中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

喫煙者の離席時間

2017年08月30日 | コンサルティング

28.2%と9.0% 

これは一体何の数値だと思われますか?

答えは、成人男性・女性それぞれの喫煙率です。(2017年JT全国喫煙者率調査)最近の若い人はあまりタバコを吸わないなと感じていましたので、私は思っていたよりも高い数値だなと感じました。皆さんはこの数値をどう感じますか?

この喫煙率ですが、ピークだった1966年の83.7%(男性)と比較すると、ご覧のとおり大きく減少しています。因みに世界の喫煙率 国別ランキングでは日本の喫煙率は25位となっています。

それでは、ビジネスパーソンの喫煙率はどれくらいなのでしょうか?

はっきりした数値はわかりませんが、弊社が担当させていただく研修の受講者の様子から判断すると、おおむね全国喫煙者率調査と同様で、30%弱くらいではないかと推測しています。

こうした中、近年では、席を外してたばこ休憩をとる喫煙者の喫煙時間を問題視する企業が増加傾向にあるように感じています。

仮に1時間30分に1度、1回につき10分ほど離席して喫煙するとしたら、1日に5回喫煙するとして50分、1週間で4時間10分、1か月では16時間40分、年間では何と200時間も喫煙のために席を外していることになってしまいます。

一方で、非喫煙者はこの間も仕事をしているわけですから、両者の業務時間は大きく異なってきます。問題視されるのも当然と言えます。

 喫煙者にこの話をすると、ほとんど全員が「喫煙中は有効な情報交換の場になっている。さらに喫煙することによってリフレッシュするために、その後の集中力が高まる。この時間は決して無駄にはなっていない」と言います。

確かにそれも一理あるとは思いますが、それでは、非喫煙者は情報交換ができなかったり、集中力が落ちてしまったりしているのでしょうか。結論は言わずもがなですね。

 2015年6月から、企業に対して職場における受動喫煙防止の努力義務が課せられるようになりました。企業にとっては、喫煙する社員の疾病リスクが高まることに応じ、医療費の増大とそれに伴う保険料率のアップがますます懸念されます。これまで以上に喫煙者への対応が求められることになるわけです。

さらに、働き方改革により労働生産性のより一層の向上が求められています。そうした中で、喫煙のために一定の時間(それが積み重なれば、結構な長時間)席を離れることは、労働生産性を低下させる一因であると考えられるようになっています。

それを裏付けるように、弊社が研修を担当させていただいている企業の中にも、喫煙をやめさせるために様々な誘導策を講じています。たとえば非喫煙者に対して報酬の上乗せをするところが増えてきているように感じています。昨日の報道でも9月から新たにこの制度を設けようとしている企業の例が紹介されていました。

私が社会人になりたての頃は、今のように受動喫煙の問題などは全く気にされておらず、自席で喫煙する人と机を並べて仕事をすることが普通でした。今思えば、たばこを吸わない私にとっては、ただただ辛く感じられた時代でした。

あれから数十年、喫煙に関する問題の内容も時の流れとともに変化してきているのです。

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「革命」で育成はできるのか

2017年08月27日 | コンサルティング

「人づくり革命担当大臣って、何なの?」ここ最近、私の周囲で話題に上ることが多い素朴な?疑問です。今回の内閣改造で新たに創設された大臣の名前ですが、「革命」と名乗るなど非常に勇ましい感のある名称です。

新しい内閣の看板政策として掲げたものだそうです。先日テレビ番組に出演していた茂木大臣は自身の役割として、「すべての人に開かれた教育機会の確保や、社会人の学び直しなどを検討したい」と話していました。

この大臣名についている「革命」という言葉ですが、実際にはどういうことを指しているのでしょうか。「革命」という言葉を改めて辞書で調べてみると、一つには「ある状態が急激に発展、変動すること」という意味があります。

