中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,220話 アイディアが思い浮かぶタイミングとは

2024年06月19日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「ウォーキングをしていると、研究の新たな視点やアイディアが思い浮かぶことが多いので、毎日必ず歩くようにしているんです。」

これは、先日放射線によるがん治療の研究をしているある研究者が話していた言葉です。学術的な研究をしている人に限らず、多くのビジネスパーソンも仕事とは全く異なる場所やタイミングに、ちょっとしたきっかけで良いアイディアが浮かんできたなどという経験をもっているのではないでしょうか。たとえば、家のお風呂で湯船に浸かっているときや、寝床に入ってうとうとしているときなどに、突然具体的な発想やアイディアが浮かんでくるということがあります。私自身はこのひらめきのような感覚を、「目の前にアイディアが下りてくる」といった感じでとらえています。

古今東西、同じような経験をしている人の話はよく聞きますが、このように仕事から少し離れたタイミングで良いアイディアなどに恵まれるということがあるというのは、どうしてなのでしょうか。

医学的にどこまで解明されているものなのかはわかりませんが、これに関して私が思っているのは、仕事から少し距離を置くことでストレスやプレッシャーから解放され、リラックスした状態になれているということが理由の一つにあるのではないかということです。

仕事に集中し続けてこそこうしたひらめきが生まれると思いがちですが、実際には私たちはそうなるとかえって集中力が低下したり、思考が固定化されてしまったりすることが多いように感じます。

逆に、前述のような仕事を離れてリラックスできている状態では、自由にさまざまな発想を働かせることができるようになり、脳が無意識のうちに様々な情報を処理し、関連性のある情報を結びつけ「ひらめき」につながることが起こるのではないでしょうか。その意味では、この一連のプロセスは意識的にひたすら物事を考えつづけるよりも効率的であるといえるのかもしれません。

「いつでもどこでもアイディアが湯水のように沸き続ける」という人はそうそう多くはないかと思いますが、仕事に追われ余裕がないときほど、逆に意識的にいったん仕事を離れて休息を取るようにすることが必要なのかもしれません。そうすることにより、脳がリフレッシュされて集中力が回復し、再び仕事に戻ったときに新鮮な視点で課題に取り組むことができるようになります。その結果、自分でも思いがけないような新しいアイディアが目の前に現れるということになるのではないでしょうか。

しかしそうは言っても、ただ単にリフレッシュ・リラックスすれば誰でもすぐによいアイディアが浮かぶというものではないのは明らかです。もともと持っていた様々な情報が、それまではばらばらになっていたものが、あるきっかけで一つに結びつきそれが新しいアイディアになっていくわけです。そうなるための前提としては日ごろから一見仕事に直接結びつかないと思えるような情報であっても積極的にストックし、整理するなどの備えをしておくことも必要なのだと思います。

私たちビジネスパーソンは、仕事中はそれに集中することはもちろん重要なのですが、何事にもメリハリは必要です。日ごろ、物事に追われてしまい気が付いたら余裕がない状態になっていたということになりがちですが、だからこそ忙しい中でも意識的にメリハリをつけ、少しの余裕をもって物事にあたれるように心がけていきたいと考えています。

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第1,217話 役職定年を廃止する組織の成長とは

2024年05月29日 | 仕事

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「役職定年」を廃止。

近年、役職定年制度を廃止した企業等に関する報道が続いています。言うまでもありませんが、役職定年とは予め定められた年齢に達した社員が部長や課長などの役職(主に管理職)から退く制度であり、大企業を中心に導入されてきました。

この役職定年制度は、大きくは若手社員の育成と人件費の抑制の2つを目的として導入されたものです。しかし制度の導入後時間が経過する中で、シニア層のモチベーションの低下、人手不足で若手社員の採用が困難になってきていること、さらに働き方をはじめとする環境の変化等により、制度の運用を見直し始めた組織が増えてきたことは、当然のことだと思います。

