ランドセルの中は空っぽだった。必要なものはすべて引き出しの中に入っているからだ。軽々とランドセルを下ろすとそこに自分でない名前が記してあった。1日誰とも話さなかったし、1度も立ち止まらなかったのにいつの間にすり替えられてしまったのだろう。何者かが一瞬の隙をついて、空っぽのランドセルを空っぽのランドセルとすり替えてしまったと考えられた。失ったものは何もなく、不気味さだけが残された。
翌朝になると、ランドセルはやはり空っぽのままで、ちゃんと自分の名前が書いてあった。
歩道に布団を敷いて眠った。車道に近く、人目に触れやすい場所の方が安全だと考えた。布団の下に財布を隠していたが、眠ってしまえば誰か悪意のある者が現れた時に、易々と盗み取られてしまうのではないかと思われた。隠し場所としては、ありきたりすぎるのだ。いっそ枕の中に隠し込んだ方がよいと考えたが、今度は勘の働く悪意のある者が現れた場合、枕ごと持ち去ってしまうことが想像された。眠っている人間から枕を引き抜くことなど、悪意を持った者からすればあまりにも容易い動作に違いない。
気がつくと開店前の玩具屋の中に眠っていた。
「大丈夫?」
自分でもよくわからないことを言った。女は黙って頷いた。
「どこから来たの?」
「どこにも行くところがなくて、元の場所は今は思い出せません」
テーブルにつくと軽い朝食をいただいた。
2人の子供が手に千円ずつを握り、黙って差し出してくれた。
「ありがとう」
子供たちは階段を駆け上ると持っている水鉄砲で踊り場の蜂の巣を退治した。暴れ狂う蜂の群れに刺激されて、子供たちは成長して立派な兵士になった。今、手にしているのは本物のマシンガンだ。
映画のワンシーンのために気だるい夜の中を歩いた。誰もいない道、何もない壁、星のない空、主にフィルムに収まるのはそうした静かなものたちだった。交差点を通り抜けると突然巨大な扉が映し出される。ゆっくりと扉が開くと、更に次の扉が現れる。繰り返し扉が開き、ようやく赤い男が現れた。赤い男は自分の腹の肉を手で千切って首の下にくっつけると突起を作った。
「ふふふ」
また腹の肉を千切ると少し間を置いて突起を作った。
「ふふふ」
千切ってはくっつけて、笑う。狂っているのか、自慢しているのかわからない。等間隔に突起を作ることにも飽きたのか、赤い男はより深く自らの体を傷つけ改造し始めたように見えた。
「1つの恋が終わった時、その痛手を糧にして次の恋へ乗り移る」
破壊者は失恋についてを語り始めた。
「だが、私は違った!」
男の顔は虹に吼えるライオンで、体は星を這う鰐だった。
「黙れ!」
名刀フサンキラーを振り下ろし魔物を退治すると、冷凍倉庫に詰め込んだ。
冷蔵庫の奥には期限が切れておかしくなった納豆のパックがたくさん出てきた。今年の内に捨ててしまわなければならなかった。ゴミ箱に放り込もうとするところ、噂を聞きつけた邪魔師がシャツを引っ張って邪魔をする。仕事の邪魔をする奴は懲らしめなければならない。納豆パックの角を邪魔師の頭目掛けて振り下ろす。一転して逃げ惑う邪魔師。みんなの冷たい視線がこちらに向いていることが感じられる。本当に悪いのは邪魔師なのに、今この瞬間だけは、僕こそが悪者に見えているのだろう。それもすべて邪魔師の企みの中に組み込まれているのだった。そんな奴は懲らしめなければならない。はまっているとわかっていても、もはや憎しみが止まらないのだった。
翌朝になるとまたランドセルには自分ではない名前が記してあった。今度は家を出る時からすり替わっていて、疑いの目は内側にも向けなければならなかった。空っぽのランドセルの持ち主が僕以外にもいるのだろうか。
「どちらもあなたです」
おばあさんの声が聞こえた。
翌朝になると、ランドセルはやはり空っぽのままで、ちゃんと自分の名前が書いてあった。
歩道に布団を敷いて眠った。車道に近く、人目に触れやすい場所の方が安全だと考えた。布団の下に財布を隠していたが、眠ってしまえば誰か悪意のある者が現れた時に、易々と盗み取られてしまうのではないかと思われた。隠し場所としては、ありきたりすぎるのだ。いっそ枕の中に隠し込んだ方がよいと考えたが、今度は勘の働く悪意のある者が現れた場合、枕ごと持ち去ってしまうことが想像された。眠っている人間から枕を引き抜くことなど、悪意を持った者からすればあまりにも容易い動作に違いない。
気がつくと開店前の玩具屋の中に眠っていた。
「大丈夫?」
自分でもよくわからないことを言った。女は黙って頷いた。
「どこから来たの?」
「どこにも行くところがなくて、元の場所は今は思い出せません」
テーブルにつくと軽い朝食をいただいた。
2人の子供が手に千円ずつを握り、黙って差し出してくれた。
「ありがとう」
子供たちは階段を駆け上ると持っている水鉄砲で踊り場の蜂の巣を退治した。暴れ狂う蜂の群れに刺激されて、子供たちは成長して立派な兵士になった。今、手にしているのは本物のマシンガンだ。
映画のワンシーンのために気だるい夜の中を歩いた。誰もいない道、何もない壁、星のない空、主にフィルムに収まるのはそうした静かなものたちだった。交差点を通り抜けると突然巨大な扉が映し出される。ゆっくりと扉が開くと、更に次の扉が現れる。繰り返し扉が開き、ようやく赤い男が現れた。赤い男は自分の腹の肉を手で千切って首の下にくっつけると突起を作った。
「ふふふ」
また腹の肉を千切ると少し間を置いて突起を作った。
「ふふふ」
千切ってはくっつけて、笑う。狂っているのか、自慢しているのかわからない。等間隔に突起を作ることにも飽きたのか、赤い男はより深く自らの体を傷つけ改造し始めたように見えた。
「1つの恋が終わった時、その痛手を糧にして次の恋へ乗り移る」
破壊者は失恋についてを語り始めた。
「だが、私は違った!」
男の顔は虹に吼えるライオンで、体は星を這う鰐だった。
「黙れ!」
名刀フサンキラーを振り下ろし魔物を退治すると、冷凍倉庫に詰め込んだ。
冷蔵庫の奥には期限が切れておかしくなった納豆のパックがたくさん出てきた。今年の内に捨ててしまわなければならなかった。ゴミ箱に放り込もうとするところ、噂を聞きつけた邪魔師がシャツを引っ張って邪魔をする。仕事の邪魔をする奴は懲らしめなければならない。納豆パックの角を邪魔師の頭目掛けて振り下ろす。一転して逃げ惑う邪魔師。みんなの冷たい視線がこちらに向いていることが感じられる。本当に悪いのは邪魔師なのに、今この瞬間だけは、僕こそが悪者に見えているのだろう。それもすべて邪魔師の企みの中に組み込まれているのだった。そんな奴は懲らしめなければならない。はまっているとわかっていても、もはや憎しみが止まらないのだった。
翌朝になるとまたランドセルには自分ではない名前が記してあった。今度は家を出る時からすり替わっていて、疑いの目は内側にも向けなければならなかった。空っぽのランドセルの持ち主が僕以外にもいるのだろうか。
「どちらもあなたです」
おばあさんの声が聞こえた。
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