中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,193話 「組織市民行動」をとるためには

2023年11月29日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「何かお手伝いをすることはありますか」

ある土曜日の昼下がりに自宅近くの通りを歩いていたところ、顎と手から血を流して仰向けに横たわっている男性がいました。男性の隣には携帯電話で消防に連絡をしているご夫婦がいたのですが、たまたま傍を通りかかった私も素通りをすることができずに、「どうしたのですか」と声をかけたのでした。そのご夫婦から聞いたところでは、前を歩いていた男性が突然躓いて倒れ、顎と手にすり傷を負い立ち上がることができなくなってしまったので、救急車の手配をしたところとのことでした。事情を聞いた私は、男性の頭の下に彼のカバンを枕代わりに添える程度のことしかできなかったのですが、そのままその場を立ち去ることはできませんでした。

先述の通り、この日は土曜日の昼下がりで、また駅に通じる道でもあることから、多くの人が現場の前を通ったのですが、驚いた(そして嬉しい)ことに通りかかった人の大半が声をかけてくれたのでした。具体的には「救急車は呼びましたか?」、「お手伝いできることはありますか?」、「この先の病院にこれから行くのですが、受付の人に伝えましょうか」、「病院まで一緒に運びましょうか」、さらには「私は看護師です」と脈を測ってくれる人もいました。その後、救急車の音が近づいてくると、一方通行の道路だったために迷わないように救急隊に道案内をしてくれる人もいたのです。最終的に救急隊に「第一発見者と救急車を呼んだ人以外は解散してください。」と言われ、お互い特に挨拶などをすることもなく、そのままその場を後にしたのでした。

この出来事には全体で10名ほどがかかわっていたと思いますが、他の誰かの指示で動いたのではなく、皆がそれぞれできることを見つけて自主的に動いたという点で、客観的に見ても素晴らしい連携プレーでした。

これはまさに、組織で言うところの「組織市民行動」だったのではないかと思います。組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)とは、アメリカ インディアナ大学のデニス・オーガン教授によって提唱された概念で、従業員が与えられた役割のみを遂行するのではなく、自分の職務の範囲外の仕事をする行動のことです。報酬などの見返りを求めることなく自発的に他者を支援する行動で、組織を支える重要なものです。

今回、たまたま通りかかった人達によってこうした「組織市民行動」的な動きが生じたのは偶然の出来事だったのかもしれません。しかし同様に企業などにおいても職場で困っている人がいたら役割如何にかかわらず助けたり、声をかけたり、休んでいる人の仕事をフォローしたりするなどの行動をとることができれば、組織の力がさらに大きく強くなれるのは間違いないのではないかと感じました。

しかし、ただ単に何もせずに待っているだけでは、なかなかこうした行動には至らないでしょうし、組織に定着することもないと思います。従業員が「組織市民行動」をとりやすくするためには、その意義を理解してもらうとともに積極的に働きかけていくこと、さらにはそうした行動がきちんと評価されるなどの組織としての取組みが必要でしょう。その結果として組織の風土として根付かせることができるのだと思います。

今回、私は冒頭の出来事から組織的市民行動のことを思い出したわけですが、組織で仕事をするということはメンバーの合計人数の力ではなく、人数の合計値に+アルファをもたらすこと、それこそが組織で仕事をする意味なのだと、今回の経験をとおして改めて感じたのでした。

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第1,192話 人間の多面性とは

2023年11月22日 | キャリア

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「Bさんは言いたいことがあっても抑えてしまうところがあるから・・・」

言うまでもないことですが、私たち人間は、様々な顔を持っています。一所懸命に仕事をしているときと家族と接しているときなどリラックスしているときの顔では、大きく異なる人もいるでしょう。また、オンとオフに関わらず、気の許せる人とそうでない人に見せる顔も各々違うはずです。さらには、同じ人間でも普段は穏やかにふるまっているような人でも、自分の思い通りにならないことがあると突然豹変し怒鳴ったりするような人もいて、周囲が呆気にとられてしまうようなこともあります。

