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中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,266話 意識的に「ゾーン」を作ることはできるのか

2025年05月28日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「その時はゾーンに入っていたんだと思います」

これは、元陸上選手の為末大さんがある講演会の中で語っていた言葉です。先日、第40回東大寺文化講演会に参加したのですが、その中で講演者である為末さんの「人間を探求する 人はいつまでも学び成長できる」というテーマの話を聴講する機会がありました。

講演では過去に出場した数々のレースを振り返り、それぞれのレースでのスタート前の心境やハードルとハードルのインターバルの歩数、踏切の足がどちらだったかなどや、その結果レースにどういう影響があったかなど、走った本人にしかわかりえない話をライブ感たっぷりに話していました。その中で、400mハードルでの銅メダル獲得につながった世界大会で走っている時の状況を、「ゾーンに入った状態だった」と表現されたのです。

「ゾーン」とは、学術的には「フロー」と呼ばれる心理状態のことで、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念と言われています。ゾーンに入るというのは、目の前のことに集中した状態であり、周囲の雑音や時間の感覚を忘れるほどに目の前のことに没頭している状態で、体験者がその瞬間を「物事が自動的に進む流れ(Flow)の中にいるようだ」と語ったことによって、「フロー状態」と名付けられたとのことです。

これまでも、オリンピックをはじめ様々なスポーツの大会でメダルを獲得した選手が「ゾーンに入っていた」と表現していることを幾度となく聞いたことがあります。またスポーツのみならず、身近なビジネスパーソンの中にも、(その程度の差こそあれ)ゾーンに入ったことがあるという人も少なくないように感じています。

私は、ゾーンとは集中力や感覚が極限まで研ぎ澄まされた状態であり、容易にはその状態に入れないのではないかと思っているのですが、もしそれによって目の前の仕事に集中できるのであれば、そのような状態を作り出すことで目標に近づき成果を出すことができるのではないでしょうか。

では、日々の仕事の中でどうすれば意識的にゾーンに入る、あるいはそれに近い集中状態を作り出すことができるのでしょうか。

為末さんは「毎日、午前中に短距離走を〇本、午後にも〇本走り、そのほかにも○○をやって、それを毎日繰り返し、さらにそれを10年続けた先にようやくオリンピックがあるような世界」といった話をされていました。本当に大変な努力の積み重ねの結果、ようやくたどり着ける一瞬の世界なのかもしれません。

私たちがその状態に近づくための道のりはもちろん簡単なものではないでしょうが、まずは自分がどのようになりたいのか、仕事でどのような成果を得たいのかなど、明確にゴールのイメージを持ったり目標を立てたりすることが大切になるのでしょう。スポーツで言えば目標タイムを決める、メダルをとるなどといったことになると思います。その際には自分の能力に見合った適度な難易度が必要で、あまりにも高すぎる目標ではやる気が失せてしまうでしょうし、逆にあまりにも簡単すぎてしまうと達成欲につながらないでしょうから、的確なレベルが必要です。

そのうえでゴール・目標を目指し、努力や鍛錬を続けることが大切なことだと感じています。「練習は噓をつかない」といった言葉もあります。仕事について言えば、ゾーンに入ること自体を目的とするのではなく、日々の地道な努力・鍛錬を繰り返すことにより集中力を維持できるようになり、やがては喜びや充実感を得られるようになるのではないでしょうか。

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第1,265話 「リベンジ退職」に至ることのないようにするには

2025年05月21日 | 研修

 「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「気が滅入るVTRでしたね」

これは先日放送されたTBSのブロードキャスターに出演していた脚本家の三谷幸喜さんが、あるVTRを見た後に語った言葉です。

番組では「リベンジ退職」(退職する際に勤務していた会社に対して文字通り仕返しや復習をすること)を取り上げていたのですが、近年増加しているとのことでした。

番組でリベンジ退職の具体的な行為として取り上げられていたものとしては、顧客に対する会社の不誠実な対応を許せないと感じていた人が退職後に顧客に暴露するメールを送付するもの、社内の安全基準に違反していることを知らしめる動画をSNSに投稿し、その結果会社が多額の賠償金を支払ことになったというもの、部長のパワハラに耐えられなかったために部長の悪事を役員に伝えたもの、退職時に全てのアカウントのPWを変更したものなど、その例は枚挙にいとまがないようです。さらに、私自身が以前に聞いた例としては、引継ぎをせずに突然退職するといったものがあったのですが、これもリベンジ退職に該当するのだそうです。

