眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ロードレース(泥縄ランナー)

2020-05-24 18:55:00 | 夢追い
「これでいいかな?」
 ネルシャツのボタンが一つ取れていた。
「いいんじゃない」
 爪を切りながら姉が言った。
「こんな格好で走ってる人いる?」
「いないんじゃない」
 やっぱり姉の答えは適当だ。

 僕はネルシャツを脱いでロンTに着替え直した。キャップを被って鏡を見た。テレビ映りが気になる。やっぱり走っていると暑くなるかな。下に履くジャージが見つからなかった。
「兄ちゃん。前貸したジャージ返してよ」
 兄はお茶を飲みながらジャージは知らないと言った。兄が持っていなければどこにあるというのだ。
「9時集合と書いてある」
 パンフレットを見ながら母が言った。もう11時を回っていた。
「どうせすぐには走らないよ」
 レースの前には余分な挨拶がたくさんあるに決まっている。僕は開き直っていた。身支度が済まなければ家を出ることもできない。問題は行方不明のままのジャージだ。箪笥を開けると右の一角に靴下の山が築かれていた。あの底に埋もれているのかもしれない。

「いらない靴下は捨てようよ」
 何年も履いていない靴下が大切な物を覆っているのだ。
「売れる物は売った方がいいんじゃない?」
 売れる物があると姉が主張した。
 ジャージがないのでジーンズで行くしかない。
 いらない物を袋に詰めて皆は小走りで家を出た。

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折句やってみた

2020-05-24 18:36:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
そちはなお困ったお人かた時も
死に寄り添わぬことを知らずに

(折句「そこかしこ」短歌)
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12インチ暮らし

2020-05-24 09:43:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
9つの歌を宿したアルバムに12インチの君の変顔


幸福と不幸を載せた天秤がつり合っているイン・マイ・ルーム


ひとりだけ暮らすにはいい大きさのアルバム中に9つの歌


バルサ的好循環だ炭酸に当てて駆け出すかっぱえびせん


ジャケットにかけて手にしたアルバムは12インチのギャンブルテイク


言い訳を拾い集めてあきらめのブレーキを踏むマイ・ルーティン


僕だけの暮らしは食うに困らない12インチのアルバムの中


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折句クッキング

2020-05-23 17:28:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
王様が盛り盛りかけたテンピンに
泣ける新聞紙のディスタンス

(折句「おもてなし」短歌)

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ジャズでもいいよ

2020-05-23 09:29:53 | オフサイドトラップ
 手を上げてオフサイドをアピールすると1台の車が止まり、ドアが開くとそいつは先入観だった。
「いつもの場所だね」
 そう言って、先入観はいつもの場所に僕を運んでくれる。

 猫は熱心に漫画を読んでいるので、声をかけられなかった。

「ジャズでもいいよ」
 男は何かかけるように言った。今の雰囲気から少し気分を変えて。自由が与えられたかのような怪しげな言葉。騙されてはいけない。この場の空気を支配しているのが誰かは、はっきりしている。断ち切れぬ糸のついたまま泳いだとしても、開ける景色は限られている。手先に過ぎぬ僕が、見せかけの寛大さに笑顔を見せて何になるというのか。パフィーをかけてみればすぐにわかることだった。

「この場所に合わないでしょ」
 場所……。ああ、そうだ。夏も冬もない。朝も夜もなく、ここはあなたが牛耳る場所に違いない。あなたが合わないと言えば、それが正解なのだろう。(合わないものは、この場所を去るべきだ)
「カーペンターズでもいいし」
 結局、落ち着くところは最初から決まっているのだ。
 男は軽快にカーペンターズを口ずさむ。口ずさめることが羨ましい。他の選択肢がまるでないことが寂しい。パフィーはどこも悪くなく、カーペンターズはとても素敵だった。

