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営業マンが観察すべきは、顧客のネクタイの色ではない

2016年08月03日 | コンサルティング

私:「その質問をしたとき、お客様はどういう表情をしていましたか?」

A営業マン:「お客様の表情ですか?あまり印象に残っていません。でも、お客様がしていたネクタイの色やデザインはチェックしましたので、よく覚えています」

これは以前、ある営業マン(Aさん)に同行してお客様を訪問した後の、反省会でのやりとりです。

Aさんは、その1月ほど前にこのお客様にある企画書を提出しており、この日はその結果を伺うための訪問でした。今回は3社のコンペだったのですが、お客様が選択したのは他社のものであり、残念ながらAさんの会社のサービスは見送られることになったのです。

ところが、Aさんはお客様から「他社のものに決めました」と言われたにもかかわらず、どういうわけか再び自社のサービスの説明を熱心に始めたのです。お客様も少しの間は説明を聞いていたのですが、数分後には表情が曇り、やがて明らかに迷惑そうな感じになりました。

そこで、慌てて私が「今回は別の会社のサービスを導入されるとのことですが、ポイントになったのはどの点だったのでしょうか。お差支えない範囲で結構ですので、お教えくださいますか」と助け船を出したのでした。

こうしたやり取りを経て、帰社後に冒頭の会話に至ったのです。Aさんは、自分が新人の時に出席した営業研修でお客様を観察することの重要性を学び、「まずお客様のネクタイの色を確認すること」が大切と習ったのです。その以降は真っ先にお客様のネクタイを観察するようになり、相手の表情のことなどはあまり気にしていなかったとのことでした。

今回の場合、既に他社に決定したと言っている顧客に対して採用されなかった自社のサービスの説明を再び始めてしまうことと、またそのときにお客様が明らかに困惑した表情をしていたことにも気が付かなかったことは、営業マンとしては2重の問題があります。

この話だけで判断すると、「Aさんの営業マンとして資質の問題でしょう。また、人としても少々鈍感な人なのではないのですか」と思われるかもしれませんが、実はAさんは営業以外の場面では、老若男女いろいろなタイプの人ときちんとコミュニケーションがとれますし、人の気持ちにも決して鈍感な人ではありません。

さらに、飲み会などで場を盛り上げることもとても上手な人ですので、これらだけで判断すると、いわゆる「営業マンに向いている人」と思われていました。

そういうAさんが実際の営業の場面になると、なぜか営業の基本的なポイントも、お客様の表情を観察することも、なかなかできなかったのです。

これは以前の営業研修でお客様の観察についてポイントを間違って理解してしまったことと、その後、今に至るまでそれを修正する研修などの機会や上司の指導がなかったことなどが大きな原因でしょう。

一般的にはコミュニケーションの量が多かったり、場を盛り上げることがうまかったりする人を「営業マン向き」というように思われがちですが、このように営業の基本部分で間違ってしまっていれば、話はそう単純ではすまないということです。

その後、Aさんはその会社を去りましたが、私は今でも営業のコンサルティングでこの「売れない営業マン」の話を例に出していろいろ指導や助言をする際に、Aさんのことを思い出すことがあります。

お客様を「観察」するのは、決してお客様のネクタイの色をチェックすることではないですし、コミュニケーション力があること=売れることではないわけです。まずはお客様の「表情」をきちんと観察し、それに応じてしっかりとコミュニケーションをとること、この基本をきっちり押さえることが何よりも大事だということをしっかりとお伝えなくてはと思っています。

(人材育成社)