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中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,268話 無制限に時間があると、いいものは作れない

2025年06月11日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「無制限に時間があると、いいものは作れない」

これは、先日放送されたNHKの番組「スイッチインタビュー」で、シンガーでタレントの堂本光一さんがプロスケーターの羽生弦さんとの対談の中で語っていた言葉です。

番組では、お二人が作品を生み出すまでの過程や向き合い方について熱く語っていたのですが、その中で創作への向き合い方として堂本さんが語っていたのが冒頭の言葉なのです。創作への向き合い方として「期限を区切る」こと、それに加えて「悩んでいるときって良い発想が生まれないから、考えてなければいけないことを一旦置いて普通の生活をしていると、その後風呂に入っているときに、メロディが下りてきたりする」と話されていました。

この話を聞いていて、彼らのような壮大な創作活動ではないにしても、私たちは日常の仕事や生活の中で「忙しいから考える暇がなかった」、「忙しいから良いアイデアが浮かばなかった」など、「忙しい」ことを言い訳にすることが結構多いのではないだろうか。そして忙しいからこそ、反対に自らの納期を設けてアイデア出しをするということが、発想をするためには重要なのではないだろうかと感じました。

それでは、なぜ納期を設けた方が良いアイデアが生まれるというようなことが起こるのでしょうか。それには様々な理由があるかと思いますが、一つには締め切りを設けないと“制約がある中でどのように工夫するか“という、アイデアの源ともなる集中力が散漫になったり、緊張感がなくなったりしてしまうということがあるのかもしれません。

また、パーキンソンの法則(1958年に英国の歴史学者・政治学者のシリル・ノースコート・パーキンソンが「仕事は、完成までに利用可能な時間をすべて満たすように拡大していく」という考え方を提唱)が働いてしまうということもあるのではないでしょうか。

身近な例で考えてみると、納期までに十分な余裕がある仕事をしようとする場合、すぐに仕事にとりかかって完成させることもできるのに、そうはせずに納期ぎりぎりまで手を付けず最後に一気に完成させるというようなことがあります。これはパーキンソンの法則でいうところの仕事を完成させるのに全ての時間をかけてしまっているということです。そしてそのような場合、時間をかけたからといって必ずしも完成度が高くなるということでもなく、案外短納期で仕上げた方が精度の高い仕事につながったというような経験を持つ人もいるのではないでしょうか。

それでは、こうしたパーキンソンの法則が働いてしまうことがないようにするためには、一体どうすればよいのでしょうか。

それには堂本光一さんも話していたように、仮に納期が先の仕事であったとしても自ら納期を少し短めに設定してみるのがよいと考えます。短い納期の中で、限られた時間や資源などを最大限に活かして、まずは一所懸命に考えてみる。それを繰り返していると、たとえばお風呂に入っている時など何か別のことに取り組んでいるときに、ふと「アイデアが下りてくる」というようなことがあるのではないでしょうか。

「次から次へとアイデアが泉のように湧いてくる」というような人でなければ、まずは「時間に制約を設けて考える」というように地道に取り組んでみることから始めることが、良い発想を得る一番の近道なのではないでしょうか。制約があるからこそ、その中でどう工夫するかということが、アイデアの源になるように考えています。

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第1,267話 「空気を読むこと」を求めすぎていないか

2025年06月04日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「Aさんは空気が読めないんですよ」

これは、先日弊社が担当させていただいたある企業の研修終了後に、研修担当者のBさんから伺った言葉です。

受講者のAさんは一日を通じ、終始前向きな姿勢で研修に臨んでいたのですが、グループ討議などでは周囲のメンバーと議論が今一つかみ合わないような場面が毎回あり、少々浮いたような存在になってしまっていると感じていました。そうした状況を受けて、冒頭のBさんの発言があったのです。それでは、ここで言われているような「空気が読める」とは、どのような状態を言うのでしょうか。

