中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

日本のビジネスは安心から信頼へ

2016年08月24日 | コンサルティング

企業が新たな取引先と商売を始めようとするときは、与信調査を行います。「この会社に商品を販売したときに、代金をきちんと入金してくれるだろうか」ということを調査するものです。通常、その企業の決算書や帝国データバンク等の調査会社からの情報に基づいて、取引限度額や支払い条件を決めます。つまり、与信とは「信頼の程度を金額で表現したもの」です。

信頼には2つのパターンがあると言われています。1つは「相手の行動傾向がわかっている」ことを前提にした信頼です(パターンA)。もう1つは、「もし自分のことを裏切れば相手も損をすることがわかっている」場合の信頼です(パターンB)。

パターンAは、相手がどの程度信頼できるかが、事前に知識としてわかっている状態です。与信調査は取引開始前に行いますので、このパターンです。これを本当の「信頼」と呼びます。

パターンBは、相手が裏切りを働けば、相手も損をする状態です。組織や共同体に所属している人間、たとえばヤクザの親分が子分に命令を下すとき、子分の忠誠心を測定する必要はありません。裏切れば痛い目にあうことがわかっているからです。これを信頼ではなく「安心」と呼びます。

日本は「安心社会」であり、アメリカは「信頼社会」であるという説があります※。日本は島国(狭い世間)であり、お互いに同じ言葉を話し、見た目も大差はない人間同士の集まりですから、「信頼」よりも「安心」を重視します。

一方、アメリカは土地も広い多民族国家(広い世間)であり、お互いに見た目も宗教も違うことが多いので、相手に関する知識を得ることで「信頼」するしかありません。

その結果、アメリカ人は言葉やジェスチャーを多用してコミュニケーションを図り、なんとかして相手のことを知ろうとします。その点、日本人は、相手が所属している共同体がわかれば、どの程度信頼して良いのかがなんとなくわかります。どうやら「安心」の方が効率が良いと言えそうです。

ビジネスにおけるコミュニケーションでは、この「安心」と「信頼」を意識しておいた方が良いでしょう。

ただし、同じ「安心社会」の日本人同士であっても、基本的にビジネスは「信頼社会」だということを忘れてはいけません。

もちろん、「信頼」も完全ではなく、裏切りや貸し倒れの可能性もあります。しかし近年の、伝統ある大手企業という「安心社会」の粉飾決算の例を見るにつけ、「安心社会」の危うさを感じます。

私は決して「安心社会」を否定するものではありませんが、日本のビジネスパーソンがコミュニケーション能力を高めることは、「安心社会」から「信頼社会」への移行を推し進める大きな流れになると考えます。

この流れはこれからも加速して行くことでしょう。

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書) : 山岸 俊男 

 

(人材育成社)