中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,213話 待遇改善要求は古くて新しい

2024年04月24日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

今年3月、日本IBMに対して定年後再雇用の賃金減額について具体的に説明することを求めた救済命令が東京労働委員会から出されたとの報道がありました。

記事によると、日本IBMでは60歳以降も勤務を希望する場合には「シニア契約社員」として再雇用されるものの、賃金は正社員の2割に減額されるとのことですが、それに対してきちんと待遇差の説明をするように会社に対して求めたとのことです。これに対して、会社側は再審査を申し立てており、中央労働委員会の判断が注目されているとのことです。

日本の企業等における、いわゆるシニア社員(定年後の再雇用等)の賃金が定年前に比べ低く抑えられることについては、モチベーションの低下をはじめ様々な影響が指摘されるようになっています。私が見聞きしているところでも、現役時代の7割~4割程度に減額されるところが多いようですが、そうした中で大手企業である日本IBMが2割にまで減額していることについては、記事を読んではじめて知り正直少々驚くとともに、今後日本IBMがこの件にどのように対応するのかについて関心を持っています。

今回のような賃金をはじめとした、労働者の権利向上や労働環境改善に向けた運動については、私はこれまで日本では明治時代ごろからはじまったものではないかと考えていました。しかし実はその歴史はもっと古く、なんと天平11(739)年には行われていたという記録が残っていることを、先日訪れた千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館の展示を見て知りました。その展示によれば、当時の役人による「劣悪な職場環境や労働条件に対しては、作業着の支給、定期的な休暇、食事の改善、酒の支給など、6ヶ条の待遇改善を要求した」文書の下書きが残っているとのことです。

こうしてみると、実は古くて新しいこの問題ですが、今回の日本IBMの件に関しては、賃金を2割としている理由を「シニア契約社員が担当する業務の重要度・困難度を勘案し決定した」との説明のみにとどまっていることが、賃金そのものの低さだけでなくシニア社員から会社への信頼の失墜という、さらなる問題を生んでしまっている原因のように感じます。

今後、この問題を解決するためには、まずは会社側が減額の決定に至った経緯をはじめとする情報を雇用されている側に提供すること、あわせてこの問題に真摯に向き合おうという姿勢が求められているように思います。前述の中央労働委員会もまさにそのことを指摘しているのではないかと感じています。

前述の「天平時代の待遇改善要求」については、展示には時の雇い主側がどのような対応をしたのかまでは示されていませんでしたが、当時の役人の生々しい声が聞こえてくるようでとても興味深く見ました。話は戻りますが、労働人口の減少が指摘される現代において様々な知見を有するシニア社員は、組織にとってますます貴重な労働力となることは確かなことです。流失を防ぐためにも、待遇をはじめとする様々な事柄について、まずは誠意をもって説明をするということが大切であると改めて考えています。

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第1,212話 多数決ではなく、対話して議論を深めよう

2024年04月17日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「では、多数決で決めましょう」

弊社が研修を担当させていただく際には、テーマにかかわらず多くの場合、講義と演習を繰り返しながら進めていきます。演習では3名から6名で1つのグループになっていただきますが、初対面の人同士のグループでも最初は少し遠慮がちにしていても、演習を進めていく中で徐々にうちとけて意見交換が盛んになっていきます。そのためグループ演習に取り組んでいただくことは各テーマの理解を深めるだけでなく、チームワークを作り上げる上でもとても有効な手段です。

しかし最近では、そのグループ演習での討議の様相が少々変わってきているように感じることが増えてきています。それは、メンバー同士で積極的に意見交換をしたとしても、最終の意見のまとめはそれまでの議論の経緯とは別に、多数決で決定することが多いのです。

多数決は民主主義の基本と言われているように、多くの人が子どものころから慣れ親しんできている方法だと思います。たとえば小学校の学級会などで何かを決める際には、みんなで意見を出し合った後に多数決で決めるという経験をした人はたくさんいると思います。このように、多数決は物事を決定する際の最も基本的な方法ということなのでしょう。