さて、冒頭の言葉はある企業の研修担当者2人のうち、Aさんがもう一人のBさんを評して言った言葉です。Aさんから見たBさんは、自分の言いたいことを表に出すよりも、ぐっと抑えてしまう人という印象のようですが、普段私がBさんと接している中で持っている印象はAさんとは全く異なり、自分の考えを正々堂々と話すことができる人というものです。このようなことはよくあることなのかもしれませんが、私のBさんの印象とAさんからBさんへの印象は、まるで異なっているということです。

先日、奈良県明日香村にある橘寺を訪れる機会がありました。橘寺は、聖徳太子が生まれたとされているお寺で、今回は太子の事績を描いた聖徳太子絵伝も観ることができました。ところで、この橘寺には「二面石」という高さ1mくらいの飛鳥時代の石造物があります。二面石の名のとおり、右に善面、左に愚面が彫られていて、私たちの心の二面性を表現しているのだそうです。これが示しているように人間には様々な「顔」があり、意識するしないに関わらず、接する人によってそれを使い分けているのではないでしょうか。もちろん、人間ですから気が合う人や合わない人がいて、当然のことながら気が合う人と接しているときの方が二面石でいうところの善の面が多く表れ、その逆もまた然りということなのではないでしょうか。

私は、定期的に仕事で昇格候補者の面談を担当したり、就職試験の集団討議の面接官を担当したりすることがあります。面談では、限られた時間に候補者の経験を質問したり、管理職としてどのように活躍したいのかなどについて確認したりしています。また、集団討議の中ではメンバー同士のやりとりの様子を観察しながら、個々のコミュニケーション力やリーダーシップ等の有無を確認しています。

しかし、先述のとおり人間には様々な面があるわけです。面談や集団討議において、いわば善の面ばかりを出している候補者に、それ以外のどのような面がありそうなのかを探ることも面接官としての大切な任務だと考えています。人には様々な面があることを踏まえ、できる限り多くの面を引き出して、それを的確に評価することがその後のその人の成長にも影響する可能性があるわけですから、気を引き締めて臨まなければならないと改めて思っています。

人は、一つの面だけで理解や評価をすることはできないこと、本人ですら気づいていない別の顔をも持ち合わせているかもしれないこと、同時に他人からの働きかけや本人の意識の持ちようで、良い方向にもそうでない方向にもいかようにも変えることができる可能性も持っているということを考えると、人間とは実に奥が深い存在なのだなと改めて感じています。

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第1,191話 「文殊の知恵」を発揮するためには

2023年11月15日 | コミュニケーション

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「虫殺して滅んだ蘇我一族」

これは「大化の改新」があった645年の年号の覚え方の一つです。中学や高校時代の歴史の授業で語呂合わせで年号を覚えた人は少なくないのではと思いますが、私もその一人です。大化の改新の語呂合わせには様々な覚え方があるようですが、私は冒頭のように「虫殺して滅んだ・・・」というように覚えました。

先日、奈良県明日香村にある牽牛子塚古墳(ケンゴシヅカコフン)を訪れる機会がありました。牽牛子塚古墳は、7世紀の飛鳥時代の天皇のために造られた平面八角形の古墳で、昨年から復元された古墳の見学が可能となったものです。

この古墳の被葬者として有力なのは斉明天皇だそうですが、斉明天皇は大化の改新を起こしたあの中大兄皇子の母です。大化の改新は中大兄皇子が、聖徳太子亡き後に急速に力を持った曽我氏に危機感を持ち、天皇中心の政治を目指して中臣鎌足らとともに蘇我入鹿を倒したものだと、その昔に授業で習った記憶はありました。そして今回新たに牽牛子塚古墳の墳墓内で現代的にアレンジされた説明動画を観ることができ、645年という遠い昔に思いを馳せることがかなったのです。案内をしてくれたガイドの話も聞きながら、改めて大化の改新とは中大兄皇子の蘇我入鹿に対しての、まさにクーデターだったのかもしれないなどと思ったのでした。