今回の「人づくり革命」のねらいの一つには幼児教育の無償化があるようです。しかし、何事も急激に発展させたり変動させたりすることは、簡単なことではないことは言うまでもありません。あまりにも急に成果を求めすぎると反対にはっきりした効果が出なかったり、結果として痛みを伴ったりすることは意外によくあることです。

このように、何事においても「革命」を起こすのは大変なエネルギーがいることですが、こと「人の育成」に関しては、変化や効果は簡単に得られるものではないと考えています。人材育成においては「革命」という言葉のニュアンスほどの急激な変化=「人の実際の育成」につなげることは決して簡単ではないです。その意味で「革命」という言葉は現状に合っていないと思います。

たとえば、パソコンスキルのように習得すればすぐに使えるようなスキルの場合で、新たに効率的なやり方を習ったとしても、その人が実際に試したり使ったりしなければ、身に着けることはできないわけです。

私自身、かつてパソコン教室に通ったことがあります。そこでいろいろ便利な機能を伝授されました。しかし、すぐに復習したり実際に試したりしなければ、身に着ける前に時間の経過とともに忘れてしまうわけで、実際にそのようなことがありました。

たとえ効率的な方法であっても、実際に「自分のもの」になっていないと、急いでいたりするとつい、従来の慣れたやり方で作業をしてしまったりします。こうなると時間をかけて習ったものが結局は宝の持ち腐れになってしまうということです。

難しい知識やスキルであっても、パソコンのように試すことをすれば身に着けやすいようなスキルであっても、本人が実際に取り入れてみようとするか否かによって結果は異なります。

要は、本人のやる気が結果を大きく左右するということです。人材育成においてはこの本人のやる気をいかに引き出せるかが重要な要素ではないでしょうか。

この意味で、弊社の行う人材育成は決して「革命」ではありません。しかし、着実に成果をあげられることを目指しています。

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国語教育に「ビジネス文章」を! 

2017年08月23日 | コンサルティング

「『このまえ、プールに行きました。とても楽しかったです。』事実と感情を伝えただけのこの文に、いろいろな言葉をどんどん加えていきましょう。」これは、小学校の国語科講師向けのウェブサイトにあった記述です。「自分の気持ちや周りの情景を丁寧に伝えることで、ぐっと印象的な作文になります。」と指導するよう勧めています。

こうした「気持ちや情景」を文章にすることで、優れた作文に仕上がるというわけです。

一方、ビジネスメール、提案書、説明文、議事録など、ビジネスパーソンが書くべき文章に「気持ちや情景」は必要ありません。ですから、小学生の頃に上手な作文が書けた人でも、良い仕事の文章が書けるとは限りません。いや、子供の頃上手に書けたからこそ「作文の呪縛」に囚われて駄目なビジネス文章を書いてしまうのです。

「朝7時に起きて、顔を洗い、7時20分から朝ごはんを食べました。お茶わん1杯のご飯と卵焼き、あさりの味噌汁でした。7時50分に家を出て、8時15分に学校に着きました・・・」 小学校では駄目な作文の例として、このまま教科書に載せられてしまいそうですが、ビジネス文章として見ればごく普通です。

とはいえ、私は小学生の頃からビジネス文章のような、簡潔で論理的な文章を書く訓練をするのもどうかと思っています。

小学生の頃は、大いに「気持ちや情景」を込めた文章を書く練習をするべきです。たくさんの物語を読んで、気持ちを高ぶらせたり、悲しくなったり、怖くなったり、喜んだりすることで人間的な「心の働き」がわかるようになるからです。それを自分の言葉で表現することで、心が豊かになるのではないでしょうか。

ただし、中学生になってからは、徐々にビジネス文章を意識した作文を書く練習を始める必要があると思います。同時に、そうした文書の骨格になる論理思考の習得も欠かせません。

