中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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意思決定と決断の違い

2016年05月29日 | コンサルティング

意思決定(decision making)とは、人や組織が複数の代替案の中から最善の解を選ぶことです。その言葉から連想するのは、合理的で断固とした判断を下す主体的な意思です。意思決定論はH.サイモンから始まり、経営学や心理学、経済学など広い範囲にわたって研究されてきました。経営大学院(MBA)で意思決定論を学べば、ビジネスにおいて常に正しい決定を下すことができそうな気がします。

意思決定のための手法は様々ですが、ゲーム理論やファイナンス理論で使われる数理的な手法が意思決定論の基礎になっています。ビジネス上の意思決定は、選択肢それぞれが持つ期待値を計算し確率的に最も利得が高いものを選ぶ、ということにつきます。そのため、全く未知の条件を選択肢に加味してしまうと、利得の計算が難しくなります。そこで、そうしたナイト流の不確実性(確率分布が未知のもの)が存在するときは、一部分を意思決定者の勘にゆだねることになります。

ビジネスの場で日々直面する意思決定においては、ほとんどが明確な選択肢と合理的な期待値が示されていると言ってよいでしょう。経営大学院(MBA)で意思決定論が人気を集めているのもそのためかもしれません。

ただし、経営者層となるとそう簡単にはいきません。合理的な利得を見積ることができない決定事項が増えてくるからです。その時にMBA流の意思決定論はどのくらい役に立つのでしょう。

その答えは「わかりません」。なぜなら「確率分布が未知の不確実性」だからです。

その時は経営者の決断力に頼るしかありません。

意思決定論で学ぶのが「選ぶ」ことなら、決断とは「断つ」ことです。断つことによって生じる様々なやっかいごとを全部引き受ける気持ちの強さ(あきらめの良さ)がなければ、経営者としては三流でしょう。

decisionには「決断、決心、裁断」という意味があります。昨今、不祥事を起こした大企業のトップや自治体の長の振る舞いを見ていると、果たして日々「決断」していたのだろうかと疑問を感じてしまいます。

おそらく、その場その場の合理性に基づいて意思決定をしてきたのでしょう。しかし、そうした行為の集積が結局は組織を弱体化させてしまっています。

そう考えると、decision makingを意思決定と訳して果たしてよかったのか疑問をいだきます。MBA流の「合理的な選択のテクニック」が意思決定論だとした、それはむしろ新人や若手社員が学ぶべきことです。

管理職、経営者が学ぶべきは本来のdecision makingです。

アカデミックな方面からお叱りが来そうですが、最近のニュースを見るにつけ、MBAで意思決定論を学んでもあまり役に立たないのでは?などとつい考えてしまいます。

(人材育成社)

 

 


「ゼロ災で行こう、ヨシ!」

2016年05月25日 | コンサルティング

 椅子から立ち上がるたびに「椅子ヨシ!」の掛け声、続いてチーム全員で中央の札を指して、「ゼロ災で行こう、ヨシ!」という指さし喚呼を一日に何度も行う。

これは、先日私が初めて「KYTトレーニング」に参加したときの様子です。

 ご存知の方も多いと思いますが、「KYT」とは危険予知訓練のことで、ローマ字表記 Kiken Yochi Training の頭文字をとって「KYT」と呼ばれています。日本では1973年に、住友金属工業の労務部長がベルギーのソルベイ社を視察して、そこで交通安全のチェックシートを使うことによって、危険につながる問題点を認識することで、各々が安全行動に努めるようになるという取り組みを参考にしたそうです。その後、社内にプロジェクトチームを結成したことが発端となり、KYTトレーニングが誕生したと言われています。

 このKYTトレーニング、日本では工事現場や製造業、鉄道会社などを中心に、作業に従事する人が事故や災害にあうことを未然に防ぐ目的で、その作業に潜む危険を互いに予想し指摘しあう訓練として行われています。

