中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

ビジネス書はきっかけに過ぎない

2016年07月31日 | コンサルティング

「その本を読んだことがきっかけではありました。」3年間連続でNo.1セールスをキープしているAさんの言葉です。そのとき私は、クライアントのある計測器メーカーから依頼されて「優秀なセールスパーソンのコンピテンシー」を調べていました。

Aさんは現在30代後半ですが、昨年から大きな営業所の所長として約20人の営業マンを率いる立場に就いています。彼は今でこそ全国で300人以上いるセールスパーソンのトップに君臨していますが、20代の頃は「最低最悪のダメ営業マン」だったそうです。

「入社以来、営業成績は下から10番以内でした。本社の営業部にいたのですが、毎月の営業成績がグラフで貼り出される月初は出社が辛くて仕方がありませんでした。」事務担当の女性社員からも”ブービーちゃん”と陰口をたたかれていたそうです。

「ブービーと言うより”ブービーメーカー”のときが多かったんですけどね。」そう言って笑うAさんからは、そんな暗い過去を一切感じません。

そんな「ダメ営業マン」のAさんが28歳の時に「その本」を手にしました。

「最初に配属された総務部から営業部に異動して2年が過ぎていました。ある日、会社に帰る途中に大きな書店があったので、ふらっとそこに入りました。」「転職しようと思って転職成功テクニックとか履歴書の書き方とか、まあ、そんな本を探そうと思ったんです。」

その時、何の気なしに手に取った「その本」がAさんの飛躍のきっかけになったそうです。

「それはビジネス書コーナーの端の方に1冊だけありました。タイトルに”気の弱い営業マンのXXX”と書いてあったのがちょっと気になって手に取ってみました。」「ぱらぱらと読んでみたのですが、特に”すごい!”と思ったわけじゃありません。ああなるほど、言われてみればそうだよな、くらいでした。」

Aさんは、取りあえずその本を買って帰りました。そしてすきま時間を使いながら、2週間ほどかけてその本を読み終えました。

「読み終わっても特に感動したわけでもないのですが、そこに書かれている”ある行動”をとりあえずやってみようと思ったんです。」「それは、お客さんとの会話をていねいに記録して、翌日に読み返し、今後取るべき行動など思いついたことを追記することです。そして、1週間後、1か月後、3か月後に読み返すのです。」

何だか地味な作業ですねと私が言うと、Aさんは「そうなんですよ」と言ってうなずきました。

「総務部にいたときに工場の空調機や配電盤の点検ノートを付ける仕事をしていたので、それに比べたら楽な作業だなと思って。」「簡単なイラストも入れたり、記録も自分なりに工夫して行くうちにいつの間にか1年近く過ぎたんです。もっとも、その間も営業成績はビリの方でしたけど。」

その営業記録ノートを1年付けてみて、結果が出なかったら転職しようと思っていたそうです。「ギリギリ20代なら転職も何とかなると思っていましたし。」とAさん。

「1年経ってノートも5冊目に入った頃です。何度も読み返すうちに、お客さんのパターンというか考え方みたいなものが、何となく見えてくるようになってきました。たとえば、T社はそろそろシステムを買い替える頃だな、予算規模から推測すると、設計と製造と品質管理も絡んでくるから”システム選定委員会”を立ち上げるな、とか。」

そうしてAさんはお客さんの行動に「先手」を打つようになりました。

成果が表れたのは30歳になってからでした。

「お客さんはものすごく忙しいから、自分の直近の仕事以外はわりと忘れていることが多いんです。そこを、ちょっとだけ早めにこちらから助けてあげるだけです。先手ってそういうことです。実はそれが結構効果的なんです。」

しかも、お客さん(顧客企業)の担当者が変わっても、過去の記録があるので仕事のつながりが切れることがないそうです。「新しい担当者に、引継ぎでは聞けなかった過去の情報を教えてあげることでとても感謝されたりします。」とのこと。

さて、私はAさんに「その本」を部下にも読ませているかどうか聞いてみました。

「いいえ。以前、ある若手に読ませたのですが、何の変化も起こりませんでした。確かに、私も取り立てて感銘を受けたわけでもありません。本はきっかけに過ぎません。それより、1つでも良いから”先手”につながる行動を続ける、これに尽きます。」

私は凡人ですと言い切るAさんですが、凡人こそ営業に向いているのかもしれません。

(人材育成社)



