眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

地図だけの町

2012-11-29 00:40:39 | 夢追い
 暑さなのか狭さなのか何かが気に入らなかった腹いせか、犯人は床のあちらこちらに黒く汚れたまだらな染みを残していった。それは店の汚点となった。惨状を目にしながらも自分の部屋に戻りたいと主張する者が、助けを求めて顔をこちらに向けた。
「道を作ってくれ」
 仕方がないので汚点の上をタオルで覆った。タオルをつないで道を作った。すぐにタオルは足りなくなって、男が歩き終えた道の上からタオルを取ってきては、男の前につないで再び新しい道を作った。
 という話をみんなにしようとしたのはちょうど食事時だった。
「大丈夫?」
 別に平気とみんなは言うが、同席している部外者の存在が気になった。顔は普通だ。それは犯人ではないという証にはならない。
「何か不満はない?」
 ないと男は答えた。不満があれば犯人かもしれなかったが、密かに不満を隠しているのかもしれなかった。みんなで外に出た。獲物は川で泳ぐ魚たちだった。警戒心もなく、水の表に出てきているので、容易に手でつかむことができた。まるで動かないものはもはや死んでいるので避けなければならない。名の知れたものよりも、いきのいいものを2匹つかんだ。1匹はまだらな奴だった。
「名前は?」
「知らない!」
「味は?」
「ついてない!」 
 魚の味はどうすればいいだろう。塩にするか、ポン酢にするか……。

 外壁を伝って中に入り、勝手に部屋を使う裸の集団の姿がカメラにはっきりと映っていた。
「どうしてああいうことをするのだろう?」
「後でどうせわかるのに」
 誰かが行かなければならなかったが、僕が行くことになった。外壁を伝って部屋の中に入ると誰もいなかった。戻ってくるのを物陰に隠れて待った。裸のリーダー格の男が戻ってきた。
「ここはあなたの部屋じゃないでしょう」
 と怒りつけると、何も聞いていないと逆に説明を求められた。
「ちゃんと説明してくれ!」
「わからないことはきいてください!」
 男は、わからない、わからない、と言って泣き始めた。
「わからないならちゃんときいて!」
 泣いていて埒が明かないので、つれていくことにした。
「来て!」
 連れて行って最初からちゃんと説明するのだ。
 男を連れて行く間にも、その仲間たちは好き放題に勝手な真似をしていた。
「わからない、わからない!」
 階段の途中で、男はゴム人形のように折れて、崩れて、落ちてしまった。

 アプリはマニュアルがなくて嫌だった。会議室に着いたみんなは、直接名前を呼ばれている。みんな魚の名前で。

「地図がないじゃないか」
 そうやって怒ると地図は慌ててできてしまった。三つできた。一月遅れて町はすっぽり雨雲の中に入っていた。次にどこが雨なのかが手に取るようにわかった。どこに行ってもやはり雨だった。地図がないじゃないかと怒った店に来ていた。今から起こることは地図と一緒で怖くはなかった。天井が濡れる。バケツを持ってくる。漫画が湿る。喧嘩が始まる。傘がなくなる。バケツが溢れる。やはり、そうなる。
 横断歩道で時を待つ間、閉鎖された遊園地を通った。真っ暗だけど地図にあるから怖くはなかった。昔、ここで恋の夢が咲いて、お化けがたくさん出た。そこここに落とし穴が仕掛けられていることも、わかっていた。地図の通りに戻ってきた。配置は何も変わっていない。
 待つ人は待つべき場所で待っている。地図に書かれた通りだった。



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