 たとえば、身近なところでは電車の運転手や車掌が「○○ ヨシ!」と指さし呼称をして、危険予知をしている場面を目にすることはよくあると思います。私自身は今回初めてKYTトレーニングを受講したのですが、これは製造現場のみならず、さまざまな仕事や日常生活でいろいろな場面でも使える大切な考え方だと思いました。

 このKYTトレーニングのやり方ですが、まず職場や作業現場等の写真やイラスト図等を作業チームのメンバー全員で見て、

1.どこに、どんな危険がひそんでいるか(現状把握)、

2.問題点の原因を整理する(本質追究)、

3.改善策、解決策を考える(対策樹立)、

4.具体的な行動計画を立てる(目標設定)

 といった流れで行うのですが、実はこれ、私が問題発見、課題解決の研修で行っている手法と同様なのです。

 KYTトレーニングでは、この流れを簡略化して問題発見から解決策の立案までを10分位で行いますので、実に効率的です。メンバーの話し合いの時間はタイマーで計測し、できる限り短時間で行うことを目指していますので、参加したメンバー全員が集中して良いアイディアを出そうと、全員の参画意識も生まれます。

さらに、そこで作ったルールは即、その場で全員が声に出して確認するため、情報が全員で共有されますし、翌日以降も指差喚呼の形で確認を続けるために、徐々に習慣化されていくようです。

 私が担当する研修の際、「仕事が忙しくて職場の問題解決ができない」と言う受講者が時々いらっしゃるのですが、問題を解決することこそが、仕事の忙しさを解決することだと言えます。解決のために別途時間をとる必要もないような問題であるならばいつまで放っておかずに、上記のような要領でその場で即解決をしてしまえばよいのにと改めて思いました。

 職場におけるリスク管理の重要性が叫ばれて久しいですが、KYTトレーニングは製造現場のみならず、他の部署であっても参考になるところが沢山ありますので、ぜひ試していただきたいと思います。

 ただ、指差喚呼の習慣のない職場では、いきなり左手を腰に、右手は親指を外にして縦に握って人差し指で対象物を指して、大きな声で「○○ヨシ!」「ゼロ災で行こう ヨシ!」と言うのは気恥ずかしく感じてしまい、慣れるまでに少々時間を要するところが唯一の難点でしょうか。

 私もKYTトレーニングでは恥ずかしさもあって、初めは大きな声が出せませんでしたが、トレーニングが終了する頃にはどういうわけか、元気いっぱいに「ゼロ災で行こう ヨシ!」とやっている自分がいました。これは一体感がなせる技だったと思います。

 (人材育成社)


叱ると怒るの違い

2016年05月22日 | コンサルティング

テレビで、ゆとり世代の扱いにくさを話題にすることがあります。よく見るのは「ちょっと叱ったら会社に来なくなった」という事例です。確かにそういう人もいることはいるでしょうけれど、データの裏付けもなしにそれだけを取り上げてゆとり世代を一括りに見下すのはおかしなことです。

問題は叱るのが下手なバブル世代の上司の方です。とくにひどいのは「叱る」と「怒る」の区別がついていないことです。

怒るとは、単純に相手に自分のネガティブな感情をぶつけることです。叱るとは、感情を使って相手の育成につながるメッセージを送ることです。

怒ることの最大の欠点は、怒った方が「すっきりする」ことです。

いま上司が部下にカミナリを落としたとします。顔を真っ赤にしてガミガミ言っている間、部下は頭を下げ神妙にしています。やがて上司はすっきりして「今度からはちゃんとやるんだぞ。さあ、気持ちを切り替えて仕事を頑張ろう。そうだ、仕事が終わったらちょっと飲みに行くか。もちろん、俺のおごりだ!」と上機嫌になったりします。

言うまでもありませんが、これではダメです。部下も「あの上司が怒ったらしばらく反省のポーズをとっていればいい。怒鳴らせておけばそのうちすっきりして終わるから、ちょろいもんだ。」というやり過ごし術を身に付けます。

一方の「叱る」は決してすっきりしません。ガミガミ言わず、しかし怒りの感情を込めて「なぜ叱っているのか」を具体的にわからせます。しかも、その後の行動が改善したかどうか、しっかりチェックするところまでがワンセットになっているのです。

