中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,210話 新人を希望する部署に配属することは離職防止に有効か

2024年04月03日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

新年度が始まり、各地で企業等の入社式が行われました。私は毎年それぞれのトップが訓示の中でどのような話をするのかを楽しみにしているのですが、今回報道されたトップの言葉は「チャレンジ・挑戦してほしい」、「失敗や変化を恐れずに」、「明るく前向きに」などが多かったと感じています。これらの言葉は取り立てて目新しさはないものの、とても大切なことでありますので、しっかり新入社員に届いて今後の指針の一つとなるとよいと考えています。

また、今年は久しぶりに入社式を対面で行った企業が多かったようですが、これまでとは違い様々な部分で変化が見られたところもありました。たとえば、入社式に臨む新入社員の服装について、それぞれの個性を表現できるようにとスーツやネクタイの着用が義務でなくなり、カジュアルな服装を認める企業がこれまで以上に見られました。

また、労働人口の減少が始まり採用活動に苦労している企業が多くなってきているためか、新入社員の定着を重要視してこれまで以上に様々な配慮をしようとする企業が増えたことも、大きく異なるところだと思います。実際、企業新卒内定状況調査によると、今春卒業の採用充足率は75.8%であり、これは2016年卒以降で初めて8割を下回り過去最低になったとのことです。そのように考えると、せっかく採用した人が退職してしまうことがないように様々な工夫をすることは大切です。具体的には、初任給を上げる、全員を希望する部署に配属する、直属の上司に申告せずに今後希望する部署へ異動希望を出すことができる等々の対応を新たに始めているとのことです。

しかし、このような企業の対応については否定するものではもちろんありませんが、一方で全員を希望する部署に配属するということは、必ずしもその新入社員の成長を促すものにはならないとも考えます。入社前には想像すらしていなかった仕事を担当したり、本人が希望していなかった部署に配属されるなどしたことで、思いがけず本人も気づいていなかった能力が発揮されたり、結果的に新たなスキルを身に付けることができたなど、当人の成長につながるといった例も少なくないと思います。

また、仮に希望した部署に配属されたとしても、そこで上司や先輩社員が新人を丁寧に育成しようとしなければ、目に見える成長にはつながらないことが考えられますし、最悪は離職につながってしまうこともあり得ます。

今後、新入社員が定着し、しっかり成長していってもらうためにも、企業全体としても、また受け入れる側の部署でも、長期視点でじっくりと新入社員の育成に向き合ってほしいと思います。

また、新入社員にとっては希望しない部署に配属されるということは、ある意味で挑戦的な状況だと思うことがあるかもしれません。しかし、そんな状況の中でも前向きな姿勢と柔軟性を持って仕事に取り組むことで、必ず成長の機会につなげることができます。

今後私も新入社員への研修をとおして、そのことを丁寧にお伝えしていきたいと考えています。

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第1,207話 『大丈夫です』が多用されているのはなぜか

2024年03月13日 | 研修

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「大丈夫です」

これは弊社が担当させていただいた研修の中で、受講者に「何か質問はありますか」と声をかけた際に返されることが多くなった言葉です。また、同様にコンビニなどで買い物をした際にも、店の人から「袋は大丈夫ですか?」と聞かれることも多くなったと感じています。

このように「大丈夫」という言葉は様々な意味や場面で使われることが多いのですが、改めてその意味を調べてみると、「①立派な男子。 ②しっかりしているさま。 ごく堅固なさま ③間違いなく。たしかに。(広辞苑)」とあります。

もちろん、私自身もたとえば体調が良くなさそうな人には「大丈夫?」と声をかけたりするなど日常的に使っています。一方で何でもかんでも「大丈夫」で済ませてしまうかのような、最近の使い方には少々違和感を持っています。

