車から出る時も、道を渡る時も、階段を上り下りする時も、テーブルを見学する時も、土を運ぶ時も、ずっとずっと、飛び出さないように、迷子にならないように気をつけていたのに、玄関へ向かい駆けて行く途中、ドアのほんの手前のところでユウは転んでしまった。階段の端にぶつかり額からコツンと音がした。
「どうしよう、どうしよう」
赤い血を見てユウは泣き出し、お医者さんの名前を聞いて更に激しく泣き出してしまう。
「どうしよう、どうしよう」
バアバが帰る時間も近づいていた。
「ここに置いておくからね」
バタバタして渡せなくなってしまうから、とバアバは玄関先にプレゼントを置いておくことにした。プレゼントよ。
「いやだー!」
泣き叫びながら、ユウはリボンのついた赤い箱の方に歩きかけた。その瞬間だけ、涙は止まったように見えた。
・
12月の列車はトンネルに入り、トンネルを抜けた。天井から零れ落ちるかなしみは、テープによって何とか食い止めることができた。トンもネルを抜けると、しばらくしてまたトンネルに入った。トンネルが多いのは、ずっと山の中を突き抜けて進んでいるためで、一山去ってはまた一山あり、また一山あっては一山去りというくどくどとした調子で山が続いているためだった。そうこうしている内に、12月の列車はトンネルに入った。一斉に窓の外に景色が外側の世界から内側の世界に切り替わり、僕の隣の窓に僕の姿が跳ね返った。何か言いたそうな顔をしている。その言葉を推測している途中で、列車は突然トンネルを抜けて、また外側の世界が戻ってきた。言葉は千切られて、過去の闇の中に持ち去れてしまった。いつもそうだった。12月の列車は、旅の間中、ずっと推測と喪失を繰り返して進んでいるのだった。もうすぐ、トンネルに入る。とっくに気がついていた。外側の世界に向かって、何度もさよならを言った。さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら……。
ドアが開き、車掌さんが入ってくると、入り口のところで立ち止まり、指をさして空席の数を確かめた。確かめるまでもなく、席は空席ばかりで、空席の横に空席が空席の上に空席が空席の隣に空席が空席の中に空席が、かなしみに触れたせいで、空席はますます空っぽにあふれとめどなく空っぽに広がってゆくばかりだった。
「ここあと30チーム座れる!」
手元の資料と照らし合わせながら言った。ありもしないゴミを拾い、伸び切った椅子の角度を直したりして、車掌さんは車内の秩序維持に努めていた。そうこうしている内に12月の列車はトンネルに入った。
「どうしよう、どうしよう」
赤い血を見てユウは泣き出し、お医者さんの名前を聞いて更に激しく泣き出してしまう。
「どうしよう、どうしよう」
バアバが帰る時間も近づいていた。
「ここに置いておくからね」
バタバタして渡せなくなってしまうから、とバアバは玄関先にプレゼントを置いておくことにした。プレゼントよ。
「いやだー!」
泣き叫びながら、ユウはリボンのついた赤い箱の方に歩きかけた。その瞬間だけ、涙は止まったように見えた。
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12月の列車はトンネルに入り、トンネルを抜けた。天井から零れ落ちるかなしみは、テープによって何とか食い止めることができた。トンもネルを抜けると、しばらくしてまたトンネルに入った。トンネルが多いのは、ずっと山の中を突き抜けて進んでいるためで、一山去ってはまた一山あり、また一山あっては一山去りというくどくどとした調子で山が続いているためだった。そうこうしている内に、12月の列車はトンネルに入った。一斉に窓の外に景色が外側の世界から内側の世界に切り替わり、僕の隣の窓に僕の姿が跳ね返った。何か言いたそうな顔をしている。その言葉を推測している途中で、列車は突然トンネルを抜けて、また外側の世界が戻ってきた。言葉は千切られて、過去の闇の中に持ち去れてしまった。いつもそうだった。12月の列車は、旅の間中、ずっと推測と喪失を繰り返して進んでいるのだった。もうすぐ、トンネルに入る。とっくに気がついていた。外側の世界に向かって、何度もさよならを言った。さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、さよなら……。
ドアが開き、車掌さんが入ってくると、入り口のところで立ち止まり、指をさして空席の数を確かめた。確かめるまでもなく、席は空席ばかりで、空席の横に空席が空席の上に空席が空席の隣に空席が空席の中に空席が、かなしみに触れたせいで、空席はますます空っぽにあふれとめどなく空っぽに広がってゆくばかりだった。
「ここあと30チーム座れる!」
手元の資料と照らし合わせながら言った。ありもしないゴミを拾い、伸び切った椅子の角度を直したりして、車掌さんは車内の秩序維持に努めていた。そうこうしている内に12月の列車はトンネルに入った。
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