 コーヒーゼリーを思い出させたのは、コーヒーの存在だ。いつまでも手をつけなければ、コーヒーはじっとしていて、動かなかった。体が冷えてしまうのが怖くて、体の中に取り込みたくはなかったのだ。誰も横取りするものはなくて、いつまでもコーヒーは静かに固まっていた。だからそのかたまり具合がコーヒーゼリーを思い出させた。寒い日には、猫は炬燵の何に隠れていたものだった。

「何が楽しいの?」
 猫は漫画をめくって、ほんの少しこちらを見た。きょとんとしている。
 馬鹿なことを訊いたものだ。楽しい理由を問うなんて、愚か者のすることじゃないか。

 あるいは香りだったかもしれない。

 じっと見ているとかたまっていくような気がするけれど、かたまっているのは自分だった。
 周りに目を向けてみれば、楽しそうに、豊富な話題を持ち寄って会話を楽しんでいる。みんなが同時に声を上げてくれるおかげで、一つも意味に捕らわれることなく聞き流すことができるのが素敵だった。聴き様によっては雨のように聴くこともできる。静かな雨、やむとのない雨、8月の雨、だんだん激しくなっていく雨……。雨の中で僕はコーヒーゼリーがかたまるのを待っている。
 たっぷりと苦味をきかせて、たっぷりとミルクをかけるのだ。

「いつものBARでね」
 猫は武勇伝を語り始めた。
「サザエさんを見ていたんだ。子供の頃から目をかけていたからね。それが今ではどうだい。大先輩のように見えていたものが、みんな無邪気な子供のように見えるじゃあありませんかい」
「ジャズが心地よくかかっていたんだ」
「ああ、それでカツオはもはやお兄さんではなくなった」
(このあと高校野球は2チャンネルで放送します)
「そうなったら一大事。勝ち目がまったくありません。だから僕たちは焦りに焦った」
(このあと間もなく高校野球は2チャンネルで放送します)
「やばいぞ、これは。大変なことになったぞ」

 甘いね。すぐにジャズをかければよかったのだ。

 僕は長くコーヒーゼリーを見つめながら、雨を思っていた。
「おまえはどう思う?」
 肘で壁を突っついた。
 川沿いの道を母と歩いたあの日の雨は、傘がなくても平気なくらいの雨だった。水面のささやかな反応を見て、あらためて雨を思うくらいの、小さな雨だった。少し遠回りになるけど、車の少ない穏やかな道を母は選び、僕はそれに従った。母の向こうに川を見ながら、川に沿って歩いた。ストローでつつくと水面が揺れる。まだかたまっていないようだ。少し口に含むと水位が少し下がって、硝子があらわになった。
「ご飯の時はお茶にしなさい」
 壁に沿った席は安心だった。少なくとも敵に取り囲まれることはない。
 もしも何もない宇宙に突然放り出されたら……。
 突然降って湧いたような、自由な発想が、僕を恐れさせた。
(どこに行ってもいいよ)
 
 そこにふさわしい音はあるのだろうか。

「いつものBARでね」
(いよいよ高校野球は2チャンネルで放送します)
「そうなっては元も子もなくなってしまう」
「僕たちは一致団結して、犬共と戦った。その辺にいるwifi犬は相手にならない。片っ端からパンチをお見舞いしたものだ。白球が音もなく落ちてチャンネルが切り替わってしまう前に、事は終わるかと思われたが、敵の中にも秘められた才能を持つ者が潜んでいたのだ。そいつは蓄えた好意で船を折っていたように遅れてやってきた。先制点を上げて有頂天に達していた僕たちは少し眠りかけてもいたので、夢の境界を明らかにするための準備が必要だった。コーヒーのオーダーと雷が鳴るのとは同時だった」
「そこでニュース速報が入ったのだ!」
(このあと高校野球は2チャンネルで放送します)
「しかし、それはもう周知の事実で誰も驚かずに済んだのだった」
「ガラガラドーン!」
「僕たちは隠すためのへそをみんなで教え合いました」
「その敵を倒さない限り、僕たちに勝ち目はない。急がなければ!」
「額に犬犬犬と3つも勲章をつけた強犬が立ち塞がったのである」
「敵国の犬に3度噛み付いた経験が光っていた」
「そいつだけだぞ!」
「僕たちは他の弱い犬はフリーにして、みんなでそいつを囲ってうまくドリブルさせないようにした」
「作戦勝ちだ!」