そこで先日、若手社員の研修を担当させていただいた際に、休憩時間に数人の受講者にこの点について質問してみました。彼らの返答によると、「大丈夫」は返答する際も、質問する際も、とても便利な言葉だそうで、人を気遣う際など様々な場面で応用しやすい言葉とのことです。それに対して、冒頭の例のように「質問はありますか?」への返答として「ありません」と答えるのは相手への気遣いが足りない表現だと感じてしまう。同様に「袋はよろしいですか?」と質問するのではなく、「大丈夫ですか?」と質問してしまうのも、自然な表現だと感じるとのことでした。

この話を聞いて思い出したのが、最近はメールやSNSなどの文言の末尾に句点「。」がついていると、威圧的・冷たいと感じ怒っているように感じることがあるという話で、これを「マルハラ」(マルハラスメント)と言うのだそうです。

私の年代は文章の終わりに句点を付けることには何の違和感もなく、むしろ「。」がないと落ち着かない、文字どおり締まりがないように感じられるのですが、最近の若い人たちは逆に感じているということなのです。このように、句読点一つの使い方をとっても年代によってこのように違いがあるものであり、これらは今後も時代とともに移り変わっていくものなのかもしれません。 

この点については、弊社が行う研修の主要なテーマの一つである「コミュニケーション」についても、同じことが言えるのではないかと思っています。コミュニケーションは仕事の場面に限らず、人と人が意思疎通を図るために欠かすことができない、日常的に行っているものではありますが、同時に人と人が行うものである以上、「大丈夫」や「。」の例と同様に、使う言葉や表現ぶりについての理解が年代によって違いが生じてくるのかもしれません。今後時代が進んでいけばコミュニケーションそのものの在り方も変わっていくのかもしれません。

とはいっても、コミュニケーションの中で互いの解釈や理解に齟齬が生じないように、押さえるべきポイントはきちんと押さえていかなければいけないのは当然です。同時に、それでも様々な齟齬が生じてしまうケースは決して少なくないなど、私自身も未だに「コミュニケーション」は難しいものだと思うことが多々あります。

今回、「大丈夫」という言葉から言葉の持つ意味合いの深さとともに、改めてコミュニケーションの難しさにも思い至ったわけですが、研修の際には押さえるべきポイントはきちんと押さえていく。しかし同時に、相手や時代に合わせて変えていくべきところは柔軟に変えていくこともまた大事であると感じました。

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第1,203話 外国人労働者からの「刺激」

2024年02月14日 | 研修

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「会社にいるインド人の社員はとても仕事ができる」、「部下の一人はベトナム人だ」など、近年外国人労働者の話を耳にすることが多くなったと感じます。私自身、この1か月間だけでも担当させていただいた企業の研修の受講者の中に、中国人と韓国人の社員が出席していました。

厚生労働省のデータによると、令和4年の外国人労働者数は182万人で、過去最高を更新したとのことです。この数字からも、外国人労働者の存在が身近になったと感じるのは当然のことと言えそうです。ちなみに、国籍別ではベトナムが最も多く46万人で全体の 25.4%。次いで中国 、フィリピンの順とのことです。

さて、この外国人労働者に関して、私が過去に担当させていただいた研修には、先述の中国人と韓国人以外にもインド人、アメリカ人、ブラジル人、インドネシア人、マレーシア人の社員が出席していましたが、いずれの方も実に前向きな姿勢で取り組んでおり、さすがその企業が採用しただけのことはあるなと思わせるような人ばかりでした。たとえば、ある中国人の若手の受講者は、私が受講者全員に対して質問を投げかけた際には真っ先に挙手し、所属している企業の理念や売上数字などを明確に答えてくれました。また韓国人の受講者は管理職として部下の育成に取り組んでいる様子や、評価の難しさを感じていることなどについて熱心に話してくれました。そして、彼らに共通している点として、単に日本語を話せるというだけでなく、きちんとした文章を書くこともできるということもあると思っています。

昨今、日本人の若手は主体性や外向性が低下している人が増えてきているのではないかと言われることが多いように感じていますが、そうした中で何事にも前向きに取り組んでいる彼らの姿勢は実に頼もしく、ある意味眩しいような存在だとも感じられます。同時にこのままの状態が続くと、やがては日本人社員の存在感がどんどん薄れていってしまうではないかという危機感すら覚えてしまいます。