空気を読むとは、その場の雰囲気や人々の感情、暗黙のルールなど言語化されていない情報や感情を察知して、自分の言動を適切に調整することであり、その場にふさわしいふるまいをすることだとされています。日本では、コンテクスト(言わなくても察する文化)に依存したコミュニケーションを取ることが比較的多いと言われています。そうしたこともあって「空気を読めない人」のことを、「KY」(空気が読めない)と評することがよくあります。「空気を読むこと」を重んじる日本において空気が読めないことは、いろいろと困った問題を引き起こしかねないということであり、それを表現するときに使用される表現がKYということなのです。

日本人がこのように「空気を読む」ことを強く求める背景には、島国であることをはじめ歴史的・文化的な背景など様々なものがあるのではないかと思います。このように長い時間をかけて、様々な場面を通じて築き上げられてきた「空気を読むことを重んじる文化」であることから、今後も引き続き重視されていくものであろうと想像できます。

もちろん、空気を読むことには場の雰囲気を壊さない、人間関係を円滑にするなどのメリットもたくさんあるわけですから、一概に悪いことだと言い切ることはできません。

このことに関して、先日放送されたテレビ番組「徹子の部屋」に、脳科学者であり評論家の中野信子さんが出演されていました。ご本人の話によれば、中野さんは子どもの頃から空気を読むことが苦手だったそうですが、あるとき空気を読まない人間は集団の敵になってしまうと感じることがあったのだそうです。そうした経験を経て、空気を読めない人がいるだけで集団にその基準を壊してしまうようなリスクを感じさせてしまい、その人に石を投げてしまうというようなことがあるのではないかと話されていました。

一方で、中野さんは空気を読めない人には普段普通と言われている人には見えないものが見えているのかもしれない。もしかすると見えていないものは価値があるものであるのかもしれないのであり、空気を読めない人は私たちにとって足かせになっているものを壊してくれる人なのかもしれないから、立ち止まってその人が言っている本質的な意味を考えてみませんか、とも話していました。

これからも日本においては、「空気を読むこと」を求められ続けるのではないかとは考えます。しかし、それと同時に空気を読めないことを即マイナスと捉えてしまうのではなく、「もしかしたら新たな価値を切り開いてくれる人なのかもしれない」というように、別の視点も持ち合わせることができれば、みんながそれぞれの力を発揮することができ、生きやすい世の中になっていくのではないでしょうか。

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第1,266話 意識的に「ゾーン」を作ることはできるのか

2025年05月28日 | 仕事

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「その時はゾーンに入っていたんだと思います」

これは、元陸上選手の為末大さんがある講演会の中で語っていた言葉です。先日、第40回東大寺文化講演会に参加したのですが、その中で講演者である為末さんの「人間を探求する 人はいつまでも学び成長できる」というテーマの話を聴講する機会がありました。

講演では過去に出場した数々のレースを振り返り、それぞれのレースでのスタート前の心境やハードルとハードルのインターバルの歩数、踏切の足がどちらだったかなどや、その結果レースにどういう影響があったかなど、走った本人にしかわかりえない話をライブ感たっぷりに話していました。その中で、400mハードルでの銅メダル獲得につながった世界大会で走っている時の状況を、「ゾーンに入った状態だった」と表現されたのです。

「ゾーン」とは、学術的には「フロー」と呼ばれる心理状態のことで、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念と言われています。ゾーンに入るというのは、目の前のことに集中した状態であり、周囲の雑音や時間の感覚を忘れるほどに目の前のことに没頭している状態で、体験者がその瞬間を「物事が自動的に進む流れ(Flow)の中にいるようだ」と語ったことによって、「フロー状態」と名付けられたとのことです。

これまでも、オリンピックをはじめ様々なスポーツの大会でメダルを獲得した選手が「ゾーンに入っていた」と表現していることを幾度となく聞いたことがあります。またスポーツのみならず、身近なビジネスパーソンの中にも、(その程度の差こそあれ)ゾーンに入ったことがあるという人も少なくないように感じています。

私は、ゾーンとは集中力や感覚が極限まで研ぎ澄まされた状態であり、容易にはその状態に入れないのではないかと思っているのですが、もしそれによって目の前の仕事に集中できるのであれば、そのような状態を作り出すことで目標に近づき成果を出すことができるのではないでしょうか。