いつの時代でも諍いが起こってしまうのが世の常で、世界を見渡せば今現在もロシアのウクライナ侵攻から始まった戦い、さらにはイスラエルとハマスの軍事衝突が起きています。「人間2人集まれば対立が起こる、3人集まれば派閥ができる」と言われるように、どんなに少人数であっても残念ながら諍いは起きてしまうわけで、これはある意味で人間の性といったものなのかもしれません。

さて、私たちは会社や学校など何らかの組織に属していたり関係を持っていたりすることが多いのではないかと思いますが、組織とはその形にかかわらず様々な考えを持った人間の集まりであることが一般的です。様々な考えのある集団だからこそ、組織全体としての力が発揮できることになるのだとも考えるのですが、同時にそれを一つの方向にまとめていくことはなかなか簡単ではありません。しかし、様々な考えを集めて「文殊の知恵」を存分に発揮できるようになれれば組織力を上げることができることも、また確かなはずです。

では、そのためにはどうすればよいのでしょうか。妙案は簡単には浮かびませんが、やはり言葉を持つ人間同士、「話し合い」を続けていくことが基本であり、そして結局のところそれに尽きるのではないかと私は考えています。怒鳴ったり陰口を言ったり、あるいは第三者を通して伝えるのではなく、正々堂々と繰り返し話し合いを続けること、これしかないのではないのでしょうか。それにしても、異なる考えを受け入れるということは人間が生き続ける限り、永遠の課題と言えるのかもしれません。

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第1,190話 体験することの意味とは?

2023年11月08日 | 研修

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「オン コロコロ センダリマトウギソワカ」

これは、先日訪れた奈良の薬師寺での見学ツアーに参加した際に、案内の僧侶から聞いた真言(呪文)です。おおよその意味は、「帰依し奉る、病魔を除きたまえ払いたまえ、センダリやマトーギの福の神を動かしたまえ、薬師仏よ」といったものとのことです。

このツアーでは僧侶の案内により、はじめに東塔・西塔を見学したのですが、その次の金堂の薬師三尊の説明では薬師如来を医者に、左脇侍の日光菩薩を日勤の看護師に、右脇侍の月光菩薩を夜勤の看護師に例えて、とてもわかり易い解説をしてくれました。その後、僧侶に続き参加者全員で冒頭の「オン コロコロ・・・」を唱えるように言われ、薬師三尊を前にツアーに参加していた40~50名全員で合唱したのです。私をはじめ多くの人は初めての体験だったようでしたが、全員で真剣かつ楽しく真言を唱えたのでした。私自身は過去に薬師三尊を見学したことは何度かあったのですが、ガイドブックや解説を読むだけでなく、今回のように仏像を前に皆で大きな声で真言を唱えるという体験により、これまでになく薬師三尊への理解が深まり、何となく身近に感じられました。同時に、これにより僧侶や他の参加者との一体感を得ることもでき、とても印象深く記憶に残るような時間になりました。

さて、最近では日本を訪れる外国人旅行者の数がコロナ前に戻りつつあるとのことです。日本に複数回訪れる人も多いようで、一通り名所旧跡をめぐり終えた後は、次の段階とし様々な体験を通じて楽しんでいるという話を聞くことも増えてきています。たとえば、そば打ちをしたり茶室でお茶をたてたり、着物を着て散策をしたりするなど、日本人の私ですらまだしたことがないようなことまで、遠く外国から来た人達が体験しているのです。見たり聞いたりするだけでなく、実際に体験してみることを通して日本の文化に触れ、その良さを彼らは実感しているのだと思います。