また、こうした動きは企業に限らず、自治体でも制度の廃止ではないものの、定年を迎えた職員を引き続き参与などの肩書で、それまでと同じ仕事を担当させるという例も増えてきているようです。こうした例も、実質的には同様の動きだと思います。

こうした動きに関して私が気になっているのは、いわゆる組織の若返り、世代交代の観点からの取り組みも同時にしっかりと進める必要があり、そこを決しておろそかにしてはいけないということです。 

役職定年を廃止し、シニア社員がそれまでと同様に管理職のポジションで同じ仕事を続ける場合、当人はモチベーションを維持できますし、安定してかつ確実な成果も期待できます。しかし、それは次にそのポジションを担っていくことになる若手社員にとっては、そうした経験を積み成長していくキャリア形成の機会が限られることになります。その結果、若手社員のモチベーションをどう維持し育成していくかが、これまで以上に大切になっていくと考えています。

そのためにも、若手社員に今後のキャリアプランを示して本人と企業で共有し、それに向けて計画的・継続的に育成を行い、シニア層からのスムースなバトンタッチができるように同時に手を打っておくこと。この観点でしっかりと取り組んでいくことが欠かせないと考えています。

同時にシニア社員にも継続して「会社がバックアップしている」「これからも成長していける」と実感できるようなキャリア開発の機会を提供することも必要です。

組織全体が成長していくために、若手社員、シニア社員の一方に力点を置くのではなく、双方にモチベーションを維持してもらえるような機会をいかに提供できるかが、今後の鍵になると考えています。

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第1,216話 自分が好きに生きられるように努力することとは

2024年05月22日 | 仕事

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「社員の異動 応募制に」

先日(2024年5月19日)の日経新聞の朝刊を読んでいたところ、この記事のタイトルが目に飛び込んできました。

記事には三井住友海上保険の人事制度(異動)の刷新について書かれていたのですが、来年4月より社員は少なくとも4年に1回、自らが希望する勤務地やポストに応募する必要があり、会社はそのポストに就くためのスキル習得も後押しするとのことです。また、全国の部支店が募集するポストや社員に求めるスキルを示し、社員は自身が習得したスキル、希望のキャリアに沿って応募することができるとありました。

このように、近年では社員が希望する部署へ配属や異動ができるような制度を設ける組織が増えています。制度の導入により社員のやる気につながり、離職を減少させるなどの効果も期待できますので、今後導入する企業がますます増えていくのではないかと考えています。

しかし、一方で人気部署に応募が集中して偏ってしまうことや、異動希望が少ない部署などは半ば人が固定されてしまい、その結果仕事が属人化してしまうことなどが懸念されるのではないかと考えます。また、最も難しいと思うのは、募集部署で必要となるスキルの示し方や応募の際の保有しているスキルのアピール方法など、制度を適切に運用するためにはクリアすべき課題もかなりあるのではないかと思います。

ところで、この記事を読んだときに私が思い出したのが、先日NHKで放送された「新プロジェクトX~挑戦者たち~ 弱小タッグが世界を変えた~カメラ付き携帯 反骨の逆転劇~」です。この番組で紹介されたうちの一人が、18歳でシャープに事務職として入社した後、独学で開発研究職にたどり着いた宮内裕正さんの話です。宮内さんは事務職から開発研究職への異動を希望するにあたり、休日にも出社してひたすら勉強し、試行錯誤を重ねて最終的にカメラ付き携帯の商品化に尽力したのだそうです。

番組の中で宮内さんが発した言葉のうち、強く印象に残っているのは「自分のゴールを設定したら、(自分が)実際何を知らないのか、何を学ばないといけないのか具体的になります。」というものです。自分が進みたいと思う方向があるのなら、まずはそこにしっかりとゴールを定めること。そうすれば、それに向かって必要となるスキルや知識が自ずと明確になるということをおっしゃっていたのだと思います。

