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中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,262話 頷いたり、共感を示したりする人が多い日本人

2025年04月23日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

かねてより、コミュニケーションにおいて「傾聴」することはとても大切であると言われています。文字が示すとおり、「傾聴する」とは話し手の言いたいことを言葉や態度で丁寧に示しながら聴くことです。たとえば話し手と視線を合わせたり、頷いたり、相槌を打ったり、さらには表情や声の調子も使って「おっしゃりたいことは○○ですね」などと言うことも有効な傾聴の手段です。

そして、この傾聴の必要性は一対一のやりとりにおいてだけでなく、一対複数であっても同じことが言えると思います。たとえば、私が担当させていただく研修の中で複数の受講者に対して講義をする際にも、頷くなどで受講者が傾聴をしてくれていることが確認できると、話がきちんと伝わっていることがわかるため、安心して先に進めることができると感じています。

しかし、頷くなどしっかり傾聴をしているように見えている受講者であっても、いざ演習を始めるとこちらの指示とは全く違う作業を始めてしまうなど、実は話をちゃんと聴いていなかったのかもしれないと思うような人に出会うことがあるのというのも、また確かです。

そうしたところ、先日(4月21日)の日経新聞に「日本人は頷くだけでなく、動作や言葉で共感をちょくちょく示すことで、相手に聞いていることや、『話に夢中になっています』」と意思表示す人が多い」という記事が載っていました。それから考えると、研修中に「うんうん」と頷いたり、盛んに相槌を打ったりする受講者が多いということは、日本人だからこその特徴ともいえるのかもしれません。

それでは諸外国と比べて、なぜ日本人には頷いたり共感を示したりする人が多いのでしょうか。

これについては、私は以前読んだ書籍(斎藤環 2013 『承認をめぐる病』 日本評論社)に一つのヒントがあるように感じています。著者の斉藤環氏は精神科医ですが、この本の中で「現在の日本はコミュニケーション偏重主義であり、学校や職場における対人評価はコミュニケーションカの有無で決定づけられていると述べています。さらに、ここでいうコミュニケーションとは論理的・言語的な能力というよりは、「空気を読む」「笑いをとる」「他人をいじる(操作する)」といった能力であり、このような傾向のもとで社会的承認がそのまま適応度を決定づけるという奇妙な事態が進行しつつあり、他者からの承認が得られなければただちに居場所や職場を失うということを意味するとも述べています。これらをふまえ、斎藤氏は情報量の低いやり取りを「毛づくろい的コミュニケーション」と表現されていました。

そのように考えると、日本においては空気を読むなどによって他者からの承認を得ることが何よりも優先されるあまり、必要以上に頷いたり共感を示したりするようになった人が多いということなのかもしれません。

仕事をはじめ人間が生きていく様々な場面においては、他者とのコミュニケーションがもちろん必要であり、その中で他者からの承認を得ていくということが大切であることは言うまでもありません。一方で他者からの承認を求めすぎるあまり、他者と考えが異なり意見を交して調整することが求められるような場合であっても、必要以上に頷いたり共感を示すことで結果的に本来必要なコミュニケーションを妨げてしまうようなことは、本末転倒であると言わざるを得ない状況です。

必要以上に頷いたり共感を示したりするということとコミュニケーション力が高いということとは、異なるものであるということをしっかり理解しておかなければならないと改めて考えています。

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第1,261話 経験に重きを置くのはなぜか

2025年04月16日 | 仕事

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「〇〇業務に従事したご経験をお持ちの方」

求人誌をはじめとする求人欄の応募資格には、従前からこのような表記をよく見かけます。経験者を求める理由には様々なものがあるのだと思いますが、教育やトレーニングなど育成にかかる時間やコストを削減することができ、さらには即戦力として短期間で成果を出してくれるのではないかという期待があるのだと考えられます。

この傾向はビジネス界のみならず、スポーツの世界でも同様のことが言えるようです。先日(4月13日)の朝日新聞に、最近はサッカーJリーグの監督の平均年齢が高くなっており、課題が浮き彫りになっているとの記事が出ていました。