営業場面で慣用句の使い方

2016年07月27日 | コンサルティング

「営業部隊にメスを入れたい」

中小企業の社長からコンサルティングの依頼をいただく際に、このように言われることがあります。また、同じように「うちの営業は腰が引けていて」「営業に出かけていても、油を売っているのか、契約につながらない」というような言葉もよく聞きます。

これらは、いわゆる慣用句と言われる言葉で、2語以上の単語が結びついて、全く異なる意味を持つもので、定型句として用います。

弊社が行う営業コンサルティングの現場では、営業パーソンに対して、お客様から聞いた話に応じて次に続けるフレーズを、ある意味で慣用句的に覚えていただくことも行っています。

営業に使えるさまざまな慣用句を覚えていただくことによって、場面・場面に応じて適切に対応できるようになっていただくことを目的に行っているものです。

しかし、慣用句的なフレーズを覚えることにはプラスの面がある一方で、マイナス点もあると感じることがあります。

今年も7月初旬から、百貨店やスーパーをはじめとして多くの店でサマーセールが始まっています。それらの店の中で、特に衣料品を扱っているお店で頻繁に使われるフレーズが、「ご覧くださいませ」です。

しかし、この「ご覧くださいませ」が「えっ?」と思うような使い方をされている例が多く見かけられるのです。

お店に入ろうかどうか迷っている人に、「ご覧くださいませ」と声をかければ、お店に入ることを促すことになるかもしれません。でも、既に店に入って商品を手に取ったり体にあてていたりしている人に対しても「ご覧くださいませ」を連発されることがよくあります。

そういう場面では、内心「もう既にこうして見ていますよ」と思こともあるのですが、むしろ、このような場面では「ご用があれば、お声をおかけください」とか、「別の色もありますから、お出しいたしましょうか」などの言葉の方があっているように思います。

この例では顧客の状況に関係なく、「ご覧くださいませ」と声をかけるのが定型のセールストークになっているのでしょうし、本人も特に意識せずに声を掛けているのだろうと思います。同じような例は、身近でもたくさんあげられるのではないでしょうか。

でも、今の例のように、必ずしもそれが当てはまらない場面で使ってしまっていることもあるわけですから、慣用句のように「いつも使っているから大丈夫」とは思わずに、「この場面でこの言葉はおかしくないかな?」と振り返ってみることも必要だと思うのです。

冒頭の言葉を借りれば、営業場面のみならず、ときどきは自分の言葉づかいに「メスを入れてみる」ことも大事なのではないでしょうか。

(人材育成社)


営業目標が達成できない理由

2016年07月24日 | コンサルティング

(独)中小企業基盤整備機構によれば、経営者の悩みのトップ5の一番手は「売上が伸びない」だそうです。実際、当社が扱うコンサルティング案件でも、一番多いのは営業に関するものです。「営業の連中が売上目標を達成してくれないので何とかしてほしい」という声は本当によく耳にします。

しかし、そうした経営者が本気で営業を改革したいのかというと、疑問を感じてしまうことも少なくありません。

当社が提示するコンサルティングプランに対して、経営者の多くは次のように反応します。

「それ、俺(社長)がやるの?忙しくてできないよ。」
「もっと簡単にパッパとできる方法ないの?」

つまり、面倒なことは営業担当者に任せて、成果だけを手にしたいというわけです。なかには自分は何もしたくないけれど「営業全員をスーパーセールスマンにしてほしい」という無茶な要求も・・・。

そこで「社長、ここでちょっと脱線しますが、高校野球はお好きですか?」と私が聞くと、大抵は「もちろん大好きだよ。特に夏の甲子園は地方予選から全部観ているよ。」といった答えが返ってきます。

「もし社長が高校野球の監督だとしたら、勝つためにどうしますか?」
「選手を徹底的に鍛えるよ。当たり前じゃないか」
「その高校が名門校じゃなくて、せいぜい2回戦止まりだとしたら?」
「選手の実力が劣るんだから、まず体力を付けさせるね。」
「練習試合をたくさんやるというのはどうですか?」
「ダメ、ダメ。とにかく基礎練習をたくさんやらせる。」
「御社の営業マンはどうですか?」
「そりゃ、やっぱり基礎を徹底的に・・って、おい、何の話だ?」