また、宮内さんは続けて「本当に真面目に一生懸命やると、すごく意外な結果になるんです。私がそうでした。」 「好きに生きました。好きにやらせてもらいました。好きに生きられるように努力してきました。」とも話されていました。たとえ今は本来の希望とは違う仕事をしているとしても、自分がかなえたいと思う方向に向かって一生懸命に努力し続けることで、キャリアチェンジは可能になるということを示してくれている言葉だと思いました。

話は戻りますが、冒頭の記事にあったように企業をはじめとする組織内での異動はこれまでのように組織命令だけでなく、自らが選択することが可能なものに変化しつつあります。

こうした中で自分の将来は自分で選択したいと思うのなら、自分はどのような道を歩んでいきたいのか今後のキャリアプランについて考えていくこと。そしてそれが明確になったら、そのためにどのような努力をすることができるのかを自らに問いかけ、それに向かって努力し続ける強い意思がますます必要になってくるのではないかと考えています。

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第1,215話 カスハラに対して組織がとるべき対応とは

2024年05月15日 | 仕事

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最近の報道によると、厚生労働省は「カスタマーハラスメント」(以下、カスハラ)に対して、従業員を守る対策を企業に義務付けるための検討に入ったとのことです。

カスハラとは、直訳すれば「顧客による嫌がらせ」ということです。カスハラについて各種の機関が行った実態調査によれば、いずれでもカスハラの件数が著しく増加しているとの結果が示されています。

実際に、私自身もこれまでに鉄道会社の駅員や店舗で働く従業員に対して、顧客が執拗にマイナス感情をぶつけているのを何度か見たことがあります。一方的な激しい顧客の物言いを目の当たりにし、もし自分があのようにされたらどういう対応をすればよいだろうかなどと考えましたが、簡単に答えは出せないと思いました。そのように考えると、今後従業員を守るために各企業等が具体的な施策を示し取り組んでいくことは、大変重要なことであり、速やかに進めていくべきものだと考えています。

同時に、最近私自身が顧客の立場として感じるのは、結果的にカスハラを誘発してしまいかねないような、従業員による顧客への対応も少なからず見受けられるということです。

たとえば、先日私がある企業に電話で問い合わせをした際に、電話口で対応してくれた人は質問に対し即答できず、その都度「確認をしてきますので、少々お待ちください」と保留にし、結局3分以上待たされたことがありました。そうかと思うと、いきなり上司と思しき人に電話が替わり、あたかもクレームとしての対応をされそうになったということもありました。

前段のような、業務にあまり精通していない人が顧客対応にあたるケースは、ここ2~3年で急増しているように感じているのですが、それは人手が不足していることが一つの原因かもしれません。しっかりとした知識を得る前に新人が現場に出ざるを得なくなって、顧客に対応する機会が増えているのかと推測します。このようなことが続くと、顧客側にも不満が募ってしまいますから、これは担当者個人でなく組織として対応すべき問題だと考えます。

もう一つ私が気になっているのは、後段のように問い合わせをクレームやカスハラのように扱ってしまうということです。クレームは「苦情を伝えたり、回復を要求する」こと、ハラスメントは「嫌がらせ」であり、使い方やサービス情報等がわからないところや知りたいことを確認する「問い合わせ」とは明らかに異なります。顧客から少々きつい言い方をされたとしても、内容をよく聞いてみればクレームやハラスメントには当たらないケースも実は多いのではないかと思います。それを一緒くたにして対応してしまうと、別の問題が生じてしまうのではないでしょうか。

顧客対応の際には、まずは先入観を持たずにじっくりと話を聞いてみる。その際にはいやいや対応しているのではなく、真摯に話を聞くという態度(非言語)も大切だと考えています。そして、やり取りをふまえ顧客が求めていることを冷静に判断することが大切です。

カスハラは許してはいけない、組織としてきちんと対応していくべきものです。一方でカスハラか否かの判断は、セクハラなどと同様に当事者間の感じ方に大きく左右されるなどの面があります。であるからこそ、今後、行政がきちんと指針を示してどのようなケースが該当するのかをはっきりと示し、各企業はそれに従い従業員を守るための施策を考え、確実に実施していくことが大切だと考えます。