具体的には、サッカーJ1の監督の平均年齢は1993年の開幕時は46.2歳、その後は右肩上がりで現在は50.91歳なっており、欧州プレミアリーグと比べても高いとのことです。因みに、イングランドプレミアリーグの監督の平均は48.05歳ということです。

この記事によると、日本の監督の平均年齢が高い理由は「J1で過去、どんな結果を出したか」とこれまでの実績を優先した結果であり、その背景には失敗したときのリスクを避けたいという思惑があるとのことです。

私自身も、これまで研修のご依頼をいただいた際に、その研修テーマに関する経験の有無や、どれくらい(何回、何年)の実績があるかなどについて尋ねられることがあります。依頼者からすれば、経験豊富な方が失敗するリスクは少ないことから、望ましいと考えるのが一般的だとは思います。

同時に、こういったご質問を受けるたびに私が思うのは、どんなに経験豊かな人であっても必ず1回目の経験があり、その後の経験を重ねて今があるということなのではないかということです。

つまり、失敗を恐れるあまり、また育成にかかるコストを避けるために経験者だけを求め続けていると、そのときは良い結果が出せたとしても、それによって若手の育成がどんどん遅れてしまいます。その結果、後進が育たないという長いスパンで見るとマイナスの結果を招いてしまっていることになるということです。

さらに言えば、「経験がある=優れている」とは一概には言えない場面もあると思っています。たとえば、経験があるからこそ古い方法に固執してしまい柔軟性に欠けることになってしまったり、新しいことを学ぼうとする姿勢がない結果、変化に適切に対応できなかったりするということもあります。

そのように考えると、経験がないからこそ新しい視点や発想を持つことができ、そのほうが効果的な場面も大いにありえるとも考えられます。

冒頭の話に戻ると、サッカーのJリーグでは今後は監督の参入障壁を低くして、若手や多様な人材の登用を積極的に促していくこととしているそうです。変化の激しい、これまで経験したことがないことが起こりえる現在や今後の状況の中では、どのような世界であっても「その仕事をどれくらいやってきたか?」というこれまでの経験に重きを置くのではなく、「未経験ではあっても新しい発想が持てそうか、それによって成果を出せそうか?」といった将来への「伸びしろ」を重視していく必要があるのではないでしょうか。そのためには積極的に育成していく、そのためのコストは惜しまないという姿勢をもつことが、こういった状況であるからこそ必要なのではないかと強く考えています。

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第1,260話 若者は短縮言葉好き?

2025年04月09日 | 仕事

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「変化を呼び込む! 新紙幣タイプ」

産労総合研究所の発表(3月26日)によると、2025年度新入社員はこのタイプなのだそうです。一体どういうタイプなのかと思ったのですが、この意味の背景には、2024年7月に発行された新紙幣には偽造防止技術やユニバーサルデザインなど最新技術が盛り込まれており、それらは多様性を受け入れ最新のITリテラシーを身につけている2025年の新入社員と通じるところがあるいうことで、この表現になったということです。

さて、新入社員が入社して1週間が経過し、多くの企業では新入社員研修を行っているところだと思います。私も新入研修を担当させていただいていますが、こちらが指示した演習に熱心に取り組むなど、今年の新入社員も非常に真面目な人が多いと感じます。その一方で、チームの中で自ら発信したり、意見をとりまとめたりするなどの主体性が旺盛な人はあまり多くないという印象も持っています。

ところで、今年の研修で新入社員に接している中で今まで以上に感じるのが、「短縮言葉」です。たとえば「お疲れ様」のことを「おつ」、「まじで?」をたった一言「ま?」と表現するなどで、他にも実にたくさんあるようです。彼らのやりとりを聞いていると一瞬、外国語?と感じるくらい私には意味不明な言葉もたくさんやりとりされていて、まさに「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重要視しているのだなと納得できるくらいに短縮言葉が多いのです。

新入社員研修では、敬語をはじめビジネスの基本となる「言葉遣い」を練習してもらう時間をたくさん設けているのですが、こうした言葉遣いとは全く異なる短縮言葉を若者達はなぜ使うことが多いのでしょうか。試しに休憩時間に数人の受講者に聞いてみたところ、特に深い意味はなく「何となくノリがいいから・・・」といった回答でした。それを聞きながら同時に私が感じたのは、言葉を短くすることで「余白」や「間」が生まれて断定的な言い方ではなくなることから、ソフトに伝わるとともに、言わんとするところを相手に想像させるような意味合いもあるのではないかということです。つまり、これはコンテクストに過度に依存したコミュニケーションになってしまっているようにも考えられると思います。