ところが、中学や高校の国語の授業では、社会評論や学術書といった抽象度の高い文章を読ませます。大学受験という「ふるい」にかけるためには、どうしても「わかりにくい」文章が必要だからです。受験では簡潔で明瞭、すなわち「短くて誰が読んでも誤解することなく正しく伝わる文書」は役に立たないのです。

小学校と中学・高校との文章に関するこのギャップを埋めるのは、ビジネス文章以外にないと思います。特に高校の国語では、抽象度の高い文章の量を思い切って半分以下にし、ビジネスで使う文章を習得させるべきです。

その際、単なるビジネス文章(報告書や議事録など)を対象とするだけでは不十分です。

私は「テクニカル・ライティング」の授業が必須であると考えています。

たとえば、ある家電製品の取扱説明書を国語の授業で書かせてはどうでしょう。 製品の仕組みや構造、使い方、注意点を先生が口頭で伝え、それをノートに書き取った後で、実物の製品を見ながら取扱説明書を書いてみる、そんな授業です。

大学生になってからでは遅すぎます。 高校生に「テクニカル・ライティング」を学ばせましょう。間違いなく文系も理系も、社会人になってから「使える文章」を身に付けることができます。

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管理職が守るべき会議の原則

2017年08月20日 | コンサルティング

あなたの会社では会議が多いですか?「わざわざ集まる必要あるかなあ・・・」、「時間が無駄だなあ・・・」と思ったことはありませんか?それはあなただけではありません。日本中の会社のすべての人々が無駄な会議をなくしたいと思っています。ある調査によれば、5,000人以上の企業では48.5%が「無駄な会議等が多い」ことを問題としています※1。もちろん会議が好きな人(その多くは管理職です)は多くいますが、少なくとも無駄な会議で時間を浪費することに賛成する人はいないでしょう。

・・・それなのになぜ日本から無駄な会議がなくならないのでしょう。

その原因は、日本人に「刷り込まれた」会議に対する考え方にあると思います。

自治体のホームページには「会議運営の規則(会議原則)」が必ず載っています。この場合の「会議」とは、議会(都府県市町村議会)で行う様々な会議を指しています。こうした「会議原則」は「経験則から(中略)形成された自然共通の原則(Wikipedia)※2」になっています。「会議原則」は、民主的な意思決定の在り方を実現するために守るべきものです。また、私たちが小学校で習った「学級会の進め方」もこれに近い原則から成り立っています。

十分に調べたわけではありませんが、「会議の原則と運営:寺光 忠 (著)、毎日新聞社、1948年」あたりがこの原則の元になっていると推測しています。1948年(昭和23年)は太平洋戦争終結から3年目です。この頃に、民主的な会議の考え方が広く一般に受け入れられたのだと思います。それに伴って「会議とは原則に従って行われるべき崇高な行為である」という暗黙の了解が生まれたのではないでしょうか。

現代に至っても、管理職以上の人たちはこの崇高さが気になってか(気に入ってか)、自分がこの場を仕切らなければならない、効率化など後回しだ、と知らず知らずに思い込んでしまい、それが会議を無駄に長くしてしまう原因になっているのだと思います。

私の体験でも、ある時会議がかなり長引いたので「そろそろ終わりにしませんか」と私が発言したところ、会議を仕切っていた役員「大事なことを話しているんだ!時間なんか気にするな!」と怒られたことがあります。

企業の中で行われる会議は、国や自治体の会議とは質が違います。経営者が企業の進路を決定するような場合を除けば、社内のほとんどの会議は「今決めて、すぐに実行」するためのものです。「在り方」に関する原則も大事ですが、それよりも効率を重視しなければなりません。