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第1,213話 待遇改善要求は古くて新しい

2024年04月24日 | 仕事

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今年3月、日本IBMに対して定年後再雇用の賃金減額について具体的に説明することを求めた救済命令が東京労働委員会から出されたとの報道がありました。

記事によると、日本IBMでは60歳以降も勤務を希望する場合には「シニア契約社員」として再雇用されるものの、賃金は正社員の2割に減額されるとのことですが、それに対してきちんと待遇差の説明をするように会社に対して求めたとのことです。これに対して、会社側は再審査を申し立てており、中央労働委員会の判断が注目されているとのことです。

日本の企業等における、いわゆるシニア社員(定年後の再雇用等)の賃金が定年前に比べ低く抑えられることについては、モチベーションの低下をはじめ様々な影響が指摘されるようになっています。私が見聞きしているところでも、現役時代の7割~4割程度に減額されるところが多いようですが、そうした中で大手企業である日本IBMが2割にまで減額していることについては、記事を読んではじめて知り正直少々驚くとともに、今後日本IBMがこの件にどのように対応するのかについて関心を持っています。

今回のような賃金をはじめとした、労働者の権利向上や労働環境改善に向けた運動については、私はこれまで日本では明治時代ごろからはじまったものではないかと考えていました。しかし実はその歴史はもっと古く、なんと天平11(739)年には行われていたという記録が残っていることを、先日訪れた千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館の展示を見て知りました。その展示によれば、当時の役人による「劣悪な職場環境や労働条件に対しては、作業着の支給、定期的な休暇、食事の改善、酒の支給など、6ヶ条の待遇改善を要求した」文書の下書きが残っているとのことです。

こうしてみると、実は古くて新しいこの問題ですが、今回の日本IBMの件に関しては、賃金を2割としている理由を「シニア契約社員が担当する業務の重要度・困難度を勘案し決定した」との説明のみにとどまっていることが、賃金そのものの低さだけでなくシニア社員から会社への信頼の失墜という、さらなる問題を生んでしまっている原因のように感じます。

今後、この問題を解決するためには、まずは会社側が減額の決定に至った経緯をはじめとする情報を雇用されている側に提供すること、あわせてこの問題に真摯に向き合おうという姿勢が求められているように思います。前述の中央労働委員会もまさにそのことを指摘しているのではないかと感じています。

前述の「天平時代の待遇改善要求」については、展示には時の雇い主側がどのような対応をしたのかまでは示されていませんでしたが、当時の役人の生々しい声が聞こえてくるようでとても興味深く見ました。話は戻りますが、労働人口の減少が指摘される現代において様々な知見を有するシニア社員は、組織にとってますます貴重な労働力となることは確かなことです。流失を防ぐためにも、待遇をはじめとする様々な事柄について、まずは誠意をもって説明をするということが大切であると改めて考えています。

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第1,211話 アクティブ ・バイスタンダー(行動する傍観者)になろう

2024年04月10日 | 仕事

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「OJTトレーナーになった先輩が積極的に仕事を教えてくれる人ではなかったので、とても困りました。そして、周囲もそれを見て見ぬふりをしていました」

これは先月、弊社がある企業のOJTトレーナー研修を担当させていただいた際に、受講者のAさんから聞いた言葉です。Aさんは入社4年目の社員として、この4月に入社した社員のOJTトレーナーになるために研修を受講したのですが、そのときに話してくれたのが冒頭の言葉です。

Aさんが3年前に入社し配属された部署でトレーナーとして会ったのが、先輩社員のBさんでした。Bさんは仕事はできる人だったのですが、Aさんに積極的に仕事を教えてくれるようなことはないなどトレーナーとしてはあまり熱心ではなかったため、Aさんが仕事を教わりながら覚えていく機会は多くなかったのだそうです。Aさんとしては、当時を思い返すとBさんがトレーナーとしての責務を全うしていないことは問題だったと感じるけれど、同時にBさん以外の先輩や上司もAさんをフォローすることはなかったため、とても孤独に感じたとのことです。

