眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

硝子の旅

2011-12-07 03:19:37 | 12月の列車
 ワイングラスが割れてしまって、タコはバアバを責め続けていた。落としたのではない。ただ玄関先に軽く置いただけだったのだが、新聞紙で軽く包まれただけでレジ袋に入れられたそれは、ほんの小さな衝撃だけで割れてしまったのだった。そして、割れてしまった後の硝子の欠片の処理を巡っても、微妙に意見は食い違い、明かりがついたばかりの新しい家の中で延々と喧嘩のような言い合いが続いた。
 ユウはいつの間にか二段ベッドを手にして走っていた。うれしそうに店内を走り回ってタコに遭遇すると、再びレジへと走っていく。「ありがとう!」礼を言われた店員は、緑色のエプロンをして、完全な無表情を保ったままだった。
 プーの右腕だけが回らず、服を脱がせて着せてみた。キティを振ると音がして、服を脱がせて着せた。大きな首を外すと何かが入っているのかもしれなかったが、できなかった。

 渋滞に巻き込まれて、タコはもう一度バアバに電話するように言った。少し前にもうバアバはシェービングを終え、礼を言って店の外に出ていたのだ。車はのろのろと進んだ。車線もない狭い道では、車同士がすれ違うことができず、どちらか一方が一方のために停止して待ち続けていなければならなかった。停止した車の後についたタコの車は、その間少しも前に進まず、どうしてこちらばかりが待ち続けなければならないのかと言って、この道の不公平さを嘆き続けていた。
「まだ車が来ないみたい」
 電話の向こうでバアバは、店の人と話している。ありがとうを残したまま、さよならだけを取り消すのだ。

「昨日自殺があった。ビルの上から飛び降りた」
 身近なニュースをタコが話し始めていた。
「15歳だった。母と一緒だった」
 母、一緒……。単純な単語を、僕はすぐに整理して理解することができなかった。
「昨日クリスマスコンサートに行ったの」
「どういう脈絡があるの?」
 突然話題を変えたバアバにタコは驚いたように言った。
「それがいいかと思って」



「持ち主のわからない不審な荷物がありましたら、お知らせください。何を入れているのかわからない、誰が持ってきたのかわからない、そのような荷物がありましたら、お知らせください。車掌室は4月号です」

 プラットホームにはあふれるほどの人の姿があった。あれだけの人がいれば、結婚の機会さえも容易にあるだろう。結婚の準備をするため、僕は天棚から鞄を下ろした。けれども、人々は幾つもの扉に分散して、どこかへ消えてしまった。

「お待たせいたしました。間もなく12月の列車が動き始めます」
 それは恋ではなく、恋心に過ぎなかった。


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