苦笑いをしながらも、どうにか納得してくれます。 

すかさず「では売上を伸ばすためには、何をするべきかを具体的に考えてみましょう」と言うと、「お客様の話をしっかり聴く、記録を取る、商品を正しく説明する」など、当たり前の行動がたくさん出てきます。

10項目くらいの「当たり前の行動」が列挙できたところで、「御社の営業マンは全部に◎が付きますか?」とたずねると、例外なく「ほぼ全滅」になります。

売上を伸ばすには、当たり前のことを当たり前に行なうこと、すなわち凡事徹底しかありません。しかし凡事徹底こそ難行苦行です。そこには魔法も抜け道もないからです。

やっかいなのは、自己流では上手く行かないことと、準備もせずにいきなり取りかかっても成果は期待できないことです。

売上目標を達成するためには、「凡事」を詳細かつ具体的に決め、スケジュールに従ってこまめにチェックを入れながら進めることです。そのためには、どうしても第三者の視点が必要になります。

自己流(自社流)が失敗するのは、100%社長のせいです。「とにかく忙しくて手が回らないんだ」、「営業部長に任せてあるからそっちでなんとかしてよ」、「営業はベテランが多くて文句が言いにくいんだ」・・・いままでどれほど耳にしてきたことでしょう。

当社はコンサルティングの際に、こうした「言い訳をしないこと」も凡事として扱います。

(人材育成社)


「買う気満々の顧客を取り逃がしていないか!」

2016年07月20日 | コンサルティング

私 「何度もお断りしていますが、必要ないです。」

営業パーソン 「電話するのは今日が初めてですが」

私 「あなたから電話をもらうのは初めてかもしれませんが、これまでに何度もお宅の会社から電話があって、その都度断っています」

営業パーソン「・・・」

これは、繰り返し弊社へ売り込みの電話をかけてくる営業パーソンと、私のやりとりです。弊社ではその会社がセールスしているサービスが必要ないため、これまで何度も断っているのですが、それでも繰り返し電話がかかってきます。今後もし、そのサービスの必要性が出てきたとしても、あまりにもしつこく電話をされたので、この会社のものだけは買いたくないという気持ちになっています。

何より、「何度も断わられている」という情報が社内で共有されていないことが問題ですし、さらにしつこく営業電話をかけさせるこの会社の営業方針にも違和感があります。

話は変わりますが、先日、自宅にある建具を取り付けたいと思い、建材メーカー2社に問い合わせをしました。後日、各々の会社の営業マンが自宅にやってきて、取り付け箇所の採寸等を行い、見積もりを出してもらうことになりました。

1社(A社)は40代とおぼしき年齢の営業マンが1人で来訪したのですが、商品カタログを持参していないばかりか、私の質問に対しても「最近転職したばかりなので、よくわかりません」との返事。見積りを「後日に郵送します」と言って帰りました。

しかし、その後1週間が経過しても見積もりが届かなかったので、こちらから催促するとようやく見積書のみが封入されて郵便受けに入っていました。結局、こちらの質問に対しての返答はありませんでした。

一方、もう1社(B社)は販売業者と工事業者とメーカー社員の3人でやってきました。こちらは商品カタログとサンプル品を持参していて、約束通り1週間と少ししてから、見積書が郵送されてきました。

2社の訪問を受けた直後は、いろいろな面でB社の方が熱心に感じましたので、B社に軍配があがっていたのです。その後、両社の見積もりを確認するとほぼ同額だったのですが、いずれも想定していたよりもかなり高額だったため、すぐにどちらかに決断できず、結論を先送りにしたまま既に1か月以上が経過しました。

しかし、見積書が送られてきた後は、どちらの会社からも何の連絡もありません。

当初、我が家はすぐにでも建具を取り付けたかったこともあり、購入する気満々でこちらから両社に電話をしたので、売り手からすればかなりの有望顧客であるはずです。しかし、いまだにどちらからも、なしのつぶての状態が続いています。

もし、このタイミングでどちらか一方からでも、「見積書は確認していただけましたでしょうか?ご質問はありませんか?」と連絡が入れば、即座に購入決定の運びになったのではと思うのですが、結局、何の連絡もない状態が続いているので、今では購入する気がだんだん薄れてきてしまっており、自分のことながら「何とももったいないな」と思っているのです。

さて、弊社では様々な中小企業の社長から、「売れなくい営業マンが多くて、困っている。売れる営業マンにしたいのだが、どうすればよいだろうか」という相談をいただくことが度々あります。

