眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

夜道(やまとなでしこ)

2012-12-17 22:29:10 | アクロスティック・メルヘン
夜景なんて望めない町でした。
まだ早い夜に男は薄暗い歩道を歩いていました。
と、男の前にゆっくりと動くものがあるではありませんか。
なんだろうか。それは人だろうかと男は思います。
手のようなものがゆっくりと振られているように見えます。
しばらく歩いているとだんだん距離が詰まっていきました。
このまま行くと追いついてしまうぞと男は思ったのでした。

やがて追いつくことが予想されました。
まだ今はその時ではないのだと男は思ったのでした。
と、男の前に信号があるではありませんか。
なんだろうか。それは信号に違いなかったのでした。
手を上げて渡るものもいるだろうな、と男は思うのでした。
しばらく歩いているとだんだん距離が詰まっていったのでした。
このまま行くと追いついてしまうぞと男は思ったのでした。

やはりそれは人のようだ。深く深く、
曲がった腰のために後ろからは頭が見えません。
と、その時男はついに追いついてしまったのでした。
なんとそれはお婆さんでした。
手にいっぱいの荷物をぶら下げています。
知らないお婆さんでありました。
これが最初で最後のすれ違いになるのかもしれません。

野菜だろうかと男は思ったのでした。
曲がっていたなと男は思ったのでした。
と、その時男ははっとしたが、歩き続けたのでした。
なぜなら、立ち止まる理由は何もなかったのでした。
手にいっぱいの荷物が重たくて、重たくて……
従って、それがお婆さんの腰を曲げていたのでは。
このまま行って大丈夫だろうかと男は思うのでした。

やはり気になると男は思ったのでした。
まだお婆さんは歩いているのだろうか……。
と、思い切って男は振り返ってみました。
なんと、お婆さんがいない!
手にいっぱいの荷物を下げたお婆さん。
静かにうつむいたまま歩いていた、お婆さん。
今夜のおかずは何だったのでしょう。


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