かつて土光敏夫氏(元経団連会長)が作った「会議の5原則」を次に示します。これこそ無駄な会議を無くし、企業の効率アップに真に貢献する「会議原則」です。

1.会議では論争せよ。会議は報告や説明の場ではない。資料として、事前に配っておけばよい。会議は議論の場であり、対立を恐れてはならぬ。

2.会議は真剣勝負の場である。一対一の立合いであり、一人で出よ。助太刀を求めてはならぬ。

3.会議では全員発言せよ。参加者はみな対等である。肩書きの上下など気にするな。遠慮は無用。全員発言すべきで、発言せざる者は、参加の資格なし。

4.会議は一時間単位でやれ。会議の効果と時間の長さは、何の関係もない。肝心要の急所を押さえれば、そんなに時間はかかるはずがない。幹部が職場のイスを長くあけるのは罪悪だ。

5.会議は立ったままやれ。会議の要諦は、気軽にやることだ。立ったままでも会議はやれる。

経営者、管理職の皆さん、是非この5原則を会議室の壁に貼り付けておいてください。

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※1 NTTデータ経営研究所が2012年に実施した「会議、ミーティング、打ち合わせの実態調査」による。
※2 会議原則 - Wikipedia


若手社員には「カバン持ち」をさせよう。

2017年08月16日 | コンサルティング

会社の規模の大小にかかわらず、若手社員をどうやって育てるかは大変悩ましい問題です。最良の育成方法は、時間をかけてじっくり育てることです。若手には指導・教育係のベテラン社員を付け、実践を通じて育成していくことがベストです。いわゆるOJTですね。そして、仕事の中で時には小さな失敗を繰り返し、多くの先輩達のアドバイスを得て、徐々に実力をつけて行きます。

しかし、近頃は大企業であってもそうした恵まれた環境はほとんど存在しません。若手で経験が浅くても、OJTも研修もそこそこにフル稼働させられるのが普通です。

それに上司、先輩たちもやたらと忙しく、長い時間若手社員に付き合ってなどいられません。ですから、新しい知識やスキルを手に入れる時間や周囲の支援もほとんど期待できません。

では、そうした「ないない尽くし」の状態で、どうやって若手を育てたら良いのでしょう。

最も良い方法は、「上司のカバン持ち」をさせることです。上司といっても直属の、ではなく2段階から3段階上の人物が望ましいです。上司の上司(のまた上司)、役職で言えば部長や本部長クラスです

「それに何の意味があるんだ!」とか「基礎的な知識やスキルが身に付かないではないか!」という声が聞こえてきそうです。

そこは将来に向けての投資だと思って、ぐっと堪えてください。

カバン持ちという表現をしましたが、具体的には、部長やそれ以上の役職にある人の仕事を傍らで観察することです。そうした立場の人は、日常的に前工程や後工程とのコミュニケーションを多くとります。

それをつぶさに観察して、「前・後」の仕事の内容や視点(考え方)を知るのです。それは非常に大きな学びになります。曖昧な表現ですが「仕事の意味を理解する」ことができます。

もちろん、社内出向という形で他部署を経験させることも悪くはありません。ただし、若手という「低い」地位のまま部門間を異動しても、邪魔者扱い、あるいは雑用係にされて終わる可能性が少なからずあります。

他部署からみれば、カバン持ちも同じように邪魔者でしょう。しかし本部長という「巨人」の肩の上に乗っていれば、邪険に扱うことはできません。他部署の管理職に色々と質問しても、丁寧な答えが期待できます。

ちょっと強引な方法かもしれませんが、一時的にせよ若手社員の視点を一気に持ち上げて会社全体を俯瞰(ふかん)させることは、モチベーション(やる気)を高め、退職を防ぐために有効な手段であることは間違いありません。

仮に、その結果若手社員が失望するとしたら、そもそも会社として問題があるということです。

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日銀副総裁が答える「日本で物価が上がらない理由」

2017年08月13日 | コンサルティング

2013年、日本銀行は沈滞する日本経済に対する施策として、物価安定(上昇)目標を2%と定めたインフレターゲットの導入を決めました。インフレターゲット(inflation targeting)とは、政府・中央銀行が物価上昇率(インフレ率)の目標を定め、それに収まるように金融政策を行うことです。しかし、昨年11月、日銀は2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に延期するなど、目標達成はまだ先のようです。