これらの例からもわかるように、「体験する」ことは大切なものだと改めて思うのですが、このことは私が日々担当している研修においても言えることなのです。一般的に、研修の進め方としては、まず講師が話をする講義時間があり、その後に受講者が演習を通して理解を深めていく演習時間があります。現在でも1~2時間程度と短時間の講演では、講師が一方的に話すだけのものもありますが、それ以上の時間をかけて行う研修では講義と演習を繰り返して進めていくのが今の主流の進め方ではないかと思っています。実際に私が担当している研修でも、講義のときにはあまり関心を示していなかった受講者が、演習に入った途端に生き生きとした表情になって、積極的に参加していたというような例は枚挙にいとまがありません。

それを証明するように、研修終了時に記入してもらうアンケートでは「講義と演習の配分がちょうどよかった、演習を通じて理解が深まった」といった記述が毎回相当数あるのです。

そして、この「体験する」ことは日々の仕事の中でも重要な意味を持っています。仕事の中で得た様々な知識を、さらに深く理解して身に付けるためにも、またそのことによって自分に自信をつけてもらうためにも、実際に体験してもらうことがとても大切なのだと改めて思っています。

(冒頭の写真はWikipediaより)

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第1,189話 部下指導は脈々と受け継がれる?

2023年11月01日 | 仕事

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「Aさんから教わりました」

これは、先日弊社が担当させていただいた中堅社員を対象にしたある研修で、2人の受講者から異口同音に聞いた言葉です。

2人とAさんは別の部署で働いていますが、仕事の関係で定期的に接点があり、2人はその際にAさんから「仕事で使うと便利だから覚えるように」とあるフレームワークを習い、使うようになったと話をしてくれました。

この話を2人から聞いた際に私の頭に浮かんだのは、かつてAさんの上司だったBさんのことです。当時Bさんはある支社で管理職として働いていましたが、様々な部署のメンバーへもリーダーシップを発揮していたことを覚えています。Bさんはメンバーと積極的にコミュニケーションをとっており、日々気軽に声をかけていましたし、仕事だけでなくアフター5には飲み会や花見会などのレクリエーションも積極的に開催していることなどを、本人や周囲のメンバーからも聞いていました。

こうしたことから、Bさんは直属の部下だけでなく、他のメンバーからも相談事を持ちかけられることも多々あったようで、それに対してBさんからアドバイスをしたり、ときには注意をしたり厳しく指導したりすることもあったということを聞いていました。そのときにBさんから様々に影響を受けたメンバーの一人が、Aさんだったのです。Aさんは当時30代でしたが、Bさんから様々な指導を受けて40代後半になった今、監督職として活躍していることを人事の研修担当者から伝え聞いていました。

そうした中で今回、冒頭の言葉を中堅の2人の受講者から聞いたのです。私は以前から「部下指導を熱心に行う人に育てられた部下は、やがてその人が管理監督職になった際に今度は自身が部下や後輩の育成を積極的に行う人になる」と考えていましたが、かつてBさんに熱心に指導を受けたAさんが、今度は自分が後輩や部下を熱心に指導するようになったということで、これはまさにプラスの意味での「因果応報」とも言えるような気がしているのです。

そのように考えると、後輩や部下育成を時間の流れで考えてみると、それは単なる「点」ではなく、その「点」がつながって「線」となり、それがやがては広がりをもって「面」となるといったように、将来に向かって脈々とつながっていくものなのではないかと思うのです。ですから、もし管理監督職が「部下の育成なんて、大したことではない」などと考え疎かにしてしまうようなことがあると、それが次の世代にも、さらには後々の世代にもマイナスの影響を与えてしまうということになってしまうのではないでしょうか。

たった一人の管理監督職の部下への対応が、その組織の未来にも大きな影響を及ぼすと言っても過言ではありません。そのことをしっかりと考えて対応しなければならないと今回の一連の話をお聞きして改めて考えました。

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