このようにリベンジ退職が増加している背景には何があるのでしょうか。理由の一つとして、売り手市場により以前に比べ転職がしやすくなったことから、どうせ辞めるのであればそれまでの職場や人間関係などに対するマイナスの感情を払しょくするために、様々な形でリベンジしようとするということがあるようです。

そこまでに至る心情には怒りや屈辱、失望などの感情や自尊心が強く傷つけられるなど相当のストレスがあったであろうことは想像に難くないです。しかし、ここまでの行為に及ぶ前に他に何か手段はなかったのだろうかと思わざるを得ません。当の本人にとってもリベンジの結果「心からすっきりした」などと言えるようなものにはならないのではないように思います。

また、こうしたリベンジ退職の結果、その組織もダメージを受け、場合によっては業績にも少なからぬ影響を受けるなどといった可能性もあると考えられます。

先述の三谷幸喜さんの「気が滅入る」という感想は、こうしたことを踏まえたものではないかと感じていますが、私自身も同じ思いを持っています。

それでは、このようなリベンジ退職を招かないようにするために、組織としてはどうすればよいのでしょうか。

まずは、従業員の疑問や不満などを早い段階で把握して、怒りが爆発してしまう前に組織としてしっかり対応することが大切であると考えます。これは必ずしも離職防止策ということだけではなく、日ごろから社員が様々な疑問などを積極的に表明でき、それを受け止めてきちんと対応する体制をつくること、異を唱えられても受け止められる組織風土の醸成が必要なのではないかと考えます。しかし、これまで本ブログでも何度も書いてきているとおり、そうした風土の醸成といったものは言うは易しで、一朝一夕でできるものではないこともまた事実でしょう。しかし、多くの組織においては社員の定着がこれまで以上に大きな課題となっていくであろう中では、真っ先に必要になるものなのではないでしょうか。

少々心配なのは、今後「リベンジ退職」というイメージしやすい言葉に触発されて、こうした行為を行おうとする人が増えていってしまうことがないかということです。そのためにも、働きやすい職場環境を作るという意味は、今まで以上にますます重くなっていくように思います。

同時に、もし社員が退職を決断した場合には「立つ鳥跡を濁さず」という言葉にもあるように、リベンジではなく双方が納得できる形にすることが何よりも望まれます。そのためにも日ごろから良好な職場環境を構築することが何よりも大切だと考えます。

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第1,264話 「注意残余」の状態になっていないか

2025年05月14日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「職場内の業務ミスが増えています」

これは最近弊社が問題発見・課題解決研修を担当させていただいた際に、受講者から聞くことが多いフレーズです。

一人の受講者に詳しく話を聞いてみたところ、職場の人数が以前よりも減っており、その結果個々が担当する業務量が増えているとのことです。その一方で、残業の制限もあることから限られた時間の中で複数の作業を同時並行で行わざるを得ないのだそうです。たとえば見積書を作成している途中に課長に呼ばれたり、別件のチャットの返事を急かされたりすることも多々あるのだそうです。この受講者が言うには、集中して仕事をしたいのにそれができないのが現状であり、このように複数の作業を同時に行っているためどうしても集中力が削がれ、その結果業務ミスにつながっているということです。

人手不足と言われて久しい中ですが、現実の問題としてこのような「マルクタスク」をせざるを得ないビジネスパーソンは少なくないと思います。マルチタスクとは、複数の作業を同時並行で行ったり短時間で切り替えながら行ったりすることです。複数のタスクを同時にかつ連続的に行うことなどによって効率的に進めることができたり、成し遂げた場合の達成感がより強く得られたりするなどのメリットがあります。

しかし、その一方で強く懸念されるのが「注意残余」などによる業務ミスの発生です。「注意残余」とは、作業や行動を終えて次に移る際に注意の一部が前の作業に残っており、次の作業などへの集中が妨げられる状態を指す心理学用語です。終了したはずの前の仕事のことが気になって集中できていない状態のことを言います。

この言葉は、2010年頃にアメリカの組織心理学者ソフィー・ルロイによる研究で広く知られるようになったものです。ソフィー・ルロイは仕事の時間と注意の管理及び中断が仕事のパフォーマンスに与える影響を調べ、仕事や生活の中で注意力を高める方法を研究しているとのことですが、最近はこの注意残余という言葉を聞くことが多くなったと私自身も感じています。