日銀の中曽副総裁は、物価や賃金が上がらない現状について「日本企業はコストの増加をビジネス・プロセスの見直しや、自動化など、生産性の向上で対処してしまうため、価格に転嫁されにくいからだ」※1と述べています。つまり、企業は生産性をどんどん向上させてしまうので、製品価格に転嫁されず、物価上昇が起こらないのだというわけです。

多少経済学の知識がある人ならば、この理屈が理論的に正しいことが理解できるはずです。

中曽氏にしてみれば「企業が生産性を上げる努力などしないで製品の値段を上げていれば、日銀の設定した物価上昇率2%が達成され、日銀としての面目が保てたはず」と言いたいのでしょう。企業の生産性向上の努力が、日銀の面子をいたく傷つけてしまったようです。

一方で、政府は「働き方改革」の旗のもと、企業に対してもっと生産性向上を実現せよと迫っています。日銀か政府か・・・うーん、どうしたらいいのでしょう。悩みますね。

さて、中曽副総裁は「企業は生産性をどんどん向上させてしまう」とぼやいていますが、具体的にどのようなことを行っているのでしょう。「ビジネス・プロセスの見直しや、自動化など」と言っていますが、具体例は挙げていません。

一部分にしか過ぎないかもしれませんが、「大企業の仕事を引き受ける中小企業(下請け)がしわ寄せを受けている」という報道もあります※2。たしかに、従来どおりの成果を上げつつ残業規制を行い、様々なコストカットを実行すれば企業の生産性は向上します。

ただし、あくまでも「企業の中の仕事を効率化」することが条件です。従来どおりの仕事のやり方を続けながら「残業禁止!」となれば下請けにお願いする部分が増えることは必然です。

その際、下請け企業がその分請求金額を増すことができれば、必然的に発注側のコストが増加し、最終的には製品価格に転化されることになります。結果として2%のインフレ率は達成できるはずです。

もちろん、公正な取引のルールを守りながら生産性向上の努力を続けている企業もたくさんあります。しかし、中曽副総裁が「価格に転嫁されない」と明言していますから、結局は下請けが吸収している部分も多いのではないでしょうか。私の(狭い)体験でも「無理を承知で受けないと切られますからね」といった中小企業の経営者の声を耳にします。

中曽副総裁は、日本の社会が「賃金や物価が上がりにくいことを前提にした考え方が根強く残っていることが原因」と指摘しながらも「こうした状況はいつまでも続かない」と言っています。

しかし、それは楽観的に過ぎると思います。おそらく、日本経済の大部分を支えている中小企業という存在について、いまひとつ実感が湧かないのでしょう。

政府や日銀の要職に就いておられる方々の経歴を見ると、それがわかるような気がします。

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※1「日本で物価が上がらないのは、生産性を上げてしまうから」ってホント? 

※2 <働き方改革>「残業しわ寄せ」に苦しむ中小企業の対応 

 


「すぐに使えることを教えてほしい」

2017年08月06日 | コンサルティング

「すぐに使えることを教えていただきたいのです」

今までに幾度となく、研修のご担当者から依頼された言葉です。

また、研修実施前の打ち合わせのときや、研修当日の開始前に担当者よりも上の役職の方が挨拶にいらして下さったときなどにも、おっしゃることがある言葉でもあります。

即戦力、即効性が求められる現代、研修を行う企画する側からすれば、せっかく研修を行うのだから受講者から「出席した甲斐があった」、「この知識やスキルはすぐに使える」という声が欲しいということです。

