんより、寧ろ盜臣有れ。」此れを國は利を以て利と為さず、義を以て利と為すを謂うなり。國家に長として財用を務むる者は、必ず小人に自る。彼、之を善くすと為して、小人を之れ使いて國家を為むれば、菑害竝び至る。善なる者有ると雖も、亦た之を如何ともする無し。此れを國は利を以て利と為さず、義を以て利と為すを謂うなり。

<語釈>
○「疾」、はやい、はげしいという意味から、ここでは一生懸命真面目に務めるの意。○「舒」、ゆるやか、ゆっくりという意味から、ここでは慎重に行うの意。○「仁者~、不仁者~」、鄭注、「發は起なり。仁人は財を有せば、則ち施與に務め、以て身を起こし、其の令名を成す。不仁の人は身に有し、聚斂に貪り、以て財を起こし、富を成すに務む。」○「未有上好仁~」、朱子は、「上、仁を好み以て其の下を愛せば、則ち下、義を好み以て其の上に忠なり。事必ず終える有りて府庫の財の悖出の患い無き所以なり。」と述べており、この解釈に従う。○「孟獻子」、魯の賢大夫

<解説>
本章第二節と同じく、本節に於いても財について述べられている。朱子が指摘するように、儒教の教科書とも言うべき『大学』の終章が財についてと言うのも、不思議な気がする。それだけ國を収める於いて、財政の重要性を儒家も認識していたと言うことであろう。それは現代の国家においても同じことである。財政の破綻は国家の破綻である。勿論『大学』は儒教の教科書であるので、財政理論を述べているのではない。その言わんとする所は単純明快である。上に立つ者が、矩の道に基づいて政治を行えば、人民もそれに習って義を行い、生産に励むようになり、國の財政も潤うと言うことである。「國は利を以て利と為さず、義を以て利と為す」精神論で具体性に欠けているという指摘もあろうかと思うが、日本の財政再建を考えるにおいて、消費税やその他の税金を値上げすることしか思いつかない人々にも、第二節の「徳は本なり、財は末なり。」と共に頭に入れておいてほしい言葉である。

<大学解読を終えるにあたり一言>
今回を以て『大学』の解読も無事終えることができた。長らくお付き合い頂いた方々には感謝の意を表します。
この解読の目的は、『大学』の研究ではなく、名前は知っていても、その内容は余り知られていない所から、こんなことが書いてある書物であると、多くの人に知ってもらうことであった。故に解読は敢えて原点の『正義』を中心に行った。ただ通釈の中では、一部朱子の解釈を取り入れて述べている所もある。
これにより、『大学』に興味をもたれる方が一人でも増えれば、喜びの至りである。是非朱子の『大学章句』も読んでいただきたい。