既に日本では人口減少が始まり、それに伴い労働人口も減り始めています。そうすると、ますます頼りにしていかなければならないのが、先述のような技術や知識を持つ外国人労働者です。即戦力として活躍してくれる彼ら外国人労働者をいかに獲得し、しっかり育てていけるかが企業のこれからの成長の鍵を握っていることは間違いないように思えます。

このように外国人労働者がますます増えていく中では、我々も彼らの積極的な姿勢を真摯に学んでいく必要があります。同時に文化的背景の違う人たちと一緒に働くうえでは、それぞれの文化や習慣などをはじめコンテクストの違いをきちんと理解していないと、コミュニケーションをはじめ様々な問題が生じてしまいかねないことが懸念されます。

これまでもそれぞれの企業では様々に取り組んできていると思いますが、今後はますますその必要性・重要性が増していくことになりそうです。

我が国の企業や労働者を取り巻く環境は日々大きく変化し続けていますが、そうした中で外国人労働者達から様々な「刺激」を前向きに活かして、我々自身もさらに成長していくことの重要性を、彼らの姿勢から感じています。

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第1,193話 「組織市民行動」をとるためには

2023年11月29日 | 研修

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「何かお手伝いをすることはありますか」

ある土曜日の昼下がりに自宅近くの通りを歩いていたところ、顎と手から血を流して仰向けに横たわっている男性がいました。男性の隣には携帯電話で消防に連絡をしているご夫婦がいたのですが、たまたま傍を通りかかった私も素通りをすることができずに、「どうしたのですか」と声をかけたのでした。そのご夫婦から聞いたところでは、前を歩いていた男性が突然躓いて倒れ、顎と手にすり傷を負い立ち上がることができなくなってしまったので、救急車の手配をしたところとのことでした。事情を聞いた私は、男性の頭の下に彼のカバンを枕代わりに添える程度のことしかできなかったのですが、そのままその場を立ち去ることはできませんでした。

先述の通り、この日は土曜日の昼下がりで、また駅に通じる道でもあることから、多くの人が現場の前を通ったのですが、驚いた(そして嬉しい)ことに通りかかった人の大半が声をかけてくれたのでした。具体的には「救急車は呼びましたか?」、「お手伝いできることはありますか?」、「この先の病院にこれから行くのですが、受付の人に伝えましょうか」、「病院まで一緒に運びましょうか」、さらには「私は看護師です」と脈を測ってくれる人もいました。その後、救急車の音が近づいてくると、一方通行の道路だったために迷わないように救急隊に道案内をしてくれる人もいたのです。最終的に救急隊に「第一発見者と救急車を呼んだ人以外は解散してください。」と言われ、お互い特に挨拶などをすることもなく、そのままその場を後にしたのでした。

この出来事には全体で10名ほどがかかわっていたと思いますが、他の誰かの指示で動いたのではなく、皆がそれぞれできることを見つけて自主的に動いたという点で、客観的に見ても素晴らしい連携プレーでした。

これはまさに、組織で言うところの「組織市民行動」だったのではないかと思います。組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)とは、アメリカ インディアナ大学のデニス・オーガン教授によって提唱された概念で、従業員が与えられた役割のみを遂行するのではなく、自分の職務の範囲外の仕事をする行動のことです。報酬などの見返りを求めることなく自発的に他者を支援する行動で、組織を支える重要なものです。

今回、たまたま通りかかった人達によってこうした「組織市民行動」的な動きが生じたのは偶然の出来事だったのかもしれません。しかし同様に企業などにおいても職場で困っている人がいたら役割如何にかかわらず助けたり、声をかけたり、休んでいる人の仕事をフォローしたりするなどの行動をとることができれば、組織の力がさらに大きく強くなれるのは間違いないのではないかと感じました。

