眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

改行ファンタジア

2019-03-11 22:22:00 | 短歌/折句/あいうえお作文

改行を刈り取るエコノミストからイスコへ渡るシュート性パス

(折句「鏡石」短歌)

 

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ふたりのランチタイム

2019-03-11 05:11:14 | 好きなことばかり
父と一緒に店を探して歩いた。ランチタイムの街はどこに行っても人でいっぱいで、少しでも気を抜いたら父を見失ってしまいそうだった。同じようなスーツを着ていても、それは父じゃない。似たような鞄を肩から下げていても、それは父じゃない。定食屋の前には額に汗を溜めた厳つい男たちが群がっていた。一瞬のぞき込んだ店の中はカウンターまでいっぱいだ。「いっぱいだな。他を探そう」父の言葉に頷いて歩き出す。歩道も交差点も、どこに行っても人でいっぱいだ。「お父さん。いい物件があります」感じ良さげな男が、オーナーになりませんかと誘ってくる。僕らはしばし足を止めて話に耳を傾けた。「資金がない」父は少し申し訳なさげに言って断った。ラーメン屋の前には書類を詰めたファイルを抱え込んだビジネスマンが群がっていた。順番を待つ間にも手帳を開きスケジュールを確かめる姿が目に付く。みんな忙しそう。店の中は見るまでもなくいっぱいだった。「いやー。いっぱいだな」僕らは次の場所を探して歩き出す。

 右か、左か、どちらが栄えているのかもわからない。迷った仕草をして足を止めると、見知らぬ男がいい話を持って近づいてくる。「お父さん。いつも歌ってるんでしょう」今度うちでも歌わないかと男は軽い調子で誘ってきた。「いえいえ」それほどのもんでもと父は頭を下げて断った。男は名刺を父の手に置いて、雑踏の中に消えた。「不思議な人がいるもんだな」カフェの前には大きなボードがあり、見たこともないない料理の横に見たこともない書体の文字が並んでいる。派手なシャツに身を包んだ若者たちが次々と中に入っていく。店の扉が開く度にクリスマスのような明かりが見えた。「いっぱいか」確かめるまでもない。何となくそのように感じられた。

(ここは僕らのくるとこじゃない!)

「どこもいっぱいだな」信号を待っていると雨が降り出した。僕らは傘を準備していなかった。予報とはずれている。今日ではなかったはず。「もう少し行ってみるか」人足は絶えて道はだんだんと細くなっていった。それは我が家へと続く道だった。

「ただいま」家の中には誰もいない。疎ましい人混みも、危険な交差点も、父をほめてそそのかす声も……。「これでいいな」ケトルが暖かく明かりをつけた。(これがいい)最初からそうすればよかった。ぐつぐつぐつぐつ。小さな旅が最高の空腹を作り上げてくれた。あと3分すれば『カップヌードル』ができあがる。


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