では、日々の仕事の中でどうすれば意識的にゾーンに入る、あるいはそれに近い集中状態を作り出すことができるのでしょうか。

為末さんは「毎日、午前中に短距離走を〇本、午後にも〇本走り、そのほかにも○○をやって、それを毎日繰り返し、さらにそれを10年続けた先にようやくオリンピックがあるような世界」といった話をされていました。本当に大変な努力の積み重ねの結果、ようやくたどり着ける一瞬の世界なのかもしれません。

私たちがその状態に近づくための道のりはもちろん簡単なものではないでしょうが、まずは自分がどのようになりたいのか、仕事でどのような成果を得たいのかなど、明確にゴールのイメージを持ったり目標を立てたりすることが大切になるのでしょう。スポーツで言えば目標タイムを決める、メダルをとるなどといったことになると思います。その際には自分の能力に見合った適度な難易度が必要で、あまりにも高すぎる目標ではやる気が失せてしまうでしょうし、逆にあまりにも簡単すぎてしまうと達成欲につながらないでしょうから、的確なレベルが必要です。

そのうえでゴール・目標を目指し、努力や鍛錬を続けることが大切なことだと感じています。「練習は噓をつかない」といった言葉もあります。仕事について言えば、ゾーンに入ること自体を目的とするのではなく、日々の地道な努力・鍛錬を繰り返すことにより集中力を維持できるようになり、やがては喜びや充実感を得られるようになるのではないでしょうか。

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第1,265話 「リベンジ退職」に至ることのないようにするには

2025年05月21日 | 研修

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「気が滅入るVTRでしたね」

これは先日放送されたTBSのブロードキャスターに出演していた脚本家の三谷幸喜さんが、あるVTRを見た後に語った言葉です。

番組では「リベンジ退職」(退職する際に勤務していた会社に対して文字通り仕返しや復習をすること)を取り上げていたのですが、近年増加しているとのことでした。

番組でリベンジ退職の具体的な行為として取り上げられていたものとしては、顧客に対する会社の不誠実な対応を許せないと感じていた人が退職後に顧客に暴露するメールを送付するもの、社内の安全基準に違反していることを知らしめる動画をSNSに投稿し、その結果会社が多額の賠償金を支払ことになったというもの、部長のパワハラに耐えられなかったために部長の悪事を役員に伝えたもの、退職時に全てのアカウントのPWを変更したものなど、その例は枚挙にいとまがないようです。さらに、私自身が以前に聞いた例としては、引継ぎをせずに突然退職するといったものがあったのですが、これもリベンジ退職に該当するのだそうです。

このようにリベンジ退職が増加している背景には何があるのでしょうか。理由の一つとして、売り手市場により以前に比べ転職がしやすくなったことから、どうせ辞めるのであればそれまでの職場や人間関係などに対するマイナスの感情を払しょくするために、様々な形でリベンジしようとするということがあるようです。

そこまでに至る心情には怒りや屈辱、失望などの感情や自尊心が強く傷つけられるなど相当のストレスがあったであろうことは想像に難くないです。しかし、ここまでの行為に及ぶ前に他に何か手段はなかったのだろうかと思わざるを得ません。当の本人にとってもリベンジの結果「心からすっきりした」などと言えるようなものにはならないのではないように思います。

また、こうしたリベンジ退職の結果、その組織もダメージを受け、場合によっては業績にも少なからぬ影響を受けるなどといった可能性もあると考えられます。

先述の三谷幸喜さんの「気が滅入る」という感想は、こうしたことを踏まえたものではないかと感じていますが、私自身も同じ思いを持っています。

それでは、このようなリベンジ退職を招かないようにするために、組織としてはどうすればよいのでしょうか。

まずは、従業員の疑問や不満などを早い段階で把握して、怒りが爆発してしまう前に組織としてしっかり対応することが大切であると考えます。これは必ずしも離職防止策ということだけではなく、日ごろから社員が様々な疑問などを積極的に表明でき、それを受け止めてきちんと対応する体制をつくること、異を唱えられても受け止められる組織風土の醸成が必要なのではないかと考えます。しかし、これまで本ブログでも何度も書いてきているとおり、そうした風土の醸成といったものは言うは易しで、一朝一夕でできるものではないこともまた事実でしょう。しかし、多くの組織においては社員の定着がこれまで以上に大きな課題となっていくであろう中では、真っ先に必要になるものなのではないでしょうか。