しかし、短縮言葉を多用することは、若者同士であればノリで通じるところがあるとは思いますが、ビジネスシーンにおいてはまだまだ一般的とは言えない、理解されない状況です。もしそれを多用しようとすれば、ビジネスパーソンとしての印象は決して良くはならないでしょうし、本来伝えるべき事柄が伝わらず、あるいは誤って伝わってしまうなどにより、あとで大きな問題を引き起こすことになってしまうかもしれません。

言葉は時代とともに変化するものということはもちろん承知していますが、一方でビジネスシーンにおいては言葉も含めたマナーも大切です。敬語をはじめ最低限必要となる言葉は当然押さえたうえで、きちんと使えるようになる必要があることは言うまでもありません。

これは若い人に限ったことではありませんが、このところ敬語をはじめそのシーンに合った言葉遣いをすることにも高いハードルを感じる人もいるようですから、まずはきちんと意識をすることから始めることが必要なのではないでしょうか。

今年の新入社員のタイプである、「変化を呼び込む! 新紙幣タイプ」の良さは十分に発揮してもらいたいと思いますが、言葉遣いについては短縮言葉でなく基本をしっかり押さえてほしいと考えています。

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第1,259話 職場が高齢化していく中で必要となる活性化策とは

2025年04月02日 | 仕事

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「かかし」で有名な宮地岳町をご存知でしょうか。

宮地岳町は熊本県西部の天草下島の中央部に位置しています。先日私は天草市を訪れたのですが、その際にたまたま立ち寄ったのが道の駅「宮地岳かかしの里」でした。

宮地岳町は世帯数224、総人口が431人、うち65歳以上が387人となっていて(天草市HPより)、高齢化率89.8%のいわゆる限界集落です。

この宮地岳町が有名になったきっかけは、人口を上回る数の600体以上の手作りのかかしの存在です。かかしの里があるということを知らずに、たまたまこの地を訪れた私は今にも動き出しそうな、生き生きとしたかかし達に出迎えられ、「ここは一体何なのだろう?」と驚きました。

この道の駅は平成24年3月に廃校となった宮地岳小学校の施設を活用しているのですが、往時の小学校での日常生活の一コマがかかし達によって再現されているのです。たとえば校庭でかかしが体操をしていたり、教室では先生・生徒の授業風景が再現されていたり、別の教室では結婚式をしていたりもしています。また、田植えの時期には、周辺の道路に農作業をしているかかし達が並んで、毎年その期間には4万人もの観光客が訪れるとのことです。

それでは一体、なぜ宮地岳町に600体以上ものかかし達がいるのでしょうか。私が伺った際に、かかしの発起人で現在「宮地岳かかし村 初代村長」の碓井弘幸氏に偶然お会いすることができ、いろいろとお話を伺うことができました。碓井さんは中学校の数学の教師と小学校の校長を務めた後に公民館長になられたそうですが、その際に高齢者が集う「ふれあいサロン」の活動の一環として、かかし作りを提案したとのことです。もともと碓井さんは趣味で能面を作成していた経験があったため、それぞれ異なる表情のかかしを作ることができるのではと考えたとのことです。その後、最初の6体のかかしが完成し道路沿いに展示したところ、道行く人々が写真を撮るなどの反響があり、地域の活性化につながると感じた住民達も積極的にかかし作りに参加するようになったとのことです。

かかし達の顔は廃品の発砲スチロールでできており、また服は町民が持ち寄った古着であるなどエコでもあるためか、​この取り組みはメディアでも取り上げられ、宮地岳町は「かかしの里」として広く知られるようになったのです。 ​そして、現在は「道の駅 宮地岳かかしの里」として、「宮地岳米」や当地生産の菜種油とともに販売され、観光客の受け入れ拠点としても機能しているようです。