 待っても待ってもコーヒーゼリーは完成しなかった。待っているだけでは駄目なのだ。幻影が作り出したかたまりにストローを突き刺すとからからと中の物が悲鳴をあげる。かたまるためには時間だけでは足りなかった。時間は一つの重要な要素だが、それと他にもう一つ何かが必要だったのだ。その仕掛けが何であったのか、こうしていてもわかるはずがない。随分と時間を無駄にした。
 きーんと音が近づいて、肩に先入観がとまった。払っても払っても、同じ場所に戻ってくるのだった。

「きみのことが好きなんじゃないの?」
 睡魔に負けて、払い切れなくなってゆく。
 駄目だ。もう、何でもいい……。

「ジャズでもいいよ」

 睡魔が瞬きを速めた時、猫はかけてきた。




「賞金は? もらえるんでしょうか?」
「残念ながら、それはまた別の受賞された方がおられまして、そちらの方が」
「私が選ばれたのでは?」
「選ばれる方にも色々ありまして、あなたは選ばれたことに間違いはないのですが、残念ながら最優秀というわけではありませんでした」
「では、何なんですか? 最優秀でなければ、優秀賞とか?」
「まあ具体的には申し上げられませんが、まあ一般的に言うと特別賞のようなものだとお考えください」
「それはなかなかのものなんですか? もう1つ確信が得られませんが」
「それはもう滅多に選ばれるものではないんですよ。特別賞というのは、該当する作品が見当たらないという時には、そのまま誰にも与えられないといったケースもよくあるくらいですから。それにあなたは選ばれたということでして」
「最優秀賞を取った人というのは?」
「それは本当に素晴らしい作品でした。10年に1度あるかないかというくらいの、見事な作品でした」
「誰の作品なんですか?」
「それはある程度名のある方の作品でした。あえて申し上げませんけれど、受賞にふさわしい作品でした」
「有名な人ですか? 誰でしょうか?」
「あえてここでは社内規則で申し上げないことになっているものですから、申し訳ございません」
「はあ、そうですか。いるんですよね、最優秀を受賞した人が」
「勿論、それはそうでございます」

「読んでみたいですねえ」
「また何年後かに、そういう機会も設けられるかと存じます」
「それに比べると私の作品なんて、たいしたことはないんじゃないですか? 本当のところは」
「いえいえ、勝るとも劣らないと申しましょうか、実際あなたの作品も素晴らしいことは素晴らしいわけですから」
「そうですかね」
「私が保証します。ここは1つ先日の件を、検討していただいて、是非とも世間の皆様の目に触れられるようにしてみませんか? その先には、世界だって見えているかもしれませんよ。可能性としては十分開けているはずです」
「世界ですか? 最初にお金が必要になるんですよね」

「まずは100万円ですね。まあ、それはすぐとは申しませんが、近い将来に必ず返ってくる分になりますから、そう慎重になりすぎずに」
「なりますよね、普通は」
「才能があるのですから、やはり踏み出す時に踏み出さなければ」
「私でなくてもよくないですかね」
「いいえ。あなたは……。あなたが、選ばれたんですよ!」




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IoT時代

2020-05-23 07:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
包丁を握りしめればIoT今夜は何をさばくのでしょう