しかし、ただ単に何もせずに待っているだけでは、なかなかこうした行動には至らないでしょうし、組織に定着することもないと思います。従業員が「組織市民行動」をとりやすくするためには、その意義を理解してもらうとともに積極的に働きかけていくこと、さらにはそうした行動がきちんと評価されるなどの組織としての取組みが必要でしょう。その結果として組織の風土として根付かせることができるのだと思います。

今回、私は冒頭の出来事から組織的市民行動のことを思い出したわけですが、組織で仕事をするということはメンバーの合計人数の力ではなく、人数の合計値に+アルファをもたらすこと、それこそが組織で仕事をする意味なのだと、今回の経験をとおして改めて感じたのでした。

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第1,190話 体験することの意味とは?

2023年11月08日 | 研修

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「オン コロコロ センダリマトウギソワカ」

これは、先日訪れた奈良の薬師寺での見学ツアーに参加した際に、案内の僧侶から聞いた真言(呪文)です。おおよその意味は、「帰依し奉る、病魔を除きたまえ払いたまえ、センダリやマトーギの福の神を動かしたまえ、薬師仏よ」といったものとのことです。

このツアーでは僧侶の案内により、はじめに東塔・西塔を見学したのですが、その次の金堂の薬師三尊の説明では薬師如来を医者に、左脇侍の日光菩薩を日勤の看護師に、右脇侍の月光菩薩を夜勤の看護師に例えて、とてもわかり易い解説をしてくれました。その後、僧侶に続き参加者全員で冒頭の「オン コロコロ・・・」を唱えるように言われ、薬師三尊を前にツアーに参加していた40~50名全員で合唱したのです。私をはじめ多くの人は初めての体験だったようでしたが、全員で真剣かつ楽しく真言を唱えたのでした。私自身は過去に薬師三尊を見学したことは何度かあったのですが、ガイドブックや解説を読むだけでなく、今回のように仏像を前に皆で大きな声で真言を唱えるという体験により、これまでになく薬師三尊への理解が深まり、何となく身近に感じられました。同時に、これにより僧侶や他の参加者との一体感を得ることもでき、とても印象深く記憶に残るような時間になりました。

さて、最近では日本を訪れる外国人旅行者の数がコロナ前に戻りつつあるとのことです。日本に複数回訪れる人も多いようで、一通り名所旧跡をめぐり終えた後は、次の段階とし様々な体験を通じて楽しんでいるという話を聞くことも増えてきています。たとえば、そば打ちをしたり茶室でお茶をたてたり、着物を着て散策をしたりするなど、日本人の私ですらまだしたことがないようなことまで、遠く外国から来た人達が体験しているのです。見たり聞いたりするだけでなく、実際に体験してみることを通して日本の文化に触れ、その良さを彼らは実感しているのだと思います。

これらの例からもわかるように、「体験する」ことは大切なものだと改めて思うのですが、このことは私が日々担当している研修においても言えることなのです。一般的に、研修の進め方としては、まず講師が話をする講義時間があり、その後に受講者が演習を通して理解を深めていく演習時間があります。現在でも1~2時間程度と短時間の講演では、講師が一方的に話すだけのものもありますが、それ以上の時間をかけて行う研修では講義と演習を繰り返して進めていくのが今の主流の進め方ではないかと思っています。実際に私が担当している研修でも、講義のときにはあまり関心を示していなかった受講者が、演習に入った途端に生き生きとした表情になって、積極的に参加していたというような例は枚挙にいとまがありません。

それを証明するように、研修終了時に記入してもらうアンケートでは「講義と演習の配分がちょうどよかった、演習を通じて理解が深まった」といった記述が毎回相当数あるのです。

そして、この「体験する」ことは日々の仕事の中でも重要な意味を持っています。仕事の中で得た様々な知識を、さらに深く理解して身に付けるためにも、またそのことによって自分に自信をつけてもらうためにも、実際に体験してもらうことがとても大切なのだと改めて思っています。

