老人の訴えは耳を疑うものだった。ステマが捕獲されて大変なことになっていると言うのだ。本官はいつでも市民の味方である。しかし、時には味方である者同士の板挟みとなって苦悩することもある。何より大切なことは、親身になって耳を傾けること。冷静に真実を見極める目を持つことだ。老人の訴える現場に近づくと女性が駆け出してきた。
「家の人ですか?」
「すみません。この人かなりぼけてるもので。おかしなことを言ったかもしれませんが、寝言と思って聞き流してください。いつも夢見ているような状態ですから」
「そうでしたか。事情はわかりました。しかし、確認のために少し家の中を見せていただいてもよろしいですか?」
「構いませんが、夜も更けましたのでできれば明日にしていただけると助かります」
「わかりました。それでは明日また改めまして」
「駄目じゃ。今じゃ。今でないと。今じゃろ」
「もう、おじいさん! 何を言ってるの。ご迷惑よ」
「いえいえ、どうか気になさらずに。それではおやすみなさいませ」
「ごくろうさまです」
「ヒヒーン!」
その時、家の奥から明らかに野生のものと思われる声が響いた。一瞬、家人の顔色が変わったようにも見えた。
「やはり、今見せていただきましょう」
「しかし、突然今というのは……」
家人の制止を振り切って家の中に突入した。野生の声を追って地下室にまで下りていくと秘密めいた扉があった。
「ここですじゃ」
すべてはおじいさんの言う通りだった。狭い室内に入ると哀しみに満ちた視線が、一斉に本官の方に向いた。たくさんの希少動物たちが違法に集められて飼育されていたのだ。明らかに劣悪な環境だ。
「ここには置いておけません」
家人は何も反論せず、すべてを解放することに同意した。
「ご協力を感謝いたします」
老人の勇気によって事件が1つ解決した。
応援に駆けつけた者と協力して、地下室から哀れなものたちを救出した。多くが久しぶりに見る外の世界に興奮している様子だ。
ペンチアスクリーンキャットの足は小刻みに震えていた。サッポロユキヒョウの凛々しい横顔が見える。オオクジラッコはマイペースで行進の途中で突然立ち止まる。ムーンサーベルモンキーがちょっかいを出してもスネクイーンオオカミは動じない。ヘッドライトをあびてステマザウルスの背中がきらりと光る。マカロンポニーが笛を吹いたように鳴く。バルーンポニーは持ち前の好奇心を徐々に回復させて野草に口をつけた。月明かりの下でキメラスポメラの瞳が夜露のように潤んでいた。
「わしもつれていってくれ!」
闇夜のパレードの向こうからおじいさんが駆けてきた。
危うく忘れるところだった。
「失礼しました。一緒に行きましょう!」
任務はこれにて完了であります。野生の一鳴きに気づかなければ危険なところでありました。本官を支えているのは強い使命感なのであります。大切な市民の味方として、いつでも公正な姿勢を保たねばなりません。権利と平等を守ることにおいては、人も動物もないのであります。本官にとってみれば、皆が大切な住民であります。本官はこの街が好きであります。愛すべきこの街が真の愛に包まれること。それが本官の夢であります。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます