自由の森日記

埼玉県飯能市にある自由の森学園の日常を校長をはじめ教員たちが紹介

2016年度 自由の森学園高等学校入学式 校長の言葉

2016年04月18日 | 自由の森のこんなこと
高校校長の新井です。
4月11日に高等学校の入学式が行われました。
2年生3年生のみなさんの心のこもった素敵な入学式でした。
その時に私がお話をしました「校長の言葉」を掲載します。



2016年度 自由の森学園高等学校入学式 校長の言葉

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。
保護者のみなさん、お子さんのご入学おめでとうございます。
みなさんが今日入学したこの自由の森学園は、授業という場を通して、学問や芸術の世界に出会い、また自分とは異質な思考や価値観に出会うことにより、自己を問い直し、自己を形成していくこと、つまり「授業での学び」を通して「自分をつくる」ということを大切にしようと誕生した学校です。
今日はこの「授業で学ぶ」ということについて少しお話をしたいと思っています。






ここにラディッシュと細ねぎがあります。
この野菜は、自由の森学園の食堂で、今日か明日の料理に使われる食材です。
そして、この野菜をつくっているのは、埼玉県小川町の金子美登さんたちの農業グループ1です。
金子さんたちのグループが作る野菜の特徴は、農薬や化学肥料を使わない「有機農業」でつくられているということです。金子さんたちの有機農業グループは、自由の森学園開校当時からこの野菜を届けてくださっています。

数年前、私は生徒たちと一緒に金子さんの霜里農場に見学に行ったことがあります。
金子さんが真っ先に案内してくれたのが、「有機農業」の基本であり生命線だという「土づくり」の現場でした。
落ち葉や雑草、わらや植木くずに、生ゴミや牛糞や鶏糞などなど、普通だったら捨ててしまうようなものをよく混ぜて積んでおき、しばらくするとそれらが70度くらいの高い熱を発するようになるそうです。実際に私たちが見せてもらったときにも湯気がモウモウと上がっていました。
みなさん、どうしてこの熱が発生するかわかりますか?そうです。微生物の働きによる発酵という現象ですね。この熱で病原菌や害虫・その卵・雑草の種は死滅し、なお有機物の分解も進み、「たい肥」ができあがります。この「たい肥」を畑の土にすき込むことで、ミミズやトビムシなどの小さな動物や微生物が生息できるふかふかの土になっていくそうです。このふかふかの土は必要な養分だけでなく、その土の隙間で水分や温度を調整することができるため日照りや冷夏にも負けない強い土地になるそうです。
 
速効性のある農薬や化学肥料ではなく、あえて、自然の循環サイクルを活用したたい肥・土づくりは、どこか自由の森が大切にしている「学び」と共通しているように私は思っています。
自由の森学園の学びは「どれだけ覚えているか」「どのくらい早く解けるか」といった数値や量で比べるものではありません。

日常の授業では何らかの「発見」や「引っ掛かり」が生まれます。
「なるほど」「わかった」「美しい」といったものから、
「この授業のこの人の考えやものの見方は自分の中にはなかった」
「今まで正しいと思っていたけれど本当にそうなのか」
「何かおかしい。けれどどうおかしいのか今はわからない」といった簡単に結論を出すことができないものもあるでしょう。

簡単にわからないもの、なかなか納得できないもの、複雑でめんどくさいものなどを諦めて捨ててしまうのではなく、疑問や問題意識として自分の中にとどめて置き、考え続けていくことが大切なのです。
自分の疑問や問題意識に誠実に向き合っていくうちに、それぞれがつながりを持っていったり、自分の大切にしたいものへと変化していったりするでしょう。あたかも土づくりの発酵のように学んだことが熱を持ち始めると言っていいでしょう。そして、それは次の学びや生き方へと照らす光のようにも思えます。

農薬や化学肥料を使わない有機農業が評価されはじめたのは1970年代の後半だと言われています。そのころの日本は経済優先の政策の弊害が様々なところに出ていました。急速な工業化による環境汚染が食べものにも大きな影響を及ぼし、「水俣病」「イタイイタイ病」など人体への重大な被害としてあらわれました。少しでも安く、早く、大量に、見映えのいいものをという競争は、自然環境や食の安全を、そして人間をも置き去りにしてしまったのです。
ここでは時間がないのでお話しすることができませんが、学校教育もまたこの経済優先の政策に組み込まれ様々な弊害が生まれました。そしてそのことが1985年の自由の森学園設立へとつながったのだと私は思っています。

霜里農場の金子さんは「自分の生命は自分で守る。自分の生命を他人にあずけないことこそ大切だ。」と語っています。
「誰かに自分を丸投げするのではなく、自分の頭で考え、判断し、行動していくこと」このことが自由と自立へとつながる自由の森学園の学びだと私は思っています。

さあ、いよいよみなさんの自由の森での学びが始まります。
学びの土づくりは自分一人だけでおこなう作業ではありません。クラスの仲間、学年の仲間、そしてここにいる自由の森の生徒たち、教員たちとつながりながら協力しながらおこなうことなのです。
これからはじまる学びの土づくりで、みなさんの中にうまれる熱と光が希望であり未来です。しっかりと学んでいってください。入学おめでとう。

自由の森学園高等学校
校長 新井 達也

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