このように、宮地岳町は地域住民の協力と創意工夫によって、「かかし」を通じた地域活性化を実現し、そのユニークな取り組みが全国的な注目を集めるようになったわけですが、であるからこそどうしても私が心配になってしまうのは、この町の高齢化であり人口減少です。かかしづくりは高齢者の皆さんを中心に行われているわけですから、いずれ作り手がいなくなってしまうのではないかと心配になるのです。発起人の碓井さんも御年87歳とのことです。

もちろん、このような高齢化の心配は宮地岳町だけのことではなく、日本全体に言えることですし、組織においても言えることです。先日弊社が研修を担当させていただいた企業では、シルバー社員は増加している一方、新入社員は必要な人数を確保できないために、毎年社員の平均年齢が上がっているとおっしゃっていました。これは多くの企業が抱えている問題ですが、解決に向けた妙案がないことも事実だと思います。

こうした流れの中でも、道の駅「宮地岳かかしの里」では先月下旬に4周年祭りを行ったり、5月頭までかかし祭りを開催したりするなど様々なイベントを行い、集客に努めています。企業においても宮地岳町のかかしのような組織活性化の施策や、職場の高齢化への活性化策もあわせて考えていく必要があるのではないかと思います。

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第1,258話 具体的な行動を起こせる人と起こせない人

2025年03月26日 | 仕事

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「高野を呼べ」

これは、落語家の立川志の輔さんが出演している「志の輔らくご in PARCO 2025」の中の演目「神子原米」で、何度も繰り返される台詞です。

この「高野」さんとは、石川県羽咋市にある宇宙博物館「コスモアイル羽咋」が建設された当時、羽咋市の臨時職員だった人です。その当時から報道で紹介されることがあったため、私もそれを通じて高野さんの名前は知ってはいましたが、「ガッツのある職員なんだな」という程度の認識しかありませんでした。しかし、志の輔さんの噺の中で、高野さんは「コスモアイル羽咋」を作っただけでなく、同市の神子原地区で産出した米(神子原米)をローマ法王へ献上するなど、常人離れとも言えるような行動力をもっていらっしゃることが紹介され、一気に興味を持ったのです。

そうしたこともあり、この度「高野誠鮮『ローマ法王に米を食べさせた男』」講談社を読んでみました。高野さんは、超過疎高齢化が問題となっていた石川県神子原地区を盛り上げたいと考え、年間予算60万円でプロジェクトに着手したのです。神子原米のブランド化を目的に、何の伝手もないところからスタートし、神子原米を日本人ではないローマ法王へ献上することにより一気に神子原米をブランド化し、Iターンの若者を誘致したり、農家経営の直売所「神子の里」を開設したり農家の収入を増やすなどにより、4年後には「限界集落」からの脱却に成功したのです。

本の中では「自分たちに足りないものは行動する力である」と考え、まず行動することから始めたことが紹介されています。役所内で会議を100回以上も開いたり、何百ページにわたる計画書を作ったりするだけでは何も変わらない。そこで高野さんは、地域活性化のための5か年計画をA3で1枚の計画書にとりまとめ、行動を開始したのです。

しかし当初、周囲の人達は計画を無謀と捉えており、何度も上司や市長などの反感や怒りを買い、度々冒頭の「高野を呼べ」というように呼びだされ説教をされたそうです。しかしどんなに説教をされても、高野さんは行動することを止めることはなかったのだそうです。

私たちは日々様々な構想を練ったり、今後ありたい姿を思い描いたりはしても、なかなか一歩を踏み出せないなど、具体的な行動を起こせないことが少なくありません。一説では、研修で得た知識などに基づいて実際に行動に移せる人は2割ほどであり、その中で成果を出せる人はさらに2割位だと言われています。

そのように考えると、高野さんの行動力は群を抜いていると言えるわけです。高野さんは構想を練る際には成功した人ではなく、失敗した人の話を聴きに行くなどして情報収集したそうです。前例のないことをやろうとしているからこそ、成功した話を聴くより失敗した人から話を聴くことでその経験を生かして、同じ轍を踏まないように考えたのです。この点も高野さんならではだと思いますので、私が印象に残ったところの一つです。