しかし、前述のとおり最近ではグループ討議を観察していると、「最後は多数決で決めればよい」ということを前提に話し合いをしているように見えることが少なくありません。たとえば、演習であるテーマについて話し合いをしてもらうような場面では、まず一人一人順番に意見を言い、それを聞いた周囲のメンバーはその意見に「いいね」や「なるほど」などと同調はするのですが、その意見に対して「なぜそのように考えたのか」を聞いたり、それに対して「自身はどのように思うか」などを発言することは少ないのです。こうした結果、議論の中でメンバー間の実のあるやり取りが少なく、最後のとりまとめも多数決で決めるため、あまり議論が深まらないということになってしまいます。

多数決は一見公平な方法のようにも見えますが、よく言われるように、多人数が支持する意見が必ずしも正解とはかぎりませんし、少数意見に耳を傾けないことにもなってしまかねないという一面も持っています。日本人の多くが多数決を好む理由には、文化的な要因や社会的背景、歴史的な影響などが関係しているようにも言われています。確かに周囲との衝突を避けてうまくやっていくことを重視するあまり、自分とは異なる意見に対して自分の考えを主張することを控えてしまうということが少なくないように思います。こうしたこともあって、結論を出す場合にもわかり易くかつ反対も出にくい多数決という方法を選択するということなのかもしれません。

仕事に限らず、コミュニケーションの重要性は日々様々な場面で叫ばれていますが、そのためにはまずは積極的に対話をしていくことが大切です。意見の異なる相手ともお互いの立場や意見の違いを理解し、その上で簡単に多数決などに流されることなく一致点を探っていくという努力が必要不可欠だと思うのです。

以前、どこかのメディアで「最近の若い人は周りから浮いてしまうことをおそれるあまり、自らは強い主張をしない」というような話を聞いたことがあります。「出る杭は打たれる」ことを恐れずに、意見の異なる相手とも積極的に対話していくことを意識していくことが大切なのではないでしょうか。

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第1,211話 アクティブ ・バイスタンダー(行動する傍観者)になろう

2024年04月10日 | 仕事

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「OJTトレーナーになった先輩が積極的に仕事を教えてくれる人ではなかったので、とても困りました。そして、周囲もそれを見て見ぬふりをしていました」

これは先月、弊社がある企業のOJTトレーナー研修を担当させていただいた際に、受講者のAさんから聞いた言葉です。Aさんは入社4年目の社員として、この4月に入社した社員のOJTトレーナーになるために研修を受講したのですが、そのときに話してくれたのが冒頭の言葉です。

Aさんが3年前に入社し配属された部署でトレーナーとして会ったのが、先輩社員のBさんでした。Bさんは仕事はできる人だったのですが、Aさんに積極的に仕事を教えてくれるようなことはないなどトレーナーとしてはあまり熱心ではなかったため、Aさんが仕事を教わりながら覚えていく機会は多くなかったのだそうです。Aさんとしては、当時を思い返すとBさんがトレーナーとしての責務を全うしていないことは問題だったと感じるけれど、同時にBさん以外の先輩や上司もAさんをフォローすることはなかったため、とても孤独に感じたとのことです。

Aさんの話を聞いて思い浮かんだのが、「アクティブ ・バイスタンダー」と言う言葉ですが、直訳すると「行動する傍観者」という意味です。ハラスメントや暴力や差別が起きたときや起きそうな場面において、「その場に居合わせた人が傍観者としてただ見ているのではなく、何らかの行動を起こす人」のことを言いますが、ハラスメントを防ぐなどの効果もあり注目されています。

この「傍観」については、たとえば職場において同僚がハラスメントを受けていることに気が付いても、見て見ぬふりをしてしまうことなどは中立の立場ではなく、本人にはそのつもりはなくても結果として自身もハラスメント行為に加担してしまったことになるとされています。そして、そのような場面では直接ハラスメント行為を止めさせることはできなくても、たとえばやり取りを記録することや別の人に助けを求めたりするなど、被害者の力になるために勇気をもって一歩を踏み出し行動することで、そうした場を変えていくことができるともされています。