少々心配なのは、今後「リベンジ退職」というイメージしやすい言葉に触発されて、こうした行為を行おうとする人が増えていってしまうことがないかということです。そのためにも、働きやすい職場環境を作るという意味は、今まで以上にますます重くなっていくように思います。

同時に、もし社員が退職を決断した場合には「立つ鳥跡を濁さず」という言葉にもあるように、リベンジではなく双方が納得できる形にすることが何よりも望まれます。そのためにも日ごろから良好な職場環境を構築することが何よりも大切だと考えます。

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第1,264話 「注意残余」の状態になっていないか

2025年05月14日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「職場内の業務ミスが増えています」

これは最近弊社が問題発見・課題解決研修を担当させていただいた際に、受講者から聞くことが多いフレーズです。

一人の受講者に詳しく話を聞いてみたところ、職場の人数が以前よりも減っており、その結果個々が担当する業務量が増えているとのことです。その一方で、残業の制限もあることから限られた時間の中で複数の作業を同時並行で行わざるを得ないのだそうです。たとえば見積書を作成している途中に課長に呼ばれたり、別件のチャットの返事を急かされたりすることも多々あるのだそうです。この受講者が言うには、集中して仕事をしたいのにそれができないのが現状であり、このように複数の作業を同時に行っているためどうしても集中力が削がれ、その結果業務ミスにつながっているということです。

人手不足と言われて久しい中ですが、現実の問題としてこのような「マルクタスク」をせざるを得ないビジネスパーソンは少なくないと思います。マルチタスクとは、複数の作業を同時並行で行ったり短時間で切り替えながら行ったりすることです。複数のタスクを同時にかつ連続的に行うことなどによって効率的に進めることができたり、成し遂げた場合の達成感がより強く得られたりするなどのメリットがあります。

しかし、その一方で強く懸念されるのが「注意残余」などによる業務ミスの発生です。「注意残余」とは、作業や行動を終えて次に移る際に注意の一部が前の作業に残っており、次の作業などへの集中が妨げられる状態を指す心理学用語です。終了したはずの前の仕事のことが気になって集中できていない状態のことを言います。

この言葉は、2010年頃にアメリカの組織心理学者ソフィー・ルロイによる研究で広く知られるようになったものです。ソフィー・ルロイは仕事の時間と注意の管理及び中断が仕事のパフォーマンスに与える影響を調べ、仕事や生活の中で注意力を高める方法を研究しているとのことですが、最近はこの注意残余という言葉を聞くことが多くなったと私自身も感じています。

実際、私自身も仕事が短期間に集中しているときに、複数の業務を同時に並行して行わざるを得ない状態になると、目の前の仕事に集中できなくなり、後からメールの文章に誤植などのケアレスミスがあったことに気が付くといった、注意残余の状態になってしまっていることを自覚することがあります。

このようなことは誰にでも起こりえることですから、それを避けるためにも注意残余に対する対策を考えなければなりません。そのためには、やるべきことの優先順位をつけたり、事前に段取りをしたり、現在行っている業務以外のものは一旦視界から遮断したりするなどといった方法が考えられます。しかし、これらはまさに時間管理の手法と同様のものですので、何も注意残余だけに関わる特別なことではありません。

とはいえ、特に仕事上のミスの防止や注意力の維持を考える上では、注意残余というものの意味などをきちんと知っておくと、心理的な疲労やミスの連鎖を防ぐヒントになるのではないでしょうか。

もしあなたがマルチタスクを行っている中で、なかなか集中できない状態になってしまっているようでしたら、注意残余の状態になっていないかどうか、冷静に自身を見つめてみる必要があるかもしれません。

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第1,263話 記憶や経験を風化させないためには

2025年05月07日 | 仕事

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「昔、戦争とかあったみたいじゃないですか」

これは以前、私がある金融機関の窓口での手続きの中で「戦争免責」について説明を受けていた際に、担当者から聞いた言葉です。その担当者は20代半ば位に見受けられましたが、かつて日本が体験した戦争を「あったみたいじゃないですか」というように表現をしたことに少々驚いたことを覚えています。