周囲がどのように考えているかを気にせず、できない理由を一切探さず、結果が出るまでやり続ける。このことがどれだけ大変なことであるかは言うまでもないことです。私も、いきなり高野さんのようにはなれないでしょうが、せっかく年初に高野さんの話を聴く機会をえたわけですから、少しでもあやかりたいと思っています。同時に担当させていただく研修の中でも、その重要性を伝えていきたいと考えています。

冒頭の話に戻ると、志の輔さんは昨年末、20年ぶりに高野さんと会ったそうで、この神子原米という演目は志の輔さんが能登半島地地震の復興へのエールを込めて創った噺とのことですが、終演時には冒頭の写真の「神子原米」をお土産にいただきました。

そういえば、志の輔さんと高野さんは同い年だそうですが、お二人は行動力をはじめ共通するものがあるように感じています。

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第1,257話 〇〇と思われたら嫌じゃないですか

2025年03月19日 | 仕事

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「〇〇と思われたら嫌じゃないですか」

これは、弊社が担当させていただく研修の中で受講者に職場の問題などを語っていただく際に聞くことが多いフレーズの一つです。

この言葉の背景には、「本当はこのように考えているのだけれど、それを伝えたら相手に自分の思いとは違った捉え方をされてしまうかもしれない。嫌われたくない」という感情があるのかもしれません。つまり、相手の反応を過度に心配するあまり、本当は困っているにも関わらず相手に対する働きかけを行うことはせずに、自分の感情を収めてしまっているのではないでしょうか。そして、それによって本来は取るべき対応等を取らないということになってしまっているケースもあるのかもしれません。

こうしたことから、研修でこのような発言を聞いた際には、私から「自分の正直な気持ちを相手に伝えてみたらいかがでしょう」と声をかけることがあるのですが、ご本人の中ではその点を変える気持ちはあまりないようで、「〇〇と思われたら嫌じゃないですか」と繰り返す人が少なくないように感じています。

これに関して、先日NHKのEテレで放送されている「最後の講義」に、脚本家の大石静さんが出演されていました。改めて言うまでもないことではありますが、大石さんは脚本家として数々のヒット作を書かれています。その大石さんが番組の中でおっしゃっていたことが、前述の話の解決のヒントになるのではないかと感じました。

大石さんは「まずは自分が面白いと思うことが、絶対に大事。世の中に合わせない方がいい。周りの人の目はどうでもいい。その強さがないと、周りにこう思われるかもしれない、周りがこう反応するかもしれないと思っていたら、内なる素敵なことも出てこない。周りの反応にビビリながら生きている時代だから、自分の内側を見つめてみる」とおっしゃっていました。

私はこれを聞いて、人がどのように感じるかよりも、まず自分自身としてどのようにしたいと考えているのかを明確にすることが大切だということをおっしゃっていたのだと思いました。

人とは通常は他者との関りの中で生きているものだと思います。それゆえに、多かれ少なかれ他者の反応が気になるというのは当然のことですが、「他者がどのように思うのか」を基準にして物事を考えていたら、自分の気持ちがどんどん窮屈になって息苦しくなってしまい、やがては仕事も人生も面白くなくなってしまうのではないでしょうか。

この点で私自身が最近改めて思うのは、「人は、自分が思うほどには自分に関心を持ってはいない」ということです。「こういうことを言ったら、〇〇と思われるのではないか」と一方的に心配をすることは、実は自意識過剰になってしまっているということが、案外少なくないのかもしれません。

他者との関係性の中で自分の考えや希望を後回しにしたり遠慮したりして、過度に他者を優先することは、必ずしも良い結果を生むとは限りません。

「他者がどのように思うのか」を考えることよりも、まずは「自分はどうしたいのか」という自身の気持ちを正直に見つめ、その上で「どのようにすれば相手の理解を得られるのか」というスタンスで臨んでみてはいかがでしょうか。

大石静さんも、「〇〇でなければならないから逃れること、殻を破ること。真実は道徳や常識を超えたところにある」言っています。

さすがに深い言葉だと感じ入りました。

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第1,256話 センスを身に着けるためには

2025年03月12日 | 仕事

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「『火鉢太鼓』は元々五代目古今亭志ん生が始めた噺なんです。その古今亭のネタを立川流が教えてもらうにあたり、元々の「半鐘はおジャンになる」というオチを(今の人は半鐘を知らないので)音(ネ)と値(ネ)にしているんです。ここはセンスですね。」