その結果、叱られた方は二度と同じようなことにならないように行動を変えます。もしも変えなければ、より強く叱られることになるからです。

このように叱ることは怒ることに比べてすっきりしないばかりか、後々の行動の確認までしなければならず、とても面倒なことなのです。

考えてみればバブル期は若手社員も多く、上司も忙しかったのでちょっと怒るだけで手一杯だったのでしょう。

景気が足踏みを続け、人がどんどん減っている現代の会社の中で、「叱る」ことは育成であり管理職の責務でもあります。

「叱る」は技術ですから練習すれば上達します。上達すれば部下は育ち、会社は伸びて行きます。

(人材育成社)

観察すれば具体的な言葉がかけられる~ 「ほめる」「叱る」で上司力アップ!!  東商イベントカレンダー


本気で叱ったときに出る言葉

2016年05月18日 | コンサルティング

 「声が汚い。ガマガエル!」「バカ!才能なし」

「おまえはブス、誰もが黙る演技力を身につけろ!」

 これは、先週亡くなられた演出家の蜷川幸雄さんが俳優に投げかけた、罵声と言ってもいいほどの言葉の数々です。

この言葉だけを並べると、間違いなく人格否定とも思われます。

 ビジネスパーソンを対象にした「ほめ方・叱り方」の研修では、叱り方のタブーとして「変えられないものを叱らない、人格否定をしない、脅しは禁物」と伝えていますが、まさに蜷川さんの叱り方はこれに該当しているように思えます。企業であれば、間違いなくパワーハラスメントに引っかかる発言でしょう。

 しかし、蜷川さんが亡くなって以降の数々の報道を見ていると、つながりのあった沢山の俳優が蜷川さんとの別れを心の底から惜しんでいるように感じました。

 「声が汚い、ガマガエル」と言われた藤原竜也さんに対しては「もっと苦しめ、泥水に顔をツッコんで、もがいて、苦しんで、本当にどうしようもなくなったときに手を挙げろ。その手を俺が必ず引っ張ってやるから」と紹介されていましたし、「ブス」と言われた寺島しのぶさんは「感謝しかないです。思いっきり本音が言い合える人がまたいなくなってしまいました。でも、いただいた言葉は私の細胞に植え込んであります。書いている間も涙で字が見えません」とおっしゃっています。

 蜷川さんが10年ほど前に一般公募(55歳以上、経験不問)によって立ち上げた「さいたまゴール・ドシアター」の団員に私の知り合いがいますが、稽古中の厳しさは言葉では表現できないくらいだと言っていました。でも、その厳しい稽古を経て何とパリでの公演も成功させました。

私も以前、「さいたまゴールド・シアター」の公演(本ブログでも紹介http://blog.goo.ne.jp/jinzaiikuseisha/d/20130616)を観に行ったことがありますが、当時平均年齢74歳の人たちが舞台の上で生き生きと演じられていました。数年前には舞台にすら立ったこともなかった人たちがここまで演じられるようになったのは、まさに蜷川さんの厳しいけれども、それだけではない指導があったからこそだと思います。

 では、蜷川さんの言葉がパワハラにならずに役者の心に届いたのはなぜなのでしょう?

それは、蜷川さんの言葉はただ感情をぶつけているようでいて、実は心の底からその俳優の成長を願ってやまない気持ちから出た発言だったからではないでしょうか。

 また、叱った後のフォローもきちんとされていたようです。

藤原竜也さんの「どうしようもなくなったときに手を挙げろ。その手を俺が必ず引っ張ってやるから」という発言もそうでしょうし、大竹しのぶさんの談では蜷川さんが別の俳優を叱った後に大竹しのぶさんのところに来て、「フォローしておいて」と言うこともあったようです。