先日、JR福知山線脱線事故(2005年4月25日発生、乗客・運転士合わせて107名が死亡、562名が負傷)から20年が経過したという報道がありました。あの大事故を経て、JR西日本では「安全基本計画」を策定し、社員からの報告を抽出・評価して重大事故などにつながる可能性を取り除く「リスクアセスメント」を導入するなど、安全教育を徹底しているとのことです。しかし事故から20年が経ち、そのときに在籍していた社員は3割ほどとなり、7割強の社員は事故後に入社しているとのことです。

また、今年は1985年に起こった日本航空機の墜落事故からも40年になりますが、こちらはさらに多くの時間が経っていることから、事故当時に在籍していた約1万4千人の社員のうち、現在も現役で働いているのはわずか0.5%、人数にして77人(2024年時点)とのことです。つまり、事故当時を直接知る社員は、極僅かしかいないということです。

これらの数字が改めて示しているのは、「時間の経過とともに、人は入れ替わっていく」ということです。もちろん、組織の新陳代謝という点からも人が入れ替わること自体は必要なものであり、いたし方ないことではあります。しかし、その結果として事故などをはじめとして将来にきちんと引き継いで行かなければならない記憶や経験といったものがだんだんと薄れて、風化していってしまわないかということが危惧されます。

こうした記憶や経験が風化していってしまうと、冒頭の金融機関の窓口の担当者のように、戦争が起こったということですら、「昔、あったらしい」こととして片づけられてしまうのかもしれません。そして、いずれはJR西日本の事故や日本航空機の事故も、さらには先の戦争も経験者から直接伝え聞くことが出来ないくらいの時間が経ってしまったら、あったという事実さえもが風化してしまうのではないかと、とても心配になります。

では、教訓として必ず引き継いでいかなければならないような記憶や経験を風化させないためには、私たちはどうすればよいのでしょうか。多くの例が示しているように、簡単に答えが出せるものではないのかもしれません。しかし、まずは「(何もしなければ)人は時間の経過とともに物事を忘れ、その記憶や経験も風化していってしまうものだ」ということを前提にして、事実や経験を正確に記録して、それをしっかり継承していくこと、たとえば継承していくための機会を意識的に、定期的に設けること(新入社員研修などで必ずその事実に触れ、見学なども行うなど)が有効な方法ではないかと考えます。

記憶や経験の風化を防ぐということは、事故などの悲惨な体験を覚えておくということだけではなく、同時にそこから何を学び、将来にどう生かしていくかを考え続けていくということでもあるのではないでしょうか。

人は物事を案外とすぐに忘れてしまう。だからこそ、「体験をした人はそれを次世代へつないでいく責任を持っている」ということを、私達は心に留めておく必要があるのではないかと考えています。

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第1,262話 頷いたり、共感を示したりする人が多い日本人

2025年04月23日 | コミュニケーション

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かねてより、コミュニケーションにおいて「傾聴」することはとても大切であると言われています。文字が示すとおり、「傾聴する」とは話し手の言いたいことを言葉や態度で丁寧に示しながら聴くことです。たとえば話し手と視線を合わせたり、頷いたり、相槌を打ったり、さらには表情や声の調子も使って「おっしゃりたいことは○○ですね」などと言うことも有効な傾聴の手段です。

そして、この傾聴の必要性は一対一のやりとりにおいてだけでなく、一対複数であっても同じことが言えると思います。たとえば、私が担当させていただく研修の中で複数の受講者に対して講義をする際にも、頷くなどで受講者が傾聴をしてくれていることが確認できると、話がきちんと伝わっていることがわかるため、安心して先に進めることができると感じています。

しかし、頷くなどしっかり傾聴をしているように見えている受講者であっても、いざ演習を始めるとこちらの指示とは全く違う作業を始めてしまうなど、実は話をちゃんと聴いていなかったのかもしれないと思うような人に出会うことがあるのというのも、また確かです。

