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「その時はゾーンに入っていたんだと思います」
これは、元陸上選手の為末大さんがある講演会の中で語っていた言葉です。先日、第40回東大寺文化講演会に参加したのですが、その中で講演者である為末さんの「人間を探求する 人はいつまでも学び成長できる」というテーマの話を聴講する機会がありました。
講演では過去に出場した数々のレースを振り返り、それぞれのレースでのスタート前の心境やハードルとハードルのインターバルの歩数、踏切の足がどちらだったかなどや、その結果レースにどういう影響があったかなど、走った本人にしかわかりえない話をライブ感たっぷりに話していました。その中で、400mハードルでの銅メダル獲得につながった世界大会で走っている時の状況を、「ゾーンに入った状態だった」と表現されたのです。
「ゾーン」とは、学術的には「フロー」と呼ばれる心理状態のことで、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念と言われています。ゾーンに入るというのは、目の前のことに集中した状態であり、周囲の雑音や時間の感覚を忘れるほどに目の前のことに没頭している状態で、体験者がその瞬間を「物事が自動的に進む流れ(Flow)の中にいるようだ」と語ったことによって、「フロー状態」と名付けられたとのことです。
これまでも、オリンピックをはじめ様々なスポーツの大会でメダルを獲得した選手が「ゾーンに入っていた」と表現していることを幾度となく聞いたことがあります。またスポーツのみならず、身近なビジネスパーソンの中にも、(その程度の差こそあれ)ゾーンに入ったことがあるという人も少なくないように感じています。
私は、ゾーンとは集中力や感覚が極限まで研ぎ澄まされた状態であり、容易にはその状態に入れないのではないかと思っているのですが、もしそれによって目の前の仕事に集中できるのであれば、そのような状態を作り出すことで目標に近づき成果を出すことができるのではないでしょうか。
では、日々の仕事の中でどうすれば意識的にゾーンに入る、あるいはそれに近い集中状態を作り出すことができるのでしょうか。
為末さんは「毎日、午前中に短距離走を〇本、午後にも〇本走り、そのほかにも○○をやって、それを毎日繰り返し、さらにそれを10年続けた先にようやくオリンピックがあるような世界」といった話をされていました。本当に大変な努力の積み重ねの結果、ようやくたどり着ける一瞬の世界なのかもしれません。
私たちがその状態に近づくための道のりはもちろん簡単なものではないでしょうが、まずは自分がどのようになりたいのか、仕事でどのような成果を得たいのかなど、明確にゴールのイメージを持ったり目標を立てたりすることが大切になるのでしょう。スポーツで言えば目標タイムを決める、メダルをとるなどといったことになると思います。その際には自分の能力に見合った適度な難易度が必要で、あまりにも高すぎる目標ではやる気が失せてしまうでしょうし、逆にあまりにも簡単すぎてしまうと達成欲につながらないでしょうから、的確なレベルが必要です。
そのうえでゴール・目標を目指し、努力や鍛錬を続けることが大切なことだと感じています。「練習は噓をつかない」といった言葉もあります。仕事について言えば、ゾーンに入ること自体を目的とするのではなく、日々の地道な努力・鍛錬を繰り返すことにより集中力を維持できるようになり、やがては喜びや充実感を得られるようになるのではないでしょうか。