(冒頭の写真はWikipediaより)

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第1,184話 研修中に顧客から入ったトラブルは誰が対応するのか

2023年09月27日 | 研修

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「すみません。トラブル対応しなければならないので、ちょっと失礼します」

先日、弊社が担当させていただいた、ある企業の中堅社員を対象にした研修の最中に、受講者のAさんがトラブル対応のために、このように私に声をかけて度々席を外していました。

その研修は2日間のプログラムでしたが、1日目の午前中に顧客からクレームの連絡が入り、その後Aさんは研修時だけでなく、夜に行われた懇親会の時間まで、たびたび対応に追われることになってしまったのでした。

それでは、Aさんはどのようなトラブルに対応しなければならなかったのでしょうか?Aさんおよび研修のご担当者から話を聞いたところ、今回のトラブルはこちら側に非があるというより、顧客の勘違いと考えられることが原因により生じたものであったため対応が難しく、Aさんは上司への報告や相談に加え、関係各位へも連絡や相談をしなければならなくなったのだそうです。

私がAさんには会うのは、2か月前に続き今回で2回目でしたが、Aさんの研修への取組み姿勢は非常に前向きであり、熱心な姿勢だと感じていました。そのようなAさんがトラブル対応をせざるを得ず、その結果何度も席を外して対応しなければならないことで、結果的に研修に集中することができなかったことは、本人もとても残念だったのではないかと感じました。そして同時に思ったのは、階層別研修を受講する機会は数年に一回程度と限られたものであるため、万が一トラブルが生じた際の対応は研修受講者本人ではなく別の人がすることができないものなのだろうかということです。

これについては、様々な考え方があると思いますし、必ずしも正解があるものでもないと思います。しかし、これまで私が様々な企業の研修を担当させていただいてきてあらためて思うのは、研修は仕事の一環として行われるものであり、多くの場合、階層別研修は年度初めには実施されることが決定しています。そうであるならば、受講者が集中して研修に取り組むことができるように、上司は周囲のメンバーとともに受講者の仕事のフォローができるように体制を整えておくことが大切なのではないかということです。

そして、このことは何も研修に限った話ではありません。現在、企業などでは社員に一定以上の有給休暇を取得させることが義務付けられていますし、男性の育休の取得にも目標が掲げられるなど、社員が仕事を離れることはたくさんあるわけです。そのようなときに、何らかのトラブルが発生した場合に主担当である人が全て対応をしなければならないとなると、おちおち有給休暇や育児休暇をとることができなくなってしまいかねませんし、研修にも参加しづらくなってしまいます。

もちろん、組織によっては主担当と副担当をあらかじめ決めてあり、主担当が対応できないときには副担当が対応するということになっています。しかし、私の経験から考えても実際には大半の組織ではそれぞれが自分の仕事で手一杯で、他者が担当している仕事の状況を詳しく把握できているというケースはあまりないようです。ある程度の余裕をもった社員配置ができるのであれば、こうした問題は生じないと思いますが、そこまでの余裕があるところは多くないというのが実際のところではないでしょうか。

そうした中で社員が安心して休暇を取得できるようにしていくためには、まずは主担当がいないときに周囲がどのように対応するかについて改めて確認し、メンバーそれぞれがきちんと認識しておくことからはじめることが必要なのではないかと考えています。そうすれば少なくともいざ事が起こった時にも慌てず、全ての対応を不在の人間がしなければならなくなるような事態を少しでも避けることができるのではないかと考えています。

皆さんの組織では、そのような体制は整っていますか?