先日、噺家の立川晴の輔さんの独演会に行ったのですが、そこで演じられた落語「火炎太鼓」のオチについて、噺を終えた後に晴の輔さんがこのように紹介してくれました。ウィキペディアによると、「火鉢太鼓」は五代目古今亭志ん生が昭和初期に多量のくすぐりを入れるなどして、志ん生の新作といってもよい程に仕立て直し現在の形になったとのことですが、立川流が演じさせてもらうにあたってオチを変えたことを(面白おかしく?)「センス」と表現していました。

昨年まさに「晴れて」笑点の大喜利メンバーになった立川晴の輔さん。今回初めて晴の輔さんの古典落語を生で聴く機会を得たのですが、噂どおり実に歯切れがよく笑点に出演しているときの回答とはまた違った魅力があり、まさにセンスがある方(上から目線な表現ですが)だと感じました。

ところでこの「センス」という言葉、日常でもよく使う言葉ですが、改めて広辞苑を引いてみると「物事の微妙な感じをさとる働き。 感覚。 思慮、分別」とあります。よく「センスがある・ない」というような言い方をしますが、単に美的感覚が優れているというだけでなく、仕事においても様々な場面で使われることも多くあります。自分はどの面でセンスがあるのかということは案外と自身では分からないものなのかもしれません。しかし、センスを身につけたいと思うのであれば自分はどのような部分についてセンスを身につけ発揮したいと思うのか、その点を明確にして追い求めていくことが大切ではないかと思います。このように、私はセンスとは生まれついて持ち合わせている才能とは異なり、経験の積み重ねや訓練を重ねるなどの努力をすることで身に着けることができるものではないかと考えています。

では、自分の仕事に関して「センス」を身につけたいと思った場合、どのようなことから始めればよいのでしょうか。ありきたりかもしれませんが、まずは自分の現在の状況がどのようなものなのかを冷静に見つめて、自分の弱点や足りない点を洗い出すこと。次にそれを踏まえて「どうすればもっと良くできるのか」を考えること。そして、解決に向けたトライ&エラーを続けるということがやはり王道であり、特効薬はないと言えるのではないでしょうか。

晴の輔さんも、毎回「笑点」で司会の春風亭昇太さんから出されるお題に対して、いつもセンスある答えをし続けるために、様々なことに目を向けるとともに「もっとおもしろい答えを」「もっとお客に受けてもらえるように」と絶えず追求し続けていらっしゃるのではないかと思います。

それにしても晴の輔さんは落語はもちろんのこと、その前の「つかみ」でもテンポよく面白おかしく笑点関連などのネタをはじめとして話して、観客を引き込んでいらっしゃいました。私も晴の輔さんのようなセンスを身につけるため、とりあえず扇子を持ってみようかな。お後がよろしいようで。
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第1,255話 無自覚にパワハラを繰り返す人には

2025年03月05日 | 仕事

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「パワハラを見聞きしたことはありません」

これは、弊社がある組織の管理職昇任試験の面接官を担当させていただいた際に、受験者の一人であるA氏が発した言葉です。

管理職昇任試験面接では、職場のコンプライアンスやハラスメントについて質問することがありますが、A氏ははっきりと「パワハラはありません」と返答したのです。しかし、その組織の人からの情報によると、当のA氏は部下を呼びつけて目の前に立たせ、小一時間にわたって小言を言うことが定期的にあるということなのです。過去に何度かそのようなことがあったため、社内の研修に加えて上司からも度々A氏に対して個別に指導を行ってきているそうですが、残念ながら一向に改善されないということです。

ハラスメントには様々なものがありますが、その中でも様々な組織において繰り返されるパワーハラスメント(以下パワハラ)が、広く世の中で問題として認知されるようになってから、既に30年ほどが経過しています。この間、厚労省でもパワハラを定義するとともに該当する具体的な言動等を6つの類型により示すなど取組んできていますが、それでも根絶することは難しいのが現状です。現に、労働基準局の令和5(2023)年の精神障害における労災の支給決定件数の中で、パワハラ(上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃を受けた)にかかるものは、289件と前年よりも32件増加しています。