リモコンを握りしめればIoTお前が消えて俺がヒーロー

消しゴムをくるくるすればIoTよくわからない先生チェンジ

路地裏をにらみつければIoT「間もなく猫が駆け足できます」

壇上に足をつけたらIoTその場に合った小話が湧く

まな板をにらみつければIoTマナティ早くレシピを出して

犬笛をくわえたならIoT「今日のご飯はハヤシライスだ」

テレフォンをかけたい時はIoT君だけをただ浮かべればいい

リモコンがなくなったならIoT白いあいつに命じればいい

砂時計傾けた時IoT「西の砂丘に魔物発見!」






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早く寝ろ

2020-05-22 05:45:00 | ナノノベル
「あんたまだ店開けてるの? 閉めないと駄目ですよ」
「やってられねえよ」
「ちゃんと閉めなさい」
「開けねえとやってらんねえっすよ」
「あんたのとこだけよ」

「私のとこは秘伝のタレがありますから」
「もうあんたのとこだけですよ」
「継ぎ足し継ぎ足し秘伝を守ってきたんです」
「もう捨てなさい」
「やってらんねえな」

「どうして早く閉めないの」
「私には守るべきものがあるんだい」
「守ったらいいのよ」
「今晩の晩ご飯、今晩のワンちゃんの晩ご飯、今晩のじいちゃんの晩ご飯……。たくさんご飯がいるんだい」

「みんなはどうなってもいいと言うの?」
「みんなのために店を開けなくちゃ」
「それはエゴだね」
「何がエゴだい」
「あんたエゴしかないのね」
「だったらそっちは?」

「言いたいことがあるなら言ってみなさい」
「この町を? この国を? この星を守るの?」
「当たり前でしょ」
「あんたはもっと大きなエゴじゃないの」
「つべこべ言わずにもう閉めなさい!」
「つべこべが聞いてあきれますね」
「つべこべは聞いてませんよ」
「やってらんねえ」
「なにおー」
「ちっくしょー」



「こらこら、君たちまた演劇ごっこやってるのね」
「ごっごじゃないよ」
「はいはい。もうちゃんとお昼寝しましょうね!」
「昨日もしたもん」
「そうね。今日もするの。毎日するのよ」

「先生、明日うちの店閉めるよ」
「そうなのね」
「パパとたくさん遊べるかな」
「いい子にしてたらきっと遊べるわ」
「わーい、寝ようっと!」


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さよならの予感(pomeraの異音)

2020-05-21 13:11:00 | 【創作note】
コーヒーの表面に
わっとミルクが滲んで
やがて現れる1枚の絵
それが僕

たまたま開いた小説の
1ページの中の3行目
それが今日

「かけがえがない」
と誰かが称える

「どこにでもある」
とまた誰かがこぼす

ん? どうなん?


出窓の前には鉢植えが置いてある
そこは一つのサイドテーブルだ
取り壊された建物は
新しくお弁当屋さんになろうとしている

国道を走る車をずっと眺めていた
絶えず動く風景を見ていることは
なんて気楽なことだろう

色や大きさ
速度や車間距離はみんなバラバラだ
しばらく間が空く時は信号の周期だろうか
大型バス
続いてバイクも

代わり映えしないとみることもできるが
変わり続けているとみることもできる
どこを切り取ったとしても
全く同じ絵にはならないだろう

動かしている者が人であるとするなら
急ぐ者もあれば楽しむ者もあるのだろう

ファストフードの2階が
今夜の僕の運転席だ

pomeraよ 早くエンジンをかけて


「ふりだしにもどる」
またこれか……

2時間かけてあたためたモチーフが
夜をまたぐと冷え切っている

「何もない」
自身の中に価値(愛)が見出せない

たかが一つの夜なのに


調子のいい時は
どんどんどこかに行きたくなる
どこまでもどんどん行きたくなる
調子に乗ってどこまでも
みんな忘れて行きたくなる

あの調子はどこに行った?

放っておいてもどんどんあふれてくるような
あの素敵な調子はどこに行った?

調子は待っても現れない
調子は呼んでも戻ってこない

お調子者が!