そうしたところ、先日(4月21日)の日経新聞に「日本人は頷くだけでなく、動作や言葉で共感をちょくちょく示すことで、相手に聞いていることや、『話に夢中になっています』」と意思表示す人が多い」という記事が載っていました。それから考えると、研修中に「うんうん」と頷いたり、盛んに相槌を打ったりする受講者が多いということは、日本人だからこその特徴ともいえるのかもしれません。

それでは諸外国と比べて、なぜ日本人には頷いたり共感を示したりする人が多いのでしょうか。

これについては、私は以前読んだ書籍(斎藤環 2013 『承認をめぐる病』 日本評論社)に一つのヒントがあるように感じています。著者の斉藤環氏は精神科医ですが、この本の中で「現在の日本はコミュニケーション偏重主義であり、学校や職場における対人評価はコミュニケーションカの有無で決定づけられていると述べています。さらに、ここでいうコミュニケーションとは論理的・言語的な能力というよりは、「空気を読む」「笑いをとる」「他人をいじる(操作する)」といった能力であり、このような傾向のもとで社会的承認がそのまま適応度を決定づけるという奇妙な事態が進行しつつあり、他者からの承認が得られなければただちに居場所や職場を失うということを意味するとも述べています。これらをふまえ、斎藤氏は情報量の低いやり取りを「毛づくろい的コミュニケーション」と表現されていました。

そのように考えると、日本においては空気を読むなどによって他者からの承認を得ることが何よりも優先されるあまり、必要以上に頷いたり共感を示したりするようになった人が多いということなのかもしれません。

仕事をはじめ人間が生きていく様々な場面においては、他者とのコミュニケーションがもちろん必要であり、その中で他者からの承認を得ていくということが大切であることは言うまでもありません。一方で他者からの承認を求めすぎるあまり、他者と考えが異なり意見を交して調整することが求められるような場合であっても、必要以上に頷いたり共感を示すことで結果的に本来必要なコミュニケーションを妨げてしまうようなことは、本末転倒であると言わざるを得ない状況です。

必要以上に頷いたり共感を示したりするということとコミュニケーション力が高いということとは、異なるものであるということをしっかり理解しておかなければならないと改めて考えています。

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第1,261話 経験に重きを置くのはなぜか

2025年04月16日 | 仕事

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「〇〇業務に従事したご経験をお持ちの方」

求人誌をはじめとする求人欄の応募資格には、従前からこのような表記をよく見かけます。経験者を求める理由には様々なものがあるのだと思いますが、教育やトレーニングなど育成にかかる時間やコストを削減することができ、さらには即戦力として短期間で成果を出してくれるのではないかという期待があるのだと考えられます。

この傾向はビジネス界のみならず、スポーツの世界でも同様のことが言えるようです。先日(4月13日)の朝日新聞に、最近はサッカーJリーグの監督の平均年齢が高くなっており、課題が浮き彫りになっているとの記事が出ていました。

具体的には、サッカーJ1の監督の平均年齢は1993年の開幕時は46.2歳、その後は右肩上がりで現在は50.91歳なっており、欧州プレミアリーグと比べても高いとのことです。因みに、イングランドプレミアリーグの監督の平均は48.05歳ということです。

この記事によると、日本の監督の平均年齢が高い理由は「J1で過去、どんな結果を出したか」とこれまでの実績を優先した結果であり、その背景には失敗したときのリスクを避けたいという思惑があるとのことです。

私自身も、これまで研修のご依頼をいただいた際に、その研修テーマに関する経験の有無や、どれくらい(何回、何年)の実績があるかなどについて尋ねられることがあります。依頼者からすれば、経験豊富な方が失敗するリスクは少ないことから、望ましいと考えるのが一般的だとは思います。

同時に、こういったご質問を受けるたびに私が思うのは、どんなに経験豊かな人であっても必ず1回目の経験があり、その後の経験を重ねて今があるということなのではないかということです。

つまり、失敗を恐れるあまり、また育成にかかるコストを避けるために経験者だけを求め続けていると、そのときは良い結果が出せたとしても、それによって若手の育成がどんどん遅れてしまいます。その結果、後進が育たないという長いスパンで見るとマイナスの結果を招いてしまっていることになるということです。