冒頭の話のBさんの行為は、ただちにはハラスメントに該当しないと考えられます。一方でAさんが困っていてることに周囲が気づいていたのであれば、Bさんへ何らかの助言をしたり、Aさんへ「大丈夫?」などと声をかけたりすれば、Aさんが孤独感を持ってしまうようなことにはならなかったのではないかと思います。

4月も10日ほどが経過し、来週以降は早くも新入社員研修を終えた新人が徐々に職場に配属されていく時期になります。当然、新入社員を受け入れる側の各部署ではOJTトレーナーを決めるなどの準備を進めていることと思います。同時に受け入れにあたってはくれぐれもトレーナー1人にすべての責務を担わせるのではなく、周囲の人間も「行動する傍観者」として積極的に関わりを持つようにしていただきたいと考えます。

こうした職場の関係性が新入社員にやる気を起こさせ、成長を促し、やがては巡り巡ってその新入社員が成長した暁に積極的に後輩を育てていくという好循環につながっていきます。それに加えて周囲の人間の成長という点でも大きな意味を持つものだと思います。

新年度がはじまり、いよいよこれから本格的にスパートをかけていく時期です。だからこそこのタイミングで今一度、職場の全員で「行動する傍観者」の重要性を再確認してみてはいかがでしょうか。

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第1,210話 新人を希望する部署に配属することは離職防止に有効か

2024年04月03日 | 研修

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新年度が始まり、各地で企業等の入社式が行われました。私は毎年それぞれのトップが訓示の中でどのような話をするのかを楽しみにしているのですが、今回報道されたトップの言葉は「チャレンジ・挑戦してほしい」、「失敗や変化を恐れずに」、「明るく前向きに」などが多かったと感じています。これらの言葉は取り立てて目新しさはないものの、とても大切なことでありますので、しっかり新入社員に届いて今後の指針の一つとなるとよいと考えています。

また、今年は久しぶりに入社式を対面で行った企業が多かったようですが、これまでとは違い様々な部分で変化が見られたところもありました。たとえば、入社式に臨む新入社員の服装について、それぞれの個性を表現できるようにとスーツやネクタイの着用が義務でなくなり、カジュアルな服装を認める企業がこれまで以上に見られました。

また、労働人口の減少が始まり採用活動に苦労している企業が多くなってきているためか、新入社員の定着を重要視してこれまで以上に様々な配慮をしようとする企業が増えたことも、大きく異なるところだと思います。実際、企業新卒内定状況調査によると、今春卒業の採用充足率は75.8%であり、これは2016年卒以降で初めて8割を下回り過去最低になったとのことです。そのように考えると、せっかく採用した人が退職してしまうことがないように様々な工夫をすることは大切です。具体的には、初任給を上げる、全員を希望する部署に配属する、直属の上司に申告せずに今後希望する部署へ異動希望を出すことができる等々の対応を新たに始めているとのことです。

しかし、このような企業の対応については否定するものではもちろんありませんが、一方で全員を希望する部署に配属するということは、必ずしもその新入社員の成長を促すものにはならないとも考えます。入社前には想像すらしていなかった仕事を担当したり、本人が希望していなかった部署に配属されるなどしたことで、思いがけず本人も気づいていなかった能力が発揮されたり、結果的に新たなスキルを身に付けることができたなど、当人の成長につながるといった例も少なくないと思います。

また、仮に希望した部署に配属されたとしても、そこで上司や先輩社員が新人を丁寧に育成しようとしなければ、目に見える成長にはつながらないことが考えられますし、最悪は離職につながってしまうこともあり得ます。

今後、新入社員が定着し、しっかり成長していってもらうためにも、企業全体としても、また受け入れる側の部署でも、長期視点でじっくりと新入社員の育成に向き合ってほしいと思います。

また、新入社員にとっては希望しない部署に配属されるということは、ある意味で挑戦的な状況だと思うことがあるかもしれません。しかし、そんな状況の中でも前向きな姿勢と柔軟性を持って仕事に取り組むことで、必ず成長の機会につなげることができます。

今後私も新入社員への研修をとおして、そのことを丁寧にお伝えしていきたいと考えています。

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