さらには、さいたまゴールド・シアターの団員のインタビューによれば「蜷川さんは決して年上の人を呼び捨てにはしなかった」とのことです。

こうした心遣いが多くの人の気持ちをつかんだのでしょう。

 部下を「ほめる」「叱る」については、3日前のこのブログ「ほめたり叱ったり、上司は忙しい」でも書いた通りですが、この度、蜷川さんを偲ぶ言葉を聞いていると、本気で相手の成長を願った結果飛び出す言葉は、粗っぽくても伝わるということ。そして、少々言い過ぎたと思ったら、フォローをすること。この2つが揃っていたら、パワハラを心配することなく、部下の成長につながる叱り方ができるのだと思いました。

 (人材育成社)


ほめたり叱ったり、上司は忙しい

2016年05月15日 | コンサルティング

当社の芳垣玲子が、5月13日(金)フジテレビ「ノンストップ 」という番組の「若手社員のやる気を引き出すために上司はどのようにすべきか」というテーマのコーナーでコメントいたしました。テレビでは若手社員に対して「ほめるべきだ」、「いや、甘やかしてはいけない」と色々な意見が交わされていました。

私が感じたのは、ほめたり叱ったりと上司はなにかと忙しいものだということです。

それも部長や役員のように上級管理職ではなく、若手の部下を数人持つ係長クラスがとりわけ忙しそうだと思いました。初級の管理職は、比較的最近まで「指導される」側だったわけです。めでたく昇格し、「長」の付く立場になったとたん、指導する側にくるりと早変わりしなければならなくなります。

自分という実体は一切変わっていないのに、いきなり「立場」が変わるのですが、これがなかなかのカルチャーショックを引き起こします。

昨日までの後輩が部下になり、上司が同僚になるという対人関係の変化にまごつくのです。そして、会社が命令系統を持つ組織であることをしみじみと感じるのです。

実は、そんな瞬間こそ組織人として一皮むけるチャンスです。

ほめる、叱るというのは、上司―部下という断層があるからこそ有効に機能するスキルです。その技術を学ぶことは、単なる従業員から組織人になるための第一歩となります。

ただし、昇格を望まない人もいます。前回の「管理職になりたいですか」でも述べたように、仕事も忙しくなるのに、部下の指導までさせられるのはごめんだというわけです。部下指導というと、自分から一方的に行なう「持ち出し」のように思っているのかもしれません。

しかし、部下指導は「一方向」ではなく「双方向」の仕事です。上司と部下は地球と月のようにお互いの「引力」で動いています。地球(上司)が月(部下)を力任せに振り回しているわけではありません。

そして、その「引力」を構成する力の中に「感情」もあります。

「組織は感情で動く」とまでは言いませんが、ほめる、叱るという感情に関わるコミュニケーションが仕事に大きな影響を与えることは確かです。

こうした複雑なパワーを使う技を身につ行けることで、人は成長していくのだと思います。

この春に昇格した皆さん、なにかと忙しいとは思いますが、部下指導も自分の成長のための大きなステップなのです。頑張ってください!

(人材育成社)


「管理職になりたいですか」

2016年05月11日 | コンサルティング

 「実施要領に明記してはいませんが、管理者登用試験にチャレンジする人を増やすことが、この研修の1番の目的です」

 最近、キャリア研修の依頼をいただき、研修担当者との打ち合わせを行うと、このようなお話を伺うことが少なくありません。

 表向きの研修の目的とは別に、本音の部分の目的があるのですが、実施要領にそのことを書くと応募者が減ってしまうので、記載することを控えるとのことです。

 女性活躍推進法を受け、今春、大手企業を中心に女性管理職が続々と誕生しています。しかし、実際のところ当の女性自身が必ずしもこの動きを歓迎している人ばかりではないようですし、女性だけでなく男性でも管理者を希望する人が減少していると言われて久しいです。

 では、その理由は一体何なのでしょうか?

