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道端に転がっている石でもなんでも売ってみせる

2016年08月21日 | コンサルティング

こう言い切ったのは、ある商社の営業マンA氏でした。それは今から10年ほど前のことで、当時A氏は45歳、食品を扱う中堅商社の営業課長で会社の中でもエース的な存在でした。

「道に転がっている石に価値があるんですか?」と私が聞くと、「価値があろうがなかろうが、私の営業力ならなんでも買わせることができますよ。」と自信満々で答えました。

私はA氏のセールストークを一度聞いたことがありました。確かに「雄弁かつ、立て板に水」、「明るい表情と前向きな態度」、「清潔感を感じる服装」などパーフェクト・セールスマンとはこういう人なのかと思わせるものがありました。

その後A氏に再び会ったのはそれから10年後、つい最近のことです。さぞや出世していることだろうと思ったのですが、意外にも営業課長のままでした。多少老けた感じはありますが、相変わらずの「ザ・セールスマン」という感じでした。

「いやー、7年くらい前のことですけど、私の上司に社内でも頭が固いので有名なBって奴がなっちゃいましてね。」A氏が愚痴をこぼしはじめました。B氏は私も面識があり、年齢的にはA氏とほぼ同じくらいで、とても真面目な印象の方です。

「B部長は、売るためにはまず商品知識をつけろ!って言い始めて、営業部の若手連中を仕入先の食品メーカーに出向させたり、食品衛生法の専門家を呼んで講習会をやったり、もう、お客そっちのけで勉強ばかりさせて・・・おかげでみんな頭でっかちの営業マンになってしまったんですよ。」

その後もA氏のB部長に対する愚痴は止まりませんでした。最後に私からの質問で「道端に転がっている石でも売るのが営業マンですよね?」と聞いてみると、「そのとおり。なんでも売ってくるのが営業ですよ。」と相変わらずの口ぶりで答えました。

さて、A氏が勤務する商社の業績をネットで調べてみると、彼が所属する冷凍食品部門の売り上げが5年ほど前から大きく伸びていることがわかりました。それ以前は、横ばいというよりもむしろ低下気味でした。今や冷凍食品部門は、同社の主流である飲料部門に迫る大きさになっています。これはどう考えてもB部長の功績です。

営業力とは何かを簡単に定義することはできませんが、少なくとも営業担当者が扱っている商品に関しては、顧客よりも深くそして広い知識が必要です。その典型的な例はMR(Medical Representatives)でしょう。

MRは、製薬会社の営業担当者です。その仕事は自社の製品を売ることですが、同時に、医薬品に関連する様々な情報を医師、薬剤師、看護師に提供し、安全性に関する情報を医療の現場から収集して、自社にフィードバックする役割を担っています。

MRとまではいかなくとも、営業担当者にとってその商品に関する深い知識と応用についての情報は何よりも大切なのではないでしょうか。

顧客が知りたいことにしっかりと答えるためには、「その商品」についての圧倒的な知識量が要求されます。また専門知識だけではなく、日々新しい情報についても学び続ける必要があります。「なんでも」売れる営業力というのはまったくの幻想にすぎません。

だから優秀な営業担当者は「なんでも」なんて決して口にしないのです。


(人材育成社)