そういうときには、「売れない営業に対して、どのように指導しているのですか?」と質問するのですが、「発破をかけているんだけれどね、なかなか効果が出ないんだよ」との答が返ってくることが多いのです。

「発破をかける」とは、もともとは鉱山や土木工事などで爆薬を使って爆破する意味の言葉ですが、例えとして激しく力強い言葉をかけ、気合いを入れることにも使われます。

皆さん、発破をかけ気合いを入れることには熱心のようですが、残念ながら社長が気合いを入れるだけでは、営業マンはなかなか売れるようにはなりません。

冒頭の繰り返し営業電話をかけてくる営業パーソンも、おそらくは社長から「売れ、売れ!」と発破をかけられて、しつこく電話をかけてきているのかもしれませんが、この会社は売る仕組みがないまま、営業という仕事を営業パーソン個人に任せきりにしています。

そして、なかなか売れない営業パーソンは何をどうすればよいのかわからないままに、空回りの営業をしているのです。しかし、売れないには売れないだけの理由があります。その原因を明らかにせずに、ただただ叱咤激励や発破をかけることを繰り返しても、決して売れるようにはなりません。

「ただ売ることだけを強要していないか」、同じような悩みを持ちつつ発破をかけ続けている経営者の皆さんは、一度立ち止まって一体何が原因なのか、どうすればいいのかをじっくり考えるとともに、専門家のアドバイスを受けてみる必要もあるのではないでしょうか。

そうしないと、我が家に来た営業マンのように、せっかく目の前に買う気満々の顧客がいても、それを取り逃がすことになってしまいません。

「逃した魚は大きかった」と嘆くことがないようにしたいですね。

(人材育成社)


大学に営業学部を!

2016年07月17日 | コンサルティング

文科省の文部科学統計要覧(平成27年版)によると日本の大学生数は約250万人だそうです。うち社会科学系学部が32.7%と最も大きい割合を占め、次いで工学系が15.2%、人文科学系が14.5%、保健9.2%、教育7.3%、理学3.2%と続きます。

理系の学部で行われている教育は分野ごとにかなり細分化され、専門性が高くなっています。そのため卒業生の多くは大学院まで進学します。また、教育や保健、芸術といった学部は進路が比較的はっきりしており、専門性が高い分野です。

一方、いわゆる「文系」は学問的な専門性が低いのが特徴です。特に経済学部は「勉強しなくても卒業できる」学部の代表格です。嘘だと思うなら現役の経済学部の学生に「専門はなにか?」と聞いた後でちょっと質問をしてみてください。

私  「君は経済学部だね。どんな勉強しているの?」
学生 「えーと、マクロ経済学です。」
私  「じゃあ、一般理論(雇用・利子および貨幣の一般理論)は知ってるよね?」
学生 「ああ、ディケンズが書いた・・・」
私  「ううっ・・ケインズだね。ディケンズが書いたのはクリスマス・キャロルだよ。」
学生 「そうなんですか。」
私  「国民所得をY=C+Iとして乗数効果を説明してみて。」
学生 「いや、数学は使わないんで・・・」
私  「数学って・・・」

「私」となっているのは、本当は私の友人なのですが、このやりとりは実話です。しかもこの学生は某国立大学生です。

さて、こうした「文系」は大学生の約半数、120万人になります。中には弁護士や会計士を目指して猛烈に勉強に励んでいる学生もたくさんいますが、多くの文系大学生はほとんど専門知識を身に付けないまま卒業していきます。

そして、就職試験の面接でこう言うのです。「企画がやりたいです」、「広報を希望します」、「経営企画に興味があります」。しかし、企画、広報などの職種に就けるのはおそらく0.5%程度でしょう。

では99.5%はどうなるのでしょう。20%弱は人事、総務、経理などの「地味な」スタッフ部門に、残りの80%は営業職に就きます。

そうです、経済、商、経営、社会、法などの社会科学系の大学生はほとんどが営業部門に配属され「セールス・パーソン」になります。

そう考えると、大学が社会の要請に応えるためには、現在の社会科学系学部の定員を現在の20%程度に減らし、80%の学生は「営業学部」で学んでもらう必要があると思います。

もちろん「経済、商、経営、社会、法」は学科として残し、専門分野を深堀することで世界水準の実現を目指します。学生数は大幅に減りますが、合計で24万人ですから、現在の理学部の3倍にもなります。

「営業学などを高等教育で学ぶべき学問ではない」とお考えの方は、営業という職種を低く見ているからです。職業に貴賤上下がないのと同じように、職種にも貴賤上下はありません。

営業学は円滑な商取引を実現することで社会の発展に大きく寄与します。経済学から見れば最適な資源配分を実現し、法学から見れば合法的な取引を実現します。これこそ社会科学そのものではないでしょうか。

しかし、営業学部を実現することは難しいかもしれません。

文科省も多くの大学教授も「営業」の重要性、社会的価値を十分に理解していないからです。

(人材育成社)

 


「臨機応変」って、どうやること?