さらに言えば、「経験がある=優れている」とは一概には言えない場面もあると思っています。たとえば、経験があるからこそ古い方法に固執してしまい柔軟性に欠けることになってしまったり、新しいことを学ぼうとする姿勢がない結果、変化に適切に対応できなかったりするということもあります。

そのように考えると、経験がないからこそ新しい視点や発想を持つことができ、そのほうが効果的な場面も大いにありえるとも考えられます。

冒頭の話に戻ると、サッカーのJリーグでは今後は監督の参入障壁を低くして、若手や多様な人材の登用を積極的に促していくこととしているそうです。変化の激しい、これまで経験したことがないことが起こりえる現在や今後の状況の中では、どのような世界であっても「その仕事をどれくらいやってきたか?」というこれまでの経験に重きを置くのではなく、「未経験ではあっても新しい発想が持てそうか、それによって成果を出せそうか?」といった将来への「伸びしろ」を重視していく必要があるのではないでしょうか。そのためには積極的に育成していく、そのためのコストは惜しまないという姿勢をもつことが、こういった状況であるからこそ必要なのではないかと強く考えています。

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第1,260話 若者は短縮言葉好き?

2025年04月09日 | 仕事

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「変化を呼び込む! 新紙幣タイプ」

産労総合研究所の発表(3月26日)によると、2025年度新入社員はこのタイプなのだそうです。一体どういうタイプなのかと思ったのですが、この意味の背景には、2024年7月に発行された新紙幣には偽造防止技術やユニバーサルデザインなど最新技術が盛り込まれており、それらは多様性を受け入れ最新のITリテラシーを身につけている2025年の新入社員と通じるところがあるいうことで、この表現になったということです。

さて、新入社員が入社して1週間が経過し、多くの企業では新入社員研修を行っているところだと思います。私も新入研修を担当させていただいていますが、こちらが指示した演習に熱心に取り組むなど、今年の新入社員も非常に真面目な人が多いと感じます。その一方で、チームの中で自ら発信したり、意見をとりまとめたりするなどの主体性が旺盛な人はあまり多くないという印象も持っています。

ところで、今年の研修で新入社員に接している中で今まで以上に感じるのが、「短縮言葉」です。たとえば「お疲れ様」のことを「おつ」、「まじで?」をたった一言「ま?」と表現するなどで、他にも実にたくさんあるようです。彼らのやりとりを聞いていると一瞬、外国語?と感じるくらい私には意味不明な言葉もたくさんやりとりされていて、まさに「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重要視しているのだなと納得できるくらいに短縮言葉が多いのです。

新入社員研修では、敬語をはじめビジネスの基本となる「言葉遣い」を練習してもらう時間をたくさん設けているのですが、こうした言葉遣いとは全く異なる短縮言葉を若者達はなぜ使うことが多いのでしょうか。試しに休憩時間に数人の受講者に聞いてみたところ、特に深い意味はなく「何となくノリがいいから・・・」といった回答でした。それを聞きながら同時に私が感じたのは、言葉を短くすることで「余白」や「間」が生まれて断定的な言い方ではなくなることから、ソフトに伝わるとともに、言わんとするところを相手に想像させるような意味合いもあるのではないかということです。つまり、これはコンテクストに過度に依存したコミュニケーションになってしまっているようにも考えられると思います。

しかし、短縮言葉を多用することは、若者同士であればノリで通じるところがあるとは思いますが、ビジネスシーンにおいてはまだまだ一般的とは言えない、理解されない状況です。もしそれを多用しようとすれば、ビジネスパーソンとしての印象は決して良くはならないでしょうし、本来伝えるべき事柄が伝わらず、あるいは誤って伝わってしまうなどにより、あとで大きな問題を引き起こすことになってしまうかもしれません。

言葉は時代とともに変化するものということはもちろん承知していますが、一方でビジネスシーンにおいては言葉も含めたマナーも大切です。敬語をはじめ最低限必要となる言葉は当然押さえたうえで、きちんと使えるようになる必要があることは言うまでもありません。

これは若い人に限ったことではありませんが、このところ敬語をはじめそのシーンに合った言葉遣いをすることにも高いハードルを感じる人もいるようですから、まずはきちんと意識をすることから始めることが必要なのではないでしょうか。