Aさんの話を聞いて思い浮かんだのが、「アクティブ ・バイスタンダー」と言う言葉ですが、直訳すると「行動する傍観者」という意味です。ハラスメントや暴力や差別が起きたときや起きそうな場面において、「その場に居合わせた人が傍観者としてただ見ているのではなく、何らかの行動を起こす人」のことを言いますが、ハラスメントを防ぐなどの効果もあり注目されています。

この「傍観」については、たとえば職場において同僚がハラスメントを受けていることに気が付いても、見て見ぬふりをしてしまうことなどは中立の立場ではなく、本人にはそのつもりはなくても結果として自身もハラスメント行為に加担してしまったことになるとされています。そして、そのような場面では直接ハラスメント行為を止めさせることはできなくても、たとえばやり取りを記録することや別の人に助けを求めたりするなど、被害者の力になるために勇気をもって一歩を踏み出し行動することで、そうした場を変えていくことができるともされています。

冒頭の話のBさんの行為は、ただちにはハラスメントに該当しないと考えられます。一方でAさんが困っていてることに周囲が気づいていたのであれば、Bさんへ何らかの助言をしたり、Aさんへ「大丈夫?」などと声をかけたりすれば、Aさんが孤独感を持ってしまうようなことにはならなかったのではないかと思います。

4月も10日ほどが経過し、来週以降は早くも新入社員研修を終えた新人が徐々に職場に配属されていく時期になります。当然、新入社員を受け入れる側の各部署ではOJTトレーナーを決めるなどの準備を進めていることと思います。同時に受け入れにあたってはくれぐれもトレーナー1人にすべての責務を担わせるのではなく、周囲の人間も「行動する傍観者」として積極的に関わりを持つようにしていただきたいと考えます。

こうした職場の関係性が新入社員にやる気を起こさせ、成長を促し、やがては巡り巡ってその新入社員が成長した暁に積極的に後輩を育てていくという好循環につながっていきます。それに加えて周囲の人間の成長という点でも大きな意味を持つものだと思います。

新年度がはじまり、いよいよこれから本格的にスパートをかけていく時期です。だからこそこのタイミングで今一度、職場の全員で「行動する傍観者」の重要性を再確認してみてはいかがでしょうか。

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第1,208話 イレギュラーな事態の情報の周知はどうすればよいのか

2024年03月20日 | 仕事

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「運転再開の目途は立っていません」

鉄道事故が起きたときに、駅でたびたびこのような案内のアナウンスが流されます。令和3年度の国土交通省の鉄道統計年報によると、民鉄269件、JR238件、合計507件もの鉄道事故が起きているとのことです。1日に1件以上何らかの鉄道事故が日本のどこかで起きていることになりますので、これは決して少なくない数だと思います。鉄道事故には列車衝突や脱線や火災をはじめ、踏切障害、道路障害、そして人身傷害があるようですが、いずれの理由の事故であっても復旧にはそれなりの時間を要すると考えられますから、もちろん事故は少ないにこしたことはありません。

事故の状況によるため、一概に言えるものではないとは思います。特に人身事故は負傷者の救出や警察による現場検証をはじめ、複数の対応が必要になるようですので、復旧までには相当の時間を要するケースが多いのではないかと考えられます。

私自身も、これまで電車の利用中に大なり小なりの事故に遭遇していますが、最近では昨日(3月19日)に京浜急行電鉄で発生した人身事故により電車が止まり、大きな影響を受けました。最終的に2時間半ほどで運航が再開されたようでしたが、おおよそ4万人に影響が出たとのことですから、大きな事故だったと言えるのではないでしょうか。