 理由はいろいろあるとは思いますが、マスコミにいる知り合いは「現場から離れたくない」と言っていました。「管理職になることは事実上現場から離れること、管理職になればこそ得られる権限もあるのだろうが、現場にいることこそが自分の本命だ」とのことです。

この知り合いの場合は、前向きな理由で現場にいることを望んでいるようですが、一方、管理職になることには「業務の負担が増えることはもちろん、責任とリスクが増すだけなので全く魅力を感じない」といったマイナスのイメージを持っている人もいます。「多少給料が増えたからといって、残業手当がつかなくなれば金銭的なメリットは少ない」「管理職を勧める人は、「管理職になったからこそできる仕事がある、権限を得ればこそ仕事はこの上なく面白い」と言うけれど、下のポジションから管理職を見ていて、それほどの権限を得ているようには見えない」と言っている人もいます。

 これらの話を聞いていると、管理職になりたくないという人が決して少なくないという感想を持ちます。

 そんな中、先日、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」を見ていたら、上司を選挙で決める「株式会社OWNDAYS」のことが取り上げられていました。

 メガネ業界の「OWNDAYS」は、5年前より選挙によって管理者を決めることを行っているそうです。現社長の田中氏が社長に就任した当時、会社は倒産しかけ離職率は50%を超えてしまうなど危機的な状況であり、これを打開するためにも社員が納得するようなやり方で上司を決めることを考えたのだそうです。

 販売部門の管理職124人の中からエリアマネージャー5人を選ぶため、社員450人が一堂に会して、各候補者のスピーチを聞いてスマホで投票して決定していました。

その様子を見ると、立候補者は各々管理職としての公約を熱く語っており、一方、聞き手は熱心にそれを聞いて最終的な決断をしていました。因みに、この選挙にかかる費用は約1,200万円だそうです。

もちろん立候補した人全員が管理職になれるわけではなく、当然落選する人もいるのですが、管理職になりたい人、管理職を選ぶ人、どちらも共に主体的な取り組みだと感じました。

 すべての企業で、このような管理職の決め方を採用できるわけではないことはもちろんのことですが、前述のように管理職になりたい人が減っている中で、こうした取り組みが行われていることは非常に頼もしい感じがしました。

 私が特に印象に残ったのは、選挙後に社長が語った「今回、管理職に当選した人の中には自分が嫌いな人も入っている。私が管理職を決めたならば、その人のことは選ばなかった。だからこそ、この選挙の意味がある」という言葉です。

 管理職になりたくない人がいる一方、管理職になりたくてもなれない人がいる中で、こうした透明性のある方法での管理職を決める方法、一長一短はあるとは思いますが、1つの有効なやり方だと思うのですが、皆さんはどう思いますか。

 (人材育成社)


プレゼンテーションはTEDが一番?

2016年05月08日 | コンサルティング

プレゼンテーション(プレゼン)が下手な人は、ビジネスパーソンとして失格なのだそうです。ですから、プレゼンテクニックを身に付けることが、ビジネスパーソンにとって何よりも大切なのだとか。たしかに聴き手を説得できなければビジネスでの成功は難しいと言えます。

では、説得の力ある、最も強力なプレゼンはどのようなものでしょうか。

私の知り合いで自他ともに認める「プレゼン名人」にこの質問をしたところ、即座に「それはTEDですね!」という答えが返ってきました。

TEDについては、NHK(Eテレ毎週木曜 午後11時 ~)の「スーパープレゼンテーション」※という番組ですでにお馴染みかと思いますので、ご存知の方には納得いただける答えだと思います。TEDのプレゼンターは、いずれも「一流」の方々で、大変雄弁にご自身の主張を語ります。プレゼンの内容が興味深いだけでなく、声の出し方、間の取り方、視線の送り方、歩き方、笑わせるタイミングなど、素晴らしいの一言に尽きます。

でも、ビジネスの場でTEDをやってはいけません。失敗するだけです。

なぜなら、目的が違うからです。

TEDのプレゼンは会場の雰囲気を盛り上げ、感情に訴え、強い印象を与えます。ただし、それは教養ではあっても実務ではありません。

たとえばTEDで「熱帯雨林を守るためにエコな生活をしましょう」というメッセージを発したとします。しかし、聴衆はすぐにそうした行動をとるでしょうか?もちろん、多少は意識するでしょうけれど、また次のスーパープレゼンテーションが始まるころにはすっかり忘れていると思います。プレゼンの印象が強いため、メッセージが「上書き」されてしまうからです。