今年の新入社員のタイプである、「変化を呼び込む! 新紙幣タイプ」の良さは十分に発揮してもらいたいと思いますが、言葉遣いについては短縮言葉でなく基本をしっかり押さえてほしいと考えています。

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第1,259話 職場が高齢化していく中で必要となる活性化策とは

2025年04月02日 | 仕事

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「かかし」で有名な宮地岳町をご存知でしょうか。

宮地岳町は熊本県西部の天草下島の中央部に位置しています。先日私は天草市を訪れたのですが、その際にたまたま立ち寄ったのが道の駅「宮地岳かかしの里」でした。

宮地岳町は世帯数224、総人口が431人、うち65歳以上が387人となっていて(天草市HPより)、高齢化率89.8%のいわゆる限界集落です。

この宮地岳町が有名になったきっかけは、人口を上回る数の600体以上の手作りのかかしの存在です。かかしの里があるということを知らずに、たまたまこの地を訪れた私は今にも動き出しそうな、生き生きとしたかかし達に出迎えられ、「ここは一体何なのだろう?」と驚きました。

この道の駅は平成24年3月に廃校となった宮地岳小学校の施設を活用しているのですが、往時の小学校での日常生活の一コマがかかし達によって再現されているのです。たとえば校庭でかかしが体操をしていたり、教室では先生・生徒の授業風景が再現されていたり、別の教室では結婚式をしていたりもしています。また、田植えの時期には、周辺の道路に農作業をしているかかし達が並んで、毎年その期間には4万人もの観光客が訪れるとのことです。

それでは一体、なぜ宮地岳町に600体以上ものかかし達がいるのでしょうか。私が伺った際に、かかしの発起人で現在「宮地岳かかし村 初代村長」の碓井弘幸氏に偶然お会いすることができ、いろいろとお話を伺うことができました。碓井さんは中学校の数学の教師と小学校の校長を務めた後に公民館長になられたそうですが、その際に高齢者が集う「ふれあいサロン」の活動の一環として、かかし作りを提案したとのことです。もともと碓井さんは趣味で能面を作成していた経験があったため、それぞれ異なる表情のかかしを作ることができるのではと考えたとのことです。その後、最初の6体のかかしが完成し道路沿いに展示したところ、道行く人々が写真を撮るなどの反響があり、地域の活性化につながると感じた住民達も積極的にかかし作りに参加するようになったとのことです。

かかし達の顔は廃品の発砲スチロールでできており、また服は町民が持ち寄った古着であるなどエコでもあるためか、​この取り組みはメディアでも取り上げられ、宮地岳町は「かかしの里」として広く知られるようになったのです。 ​そして、現在は「道の駅 宮地岳かかしの里」として、「宮地岳米」や当地生産の菜種油とともに販売され、観光客の受け入れ拠点としても機能しているようです。

このように、宮地岳町は地域住民の協力と創意工夫によって、「かかし」を通じた地域活性化を実現し、そのユニークな取り組みが全国的な注目を集めるようになったわけですが、であるからこそどうしても私が心配になってしまうのは、この町の高齢化であり人口減少です。かかしづくりは高齢者の皆さんを中心に行われているわけですから、いずれ作り手がいなくなってしまうのではないかと心配になるのです。発起人の碓井さんも御年87歳とのことです。

もちろん、このような高齢化の心配は宮地岳町だけのことではなく、日本全体に言えることですし、組織においても言えることです。先日弊社が研修を担当させていただいた企業では、シルバー社員は増加している一方、新入社員は必要な人数を確保できないために、毎年社員の平均年齢が上がっているとおっしゃっていました。これは多くの企業が抱えている問題ですが、解決に向けた妙案がないことも事実だと思います。

こうした流れの中でも、道の駅「宮地岳かかしの里」では先月下旬に4周年祭りを行ったり、5月頭までかかし祭りを開催したりするなど様々なイベントを行い、集客に努めています。企業においても宮地岳町のかかしのような組織活性化の施策や、職場の高齢化への活性化策もあわせて考えていく必要があるのではないかと思います。

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