この事故に関しては、発生直後から具体的な復旧見込みなどの報道はされず、私自身もネットの情報などを頼りに、そろそろ復旧するのではなかと思い最寄りの駅に向かいました。ところが、改札の中の電光掲示板には「遅れが出ています」との表示が出ている一方で、構内放送では「あと15分は復旧しない」との案内が流されていました。片方は電車は動いているように捉えられる(「遅れている」)一方で、「復旧までしばらくかかる」という情報が混在し、私を含めた乗客達は改札を出たり入ったりと右往左往することになり、結局はいたし方なくJRの駅まで歩くことになったのです。(おそらく、この「遅れている」は当時運行できていた区間の状況のことであったと思われます。)

以上が今回の私の経験ですが、同様の経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。残念ながら事故が起こってしまうことは仕方がないとしても、その後の対処、たとえば運転が再開するまでの案内アナウンスの方法や精度にもう少し工夫はできないものかといつも思うのです。前述のようにまだ運行が再開していないのにもかかわらず、「遅れが出ています」というような表示が出ていれば、当然乗客は運転が再開されたのだと考え、改札を通ってホームまで行ってしまいますし、その時に逆の内容の放送が流されれば混乱を招いてしまうだけです。

もちろん、事故対応の現場では刻一刻と状況が変化するため、それをリアルタイムで把握して周知していくということは容易ではないだろうとは思います。しかし少なくとも誤解を招かないように「〇〇駅~○○駅間は運転中止、その他の区間は遅延しています。」などの表現にすることはできるのではないかと考えます。

鉄道会社にかかわらずどういう業種であっても、事故やイレギュラーな事態は起こりえるものです。その際に、関連する情報をどのように周知するのか、レギュラーの仕事であるならばルールが徹底できているようなものであっても、いざ事故などのイレギュラーな事態が発生した場合にも対応しうるものなのかということを定期的に点検しておく必要があるのではないか。どうすれば対応の精度を上げられるのかについて、日ごろから準備をしておくことが大切であるということを、今回の事故を経験して改めて思いました。

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第1,201話 問題解決に取り組んだ後のドキュメントとは

2024年01月31日 | 仕事

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「いずれ新たなパンデミックは発生するだろう。そうであれば、『古株』の最後の仕事として、これまでの経験を記録に残すべきだと考えるようになった。」

これは、新型コロナウィルス感染症対策分科会会長をはじめ、コロナ対策で数々の役割を担った医師である尾身茂氏が、その著書「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」(日経BP)の中で語っている言葉です。

本書には、尾身氏をはじめ専門家が出した100以上の提言の根拠やそれらに込めた思い、専門家同士の激しい議論、首相や大臣、行政官などとのやり取りなどが詳しく書かれています。特に、第1回緊急事態宣言の解除の条件を議論する勉強会で尾身氏自身が声を張り上げたときの生々しいやりとりをはじめ、当時の緊張感あふれた様子などにもふれられており、3年半にわたるコロナ禍の中、専門家としてどのようにコロナ対策に向き合ったのかを知ることができます。

コロナに対応した専門家ほどの大きな問題ではないかもしれませんが、私たちも公私を問わず日々大なり小なり様々な問題にぶつかり、その解決を模索しながら生きています。問題が生じることは滅多にないという人もいるにはいるようですが、そういう人はそれほど多くはないのではないでしょうか。

さて、弊社では定期的に問題発見・課題解決をテーマとした研修を担当させていただいていますが、その際は問題を発見し解決するまでの一連の流れを6つのステップ(①問題を発見し、②原因を分析し、③3現主義によって調査し、④解決策を立案する、⑤解決策を実施、⑥評価と対策)に則って進めることが多いです。

このステップに基づいて問題解決に取り組む場合に、①から⑤までは熱心に取り組む人が多いかと思いますが、⑥の評価と対策まで取り組む人は限られているようです。本来は解決策を実施した後には、実行からその評価までのプロセスをドキュメントにして、記録として残すことが必要なはずですが、問題が解決できるとそこで安心してしまい、その後にしっかりと記録を残すという人は多くないというのが実際のところのようです。