様々な取組みが行われている状況にもかかわらず、パワハラを根絶することが難しいのはなぜなのでしょうか。

その理由は様々かと思いますが、私が考えるにはそもそもパワハラの加害者は自身の言動に無自覚であり、また自身のストレスの発散なども要因となって、比較的従順な部下に矛先が向いてしまっているのかもしれません。そのためか、これまでA氏は職場を異動させたとしても、必ず新たな標的を見つけ攻撃してしまうことが繰り返されてきているのだそうです。

A氏自身は実務能力は高いということであり、面接の中でも理路整然と受け答えができるため、前述の情報がなければパワハラを繰り返す人とは私自身想像がつきませんでした。

パワハラは許されない行為であり、A氏のように無自覚なままパワハラを繰り返すことを続けると被害者への影響はもちろんのこと、A氏自身(加害者)にも不利益が生じることになります。具体的には、キャリアの中断(異動)になったり、懲戒処分や法的責任制裁を受けたりするなどもありえます。

またその職場にとっても、パワハラが行われることでパワハラを直接受けている人のみならず、周囲の人も次は自分がターゲットにされてしまうかもしれないと不安を感じるなどにより、職場の風土が悪化することになりかねません。

さらには、その組織全体にとっても問題を解決するまでの時間や労力がかかるのはもちろんのこと、対応次第では法的な責任(安全配慮義務違反等)に問われることも考えられます。そして、こうしたことで組織のイメージが悪くなってしまい、たとえば新たに人を採用しようとしても難しくなるといった状況を招いてしまうかもしれません。

言うまでもなく、パワハラは絶対に許してはいけない行為です。A氏のように無自覚にパワハラを繰り返す人には、単に指摘するだけでなく適切な指導の仕方を具体的に示すとともに、組織全体としても「パワハラは許さない、断固として対応していく」という強いメッセージを発信し続けることが必要だと考えています。

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第1,254話 一方的に「伝える」のでなく、確実に「伝わる」ためにどうすればよいのか

2025年02月26日 | 研修

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情報を他者に正確に伝え共有することは容易でないことは多くの人が感じているところかと思います。しかし、必要な情報が共有されなかった結果、大きなトラブルにつながってしまうことは珍しくありません。それを避けるためにも、特に共有されないとリスクを生じるような情報に関しては、伝え方を工夫したり、繰り返し複数の手段を用いたりするなど伝え続けることが必要です。

そのためには大変なエネルギーが必要となるほか非効率のように感じられることがあるかもしれませんが、情報が共有されなかった結果発生してしまう弊害などの大きさを考えれば、この点を疎かにしないことが重要だと先日改めて感じる機会を得ました。

2024年8月、宮崎県沖で発生したM7.1、最大震度6弱を観測した地震では、その後南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。その後も周辺のみならず、様々な地域で大きな地震が繰り返し発生しています。

そうした中で、発生が間近に迫っているのではないかと言われているのが南海トラフ地震です。この地震はこれまでにも100年に1回程度の頻度で起きていて、そのたびに大きな被害をもたらしているそうですが、専門家によると次の南海トラフ巨大地震が起きる時期は科学的には相当の精度で予測されていて、2030年代とのことです。

一方で、政府の地震調査委員会からは、「発生確率は30年以内に80%程度」と発表されています。この「30年以内に80%程度」という表現は少々漠然としているところがあり、実際のところどの程度切迫しているものなのか、私自身は今一つ実感がわきにくく、具体的な行動に結びついていないのが現状です。

これに関して、先日京都大学の鎌田浩毅名誉教授が2023年に行った講演会「南海トラフ巨大地震に対する知識と心構え『地学』を学んで賢く生き延びる」の動画を視聴する機会がありました。鎌田教授の講演は(話に飽きないように)工夫されていて面白おかしく、かつとても分かりやすく話されているのですが、特に私が参考にしたいと感じたのが「伝え方」に関するところです。