一方、ビジネスプレゼンの目的は聴き手に「行動してもらう」ことです。

販売担当者ならばお客様に「商品を購入する」という行動を、経営者ならば株主に「出資する」という行動を、工場の管理者ならば上司に「設備投資の予算申請を承認する」という行動をとってもらうことが目的です。

ビジネスプレゼンはTEDとは違って実務であり、商売のために行うものです。プレゼンセミナーやプレゼン本で学ぶテクニックは商売のために使うことが前提です。

ですから、喋りが下手でも、スライドが多少ごちゃごちゃしていても、プレゼンの後で聴き手が行動を起こしてくれれば大成功です。

「プレゼン下手はビジネスパーソン失格!」と言ったのは、先ほどのプレゼン名人です。

彼は「外資系金融機関やシリコンバレーのIT企業でグローバルな経験を積み、現在某コンサルティング会社のディレクターで、マネージャーのためのアトラクティブなプレゼンテーションテクニックと、エグゼクティブを対象にしたハイエンドなスキルトレーニングをクライアントである大手企業に提供している」とのことです。

TEDのプレゼン技術は、彼のようにプレゼン技術を売る人にとって大事なもののようです。

(人材育成社)

スーパープレゼンテーション - NHK


「あなたのゴールデンウィークは何連休?」

2016年05月05日 | コンサルティング

 「多分、5月2日と6日は当日になって『風邪をひいた』と言って休みを出す人が多いと思うけど、そこのところは分かってやりましょう」

 これは、知り合いが勤めているある会社の部長が、連休前に他の管理職に語った言葉だそうです。

 今年のゴールデンウィーク、早くも後半に入りましたが、皆さんはどのように過ごしていらっしゃいますか。

言うまでもありませんが、今年のゴールデンウィークは真中の5月2日と6日を休めば10連休になります。別の知り合いの会社では、労働組合が2日か6日のどちらかに有給休暇を積極的にとるようにと発信をしているとのことでしたが、実際にこの2日間を休んで10連休にしているのは全体の2割に満たないそうです。2日と6日の平日を恨めしいと思っている人も多いのではないでしょうか?

 そこで冒頭の言葉のように、事前に休みは出していなかったけれど、当日になって「やっぱり今日は休みたいな」と風邪を理由にする人が多いだろうから、上司はそこのところをちゃんとわかってやって欲しいということになるわけです。なかなかに部下思いの上司だと思います。

 日本では、かねてより有給休暇の取得率の低さが伝えられていますが、厚生労働省「平成27年就労条件総合調査」によると、日本の民間企業の平成27年の有給休暇取得率は47.6%と50%を下回る状態が続いています。この結果からも、多くの人が思うように有休を取れていないことがわかります。

 毎年、有給休暇取得率ランキングで有給休暇取得の先進企業とその取り組み内容を紹介している東洋経済新報社によれば、今年のランキング1位は5年連続でホンダで、取得率は3年平均で99.6%と他社を圧倒しています。

この数字、ほぼ完全取得状態であり、上記の平均の数字からすると驚異的な高さですが、ホンダでは年末に有休の残りが必ず20日以下になるよう全社で計画的な取得を進めているそうです。こうした取り組みもあって、高い有休取得率につながっているとのことですが、上位にランキングしているのはやはり大企業ばかりです。

現実問題として、中小企業ではそこまでの取り組みはなかなか進んでいないというのが実情でしょうが、今後はぜひ中小企業でも有休取得率を高めていく動きが広がって欲しいと思いますし、有給休暇の年5日取得の義務化に関する労基法改正についても、今後の展開に期待したいと考えています。

 さて、冒頭の「風邪」に掛けたわけではありませんが、5月4日は全国的に強い「風」が吹き荒れ、交通機関などにも影響が出ていました。本日5月5日の子どもの日は、東京では気温は上がったものの風は穏やかでしたが、天気予報によれば連休後半の明日6日や7日も再び風が強くなるようです。

 天気はともかく会社を経営している身としては、ぜひ我々中小企業にも「優しい追い風」が吹いてほしいと願っています。

 (人材育成社)


コンピュータは顧客の何を掴んだのだろう?