しかし、せっかく問題解決に取り組んでも、ドキュメントをきちんと残さないと、一連のプロセスの中で行われた議論やそこで獲得した知識や経験等が、時間の経過とともにやがては薄れていってしまいます。次に同様の問題が発生してもそれを活かすことができず、最悪は再び0(ゼロ)からのスタートになってしまうなど、せっかくの取組みの積み重ねが無駄になってしまいます。

そのように考えると、今回尾身氏が執筆された本書はまさに問題解決の最終ステップである「評価と対策」を中心に書かれています。尾身氏も指摘するとおり今後新たなパンデミックが発生するようなことがあった場合には、今回書かれたようなドキュメント(書籍)が役に立つことは間違いないと思います。

私たちも、日々の仕事の中で遭遇する問題発見・課題解決に取り組む際は、同じことを繰り返さないためにも、また速やかに対応できるようにするためにも、一連の流れを必ずドキュメントとして残しておくことが肝要だと、今回尾身氏の書籍を読んで改めて感じました。

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第1,196話 パワハラが横行する組織になってしまったのはなぜなのか

2023年12月20日 | 仕事

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パワーハラスメント(以下パワハラ)に関しては、2022年4月に防止措置への対応が大企業のみならず中小企業へも義務づけられていますが、では実際にパワハラ防止は進んでいるのでしょうか。

パワハラはという言葉を聞くようになったのは、今から20年以上も前です。それまで職場での威圧的な態度などをはじめ様々な嫌がらせ等に悩んでいた人々は、パワハラという言葉が生まれたことをきっかけに声をあげるようになり、この言葉は一気に社会に浸透していったと言われています。

そうした流れの中、厚労省が2011年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」を発足させ、パワハラの現状把握や予防・解決に向け具体的な取り組みを開始し、様々な議論等を経てようやく2019年にパワハラ防止法が成立した経緯があります。

こうしてパワハラが広く認知されるようになり、パワハラをしてはいけないという機運が高まりましたが、その一方で最近ではパワハラを恐れるあまり、部下に必要な注意をしたり育成のために叱ることにも慎重になりすぎてしまっている管理職が少なくありません。弊社でも、この10年ほどはパワハラ防止や部下育成をテーマとした研修を継続的に担当させていただく機会が増えてきているのですが、研修の中で強く感じるのは、管理職が部下に対して必要以上に「遠慮」しすぎてしまっていたり、部下育成に対しても必要以上に「謙虚な姿勢」で臨んでいるということです。

これに関しては、これまで本ブログでも何度も触れてきていますが、職場をとりまとめるために、あるいは部下の育成のためには必要な注意や指導、時には叱ることは管理職として当然に行うべきものであり、それはパワハラとは別のものなのです。パワハラと捉えられてしまうことを恐れるあまり、管理職として必要な指導等までを控えてしまうのは本末転倒と言えます。

そういう中、先日一部の新聞で報道された神奈川県内のある市役所の職場におけるハラスメント行為の報道には、正直驚きを隠せませんでした。この報道をご存じの方も多いかと思いますが、昨年市が職員を対象に実施したハラスメントについてのアンケートでは、「ハラスメントを受けたり、見聞きしたりしたか」と尋ねたところ、複数回答でパワハラが690件、セクハラが229件あったとし、上司や同僚、さらに相談窓口にも相談したが解決していないという回答が149件あったそうです。 

具体的な行為としては、「馬乗りになって殴打する」「5時間叱責する」「男性職員が約30分、女性職員に罵声を浴びせた」「不在になった職員の悪口を大声で話す」「育児のための時短勤務について上司から嫌みを言われる」「廊下ですれ違うたびに舌打ちをし、にらみつける」等とのことです。パワハラ防止が広く認知されているはずの今でも、これだけあからさまにパワハラ行為が行われているというのは、一体どういうことなのでしょうか。