鎌田教授は先述のとおり南海トラフ地震が次に発生した場合にも甚大な被害が予想されていることから、情報を発信し、注意と備えを呼び掛けています。そうした中で、以前ある講演会で前述の「発生確率」で説明をしたところ、参加者のある経営者から次のように言われたとのことです。「先生、確率アカンで。わしらは「納期」と「納品量」にしないと、人は動けまへんで」。これはたとえば「おまんじゅうを70個、30日後に持ってこい」というようなことなのですが、この一言に鎌田氏は「あっ!」とひらめいたのだそうです。

つまり、「30年以内に80パーセント程度」と言われても、多くの人にはなかなか伝わらない。そのためには納期=時期と、納品量=規模で伝えることが必要だと思われたとのことで、それ以降鎌田教授は「2035年プラスマイナス5年(=時期)に、3.11より一桁大きい(=規模)地震が発生する」と伝えるようにされているのだそうです。

これほどの大地震から被害を少しでも抑えるために、一人一人が今どのような状況にあるのかを正しく認識して、「いざ」に対して今から備えをしておくことが大切だということへの理解が深まりました。

弊社でも様々な研修を担当させていただく中で、これまでも「伝える」だけでなく「伝わる」ことが大切だとお話をしてきていますが、鎌田教授のお話をとおして、相手に一方的に「伝える」のでなく、確実に「伝わる」ためにどうすればよいのか、相手のことを考えながらいろいろな工夫をして情報を発信することが大切だと改めて感じています。

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第1,253話 大組織の人事部長や役員が社員のことを知るには

2025年02月19日 | 仕事

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「人事部長や役員は、社員のことをどれくらい知っているのだろか?」

私が様々な企業などで仕事をさせていただく際に、時々こうした疑問を持つことがあります。一般的に、組織の規模が大きくなればなるほど、部長や役員のような上位の役職の人が社員との接点を持つ機会は少なくなります。そのため多くの場合、部長や役員は特に優秀な社員や少々問題を抱えているような社員などの情報に接することはあっても、それ以外の多くの社員については売上数字や人事評価など以外の情報を把握することは滅多にないと考えています。

そのような組織が多い中で、私が毎年担当させていただいているある組織のA氏は7,000名を超える大きな組織の役員であるにもかかわらず、こちらが驚くほど個々の社員のことを把握されているのです。A氏とは毎年管理職昇任試験で、面接官としての立場で1週間ほどご一緒させていただいているのですが、A氏はいわゆる人事データだけでなく、本人の適性や学生時代の専門、趣味や家族構成にいたるまで非常によくご存知なのです。

以前、「どうしてそんなにたくさんの社員の細かいところまでご存知なのですか?」と尋ねてみたところ、「人事部にいたからですよ」と返答をされたのですが、その組織の別の方がおっしゃるには、A氏が人事部に所属されていたときには、少しでも時間ができると様々な職場に足を運んでよく社員に声をかけていたとのことでした。そして、そのようなときにはじっくり会話することはできないまでも、頻繁に接点を持つことができることから、A氏がとても身近な存在であると感じられていたとのことです。そして、それは役員となった今でも活きているのだと思われます。

人事部の使命として、社員をよく知るために現場に足を運ぶことが大切だということはよく言われることですが、それは同時に個々の社員の側にとっても人事部という存在が身近に感じられるようになり、信頼感が増すということにもなるのではないかと考えます。

では、そうした中で人事部の部長や課長が現場を訪れたら、それにはどのような効果やメリットがあるのでしょうか。まずは社員から直接話を聴くことにより、インフォーマルなものも含めて「生きた情報をダイレクトに得ることができる」ということがあります。その結果、様々な課題をはっきり浮きあがらせることができます。同時にこれまでは関りが少なかった社員との距離感を縮めたりすることもできるため、よりストレートに具体的な組織戦略の企画・立案、人事異動を含めた人事施策の一助にすることができるのではないかと思います。

このように、人事部の管理職が現場に足を運ぶことには多くのメリットがあります。それに加えて先述のとおり昇任試験の面接をする際にも通り一遍のやりとりにとどまらず、個々の相手に応じた質問をすることで、より深く相手のことを知ることができ、その結果適切な評価ができるのではないかと考えます。

人事部の部課長が現場を訪れるということは、そのための時間の捻出からして簡単なことではないかもしれませんが、組織で最も大切な存在である個々の社員を知るうえで最も大切なことではないだろうかと考えています。

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