お前なんかだいっきらいだ


膝の上にpomeraをのせて
あなたは待っていた

「何も始まらないよ」
「えーっ? 今日からじゃないの」

きっと思い違いをして
あなたが見つめるスクリーンは
pomeraの空だった

「あなたから打ち込まなければ」
「私から?」

「あなたはアスリートになるんだ!」
「私になれるだろうか」
(そんなつもりもなかったのに)

「あなただからなれるんじゃない」
「私、走ったこともない……」

「あなたにはpomeraがいるのだから」


書き出した詩に蓋をして
石を載せて寝かせておく

誰の目にも触れない
冷たい場所に歳月は積もり

ああ たしかここにもあったな……

ふと思い出し
懐かしい恋情がこみ上げるように
取り戻したいものがあふれてきたら

その時こそ君が詩を書くべき時だ

さあ 重たい石をどけて
詩を解放せよ!


カチカチと内部で音がする
つないでいた何かが
離れ始めている

(永遠はない)と隣人が教えてくれた

違和感なく僕のタッチを受け入れている
オー pomeraよ
きっともうすぐさよならなんだ

最後のタッチは
明日にも
次の瞬間にも

やってくるのかもしれないな


書かずにはいられない
書いても進まない
書いても書いても
どこにもたどり着かない

「書いてどうするの?」

脳裏に再現される兄の問いかけ
(あなたはどうして書くのだろう?)
(あるいはどうして生きるのだろう?)

乗り越えて、駆け抜けて、手に入れて、
実らせ、倒し、クリアして、次のステージへ……
そのような手応えが
このゲームにはみつけられない


どうせ終わりだとばかりに
暖房は切られている
コーヒーは底を突き
少年も猫も通らない

警備員が近づいてきて
閉店時間を予告する

「あと少し」

寂しくなる時間に
ときめくものがある

ここで もう一編の詩を






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Drop's「Tシャツと涙」Music Video

2020-05-21 08:28:18 | MTV
Drop's「Tシャツと涙」Music Video
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初夏の隣人

2020-05-21 07:37:00 | 忘れものがかり
少し前まで
全身で求めていたものが
ベッドの片隅に追いやられている

そのままどこにも行かない
厚い毛布は
終わってしまった恋人のようだ
いつまでも手つかずのまま
少し邪魔で少し気になる

「もうそろそろ片づけないとね」
そう思ったまま
ずっとずるずるとして

雲が初夏を運んでくる


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折句教室

2020-05-21 01:12:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
許せない記憶倉庫に人がいて
夜毎目覚める疎ましきこと

(折句「ユキヒョウ」短歌)
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アルバムはここに

2020-05-20 23:11:00 | 忘れものがかり
好きなバンドが解散した/


仲違いしたから

疲れたから

家業を継いだから

燃え尽きたから

大人になったから

引っ越ししたから

作家になったから

地球が吹っ飛んだから

夢をみつけたから


/解散したバンドを好きになった

寂しいよ/寂しくないぜ


アルバムはここにある
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折句の夜明け

2020-05-20 07:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
あふれ出るゲノムのように止まらない
歌の言葉にふるえる夜明け

(折句「揚げ豆腐」短歌)
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テストの結果

2020-05-19 18:28:00 | ポトフのゆ
 世知辛い世界からしゅん先生は逃げてきたのだ。かわいい生徒たちを奇妙で寂しい世界に置いて、自分だけ逃げてきたことに罪悪感を覚えながら、逃げる以外に逃げ道がなかったのだから、いつも重複的に自分に言い聞かせることで、自分を勇気付けながら、しゅんさんは生暖かい逃亡地の中で、ひっそりと息をしていたけれど、老夫婦が通りかかったところでは、流石に泣いてしまうと思い、もう涙が流れてくるのを止められなかった。