「研修の成果や効果を測りにくい」ということは、古くて新しい議論です。だからこそ、「即、研修の成果が欲しい」ということになるのでしょう。

限られた人材育成の予算の中で行う研修だからこそ、費用対効果がはっきり欲しいというふうになることは当然のことです。

しかし、「すぐに使える」ことを否定するものではないのですが、一方であまりにもその点だけを追求してしまうことにも少々違和感があります。

このようなときに思い出すのが、「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という言葉です。

この言葉は、戦前から戦後すぐまで慶応大学の塾長を務めた経済学者の小泉信三氏が著書の「読書論」の中で、工学博士だった谷村豊太郎氏が「直ぐ役に立つ人間は、直ぐ役に立たなくなる人間だ」と言って性急な人材育成を戒めたという逸話を紹介したものです。

そこから、様々な人がこの言葉を引用することによって、世間で広く使われるようになりなったそうです。

現代は、以前にも増して高い効率や生産性が求められる時代であり、「目の前」のことももちろん大切です。しかし、そういう時代だからこそ大事になってくるのは、部分だけでなく全体をとらえる視点だと思うのです。

自分が担当する仕事だけでなく、組織全体をイメージし職場全体の問題をとらえる広い視点で考えたり、さらに解決したりするためには少々エネルギーを必要とするような問題にも果敢にチャレンジして、周囲を巻き込んで解決しようとする力も必要になってきます。

こうした力は一朝一夕には身につきません。自ら時間をかけて学び、様々な経験を経ることで、徐々に身についてくるものです。

そして、こうした力を身に着けないと、これからの時代、少し状況が変化しただけで的確な対応ができないことになってしまいかねませんから、まさに必須のものと言えます。

「すぐに使えること」が重宝される時代だからこそ、「すぐには身につかないけれど、時代が変化しても対応出来得る力、人生の糧になる力」を大切にしていかなければならないと考えています。

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コミュニケーションとは「伝わらない」ことが前提だということを知っておこう

2017年08月02日 | コンサルティング

ほとんどの研修会社は「コミュニケーション」をテーマにした講座を持っています。ホームページには概ね次のような言葉が書かれています。「相手の話を傾聴し、適切な質問を行うコミュニケーション・スキルを身に付けることで、職場の上司や同僚、顧客とのより良い関係を築くことができます。」・・・もちろん当社も同様の研修を行っています。

ところで、トレーニングよってコミュニケーション力はアップするのでしょうか。

答えははっきり、YESです。

ただし、コミュニケーションとは「伝わらない」ことが前提だということを認めなければ、そのスキルも宝の持ち腐れになってしまいます。

人間は言葉を話す能力を獲得したことによって、非言語的な能力がかなり低下してしまったそうです。言葉を持たない動物同士がコンタクトするときに、目つきや動作、微妙な雰囲気のようなものから相手の意図(攻撃的かそうではないか)を瞬時に判断します。

人間同士であっても、言葉がまったく通じない場合では似たようなことになるでしょう。たとえば、古代のヨーロッパ大陸のように、様々な民族が接触する機会が多い状況を考えてみます。髪や目の色が違い、体の大きさも異なる人間同士が始めて出会ったら、お互いに敵意がないことを示すためにジェスチャーをしたり、互いの身体に軽く接触したりすることでしょう。欧米人の「握手」という習慣はその名残かもしれませんね。

一方、日本では握手をする習慣がありません。外部と海で隔てられた島国であったため、見た目が極端に違う者同士が接触するということが、ほとんどなかったからです。

しかし、現代のビジネスの現場においては、(見た目はさておき)異なる考え方や行動パターンを持つ人間同士が接触します。古代のヨーロッパのように「伝わらない」ことを前提にコミュニケーションをとることが必要なのです。

極論を言ってしまえば、同じ職場の上司や先輩、同僚、部下、後輩に対しても「自分が本当に言いたいことは伝わらないかもしれない」ということを前提にしなければなりません。もちろん、相手を疑ってかかれというのではありませんが、研修でスキルを身に付けたからコミュニケーションは完璧である、などと思わないことです。

その点をきちんと伝えていない研修講師のなんと多いことでしょう。

さて、今回の話、伝わったでしょうか?

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