しばらく四間飛車と相振り飛車ばかり指していたが、少し変わったこともやりたくなった。知らない戦型に飛び込むのは勇気がいるが、勝ち負けは抜きに楽しむことを心がければ問題はない。将棋は奥の深いゲームだ。色んな戦型に触れた方が、新しい筋を知ることもできる。相手の振り飛車に対して不慣れな居飛車で対抗すると、華麗にさばかれて惨敗することもあるが、さばきのお手本を見れたと思えばいい。振り飛車が快勝すること自体、悪くないことだ。
今気になっているのは『将棋放浪記』でもピックアップされていたなんとか流左玉だ。自分が振り飛車を指した時、一風変わった力戦でこられて何度も苦戦した記憶がある。(もしやあれかも)
いつものように3分切れ負け。相手の振り飛車に角道を一旦止め、銀を中央に繰り出した後、位を取りながら再び通した。相手がいつまでも角道を止めてくれないので早速困る。とりあえず四間飛車に振る。(これは相振り飛車ではない。新しげな戦型だ)真ん中の位も取ってしまおうか、それとも自分から角交換しようか。しかし、持ち時間3分では迷っている暇はない。結局、お互いに角道が通ったまま、僕は角を中段に運んだ。(何だこの構え大丈夫か?)新しいチャレンジに不安はつきもの。桂を跳ね、金で中央に備え、向かい飛車に振り直すと、相手は穴熊に入ってきた。さて、そろそろ玉を動かさねば……。と考えていると突然相手が飛車先を突き捨てて攻めてきた。(いつの間にか向かい飛車になっている)
しまった! これは十字飛車だ!
相手はついに角を換え、歩を食いながら中央に飛車を転回させた。銀が狙われている。僕はグイッと金を上げて飛車に当てた。困っていても気合いで指すのは3分切れ負けの鉄則ではないか。(決めに行く側としても覚悟がいる)相手は一旦飛車を引き上げた。すかさず玉を一路上がる。相手は自陣の桂を活用してきた。天使の跳躍を食らってはたまらない。歩を突いて受けると相手も合わせて歩を伸ばす。直接的受けはない。僕は敵陣に角を打ち込んだ。歩が伸びてくる間に端の香を拾って金の頭から飛車取りに据えた。すると相手は端から自陣角を打ってきた。王手だ。合駒はない。横にかわすと相手も飛車を横に動き角と連動して自陣を狙ってきた。歩切れのため数の攻めが受からない。
こうなったら差し違えだ。
僕は中央に銀を繰り出して飛車に当てた。相手は飛車を取らせる間にと金で守備の金をはがし、下段に角を成り込んできた。これが不動駒の銀に当たっている。僕は咄嗟に自陣飛車を打って馬に当てた。この時、一段目に重く金を打って銀取りを維持されると大慌てになるところだったが、普通はない手なので相手はあっさりと馬を引き上げた。それならば駒得も残り、むしろよくなったのではないか?
しかし3分切れ負けでは冷静に形勢判断をしているような暇はない。僕は敵陣に歩を打って遊んでいる銀に働きかけた。それによって馬の活用がかなえば前途有望だ。堅陣の穴熊が残っているとは言え、相手も有効な攻めが見つからず困っているようだ。銀を逃げ、と金ができて、更に駒得となった。僕は敵陣にできた馬と成香を軸に入玉含みで玉を中段に進出させた。すると相手は自陣に歩を打ったり金まで投入して入玉の阻止を図ってきた。しかし、それによって寄せの形が築かれたわけでもなく、むしろ切れ筋に陥っていた。次に厳しい狙いは何もない。
「さて困った」
相手の狙いがないのに、どうして僕が困らなければならない? (将棋には、よくなった側も困るという不思議な時間がある)状況が変わればテーマも変わる。柔軟に頭を切り替えて指し手の方向性を決めなければならないが、短い時間で正確に判断することは簡単ではない。
どこを受けよう? さほど受ける必要もないが、攻めると反動でわるくなるかもしれない。わからない。だけど時間がない。僕は穴熊の玉頭に歩を突っかけた。突然の攻め合いだ。(守備から攻撃へのターンは自分の将棋の中でも重要な課題だった)
継ぎ歩から垂れ歩。歩の攻めはリスクも少なく効率がよい。とは言え、自玉はほぼ裸同然。ごちゃごちゃしている間に王手がかかり、相手の馬の侵入から飛車も取られて、いよいよわけのわからないことになった。玉は左辺まで追われ、玉頭戦の要素が加わった複雑な終盤戦だ。僕は攻め合いの方針を大事にし、相手の穴熊に食らいついた。形勢自体はやや紛れていたとも言えたが、最後は何とか時間で勝つことができた。危なっかしい戦いだったが、色々あった方が将棋は楽しいと思わせるような一局でもあった。
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