2016年07月13日 | コンサルティング

上司:「そこのところは臨機応変にやって!」

 私:「臨機応変に・・・?」

その昔、転職して営業職に就いたばかりの私が、お客様への対応について上司に質問をしたときに返ってきた言葉が、この「臨機応変にやって」でした。

そのときは内心、中身をもう少し噛み砕いて教えてほしいと思いましたが、転職したばかりの私は思っていること全てを言うこともできず、言葉を飲み込んだことを今でもはっきりと覚えています。

あれから、うん十年。今なら上司が言わんとしていたことが理解できます。

「臨機応変」、よく使われる言葉ですが、その意味は「その場その場の情勢や事態の変化に応じた適切な手段をとる」ことです。

今回、冒頭のかつての上司とのやりとりを思い出したのは、あるコラムを読んだことがきっかけです。そのコラムは仕事の進め方を説明していたのですが、そこには「状況に応じて臨機応変に対応していくことが、残業を減らすために役立ちます」と書かれていました。

たしかに、仕事をしていると状況は日々刻々と変化し、せっかく予定を立ててもそのとおりには進まず、臨機応変な対応が求められることの連続です。

そのため、このコラムに書いてあるとおりだとは思うのですが、現実には臨機応変に対応ができないから苦労するのだし、一言で「臨機応変に」と言ってしまうと、それですべてが片付けられてしまうのでは、と思ったのでした。

「臨機応変に」と言われれば、頷くことも多いし、なるほどと思うこともありますが、臨機応変な対応ができるのは、ある程度その事柄に精通している人です。まだそこに至っていない、基本問題を解くのにも時間がかかっているような人に対して、臨機応変を求めるのは、いきなり応用問題を解けと突きつけるようなものであり、それはちょっと無理でしょう、と思ってしまいます。

ですから、この言葉は新入社員や、まだその仕事に精通していない人に言うのは酷ですし、その局面では役に立たない言葉だと思います。

話は変わりますが、問題解決研修やコンサルティングの場で、職場のルールを作っていただくことがよくありますが、その時に頻繁にでてくる言葉の一つがこの臨機応変です。

これ以外にも、「○○について、状況対応する」、「○○を調整する」、「必要に応じて○○する」などの表現がよく使われます。問題を解決するための対策を練っているのにもかかわらず、文章の末尾があいまいな表現や精神論のような感じでしめくくられてしまうのです。

そういうときには、「状況対応の中身を明らかにしてください」、「必要に応じてとはどういう状態ですか?」と、新入社員にもわかるような表現に変更してくださいと伝えるのですが、これがなかなか難しいようです。

仕事のみならず、はじめから臨機応変な対応ができるくらいなら、誰も苦労はしないわけです。ですから、臨機応変という言葉を安易に使うことは、場合によって、(言葉は悪いですが)その場をごまかそうとしたり、逃げるためのテクニックのようにも感じられてしまいます。

自分は「臨機応変にやって」という言葉を頻繁に使っているという人は、相手がその仕事や事柄に精通しているかどうかをよく確認する必要がありそうです。

毎週のようにビジネス書の新刊本がたくさん出版されていますが、臨機応変の対応が難しいからこそビジネス書が売れているのかもしれません。

(人材育成社)


開票率1%で当選確実!?