2016年05月01日 | コンサルティング

銀座通りを京橋に向って歩いて行くと、トレードマークの大きな赤いクリップが見えました。老舗文具店の伊東屋です。その店舗は細長いビルで、地下から最上階まで文房具と画材で埋め尽くされていました。入り口正面の手帳コーナーから上の階へと階段を登りながら、鉛筆、マーカー、画用紙、封筒、バインダー、クリップ、消しゴム等々・・・眺めては手に取るだけであっという間に時間は過ぎていきました。文房具が大好きな人間にとって、伊東屋はまさに聖地のようなところでした。

・・・過去形で書いてしまいましたが、いまも伊東屋はそこにあります。2015年6月に、2年近くかかった本店ビルの建て替え工事を終え、リニューアルオープンしたのです。

しかも、単なる建て替えではありません。思い切って店のコンセプトやレイアウトを変更したのです。その際に利用したのは、それまでに集積した次のような顧客購買行動に関するデータです。

1. 防犯カメラの画像から来店人数のカウントとお客様の動線などを収集、2. 3年分(2007年~ 2009年)のレジデータ、3. 店頭での来店者アンケート(200名)・・・こうした大量のデータを収集、分析して改装後の売り場レイアウトを決めました。

データの分析にあたっては、マルチ・エージェント・シミュレーター(MAS)を使った結果を参考にしました。MASは、複数のエージェントが独自のアルゴリズムに従って行動するとき、集団(全体)としてどのような結果を生むかをシミュレーションするプログラムです※1。

たとえば、映画館の中にたくさんの人が座って映画を観ているとします。そこに突然火災報知機が鳴り響き、人々が一斉に立ち上がって非常口へと走ります。前を走る人との間にスペースがあれば全速力で進み、ぶつかったら止まりを繰り返しながら、たくさんの人は非常口から外へと逃げて行きます。こうしたシミュレーションをコンピュータ上で行います。もちろん、火災時の挙動に限らず、様々な人の動きをシミュレートできます。

では、MASを参考にしてレイアウト変更を行った結果はどうなったのでしょう。

伊東屋によれば1人あたり平均購入点数で4.0%、客単価では3.4%増加したとのことです※2。マルチ・エージェント・シミュレーター恐るべし、といったところでしょうか。

ところが、新生店舗に対して否定的な顧客の声も聞こえてきます。次に、ある「文房具ファン」の声を紹介しておきましょう。

「以前の伊東屋は非常に多くの種類の文具を扱っていましたが、今はすっかり種類が少なくなってしまいました。テレビで伊東屋の社長が少品種にしたことを誇らしげに話をしていましたが、もはや文房具店とは言えないような気がします。センスの良い雑貨屋になったようです。銀座に行くたびに、特に用がなくても立ち寄っていましたが、これからはそういうこともなくなるでしょう。」

・・・さて、伊東屋は何を得て何を失ったのでしょうか。

売上の変化を見れば、リニューアルによって得たものの方が大きいことは間違いありません。

ただし、冒頭のように店舗を「過去形」で語る人たちがいることもまた確かです。

先日、おしゃれになった伊東屋の前を通ったとき、そんなことを考えていました。

(人材育成社)

※1) 現在、最も有名なMASとして株式会社構造計画研究所のartisoc があります。私も以前、artisocの前身であるKK-MASを使ったことがありますが、とても面白いものでした。機能限定版のartisocが付いている書籍も入手できますので、ご興味のある方は是非体験してみてください)。

Amazon.co.jp: artisocで始める歩行者エージェントシミュレーション 原理・方法論から安全・賑わい空間のデザイン・マネジメントまで (人工社会の可能性3: 兼田敏之代表編者, 構造計画研究所創造工学部, 名古屋工業大学兼田研究室: 本

※2) マーケティングコンサルティング導入事例~株式会社伊東屋様様~ | 構造計画研究所