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第1,182話「百聞は一見に如かず」に続く言葉

2023年09月13日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

今年9月1日は関東大震災が発生して100年ということで、テレビをはじめ多くの特集などを目にした方も多かったと思います。また、南海トラフ地震や首都直下地震についても、今後30年以内に60~70%の確率で発生すると言われるようになって久しいです。

多くの人が今後経験せざるを得ないのではないかと考えられるような非常に高い確率ですが、一方でそのための防災対策をしている人の割合は低く、僅か4割弱とのことです。内閣府の調査によると、家具や冷蔵庫を固定していない人の理由は「面倒くさいから」(26%)であり、また「転倒しても危険ではないと思うから」(14%)、「お金がかかるから」(12%)といった回答も多くあげられています。

これらの数字からは、災害による被害を防ぐための手間や費用をかけることを惜しむ傾向が見て取れます。リスクが非常に高いにもかかわらず、リスク管理をしている人は少ないわけですが、その根底には自分に限ってそのような危険な目には遭わないと思う心理が潜んでいることが推測されるとのことです。

このことからも、どんなに大切な情報を提供しても、それを受け取った一人一人が自分事として実際に行動に移してもらうことは難しく、改めてハードルの高さを感じざるを得ません。 

実は、このことは私が日々担当させていただいている企業研修においても同様のことが言えるのです。研修の中で、講義で提供した話や演習を通して練習していただいたことは、実務で活用してこそはじめて意味があるわけですが、実行に移す人がいる一方で行動に全く移さない人が一定の割合でいることも事実です。

「百聞は一見に如かず」という言葉があります。「人の話を何度も耳で聞くよりも、現実に自分の目で見て確かめる方が、はるかによく理解できる」という意味ですが、つまりは「聞いただけでわかった気にならず、実際に自分の足で現地に出向き自分の目で見て確かめることが大切である」ということです。ところで、皆さんはこの言葉に続きがあることをご存知でしょうか。「百聞は一見に如かず」に「百見は一考に如かず」 、「百考は一行に如かず」、そして「百行は一果に如かず」と続きます。

それぞれ、「聞くだけでなく実際に見てみないとわからない」、「見るだけでなく考えないと意味がない」、さらに「考えるだけでなく行動に移さなければいけない」、「行動したら成果を出さなければならない」という意味です。思い描いた成果を出すためには、よく聞いて、事実を見て、自分の頭で考えて、実行してみなければよい成果にはつながらないということであり、聞いただけでやったつもりになることなく、能動的に行動することが大切だということを示しているのではないでしょうか。

誰でも日々目の前の忙しさに追われてしまい、研修で学んだ内容をいつか時間ができたらやろうと考えながら、ついつい先延ばしにしてしまうようなことが少なからずあるかと思います。しかし、研修の成果を期待するのであれば、まずは一歩を踏み出してみる、実際に行動に移してみることが大切なのです。先述の防災の話と同様に「あのときにやっておけばよかった」と後悔しないためにも、先延ばしにすることなく取り組むことが大切だと考えています。

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第1,177話 「対面研修」に戻すのか?「オンライン研修」を続けるのか?

2023年08月02日 | 研修

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「なぜオンラインではなくなったのですか?」

これは、先日弊社が担当させていただいたある企業の対面での1泊2日の中堅社員研修の際に、受講者からかけられた言葉です。この受講者は2年前にもオンラインで研修を受講していただいたことがある人ですが、直接対面したのはこの日が初めてでした。

新型コロナウイルス感染症の5類移行後に、社員研修をオンラインから対面型へ移行する組織が増えてきました。コロナ禍の約3年間、感染状況の悪化等に伴い対面で予定していた研修をオンラインに変更せざるを得ない状況が続いていましたが、本年5月以降はようやく対面での研修に戻ってきています。

この間、私がお会いした受講者の大半は対面での研修に戻ったことを喜んでいるように見受けられますが、一方で宿泊研修に遠方から出席する人は研修前日には会場近くへ移動し、研修終了後も帰途は長く、家に着くのは夜10時を過ぎてしまうという人もいるなど、移動に相当の時間を要しています。移動を含めた拘束時間という点で考えると、対面型の集合研修に出席することは受講者にとって少なからず負担になることは事実です。また、往復の交通費や宿泊費、会場の使用料などコスト面で組織にも大きな負担があることも確かです。