 老夫婦の間ではしゃぐ小さな生き物、私でさえ、あの歳なら、少しは可愛かったに違いない。今では思い出す術もなく、それ以上になす術もなく、そしてどちらの術もないことによって、ボロボロと泣けてきたのだった。そのために、逃げてきたのかもしれないとしゅん先生は思う。

 いつ間にか会議は風船の中にすっぽりと呑み込まれている。遠慮のない活発な意見交換が望まれる、風船の中は淀んだ空気によってちょうどよい温かさになっていた。

「形じゃないだろう。会議というのは、そんなに形が大事なものかね」
「いいや、まずは形だ。形を整えなければ、最初から隙を作ってしまう」
「形の隙が何だと言うのかね。どこがそんなに問題かね?」
「些細な隙ほど、そこを狙っている奴にとってそれほど好都合なものがあるだろうか。なぜなら隙が小さければ小さいほど、その場を見出した時の快感は大きいとも言えるのだから」

「誰がそんなことを言ったのかね」
「多数決を取ったらどうだ」
「まだ議論が煮詰まっていないじゃないか。早く帰りたいのかね?」
「馬鹿なことを言うんじゃない。馬鹿野郎!」
「暴言を慎みなさい。これは議長命令である」
「そろそろ本題に入ろうじゃないか」
「誰か他に意見のある者はいますか?」

 しゅん先生は、かわいそうな生徒たちを置いてきた町の風景を時々思い出した。
「私の子は、すべての問題において90%を解き終えたはず。なのにどうして90点がつけられない?」
「最後まで解き終えた問題が1つもなかったからです。残念ながら」
「0点というのはどういうわけか。ほとんど正解したも同然なんだぞ」
「残念ながら、採点の結果は0点です。努力は大いに認められますが、それを点数に反映させることは、やはりルール上できないことなのです」

「解こうと思えばできたとしてもかね?」
「結果がすべてですから。テスト的には」
「最後まで解かないのは、優しさからだとしてもかね」
「優しさ? やさしいのなら、全力で解いて、解き終えていただきたいのです」
「その優しさじゃない! 思いやりの優しさの方だ!」

「いったい誰に? 誰に対する優しさですか?」
「むろんそれはテストにだろうが」
「テストに? 出題者にですか、それとも答案用紙にですか?」
「私を試すつもりかね? だから先生というのは、つまらないんだよ。感性でわからないのかね、そんなことが」

「少しお話が、私には難しいものですから」
「とどめを刺せない子なんですよ」
「テストにですか?」
「そうだ。うちの子はラスボスにもいつも情けをかけます」
「優しい性格なんですね」
「だから、優しいと言ってるじゃないか!」
「私も、その優しさは素晴らしいと思います」

「解き終えることは簡単なんです。おそらくとても容易いことでしょう。だけど、あえて詰論を出さずにおく。いかなる問題についても、その最後の部分をあえて埋めずに、空けておいてあげるんだ」
「誰にでしょうか?」
「先生、それを私に訊くんですか?」
「はあ、すみません。気を悪くなさらないでください」

「先生は子供の才能を潰す気かね?」
「そんなつもりは決してありません」
「0点をつけておいてよく言えたものだ」
「採点は採点です。勿論、テストの結果がすべてではありません」
「あの子は問題ができなかったわけではない。むしろその逆で、できすぎて余裕がありすぎるのです。試しにもっと難しい問題を出してみるといい」
「他の生徒の兼ね合いもありましてね。今回のテストにしても、少し難しすぎるとの声もありまして」

「あの子にとってみれば、すべて簡単な問題でしたね。それでもあの子は、最後のところでセーブをかけなければならない。それがあの子のスタイルで、個性なんです。で、何点ですかね、あの子の点数は?」
「残念ながら、0点となります。テストの結果としては」
「子供の個性について、あなたはどう考えるのですか?」


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記憶はうそつき

2020-05-19 07:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
約束は記憶の海にとけ込んで
うその蔓延る4G時代

(折句「焼き豆腐」短歌)
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