実際、私自身も仕事が短期間に集中しているときに、複数の業務を同時に並行して行わざるを得ない状態になると、目の前の仕事に集中できなくなり、後からメールの文章に誤植などのケアレスミスがあったことに気が付くといった、注意残余の状態になってしまっていることを自覚することがあります。

このようなことは誰にでも起こりえることですから、それを避けるためにも注意残余に対する対策を考えなければなりません。そのためには、やるべきことの優先順位をつけたり、事前に段取りをしたり、現在行っている業務以外のものは一旦視界から遮断したりするなどといった方法が考えられます。しかし、これらはまさに時間管理の手法と同様のものですので、何も注意残余だけに関わる特別なことではありません。

とはいえ、特に仕事上のミスの防止や注意力の維持を考える上では、注意残余というものの意味などをきちんと知っておくと、心理的な疲労やミスの連鎖を防ぐヒントになるのではないでしょうか。

もしあなたがマルチタスクを行っている中で、なかなか集中できない状態になってしまっているようでしたら、注意残余の状態になっていないかどうか、冷静に自身を見つめてみる必要があるかもしれません。

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第1,263話 記憶や経験を風化させないためには

2025年05月07日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「昔、戦争とかあったみたいじゃないですか」

これは以前、私がある金融機関の窓口での手続きの中で「戦争免責」について説明を受けていた際に、担当者から聞いた言葉です。その担当者は20代半ば位に見受けられましたが、かつて日本が体験した戦争を「あったみたいじゃないですか」というように表現をしたことに少々驚いたことを覚えています。

先日、JR福知山線脱線事故(2005年4月25日発生、乗客・運転士合わせて107名が死亡、562名が負傷)から20年が経過したという報道がありました。あの大事故を経て、JR西日本では「安全基本計画」を策定し、社員からの報告を抽出・評価して重大事故などにつながる可能性を取り除く「リスクアセスメント」を導入するなど、安全教育を徹底しているとのことです。しかし事故から20年が経ち、そのときに在籍していた社員は3割ほどとなり、7割強の社員は事故後に入社しているとのことです。

また、今年は1985年に起こった日本航空機の墜落事故からも40年になりますが、こちらはさらに多くの時間が経っていることから、事故当時に在籍していた約1万4千人の社員のうち、現在も現役で働いているのはわずか0.5%、人数にして77人(2024年時点)とのことです。つまり、事故当時を直接知る社員は、極僅かしかいないということです。

これらの数字が改めて示しているのは、「時間の経過とともに、人は入れ替わっていく」ということです。もちろん、組織の新陳代謝という点からも人が入れ替わること自体は必要なものであり、いたし方ないことではあります。しかし、その結果として事故などをはじめとして将来にきちんと引き継いで行かなければならない記憶や経験といったものがだんだんと薄れて、風化していってしまわないかということが危惧されます。

こうした記憶や経験が風化していってしまうと、冒頭の金融機関の窓口の担当者のように、戦争が起こったということですら、「昔、あったらしい」こととして片づけられてしまうのかもしれません。そして、いずれはJR西日本の事故や日本航空機の事故も、さらには先の戦争も経験者から直接伝え聞くことが出来ないくらいの時間が経ってしまったら、あったという事実さえもが風化してしまうのではないかと、とても心配になります。

では、教訓として必ず引き継いでいかなければならないような記憶や経験を風化させないためには、私たちはどうすればよいのでしょうか。多くの例が示しているように、簡単に答えが出せるものではないのかもしれません。しかし、まずは「(何もしなければ)人は時間の経過とともに物事を忘れ、その記憶や経験も風化していってしまうものだ」ということを前提にして、事実や経験を正確に記録して、それをしっかり継承していくこと、たとえば継承していくための機会を意識的に、定期的に設けること(新入社員研修などで必ずその事実に触れ、見学なども行うなど)が有効な方法ではないかと考えます。

記憶や経験の風化を防ぐということは、事故などの悲惨な体験を覚えておくということだけではなく、同時にそこから何を学び、将来にどう生かしていくかを考え続けていくということでもあるのではないでしょうか。

人は物事を案外とすぐに忘れてしまう。だからこそ、「体験をした人はそれを次世代へつないでいく責任を持っている」ということを、私達は心に留めておく必要があるのではないかと考えています。

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