あくまで推測ですが、パワハラ行為をしている人は自身もかつてパワハラをされた経験があるなどにより、上記の行為がパワハラにあたると理解していない、あるいはこの程度はいけないことではないと思っているのかもしれません。そして結果として、組織の中でパワハラを許してしまう風土がはびこってしまっているのではないでしょうか。しかし、この状況はそもそも法律上も問題であるだけでなく、このような組織は人の流失が続いて、いずれ組織として成り立たなくなってしまっていくのではないでしょうか。

このような風土を改善するのはなかなかに前途多難だと思いますが、「ハラスメントは絶対に許さない」という思いを全職員が共有し、それを確実に実行していく。時間は長くかかるかもしれませんが、取組みが進んでこうした風土が一掃されることを願ってやみません。

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第1,195話 人が「固定」されることによる影響

2023年12月13日 | 仕事

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「上司(男性)が仕事中にスマホばかり見ているので、やる気が失せてしまうのです。やめさせるために、何か良い方法はあるのでしょうか?」

これは先日、私が担当した公開セミナーでお会いした30代前半の受講者から相談された話です。詳しい状況を聞いてみると、その上司は50代後半で非常に仕事ができる人である一方で、仕事中の大半の時間で私用のスマホをいじっているのだそうです。

毎日長時間スマホを見ることが許されてしまうのは、この部署では組織のシークレットの内容を扱っているため個室になっており、さらに構成メンバーは上司とこの受講者の2人きりのため、周囲の目に触れることが全くない状態だからなのだということです。上司は仕事自体はできる人のため、その意味ではもちろんプラスの影響もあるのだそうですが、いくら仕事ができると言ってもスマホばかりいじっているのを見るのは、マイナスの影響を及ぼしているとのことでした。

私は人事や他の部署の上司に相談することをお勧めしましたが、何分にも2人しかいない部署のため、受講者が相談をしたことが容易にわかってしまうことが懸念されるとのことでした。

これに関連して、「仕事をしない上司」や俗に言う「仕事ができないおじさん(おばさん)社員」の話は、これまでにもたびたびマスコミ等で取り上げられたり、私自身も何度も聞いたことがあります。しかし、このケースは仕事ができる上司ということであり、そういう人がこっそりと仕事をさぼるのではなく、部下の目の前で毎日正々堂々とスマホばかりを見て過ごすというのは、一体どういう心境なのだろうと首をかしげたくもなってしまいます。

今回のケースは、組織の経営にかかわる秘密情報を扱っているゆえに閉ざされた空間だからこそできてしまうわけで、そのように考えるとやはり何らかの形で「第三者の目に触れる」ことは必要なことではないかと思うのです。

現在、多くの組織は風通しのよい職場を作るためにハラスメント防止やコンプライアンスの観点から様々な研修を行ったり、意識改革を行うための工夫をしています。この受講者が所属している組織でももちろんそれらを重要視はしているようですが、他の社員や経営者の目が届かない状態になってしまっていることにより、このような結果を生んでしまっているのだと推測します。

それでは、どのようにすればこのような事態を回避することができるのでしょうか。私はやはり定期的な異動を行う仕組みが必要だと考えています。近年ではジョブ型雇用を始めたり、異動に関しても本人の意向を大切にすることが重要視されるようになってきました。もちろん、それらを否定するものではありませんし、これまでこのブログでも何度も書いてきたように、異動にはメリット・デメリットもあるとは思います。

しかし、人が「固定」されることによる弊害は必ず何らかの形で生じてしまうものであり、それを避けるためにも定期的に異動を行って様々な人の「目」を入れることで、組織に適度な緊張感を持たせ、風通しも良くしてすることができると考えています。今回相談を受けたようなケースは組織としても決して看過できないものであり、抜本的な対策を講じる意味でも「人を固定しない」ことが必要なのではないかと考えています。

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