2016年07月10日 | コンサルティング

国政選挙では、投票時間が終わってから10分もしないうちに「〇〇氏、当選確実」というニュースが流れます。「おいおい、いくらなんでも早すぎやしないか?だって、開票始まったばかりでしょ?」あるいは、「出口調査にしても、相当な人数に誰に投票したかを聞き出さないとわからないはず」という疑問をお持ちの方は多いと思います。

早々と「当確」が発表できるのは統計的推定、すなわち全体の中から一部を取り出して全体を知る手法があるからです。

「一部」のことをサンプル(標本)と言いますが、サンプルはランダム(無作為)に集めることが必要です

たとえば、料理人が大きな鍋で100人分のスープを作っているとします。その味を完璧に確かめようとすれば、鍋の中のスープを全て飲む必要があります。

しかし実際は、鍋をよくかき混ぜてスプーンに取って味見をするだけです。スプーンに取った少量のスープはサンプルです。もしよくかき混ぜなかったとしたら、スープ全体の味を正しく把握することはできないでしょう。

当確の出し方もこれによく似ています。よく混ぜる=選挙区の投票所に偏りなく調査員を配置すること、が必要です。

では、「一部」とはどれくらいの数が必要なのでしょうか。

答えは、当確ラインが1万票なら370票、10万票なら383票、100万票なら385票です。

おや?1万と100万とでほとんど変わらないじゃないかと思われたかもしれませんが、この程度の調査量で当確が推定ができます。もちろん、サンプルの数が多ければ多いほど正確に推定できるのですが、これだけの数でも95%の確度があります(理論的解説は※を参照してください)。

95%確実ということは5%は間違えている可能性もあるということですが、95%確実なら「当確」と言ってもほぼ間違いないでしょう。

また、国政選挙なら投票前の世論調査や過去のデータ等の情報と併せて、100人分くらいの出口調査結果があれば、ほぼ正確に「当確」が出せるのではないでしょうか(専門家ではないので自信はありませんが)

社会は考え方や嗜好がバラバラな個の集まりですが、全体を眺めてみると決してバラバラではなく、意外とシンプルな「かたち」をしているようです。選挙のたびにそのことを思い出します。

シンプルだからこそ、組織としてまとまるとパワーを発揮できるのでしょう。

※ 統計学入門−第1章

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「あなたは文房具好きですか?」

2016年07月06日 | コンサルティング

私の周囲には、自称「文房具好き」という人がたくさんいます。先日も、ある文房具店でペンのレフィルを購入しようとしたところ、在庫が全くなかったので「本日入荷すると聞いていたのですが、なぜ一つもないのですか」と店の人に質問したところ、「先ほど外国人のお客様が全部購入されました」と言われました。思わず「爆買い」という言葉が頭をよぎりましたが、日本の文房具は外国人にもファンが多いということなのでしょうか。

かく言う私も、実は筋金入りの文房具好きで、自分自身のことを文具の調査探求に余念がない人間というふうに思っています。

文房具店には頻繁に足を運びますし、フリーペーパーの「BUN2」にも必ず目を通しています。さらには、テレビの「スマステーション」で文具特集の時は、ほぼ毎回見ています。

そういう私ですが、今日、東京ビッグサイトで開催されている「国際 文具・紙製品展」に行く機会に恵まれました。展示会には、筆記具、手帳、ファイル、デザイン文具等々の関係345社が出展しており、会場は大賑わいでした。

矢野経済研究所の調査によると、2014年度の国内文具・事務用品市場は前年度比0.6%減の4,662億円で、シャープペンシル市場が拡大した反面、これまで好調に拡大を続けてきたボールペン市場の成長率は鈍化傾向にあるそうです。

しかし、本日の展示会の様子を見るかぎりでは文具市場は非常に活況のように見えましたし、文具関係のバイヤーと思しき人をはじめ多くの関係者が来場していました。

各ブースでは、新商品として既に市場に出ているもの、今後売り出される予定のものなど様々な商品が展示されており、使い方の説明を受けたり、実際に手に取って試すことができました。

どの商品もとても魅力的でしたが、私が特に印象に残ったものの一つは、接着剤だけで布を貼り合わせて作ったトートバックです。これは1リットルのペットボトルの水を6本分入れても、布がはがれたり切れたりしないほど強力な接着剤で接着されているのですが、その接着剤の名はずばり「針糸なしでカンタンお直し、「裁ほう上手!」です。

糸で縫い合わせていないのに、6リットルもの水を入れても、びくともしないその接着力にとても驚きました。試しに布に接着剤をつけてアイロンで15秒ほど温めるということも体験させていただきましたが、それだけで布を頑丈に張り合わせることができるのにはまるで魔法のようにすら感じました。

また、その他にもホチキスや付箋紙などデザインはもちろんのこと、機能がさらにアップした数々の商品も見ることができました。

展示会場全体を隅から隅までじっくり見て回り、あらためて日本のメーカーが作る文房具はデザインが素晴らしいことを再認識したのですが、それと同時に、自分がどうしてこんなにも文房具が好きなのかがわかったような気がしました。