実際、こうした理由から全国各地に支店や工場があるような組織では、対面に戻さずオンライン研修を維持するとしているところもあります。

対面かオンラインか・・・研修に限ったことではありませんが、これまでたくさん議論され、それぞれに一長一短がありますので、どちらが良いと一概に言えるものではありません。しかし、私はこの数か月の間に担当させていただいた研修については、はっきり対面型に軍配が上がると感じています。というのは、公開型の研修はともかく、一つの組織が行う研修においては受講者同士の面識があったり、電話だけでやり取りをしていた人と実際に対面したり、以前の部署で面識があった人と久しぶりに対面ができたりなど、何らかの「縁」がある人との再会ということが少なくないのです。それにより、本来の研修のねらいだけでなく、旧交を温めたり活発に情報交換したりするなど、副次的な効果がもたらされるというメリットもたくさんあると感じているからです。

冒頭の例の研修では、終了後に2時間半ほど懇親会が行われましたが、物足りなかったのか2次会、さらには3次会まで盛り上がったという話を翌朝聞きました。それが幸いしたのか、翌日の研修の演習の話し合いでは前日以上に活発に意見交換がなされ、大きな笑い声が聞こえたりと見ているこちらも楽しい気持ちになるくらい積極的な交流がありました。これは、対面により直接コミュニケーションをとれたことが大きな理由だったのではないかと考えています。

この対面コミュニケーションと物理的な距離とコミュニケーションの頻度の関係については、「アレンの研究」と「ベン・ウェイバーの研究」があります。トーマス・アレン(マサチューセッツ工科大学教授1977年)の「アレン曲線」は、コミュニケーションの頻度と物理的な距離には強い負の相関関係があるというものです。それによれば、約1.83メートル離れた人同士と、18.3メートル離れた席人同士を比較した結果、距離が近い人同士の方がコミュニケーションをとる確率が4倍増えたということです。

このようなことからも、対面研修にはコミュニケーションがたくさんとれるという意味で、オンラインではかなわない良さがあると考えています。

さて、冒頭の対面研修に少々否定的だった受講者ですが、研修終了時には「対面研修でよかった」との感想を伝えに来てくれました。その時の表情が実に晴れ晴れとしていましたので、研修を担当した者としても安堵した瞬間でした。

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第1,172話 研修は受講者にとって必要のないものなのか?

2023年06月28日 | 研修

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「研修、イヤだね。座っているだけの研修ならまだ良いけれど・・・」

これは、先日私が初めて担当させていただいたある組織の監督職研修の開始前に、聞こえてきた言葉です。そのとき私はトイレの個室の中にいたのですが、後からトイレに入ってきた受講者同士の会話をたまたま耳にしてしまったのです。

この受講者の言葉のように、一般的に社員研修はマイナスのイメージを持たれてしまうことが多く、できれば避けて通りたいものという位置づけのようです。研修がマイナスのものとして感じられてしまう理由は様々あると思いますが、一つにはそもそも受講者が研修の必要性を感じていないということがあると思います。

では、その人にとって研修は本当に必要のないものなのかどうか?状況によるとは思いますが、たとえば、受講者にとって本来は必要なものなのに本人がそれを自覚していなかったり、自身はできているつもりになっているものの、実際にはできていなかったりということも少なからずあるのではないでしょうか。それに対して、そうしたことを自身で確認し、あらためて身に付けるように取り組むきっかけとなること。それこそが、研修に求められているものではないかと私は考えています。

しかし、多くの人がマイナスイメージを持ってしまうのには、過去の研修で希望していないのに大勢の前で発表させられたり、それがうまくいかなかったなどの経験があり、結果的に研修が苦痛なものになってしまっているというようなことがあるのかもしれません。