それは、日本の文具メーカーには「改善」への飽くなき探究心があるからです。今あるものから、どうすれば、より機能的に、より使いやすく、より小さく、よりおしゃれにできるのか・・・・どこまでも、現状を改善して、質を向上させてようとしているところに魅かれていることに気が付いたのです。

最近では「文具検定」というものもあるようですが、この検定の目的は、文具店の店員に文房具の基礎知識を養ってもらうことと、広く一般ユーザーにも文具の知識を広く知ってもらうことにより、文具業界の活性化と文房具ファンの拡大を目指しているそうです。

自称「文房具マニアの端くれ」の私としてはいつかこの検定に挑戦してみようかなと思いつつ、文具メーカーの志に刺激を受けた一日でした。あっぱれ文具メーカー!

(人材育成社)


コンサルタントを見分ける唯一の方法

2016年07月03日 | コンサルティング

今さら言うまでもありませんが、コンサルタントは「社会人が“うさんくさいなぁ”と思う職業ランキング※1」堂々の1位です。以下、2位が探偵、3位が占い師と続き、政治家は6位、YouTuberが9位とのことです。

ところが「文系就職偏差値ランキング※2」によれば、マッキンゼーが偏差値74で1位、ボストンコンサルティングが2位、3位にベインアンドカンパニー、4位にA.T.カーニーといった外資系(アメリカ系)コンサルティング会社が、トヨタ自動車や三菱商事など錚々たる日本の一流企業を押しのけて上位を独占しています。

なぜコンサルタントはこのように評価が極端に分かれてしまうのでしょうか。

ひとつには、その仕事の内容が部外者からは見えないためだと思います。コンサルタントがクライアントである会社に出向いて「何をやっているのかわからない」のに「口先だけでお金を取っていく」と思っている人も多いようです。

もうひとつは、弁護士、会計士、税理士などのように公的資格が必要な職業とは違い、名乗ってしまえばそれで済むからです。たしかに「(自称)経営コンサルタント」は何となく詐欺師を連想させます。

コンサルタントの仕事をひと言でいえば「会社経営に対する助言」です。経営と言っても幅が広く、経営計画や財務戦略の立案といった会社全体に関するものから開発、生産、流通、営業といった機能別の改革や効率化に至るまで様々です。

コンサルタントの助言(アドバイス)によって企業の売上がアップしたり、生産効率が大きく改善したりすれば、たとえ「口先だけ」であろうと十分に価値を生み出したといえます。経営者がコンサルタントに仕事を依頼する理由はここにあります。

一方、経営者はなるべく時間(Time)とお金(Money)と労力(Effort)をかけずにそうした「価値」を手に入れたいと思っています。しかし、それは簡単なことではありません。

経営コンサルタントの中には「短時間で、安く、努力なしに」売上アップやコスト削減を口にする人もいます。そうしたコンサルタントのホームページには「簡単、驚くほど、すぐに」儲かることが繰り返し書かれています。

このブログでも何度か書いていますが、ビジネスにそんな魔法は存在しません。魔法は魅力的ですが、すぐに消えて無くなります。経営を改善するには、地道な努力を重ねる以外にありません。そのことは、依頼者である経営者自身がいちばんよくわかっているはずです。

とはいえ経営者も人間ですから、窮地に立てば迷い、悩み、藁にもすがる気持ちで魔法に頼ることもあるでしょう。そうした経営者の弱さが、うさんくさいコンサルタントを呼び寄せます。つまり、コンサルタントをうさんくさくしているのは、魔法に頼ろうとする経営者なのです。それは決して珍しいことではなく、よくあることです。

経営の改善には時間とお金と労力が必要です。そして、それを上回るリターンをもたらすのが本当のコンサルタントです。

「魔法使い」ではなく、経営者の悩みに真摯に向き合うコンサルタントは、必ず最初からそのことについてきちんと説明をするはずです。コンサルタントに依頼するときはそのことを確認してください。

それが「うさんくさい」コンサルタントを見分ける唯一の方法です。

※1 社会人が「うさんくさいなぁ」と思う職業ランキング! フレッシャーズ マイナビ

※2 2017卒用 文系就職偏差値ランキング | 就職偏差値ランキング委員会


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