組織にとっては、戦略の達成に向けて必要となる知識やスキルを社員に獲得してもらうための人材育成の一つとして研修を行うわけですが、知識やスキルを得る方法は他にもOJTや自己啓発などもあります。一番影響力があるのはOJTだという調査結果もあることから、研修の成果はただちに目に見えるというものではないのかもしれません。しかし、OJTも万能ではなく伝えきれない部分は必ずあり、それを補完する意味から、また物ごとの原理原則の部分をきちんと整理して提示する意味からも研修は間違いなく受講者にプラスの影響をもたらしているものなのです。

そのように考えると、研修を提供する側の一員としては、1日からせいぜい5日間程度の限られた時間を少しでも前向きな気持ちで過ごしていただくために、どのようにすれば良いのかを考え続け、それを形にして提供していくしかないと思っています。私が人材育成の仕事を始めてから30年以上が経過しましたが、永遠の課題とも言えそうなこのテーマについて今後も努力し続ける必要がありそうです。

さて、冒頭の研修前の話ですが、終了後のアンケートに「グループワークでは、同じ演習に取り組んでも人によって様々な考え方があるのだということを知ることができました。また、チェックリストやロールプレイングに取り組んだことにより、自分の課題を知ることができました。」との記述がありました。研修を担当した者として、彼女の研修に対するイメージが変わるとともに、今後の仕事の一助になったのであれば大変に喜ばしいと感じた瞬間でした。

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第1,168話 他社との交流は、本人が欲すればこそ意味がある?

2023年05月31日 | 研修

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私が研修業界に身を置くようになって30数年が経ちますが、その昔から企業規模の大小に関わらず、他企業と合同で研修を実施したいとの相談をいただくことがあります。他社と合同で研修を実施する目的は、自社とは異なる考え方や価値観に触れることで、様々な刺激を得て今後の仕事に活かしてほしいという願いが根底にあるようです。そのような刺激を受けることはとても重要ですが、実際のところは研修内容、対象者の設定、参加人数や日程など細かい条件を調整することはことのほか難しく、研修が成立するケースはさほど多くありませんでした。

その後、企業を取り巻く状況は大きく変わってきましたが、現在でもときどき「他社との合同研修を希望している」との話を研修のご担当者から聞くことがあります。社員を他社の社員と交流させたいという考え方は、昔も今も変わらずに存在するものなのだと感じます。

言うまでもありませんが、他社の社員と交流する方法は合同研修に限られているわけではありません。企業が社員を交流させる最も身近な方法としては、公開型のセミナーがあります。公開型であれば業種だけでなく、テーマによっては年代が異なる人も多数出席することから、本人が希望すれば休憩時間やセミナーの前後などに、手っ取り早く交流することができます。

私は、定期的に公開型のセミナーを担当させていただく機会があります。毎回、様々な業種や業態の人が参加されることが多いのですが、実際のところ研修のご担当者が希望されるほどには、参加者同士で交流をしている例は多くないと感じています。確かに、一昔前まではセミナーの中で同じグループで演習に取り組んだ人同士が、休憩時間に名刺交換をしている場面を見かけることが結構ありました。しかし、現在は休憩時間はひたすらスマートフォンを操作している人が多く、名刺交換をしているような風景を見ることは極めて少なくなりました。つまりは、セミナーに派遣されている当人は研修のご担当者が考えるほどには他社の人との交流を望んでいないということなのでしょう。そのような場面を見ると、「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」という諺を思い出します。本人にその気がなければ、いくら周囲の人間が気をもんだり強制したりしても、さほどの効果は得られないということなのでしょう。

外部からの刺激を得るのは、もちろん対面の研修やセミナーに限ったことではありません。もっと簡単にオンラインでつながることもできますし、SNSでは勉強会などの案内もたくさんあります。

しかし、どのような機会であっても「他からの刺激を受けて自らの成長や改善につなげる」ことは、周囲からお膳立てをされて行うようなものではなく、あくまで本人がそれを必要としているかどうかに尽きるのかもしれません。何事も、まず本人が欲しなければ本当の効果は得られないということであり、研修においてもいかに本人に前向きな気持ちで参加してもらえるか、勝負はそこから始まっているのだと、このブログを書きながら気持ちを新たにしています。

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